第17話 アイドルと屋上

 ううう……早く教室に戻りたい。

 だいぶ足が痺れてきたし……


 どうしてこうなった?


 世界の歌姫アリアナがみんなの前で衝撃的な日本語を披露すると過密なスケジュールのためその後は学校から姿を消していた。

 元々この場所にいるような人じゃない雲の上のような存在。

 

 アリアナがねえ……

 

 だけど本当に何しにきたんだよ?

 この状況はあの人のせいなんだからマジでどうにかして欲しいんだけど……


 時刻は現在お昼休み。

 場所は学校の屋上。


 今日はぽかぽか陽気で風が気持ちよく屋上で友人達とお弁当をつつきあうには絶好のロケーション。


 しかーし!

 オタクの俺にそんなリア充イベントが何度も発生するはずもなく、それどころかこの状況はなんて言ったらいいんだろう?

 

 い、嫌ではない。むしろ好きな方かもしれんが……


「何さっきからひとりでブツブツ言ってるのよ。キモいんだけど?」


「そうですわ。さすがのわたしもカンのプンです」


「ナツ兄早くそこに座りなさい」


「あ、すいません。もう座ってます」


 かおりん、北条さん、みかちゃんの美少女3人に囲まれなぜか問い詰められていた。

 しかも正座をさせられている。ここは修行寺か?


 美少女を眺めながら足にビビッとくるこの刺激!?

 こ、これはこれでありかもしれ―――


「「「反省してるの?」」」


「ハモって息ぴったりで……ごめんなさい」


 お、鬼だ。美少女の仮面を被った鬼が3人います。

 3人とも顔は笑っているのに目がまったく笑っていないのだ。


 でもなんで俺が責められてるのか正直わからない。

 

 why?

 

 まあこんな豪華でレアなプレーはどんなにお金を積んでも味わえないのだから役得だけど。


「アリアナと面識があるのも驚きはあるけど芸人関係者ならありえない事じゃないわ。でも結婚するってどーゆーことよ?義理とはいえ妹のわたしにも内緒なんて」


「俺も初耳だよ。え、かおりんひょっとして嫉妬?束縛欲求?欲求不満?とうとう俺に興味出てきちゃった?」


「セクハラ発言のため今夜は夕食抜き決定ね」


「あふっ!?」


 思わず変な声を上げてしまった。

 夕食が抜きだからじゃない。

 そもそも俺が作ってるのにまるで自分が作ってるようなこの言い回し。

 北条さんとみかちゃんに言いつけ―――いえしません。

 だからそのゴミを見るような視線はやめない……やめて。

 かおりんらしくてゾクゾクするから。


 長時間、正座をして足が痺れているところに靴を脱いだかおりんが踵で腿のあたりをぐいぐいしてきたのだ。

 

 思わず顔が綻んでいく。


 ……ううう……やっば!?これやっば!?


 か、かおりんの足の裏の温もりを感じつつ刺激されたらそりゃあ誰だって声も出ちゃうでしょ?


 え?出るよね?普通の人ならきっと出るよね?

 最近少しだけ自分の行動が不安になってきちゃって。


「ちょっとこれ以上はやめなさい!彼の様子がおかしいわ。……発作のようなものが出ているからこれ以上は危険よ」


 や、やめないで。発作じゃないからやめないで!?

 常時発動してるから。

 むしろこの症状はは絶好調の証なんですけど?


「その微妙な表情はこの際スルーしてほんとにナツ兄は結婚の約束とかしてないの?」


「微妙な表情って何気にかなり傷つくんだけど?結婚の約束なんかしてるわけないだろ。世界の歌姫だぞ?俺はただのオタクだぞ?」


 自分で言っても悲しくならない程度にオタクとしてのプライドがある。

 全身全霊でかおりんを応援してるのだ。


「それならなぜこの学校に世界の歌姫であるアリアナは来たのかしら?あなたに会いに来たとしか思えない」


 ……半分正解ってところだな。


 しかも恋愛だのそんな類の話じゃない……たぶん。


 おそらくずっと返事を無視してることにがアリアナを差し向けてきたに違いない。

 

 そろそろ公開も近づいてるからそのPRも兼ねてなんだろうけど僕にその気はない。


「あの日本語を聞いただろ?」


「や、やっぱり結婚する気なのね!?」


 どうしてそこで北条さんが世界の終わりがきたかのような演技をするのだろうか?

 次回出演作が破滅的なパニックムービーなのかもしれない。


「そうじゃなくてきっと日本に滞在している間の通訳を頼みたいだけだよ。取材中は本職の人がついてるだろうけど息抜きがしたいんじゃないかな?」


 アリアナだって歳は僕等とあまり変わらない同世代だ。

 ずっと大人と一緒にいたら疲れてしまう。


「それがなんであんたなのよ?よりにもよってオタクのあんたなんかに」


 あ、あれー?

 また呼び方があんたに戻ってる。しかも何気にオタクを馬鹿にしてないか?


「アリアナが母さんを手本にしていたからだよ」


 その言葉を聞くとこの場だけ時間が止まったように3人の体は硬直していた。

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