第9話


「公爵令嬢様とは露知らず、ご無礼の数々、本当に本当に申し訳ありませんでしたあっ! どうか、どうか自警団だけはご勘弁を!」


すがすがしいまでの小者感がなんだかおかしくなって、つい笑ってしまった。

良いやつとは言わないが、悪い人間でもないのだろう。


「で、あんたらは誰に言われて悪さしてたん?」

「そ、それが……。たまたま酒場で隣になった男から、ちょっとした小遣い稼ぎがあるからやらないかと言われて、それで……」

「何て言われたん?」

「ファルニール領の市場をしばらく荒らしたら、金貨10枚やるって……」

「その男は?」

「わ、分からないです。名前も言わず、その場で金貨だけくれてそれっきりで」

「ま、そうやろなあ」


端からどうせ使い走りだろうと思ってはいた。

なにか黒幕の手がかりの欠片でも持っていればと思ったが、さすがに無理だったようだ。


「おや、もういいのかい」


腕組みをして、意外そうにカイトが言った。


「どうせ使いっパなんは分かってたからなあ。念のための確認と、シメれたらそれでええわ」

「ふうん、やっぱり君、面白いね」

「なんか言うた?」

「いや、なんでもないよ」


何がおかしいのか、カイトは一人でくすくす笑っている。

それを無視して、どうしたもんかとチンピラ二人組に目をやる。


「で、こいつらどうする? 自警団に引き渡すかい?」

「そ、それだけは。出来心なんです、ほんと、すいませんでしたあああ!」


潰れたヒキガエルみたいに土下座を続ける二人を見ていると、なんだか少し可哀そうになってきた。


「うーん、まあそこまでせんでもええけど、このままっちゅうわけにもいかんしなあ」


どうしたものかと悩んでいると、カイトが言った。


「じゃあ罰として、僕の屋敷の下働きをしてもらおうかな」

「やりますやります! やらせてください!」


顔を上げ、靴にすがりつく二人組。

屋敷……?

その言葉に引っ掛かりを感じ、思わずつっこんだ。


「ちょっ、屋敷ってなんなん?」

「ああ、僕もしばらくこの街に住むことにしたんだよ」

「はあっ? ていうか、あんた学園は?」

「あー、ええと。休暇を取ったんだ」

「はあ?」


明らかにはぐらかされている感があったが、にこにこした笑みがツッコミを許そうとしない。


「と、いうわけで下働きの使用人を探していたんだよ。ちょうどよかった。これからよろしくね」

「はあ……」


なんだかいろいろややこしいことになりそうだと肩をおとすアリシアであった。


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聖女に追放された瞬間、極道組長の一人娘だった前世を思い出した悪役令嬢の私は、領地に戻って楽しくテキ屋をはじめることにした  咲良こより @sakurai-k

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