絶叫系シェイプシフター マンドラ⌘ゴラ子

@dekai3

らごらのドキドキ冬休み

ピピピピッ ピピピピッ


「うぅ~ん、もう食べれないよぉ~ごらごら…」


ピピピピッ ピピピピッ


「こらぁ! らごら!! 起きろ!!!」


ドタッ! バタンギタン!!


「ほえぇっ!? な、何ごら?」

「朝だぞ、早く起きてこいつを止めろ!!」

「……んもう、これぐらい自分でなんとかしてよね」


ピッ


 気持ちよく寝ていた所を起こされ、私はちょ~っと気分悪くしながら起きる。

 もう年の瀬なので朝の空気が冷たくてお布団から出るのが嫌になるけれど、冬休みだからってずっと寝ていたら勿体ないから起きる時間はいつもと一緒。


「らごらぁさ~ん、何か聞こえたけど大丈夫ですかぁ~?」


 私の部屋から聞こえた音を心配してか、一階のキッチンからお父さんが声をかけてくれる。


「だ、大丈夫ぅ~。…ほら、家の中では大きな声で喋らないでって言ったでしょ?」

「ふんっ、俺の声は普通の奴には聞こえない。お前が大きなひとり言を言っているだけだ」

「え、なにそれ!? じゃあらごら変な子に思われてるっ?」

「シェイプシフターな時点で変だから安心しろ」

「ひっど~い! らごら変じゃないもん!」


 そう言いながら私はコンちゃんをロッカーに押し込み、鍵をかけてからパジャマを脱いで着替える。

 いくらコンちゃんが私の一部とは言え、誰かに着替えを見られるのは恥ずかしいもんね。


「誰がお前の様な貧相な体を見たがるか」

「ちょっとー、まだ成長期なんだからこれからなんだからねー?」

「どーだか」


 私の名前は万灯まんどうらごら、小学五年生。

 イナリーコンって呼ばれる(本当はイマジナリーコンパニなんとかって名前みたい)コンちゃんがお友達で、ちょっとした秘密のある女の子。


「ほら、さっさと着替えたら朝メシだぞ。お前の父親の料理はうまいから期待できる」

「もうっ、そんなに急かさないでよ。急がなくても朝ごはんは逃げないよ」


 鏡の前でパパっと寝ぐせを整え、鏡の中の自分に向かって笑顔の練習。


「うん、今日もバッチリ。今日はどんな事があるんだろうな~。楽しい事があるといいな~」


トントントン スタスタスタ ガラガラガラァ


「よく来たなマンドラ⌘ゴラ子! 積年を恨みを晴らしてくれる!!!」

「ぐ、うぅぅ、らごらさん…来ちゃダメだ…」


 階段を下りてリビングの扉を開けると、そこに居たのはお父さんの首を葱で絞めている暗黒農家のダークファーマーシゲル。

 葱は太くて長く、加熱すると甘みが出て首を絞めるのにぴったりな下仁田ネギ。流石は群馬産。


時空王ときおうの一人がわざわざ何の用だ!」

「お前らはやりすぎだ。その為に儂が来たのだ」


 私の肩に止まっていたコンちゃんが勢いよく飛び出し、ダークファーマーシゲルと私との間に立ってダークファーマーシゲルを威嚇する。

 でも、ダークファーマーシゲルはお父さんの首を葱で絞めるのを緩める気は無いみたいで、葱からどろりとした粘液を垂らしながら怪しげにほほ笑む。


「こうすれば貴様は変身できまい。それならばただの小娘一人襲るるに足らず」

「くそっ、卑怯だぞ!!」


 お父さんを挟んで睨み合いを続けるダークファーマーシゲルとコンちゃん。

 その間にもお父さんの首を絞める葱はますます粘液を垂らし続けていて、このままじゃお父さんが死んじゃう。ほら、もうあんなに顔が真っ赤に!


「らご…ら…さん……」

「お父さん!」


 お父さんが何かを言っている! 首を絞められながらも私に向かって、何かを!


「わた…しの……事は……気にせず、たた……かいなさい………」

「お、お父さん!?」

「まさか、気付いていたのか!?」


 お父さんの言葉に驚く私とコンちゃん。

 私がシェイプシフターとして暗黒農家と戦っているのは誰にもバレていないと思っていたのに、まさかお父さんにバレてるなんて。


「人質が喋るんじゃない!」


ギリギリィ


「うぅ、ぐっ!」

「お父さん!!」


 ダークファーマーシゲルはお父さんを喋らせまいとするためか更に首を絞める葱に力を入れる。

 どうしたら…私はいったいどうしたらいいの……


「らごら、変身シェイプシフトだ! それしかない!」

「で、でもっ!」


 変身シェイプシフトをためらう私に怒る様に声をかけるコンちゃん。

 私が変身シェイプシフトするという事がどういう事なのかはコンちゃんが一番よく知っているし、私がそれをしたくないのも知っている筈。

 でも、コンちゃんはそれでも私に変身シェイプシフトしろって言う。

 コンちゃんは私の一部であるから、コンちゃんにとってもお父さんはお父さんで、そのお父さんが死ぬかもしれないというのに、変身シェイプシフトしろって。


「父親の覚悟を無駄にする気か!?」

「それは…」


 そう。お父さんは『戦いなさい』って言った。きっと、私が変身シェイプシフトしたら自分がどうなるか分かっている筈なのに。

 ……だったら、やらなきゃ。本当は嫌だけど、嫌でもやらなきゃ。らごら、シェイプシフターだもん。みんなの為に戦わなきゃ。


「わかった。コンちゃん、行くよ!」

「おうっ!」

「何ッ、貴様ら人質の命が惜しくないのか!?」


 ダークファーマーシゲルの慌てた声を無視して、私は意識を集中して自分の体を作り替える準備をする。

 私はシェイプシフター。自分とは全く違う生き物に体を変身させ、悪と戦う正義の執行者。


「くっ、こうならない様に人質を取ったというのに。間に合うか!?」


 ダークファーマーシゲルはお父さんの首を絞める葱を手放し、ぱっと振り向いて玄関へと向かう。

 でも遅い。もう私の変身シェイプシフトは終わりを迎え、その体は大きな植木鉢とその中身に変化する。


「死にさらせぇ!」


 そして、植木鉢の真ん中からでている私の髪部分の草に紐を括り付け、勢いよく引っ張って私をコンちゃん。


『アアアアァァァァァァァッァアァァァァァァァァッァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!』


 バタリ


 マンドラゴラに変身シェイプシフトした私を引き抜いた時の声を聴き、逃げようとした体制のまま倒れ込むダークファーマーシゲル。


 パタン


 そして、変身シェイプシフトした私に向かって優しく微笑んだまま倒れ込むお父さん。

 ……分かってた。私の力でお父さんが死んじゃう事は分かってた。でも、お父さんは覚悟を決めていたから…私も、覚悟を決めた……


『アアアアァァァァァ!!!!!!!! アアアアァァァァァ!!!!!!!!』


 私は叫び続ける。

 目と口の部分にぽっかりと空いた洞から何も流れなくても、倒れたお父さんに駆け寄る事が出来なくても、変身シェイプシフトした私に出来るのはそれだけだから叫び続ける。


「いっぱい泣いたらいい…。今日のお前には、その権利がある…」


 コンちゃんも叫び続ける私を止める事はせず、まるで自分の分も叫んでくれと言わんばかりに私を見つめ続ける。

 だから、私は叫び続ける。

 マンドラ⌘ゴラ子の私に出来る事は、これだけだから。











 その日、私の家の周囲5km内の動物は人間を含めて全部死んでしまい、私のキルスコアは民間人を含めて5ケタを超えたのだった。

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