ロボを持って帰る門番
「本当にいいのか!?」
戦いは終わった。
日はすでに暮れた。
しかし辺りには夜の闇を煌々と照らし出す無数の明かりが輝いている。
門番レースの日程も全て終わり、今は後夜祭が行われている。
用意された特設のパーティー会場で、去年に引き続き門番ランク一位となったドレスとヴァーサスがなにやら談笑している。
「もちろんさ。僕は最初からそのつもりだったんだ。それに君以外がビッグヴァーサスに乗ってもしっくりこないだろうしね。ヴァーサスもすっかり気に入ってくれたみたいだし、このまま君にプレゼントするよ」
「ひええ……流石皇帝さん、あめ玉あげるみたいなノリで気軽におっしゃいますね。魔導甲冑って一つでとんでもない額のお金がかかるって聞きますが……」
「ヴァーサスの今後の門番活動の助けになるなら、世界にとっても些細な出費さ。実際今日だってとても役に立ってくれたしね」
「感謝するドレス! 実際に乗ってみて思ったのだが、魔導甲冑には魔導甲冑の良いところがある。きっとこれからも様々な場面で力を借りることになるだろう!」
「君の言う通りさ! これからも期待してるよ、ヴァーサス」
本来であればレース後に帝国へと返却する予定だったビッグヴァーサスを、そのままヴァーサスに譲るというドレス。
その申し出に素直に大喜びするヴァーサスだったが、あまりにも高額な皇帝からの贈り物に、リドルは目を丸くして驚いている。
「クククッ……ドレスとやら、皇帝などと言う大層な肩書きを持つだけあってなかなかわかっているようではないか。これからもヴァーサスに惜しみなく投資するが良いぞ!」
「ははっ! もちろんそのつもりだよ。僕はヴァーサスのことが大好きだからね。彼が大活躍するのを僕も見たいのさ」
「な、なんだと!? 貴様もヴァーサスをっ!? ううむ……ヴァーサスは男もいけるのであろうか? しかしこやつも相当の美男子……もしも我が障害となるのならばここで早々に消しておかねば危ういか……?」
あまりにも平然とヴァーサスへの熱い想いを公言するドレスに、声をかけた黒姫は見定めるような表情を浮かべると、物騒なことを口走りながらうんうんと唸る。
「あわわ……り、リドルさん。黒姫さんがとても怖いことを言ってる気がします……!」
「黒姫さんはほっといて大丈夫です! 誰がどうあがいても既にヴァーサスは私の恋人ということで『完 全 確 定 ・ 完 全 論 破』されてますので! たはは!」
「そ……そうですよね……! はい!(なんだろう……前は凄く暖かい気持になれたのに……今は……とても胸が痛いです……)」
ふんすと鼻息荒く胸を張るリドル。
ミズハはにこやかな笑みを浮かべながらリドルに同意しつつも、知らず知らずのうちに自身の服の胸元を強く握り締めていた――。
「ヴァーサス……ここにいたか」
「うむ? その声……シオンか!」
会場の一角で談笑するヴァーサスたちの傍に、一人の青い髪の青年が声をかけた。
ヴァーサスはその声からすぐにその青年がシオン・クロスレイジであることに気づくと、笑みを浮かべて歩み寄り、シオンの肩を抱いて再会を喜ぶ。
「さきほどは助かった! 俺一人ではとても博士を止めることは出来なかっただろう。礼を言う!」
「いや……お前は俺のような凡人とはものが違う。苦戦はしただろうが、おそらく単独で闘った場合でも勝利できただろう……」
「そうだったとしてもだ! シオンのおかげでドレスから預かっていたビッグヴァーサスもほとんど壊さず、事が大きくなる前に速やかに博士を止めることができた。心から感謝している!」
「……そうか」
満面の笑みで感謝を述べるヴァーサスを見て、静かに微笑むシオン。
そんな二人に、横からドレスも声をかけた。
「やあシオン。今回はおめでとう! あの魔導甲冑を仕留めた功績で一気にランク5に昇格だね」
「久しぶりだなドレス。ランクが上がるのは助かる。アブソリュートの整備には、金が必要だからな……」
やってきたドレスに答えるシオン。
シオン・クロスレイジは特定の主を持たない門番傭兵として知られている。
彼のように傭兵として門番をする者は殆どいない。
決まった主を持たない門番はいかに強く、魅力的であったとしても明日の糧が保証されないからだ。
「たしかに。君は特定の後ろ盾があるわけじゃないから、ランキングで箔がつくのはそれだけで有利になるだろうね。まあ、今でも君を手元に置きたいっていう貴族や国はいくらでもあるだろうけど」
「誰かに仕えるのは俺の性に合わない……傭兵稼業なら、気に入らん仕事は断わればいいからな……」
「うむ! 俺も仕える相手や守る門は自分で選ぶと決めていた! すぐにリドルという素晴らしい相手に出会えたのは本当に幸運だったな!」
「ふっ……それは惚気か? ヴァーサス」
「なっ!? そ、そんなつもりでは……!」
「気にすることないよヴァーサス。門番と雇用主が恋に落ちるなんてのはいくらでもある話さ」
「ぬ、うぬぬ! なかなかに恥ずかしいものがあるな、これは……」
思わず口走った自らの言葉をシオンにからかわれ、逆に赤面するヴァーサス。
そんなヴァーサスを微笑ましく見ながら、シオンはドレスへと尋ねた。
「ロウボ博士はどうなる?」
「博士なら帝国の方で保護しているよ。色々やってはいたみたいだけど、結局彼は何も被害を出していないからね。悪いようにはしないから安心してほしい」
「そうか……」
「それに……あの魔導甲冑に使われている技術をどこで手に入れたのかも気がかりでね」
ドレスは真剣な表情で言うと、思案するように口元に手を当てた。
「地下にあった設備ならばこの黒姫に覚えがあるぞ。かつて私や白姫がいた世界の技術に近いが、完全に同じではない。おそらく似たようなまた別の世界のものだろう。なんにせよ、この世界のものではないであろうな」
「あれだけの設備を用意するには相当な時間がかかる。ロウボ博士自身、何十年も準備を重ねてきたと言っていたよ。つまり、あの技術の出所は相当な以前から、水面下で僕たちの世界に根付いていたはずなんだ」
「なるほど……その技術が人々のために使われているならばいいが、今回のように暴れられたら困るな! 俺も協力するぞ、ドレス!」
「そうだね。頼りにしているよ、ヴァーサス」
「俺も魔導甲冑の操縦を教えよう……何かの役にたつかもしれない」
「感謝する! やはり門番は最高だな! ハッハッハ!」
笑みを浮かべ、穏やかに談笑しつつも新たな脅威の予感に気を引き締める三人の門番。
だが、そんな彼らの姿を見つめる一つの視線がその場にあることに、この時はまだ誰も気づいていなかったのである――。
『門番VS最終人型決戦兵器 ○門番 ●マジンダムV弐号機 決まり手:アブソリュート・ゼロ』
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