ポテトパイを食べる門番
巨人との戦いは終わった。
既に日は暮れ、ルルトアの家の周辺は静寂に包まれている。
破滅的な被害を受けたかに見えた大地も今は何事もなかったかのように元通りとなり、白い家の窓から暖かな光が漏れ、三人の話す声が聞こえていた。
「いやはや、なんとかなって良かったですねぇ。まさかあんな大きな方が門にいらっしゃるとは」
「うむ、あの男も相当な強者だった。もしまた相まみえることがあるならば、次こそ最後まで手合わせ願いたいものだ」
「すごい遠くまで飛んで行っちゃったけど、あの人またくるのかなー?」
ヴァーサスたちはルルトアの家でくつろぎながら、先ほどの戦いに思いを馳せていた。
「……帰ってくるさ。あの男は強い。たとえどんな場所からだとしても、きっとまた戻ってくるだろう!」
「そ、そうですかね? 私はさすがに難しいんじゃないかなと思いますけども……」
「ねー! お月様に飛んで行っちゃったもんねー!」
瞳を閉じ、うんうんと信じ切った顔で頷くヴァーサス。
しかしリドルは首をかしげ、ルルトアは先ほどの戦いを思い出してカップの上でニコニコと笑った。
「さて、そろそろ出来る頃なんじゃないですか? 見てきましょう」
「むっ! 言われてみればたしかにいい匂いが漂っている!」
言うが早いかリドルは素早く席を立つと、家の奥の方へと姿を消す。
「これはもう良さそうですね。ちょっと手伝って頂いてもいいですか?」
「承った!」
リドルに呼ばれたヴァーサスも奥へと向かうと、暫くしてヴァーサスは手に大きなパイ皿を、リドルはいくつかの食器を持って戻ってきた。
「出来ました! ポテトパイです! この私の自信作ですよ!」
「わー! きたきたー!」
「まだ熱いぞ! 火傷しないよう気をつけるんだ」
ヴァーサスは両手のミトンを外しながらルルトアを制すると、リドルが持ってきた切り分け用のナイフでパイを小さくカットしていく。
切り分けられたパイ生地の奥からトロトロに溶けたチーズと、黄金色のポテト。そしてその二つに良く絡むトマトのソースがこぼれ落ちてくる。
「うわー、おいしそうー! リドルって本当にこのパイ得意だよねー。僕これ大好き!」
「そうでしょうそうでしょう! なんといってもこれは私の得意料理ですからね」
「そういえば、ルルはどのくらい食べれるんだ? このくらいか?」
得意になって胸を反らすリドル。その横でヴァーサスはパイをいくつかに切り分けたあと、ふと気づいたようにルルトアに尋ねると、丁度スプーン一つの上に乗るくらいの大きさのパイをルルトアに見せた。
ルルトアのサイズはヴァーサスの手のひらよりも小さい。
その大きさから見るに、あまり多くは食べられないように見えたのだ。
「そんなことないよー! こう見えてなかなか食べるんだから!」
「なかなかというと、このくらいか?」
「もっともっと! もっと食べるよー!」
「おお! ならばこれくらいか!」
「ん~……おっけー! それでいいよ、ありがとう!」
ほとんどリドルやヴァーサスが食べる量と変わらない大きさのパイを取り皿に乗せると、ようやくルルトアは納得したように笑みを浮かべた。
「「「いただきまーす!」」」
揃って食事前の挨拶をすると、三人はパイを口に運ぶ。
口の中でじゅわっと広がるトマトの酸味がさっぱりとしたポテトとチーズに良く絡み、バジルとローズマリーの爽やかな刺激が食欲をさらに刺激した。
「おお、これはうまい! すごいじゃないかリドル! 君はこんなうまいものも作れるのか!」
「やっぱり普段の私の料理とは違いますか?」
「いつもの料理も美味いが、これはさらに美味い! こんな美味い芋を食べたのははじめてだ!」
「お褒めに預かり光栄ですよ。お芋はまだまだ沢山ありますから、家でもまた作りましょうね」
「ならば今度は俺にも教えてくれ。俺も作れるようになりたいからな!」
「ではこの私が直々に伝授して差し上げましょう」
そのポテトパイのあまりの美味さに感激を露わにするヴァーサス。
リドルは少し照れたような笑みを浮かべながら、いくつかの料理のコツをヴァーサスに伝えていく。
そしてそんな二人のやりとりを、ルルトアはパイを口いっぱいに頬張りながらニコニコと見つめていた。
「さっきから思ってたんだけど、二人はとっても仲良しだねー。リドルが誰かとそこまで仲良くなるなんて珍しいんじゃないー?」
「いやはや、そう言われると確かにそうかもしれませんね。見ての通りヴァーサスは悪い方ではありませんし、一つ屋根の下で生活を共にしても、驚くほどなにも起きないのですよ……」
「なになにー? それってなにか起きて欲しいってことー?」
「いえいえ、決してそういうわけでは……」
言いよどむリドルに、隣の席に座るヴァーサスが力強く頷く。
「うむ! 何事も起こらぬよう、俺も最善を尽くすつもりだ!」
「たははは……そうですね……ヴァーサスはそのままで大丈夫ですよ。はい」
「あははっ! なんだか楽しそうでいいなー!」
涼やかな風が地平線の彼方まで流れていく岸壁の上に建つ一軒家。
暖かい光が漏れるその家からは、美味しそうな料理の匂いと、楽しそうな笑い声が遅くまで聞こえていた――。
『門番VS超巨人 ○門番 ●巨人ギガンテス 決まり手:
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