算数も意外と侮れない(灘中入試編)

 数学研究部の部室。成宮は難関大学の数学入試、俺は数学オリンピック。そして、愛華はなんと中学の算数入試に取り組んでいた。


「なんで中学入試?」

「いや、『難関』がつく入試で私が解けそうなのが中学入試だったから……でも、ホントに難しいよ。これとか」


 愛華はそう言って文庫本を開いた。どうやら問題集のようだ。 


 15/4=3.75、15/125=0.12のように、15をある整数で割るとき、ちょうど小数第2位を求めたところで割り算が終わる。このような整数は4と125を含めて□個ある(2000年度)。


「これ、どこの中学?」

「灘中学の算数」


 名門だな。算数とはいえ、小学生が解くのは容易ではないだろう。


「愛華、お前は解けたのか」

「それがまだなんだよね」


 いくら難関中学でも高校生が算数入試解けないのはマズいだろう。俺は問題をもう一度見てあることに気付いた。


「この問題は『ちょうど小数第2位を求めたところで割り算が終わる』をどう言い換えるかがポイントだ」

「言い換える?」


 さて、どうやって教えよう。算数だから難しい知識はまったく必要ないのだが、多少の発想力は要る。

 

「愛華、0.01/0.02と0.01/0.03の和を求めたいとき、どうやって計算する?」

「和? えーと、分母と分子が小数だから、分母と分子に100を掛けて1/2+1/3にして、それから通分する」

「だな。この問題も同じように考えれば突破口が見いだせる」

「え、じゃあ、分母と分子に100を掛ければいいの?」

 

 俺は答えなかった。算数ぐらいは自力で解いてもらわないとな。

 愛華は考える人のポーズを取り、熟考し続ける。そして、パチンと指を鳴らした。


「分かった! これ、1500の約数を求めればいいんだ! 両辺を100倍したら1500/4=375、1500/125=12で、375と12は両方とも1500の約数」

 

 やっと気づいたか。だが、それではまだ不十分。

 愛華はひたすらシャープペンを走らせる。体感的に十五分ほど経ったところで、彼女は机に突っ伏した。


「やっと終わった~。分かったよ和人、答えは6個!」


 そう言ってから愛華はノートを俺に見せた。ページにはぎっしり書き連ねられた式と、大きく6つの数字が書かれていた。


 4、12、20、60、100、125

 

「どうやって求めたんだ」

「しらみつぶしで計算した。多分合ってると思う」


 しらみつぶしか。数学的に解くなら、まず1500を素因数分解して、2 2・3・5 3

 小数第2位を求めたところで割り算が終わるんだから、分子を100倍したとき、商は1の位が0でない1桁から3桁の整数になる。

 1の位が0になるのは素因数に2と5が含まれているときだから、2 25 3をそれぞれ外して考える。


 2 2・3の約数は、3・2=6個。4より小さい1、2、3を除いて3個。

 3・5 3の約数は、2・4=8個。答えの範囲外である1、3を除いて6個。

 2 25 3は、1、2、500が答えの範囲外。


 よって、題意を満たす整数は、3+6-3=6個。


「なかなか手強かったぁ。……あと二問ぐらいやってみようかな」

「また灘か?」

「うん。次はいける」

 

 異なる4つの整数を小さい方から順にならべ、となり合った2数の和を求めると、それぞれ28、32、59であった。4つの整数の中で最も大きいのは□である(1997年度)。

 

 さっきと比べると幾分優しくなったな。知識だけで解ける問題だ。

 愛華はスムーズに解答を書き記していく。五分もかからないうちにシャープペンを置いた。


 4つの整数をそれぞれA、B、C、Dと置くと、整数の関係はA+B=28、B+C=32、C+D=59と表せる。

 B+C-A+B=4だから、C-A=4

 C+D-B+C=27だから、D-B=27

 AとCの差が4だから、AとBの差は1以上3以下。

 和が28で差が1または3になる整数の組はないので、A=13、B=15が決まる。

 B+C=15+C=32

     C=17

 C+D=17+D=59

     D=42

 したがって、4つの整数の中で最も大きいのは42である。


「これどう? 模範解答にピッタリじゃない?」


「だから」の多用が気になるけど、比較的見やすいし悪くはないかな。

 

「二人とも盛り上がってるね」 


 後ろから成宮の声がした。屈託なく笑い、こちらを見ている。


「中学入試をやってるんだってね。少し見せてくれるかい」


 愛華は成宮に問題集を渡した。成宮はページをいくつかめくってから言った。


「僕からも問題を出していいかな。とは言っても、少し改題しただけなんだけどね」


 7けたの整数5ABCD87が9999の倍数となるとき、4けたの整数ABCDは□である(2003年度・改題)。


「9999の倍数……」

「お前、ちょっとやりすぎだろ」

「そんなことないさ。確かに難易度は上がったけど、小学生でも解こうと思えば解ける」


 俺は嘆息した。これは俺が解くか。


 9999の倍数ということは、5ABCD87は9の倍数。分かっている各位の和は、5+8+7=20

 各位の和が9の倍数ならば、その数は9で割りきれる。3の倍数の判定法と同じだ。

 ABCDの各位の和は4から36で、候補は7、16、25、34の4通り。……なんかこれ時間かかりそうだな。合同式を使いたいところだが算数の問題だ。今回は我慢しよう。


 5ABCD87を、今、分かっている5000000と87に分けて9999で割った余りを求める。

 5000000を9999で割ると余りは500 87はそのまま。


 和が587だから、5000087を9999で割った余りは587だと分かる。


 9999-587=9412より、ABCD00を9999で割った余りは9412。


 次にA、B、C、Dの係数をそれぞれ1として、9999で割った余りを計算。


 100000は余り10、10000は余り1、1000と100はそのまま。

 

 余りの大きい順に並べると、CDABとなる。これを9412にそのまま適用させる。


 C=9、D=4、A=1、B=2より、4けたの整数ABCDは1294 念のため検算。


 5129487÷9999=513


 後半がやや急ぎ足になってしまった。なるべく分かりやすいように説明したつもりだが、小学生がこの解答を見て理解できるだろうか。式こそ使っていないが、この解法の原理は合同式と同じだ。


「文句言っときながらあっさり解いたね。僕もやってみようかな」


 ずっと証明やってきたから、たまにはこういう問題に取り組むのもいいかもしれない。しかしまあ、こんな問題入試で出されたら小学生涙目だな。

 

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