フェルマーの小定理の証明とオイラーの定理


 整数問題で合同式を使う際、フェルマーの小定理を知っていると応用の幅が広がる。


 フェルマーの小定理は整数aとpにおいて、次の式が成り立つ。


 a  p-1≡1(mod p)


 aとpは互いに素で、pは素数。


「pが素数じゃない場合はどうなるの?」

「合成数の場合はオイラーの定理というものがある。でも、今はフェルマーの小定理が先だ。問題に入る前に定理の証明をしておこう」

「私、証明苦手なんだけど……」

「証明と言っても専門的な知識は必要ない。今から説明するのは英語版のWikipediaを参考にしたものだ」


 まず任意のアルファベットをa個選び、横にp個並べる。


 a=2、p=3の場合、並べ方は2 3=8通り。文字をP、Qとして文字列をすべて列挙すると


 PPP、PQQ、QPQ、QPP、QPP、PQP、PPQ、QQQ


 同じ文字で作られたPPPとQQQを除いた残り2 3-2個、つまり6個の文字列を考える。


 PQQ、QPQ、QQP、QPP、PQP、PPQ


「今度は残った6個の文字列を2つのグループに分ける」


 PQQとQPQとQQPをグループ1

 PQPとPPQとQPPをグループ2


「このとき、グルーブ1にはPが3個、Qが6個。グルーブ2はPが6個、Qが3個ある。2つのグループにはPとQの個数が、3もしくは3の倍数なので、2 3-2は3で割りきれる」


 実は残った文字列をグループに分けるとき、ちょっとしたコツがある。


「次はa=4、p=5として、文字をP、Q、R、Sとする」


 文字列の長さは5だから、並べ方は4 5=1024通り。

 一つの文字で作られた文字列PPPPP、QQQQQ、RRRRR、SSSSSを除いた4 5-4個の文字列を考える。


「さすがに全部は挙げられないから、一部だけ例を出す。Wikipediaではネックレスで解説されていたが、ここでは都合上、頂点だけの五角形で説明する」

「ネックレス?」

「ああ。手元に紙とペンがあれば、実際に図を書いて、各頂点に文字を当てはめてみてほしい」


 俺がそう言うと、愛華は俺の勉強机にルーズリーフとシャープペンを置き、辺がない五角形を描いた。


    P       

  Q   P

   R S

   

「PQRSPの5つで作られた五角形を、右回転させる(左でもよい)」


   P       P  

 Q   P →  P   S

  R S      Q R

   

「すると、各頂点が一つずれてPPQRSになった」

「右端の文字を左端に移動させると考えてもいいよね」

「そう言ってもいい」


 同じ要領で進めていくと、PQRSP→PPQRS→SPPQR→RSPPQ→QRSPP 

 

「QRSPPの右端のPを左側に移動させてPQRSP……あ、最初と同じになった」

「つまり、5つの文字列PQRSP、PPQRS、SPPQR、RSPPQ、QRSPPは同じものと見なすことができる」


 これを1つのグループにすると、Pは10個。Q、R、Sは5個ずつある。


「感覚を掴んでもらうために、ほかのグループもいくつか挙げておこう」


(PPQPQ、QPPQP、PQPPQ、QPQPP、PQPQP)Pが15個でQが10個。


(RQSSR、RRQSS、SRRQS、SSRRQ、QSSRR)Qが5個でRとSがそれぞれ10個。


「結局、どのグループも異なる文字の個数が、5または5の倍数になっている。よって、4 5-4は5で割りきれる」

 

 これを一般化してa、pで考えると、文字列の個数はaだから、文字列の並べ方はa p通り。

 AAA……AAA(Aがp個並んでいる)のように、一つの文字で構成された文字列はa個あるから、異なる文字で構成された文字列の個数は、a p-a個。

 残ったa p-a個の文字列を、前述した方法でグループに分けると、各グループには異なる文字の個数が、pまたはpの倍数になっている。よって、a p-aはpで割りきれる。


「合同式で表すとa p-a≡0(mod p) 方程式と同じように-aを右辺に移項して、a p≡a(mod p)」


 合同式の割り算は、aとpが互いに素、またはpが素数のときだけ可能。よって、両辺をaで割ってa  p-1≡1(mod p)


「一般的には二項定理を用いた数学的帰納法か、整数の性質を利用した背理法で証明するんだが、分かりやすさを考慮した」


 実際、英語版のWikipediaには『This is perhaps the simplest known proof, requiring the least mathematical background(これはおそらく最も単純な知られている証明であり、必要な数学の予備知識は最小限である)』と記されている。

 

 愛華はノートを見ながら顎に手を当てる。

 

「……完全には理解できなかったけど、雰囲気は掴めた」

「最初はそんなもんさ。じゃあ、実際に問題を解いてみよう」


 7  100を17で割った余りを求めよ。


「これは簡単、7  16≡1(mod 17)で100=16・6+4だから、7 4で割った余りと同じ」


 7  1007 4


7 4は7・7で49 その2乗だから……」

「待った」


 直接7 4を求めるよりも、7 27 2に分けて計算した方がいい。


 7 2≡49≡-2(mod 17)より、7 4≡(-2) 2≡4(mod 17)


「なるほど。余りをマイナスで考えた方が計算するときに楽だね」 

「考え方次第で労力をだいぶ減らせる。もう1問解いてみよう」


 aが2以上の整数のとき、a 23-aは6で割りきれることを示せ。


「この問題はa 23-a≡0(mod 6)を示せってことだよね。法が素数じゃないじゃん」

「そういうときは6を素因数分解して、(mod 2)と(mod 3)でそれぞれ考えればいい。a 23-a≡0を、a  p-1≡1の形にして示す」


 a 23-a≡0(mod 6) 

 a 23≡a(mod 6) aを右辺に移項する。

             23と6は互いに素なので割り算可能。 

 a 22≡1(mod 6) 両辺をaで割る。


 フェルマーの小定理より、a 1≡1(mod 2)、a 2≡1(mod 3)


 22=1・22より、a 22≡1(mod 2)

 22=2・11より、a 22≡1(mod 3)


「式の形は違うが、a 23-a≡0(mod 6)とa 22≡1(mod 6)は同じものだ」

 

 つまり、a 23-a≡0(mod 2)とa 23-a≡0(mod 3)が成り立つ。

 

a 23-aは2と3で割りきれるから、2と3の積、6でも割りきれる」

「ねぇ、法が素数じゃないときはオイラーの定理っていうのがあるんだよね。それは使えないの?」

「使えるけど、すべてのaに対して示すことはできない」


 オイラーの定理はnを正の整数として、整数aとnが互いに素のとき、 


 a  φ(n)≡1(mod n)


「φはギリシャ文字で『ファイ』と読む。φ(n)はn以下に、互いに素である正の整数が何個あるかを示している」

「6だったら、1と5だからφ(6)=2で合ってる?」

「合ってる。この場合、a 2≡1(mod 6)が成り立つ」


 ちなみにnが素数の場合、n以下に共通の約数はないので、互いに素の正の整数はn-1個。


 つまり、a  n-1≡1(mod n)となりフェルマーの小定理と同じ形になる。


 φ(n)の値は10の倍数だと、φ(10)=4、φ(20)=8、φ(30)=8、φ(40)=16、φ(50)=20、φ(60)=16、φ(70)=24、φ(80)=32、φ(90)=24、φ(100)=40

 

「φ(100)=40を頭に入れておけば、7の1000乗を100で割った余りを知りたいとき、7 40≡1(mod 100)で、1000は40で割りきれるから、余りは1だとすぐに分かる」

「計算で求めたい場合は?」

「オイラーのφ関数というのを使えば、φ(n)の値を求められる」

 

 ただ、オイラーのφ関数にはΠ(積を表す記号)が出てくるので敷居がやや高くなる。まあ、フェルマーの小定理だけでも整数問題には充分対応できるし、オイラーの定理を使う機会はあまりないかもしれない。


 あとがき

 本文中の『This is perhaps the simplest known proof, requiring the least mathematical background』の日本語訳は、作者がGoogle翻訳で訳した文を、自然な日本語になるようにしたものです。そのため、訳の正確さは保証できません。予めご了承ください。

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