阪大入試と自然数nの存在
放課後の部室。成宮がノートを見ながら腕を組んでいた。常に明るい表情も今は険しい。
「成宮、何で悩んでんだ」
「阪大の入試問題を解いているんだけど、なかなか答えまでたどり着けなくてね」
今回は大阪大学か。成宮はノートに記されている問題文を指差した。
4個の整数n+1、
「これって証明問題?」
後ろから愛華が声を掛けてきた。広義で言えばそうだろうな。
「存在しないのは確かなんだけど、どうにも示せないんだ」
「え、なんで分かるの?」
「計算量を考えればすぐに分かるさ。n+1と
妥当な考えだ。問題はそれをどう示すか。
「それで成宮、お前はどう考えたんだ」
「背理法……いや、消去法だね。仮にnが存在するとしたらnは偶数。だからnに0、2、6、4、8を代入して、全部題意を満たさないことを示そうとしたんだけど、6で躓いた」
成宮が言った後、愛華はそっと手を挙げて訊いた。
「少し説明もらえる? 私、よく分からなかった」
「じゃあ、最初から改めて説明しようか。もしnが奇数だとしたら、n+1は偶数になる。より正確に言うと、4個の整数がすべて偶数になるんだ。奇数は何乗しても奇数だからね」
nが存在するとして、nが奇数の場合。n+1は偶数。
奇数は何乗しても奇数で、奇数と奇数の和は偶数だから、
「もう少し説明すると、nは3、5、7の倍数ではない。3の倍数だと
「nが偶数になるのは分かったけど。nに0、2、4、6、8を代入するっていうのは?」
「下一桁の値を計算して合成数になることを示そうと思ったんだ」
n=0のとき、n+1=1で、1は素数ではない。
n=2のとき、n+1=3、
n=4のとき、n+1=5、
n=8のとき、
「6は何回掛けても下一桁は6だから、4個の整数の下一桁はn+1が7、
「存在するとしたら、下一桁が6の自然数……代入して求めるのは時間がかかりすぎるね」
「そうだろう? だから、題意を満たすnは存在しないと考えるのが自然だよ」
そう言った後、成宮はため息をついた。考え方は悪くないが効率的ではない。
「……成宮、お前剰余は考えなかったのか」
「剰余?」
「題意を満たす自然数nが存在しないということは、nがどんな値であっても、4個の整数のうち、少なくとも1つは合成数だと言うことだ」
「そんなの分かってるよ」
「お前は5の倍数にこだわっていたが、この問題を解くのなら3の倍数で考えた方がいい」
「3の倍数?」
「ああ。今から説明する」
ある数を3で割った剰余(余り)は0、1、2の3通り。これを整数mを用いて、それぞれ3m、3m+1、3m+2とする。
n=3mのとき
「n=3m+1のとき、1は何乗しても1だから、n、
成宮は頷いた。横にいる愛華も頷く。
「4個の整数の余りはn+1は2、
n=3m+2は計算を楽にするため、余りを-1として考える。
「n=3m+2の場合、n+1は0、
n+1、
「だからnがどんな値であろうと、4個のうち少なくとも1つは3で割りきれる。よって、題意を満たす自然数nは存在しない」
合同式を使えばもっと早く示せるんだけど、高校指導要領に入ってないからな。今説明した内容を合同式で表すと
n+1≡1(mod 3)
n=3m+1のとき
n+1≡2(mod 3)
n=3m+2のとき
n+1≡0(mod 3)
パッと見だと難しく感じるかもしれないが、割り算ができれば中学生でも理解できる、と個人的には思う。
説明を終えた後、成宮は肩を落として言った。
「整数問題は得意だと自負してたんだけどなぁ。自分の力不足を思い知らされたよ」
「あと一歩まで行ってたんだし、そこまで落ち込まなくてもいいだろ」
俺がそう言うと、成宮は明るい表情で頷いた。
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