階乗の探求
完全数の話が終わり、成宮がノートを閉じようとしたところで、愛華がある書き込みを見つけた。
「成宮君、これ何?」
「今日、安藤に出す予定だった大小比較の問題だよ。検算が間に合わなくて断念した」
「70!が厄介だね」
「そうなんだ。
二人が話している間、俺は
150と100の最大公約数は50だから、
紙を用意するまでもない。あとは’70!だが、確かに厄介だ。
「成宮君、一番大きい数どれ?」
「その検算が済んでないんだよ。適当に数字を決めたからね」
「問題を作るときって、最初に答えを決めるんじゃないの?」
「答えが分かっている状態で問題を作るのは面白味がない。だから整数の問題を作るときなんかは、多項式の係数を適当に決めて自分で解くんだ。値が大きかったときは、筆算で計算できる範囲で係数の値を調整する」
「自分で作った問題を自分で解く……」
出題者が答えを知らない状態で問題を作る。なかなか面白い試みだな。
「だから僕もどれが一番大きいか分からないんだ。安藤、分かる?」
「70!だ。少し手間取った」
「どうやって計算したの?」
「素因数の数を比較した」
愛華は首を傾げた。この反応を何度見たことか。俺は
「あとは70!と
「100個以上……ええと、3の個数は70割る3で……23個?」
「いや、70!の約数には9の倍数と27の倍数もあるから、3の個数は23個より多い」
3の倍数は3、6、9……63、66.69まで23個。
9の倍数は9、18、27、36、45、54、63の7個。
27の倍数は27と54の2個。
よって、3の個数は[70/3]+[70/9]+[70/27]=23+7+2=32個。
「またガウス記号」
「便利なツールは積極的に使う。2を飛ばしてしまったが、2の個数は64の倍数まで調べる必要がある」
70/2+[70/4]+[70/8]+[70/16]+[70/32]+[70/64]=35+17+8+4+2+1=67
「70!は2が67個もあるんだ。でも、3より小さいよ」
「
「合ってる」
5の個数は70/5+[70/25]=14+2=16個。7の個数は70/7+[70/49]=10+1=11個。
「この時点で3以上の約数は32+33+16+11=92個。
11の個数は[70/11]=6 個、13の個数は[70/13]=5個。これで3以上の約数が103個になった。
「これで70!が最も大きい数であることが示せた」
まあ、
一応筆算で計算したが、この程度であれば関数電卓で概算値が求められる。Webの電卓で計算すると
70!は1.197857e+100
と表示された。これはE表記でeは指数を意味するexponentの略。決してerrorではない。
指数表記だとそれぞれ1.4272477・
「応用すれば0の個数も数えられるね」
「どういうこと?」
「階乗は値が大きくなるほど、後ろに並ぶ0の個数も増える」と成宮。
10!=3628800
20!=2432902008176640000
30!=265252859812191058636308480000000
「なんでか分かる?」
愛華は深く考え込んでいえが、結局、肩を
「2と5の個数が増えたからだよ。100を素因数分解すると
「2と5が1ずつ増えると、後ろの0が1つ増えるのね」
「その通り」
2の個数>5の個数だから、0が並ぶ個数を調べたいとき、5の個数だけ計算すればいい。だから100!は
100/5+100/25=20+4=24個。
「100!は後ろに0が24個も並ぶんだ。1000!や10000!だったら0の個数も相当増えるんだろうね」
「なんなら計算してみる?」
成宮はそう言ってスマホを取り出した。ノートは使わないんだな。
1000!
1000/5+1000/25+1000/125+[1000/625]=200+40+8+1=249個。
10000!
10000/5+10000/25+10000/125+10000/625+[10000/3125]=2000+400+80+16+3=2499個。
「これ規則性があるっぽいね」
「ある。nを2以上の整数として、10n!に0が並ぶ個数を求める一般式は25・
「じゃあ、1億の階乗は24999999個も0が並ぶの? やばっ」
ちなみに、階乗のおおよその値はスターリングの公式、n!=√2πn(n/e
[1/2・log(10)2・π・1000+1000・log(10)(1000/e)]=2567
つまり、1000!は2568桁で後ろに0が249個並んでいるということになる。10%近くが0で埋め尽くされているのか。すごいな階乗。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます