完全数とメルセンヌ素数
昼休み。成宮はノートとシャープペンを手元に置き、完全数について話し始めた。
「完全数は自分自身の約数をすべて足すと、その和が自分自身の2倍になる数のこと。最小の完全数は6、次が28だ。これはホームルーム前に説明したね」
「表現が微妙に変わってるけどな」
「安藤、ひとこと多い。ちなみに、約数の和が元の数の2倍より大きい数を過剰数、元の数より小さい数を不足数という」
12の約数 1、2、3、4、6、12 和は1+2+3+4+6+12=28だから過剰数。
10の約数 1、2、5、10 和は1+2+5+10=18だから不足数。
「1から100までの自然数で調べてみたんだけど、不足数が圧倒的に多かった。過剰数は22個、不足数は76個、完全数は2個だった」
「過剰数も結構レアなんだね」
「完全数はそれよりも少ないんだから激レアだよ」
ゲームで言うと、過剰数はSレア、完全数はSSレアってとこか。
「そうそう、完全数は小川洋子さんの小説『博士の愛した数式』にも登場する」
「題名は聞いたことある。和人は知ってそう」
知ってそうというか、俺は『博士の愛した数式』を読んで完全数を知った。友愛数もな。
「YouTubeでもクイズノックが完全数の問題出してたね。33550336の語呂合わせは面白かった」
「33550336?」
「5番目の完全数だよ。完全数は小さい順に6、28、496、8128と続いて、5番目が33550336なんだ」
「一気に飛んだね」
「6番目もだいぶ間が空いてるんだけど、なんだったかな」
「8589869056」
俺が答えると、愛華と成宮は目を丸くした。
「85 89 86で80番台が連続で続いてたから覚えやすかったよ。33550336も33 55で0が入ってまた33でゾロ目だから覚えやすい」
「安藤は語呂合わせとかしないんだ」
「語呂を作るのが面倒だからやらない。それはともかく、完全数の話をするなら、メルセンヌ素数の説明も必要だろ」
「え? メルセンヌ素数って
あ、そうだったな。リュカテストの話もしたわ。
「メルセンヌ素数は友村さんが言った通りだよ。でね、完全数はメルセンヌ素数と大きく関係している」
成宮はそう言って、ノートに式を書いた。
「
「えーと、要は完全数を求める公式はこれしかないってこと?」
「そういう言い方もできる。最初に証明したのはユークリッドだよ」
「違う。オイラーだ」
俺はすかさず訂正した。確かに、偶数の完全数が
「ああ、そうだったね」
「ねぇ、ユークリッドって互除法で出てきたのと同じ人?」
「そうだよ。2000年以上も前だから彼の生涯は不明な点が多いけど、数学界に大きな影響を与えたのは間違いないね」
それは俺も同感だ。彼は「幾何学に王道なし」という名言も残している。本当に言ったかは不明らしいが……。
「話を完全数に戻すと、新しい完全数を見つけるのは、新しいメルセンヌ素数を見つけるのとほぼ同義だ」
「今まで見つかってるメルセンヌ素数はいくつあるの?」
「51個。その中で最大の数は24862048桁もある」
「大きすぎてピンと来ない」
「そりゃそうだろうね。僕もそうさ」
成宮がそう言った後、愛華は考える仕草をして、ふと言った。
「少し思ったんだけど、奇数の完全数はないの?」
愛華の問いに、成宮は「よくぞ訊いた!」と言わんばかりに目を光らせた。
「奇数の完全数はまだ見つかっていなくてね。存在するのかも不明なんだ。ついでに言うと、偶数の完全数も無限にあるか証明されていない」
「そ、そうなんだ……」
成宮はコホン、と咳払いをして話を続ける。
「さっき安藤が言ったオイラーも有名な数学者の一人だよ。詳しく話すと長くなるから割愛するけど、円周率を表わす記号πや虚数単位iは彼をきっかけに普及した」
「すごい人なんだね」
「でも、熱心すぎるがあまりに右目を失明しちゃってね。ついには左目も失明して盲目になってしまったんだ。そんな状況になっても、オイラーは数学の研究を続けた」
その逸話は俺も知っている。メルセンヌ素数についても
歴史に名を残す数学者は、常人には考えられないことをやってのけるのだから頭が上がらない。俺は即効で電卓使うわ。
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