第26話 仲間というもの
「ふたりとも、無事か」
最初に声を出したのは追放者だ。
「あ、あんたって一体……」
「ラティス・リーグマン」
「っ! その名前って……!?」
「話せば長くなるが、どうせ信じないのが関の山だ。同姓同名だと思うならそれで結構」
早いところ話を切り上げたのは、やけにびくびくしているフミュウが気になったのもあるだろう。視線を合わせるだけでびくりとした。まるで親に叱られる子どものようだ。
「あの、えっと、ご、ごめんなさい……わたし、ラティスさまにひどいことを――」
「フミュウ」
「は、はいぃ!」
きゅうん、と喉が震えて締まるようなか細い声を出し、びくりと縮こまる。目を閉じ、うつむく様は反省して頭を差し出しているようにも見えた。分かりやすく肩も震えている。
その肩に、ポンと手を置いた。
「ひっ、ふぇ……?」
「よくやった。おまえはひとりの命と心を救ったんだ」
俺にはできなかったことだ。最強でも尚できなかったことを、こいつはやってのけた。無謀と思えた勇気だけで立ち向かったんだ。
「俺の言っていたことは間違っていた。その、なんだ……すまない」
ぎこちない謝り方だっただろう。これが精いっぱいの謝罪だと思うと我ながら情けなさ極まりなく感じる。
「い、いえ、そんなことは……っ、ラティス様だって私たちを助けてくださいましたし」
「そうだな、元と言えばおまえが勝手に首突っ込んだのがはじまりだろう」と肩に置いていた手を下ろす。
「ふぇっ!? そ、そんなぁ」
「冗談だ。結果としておまえの判断は正しかったんだ。ともあれ、無事でよかった」
そう言い、そして赤髪の少女へと体を向ける。
「カッとなったとはいえ、君にはひどいことを言ってしまった。……すまなかった」
そう言い、会釈程度の頭を下げた。ふん、と文句言いたげなため息が聞こえた。
「偉そうなのは気に食わないけど、あんたらふたりには感謝してあげる。ま、あたしひとりでもなんとかなったけど」
かわいくないやつめ。さっきの根に持っているのか知らないが、あのクソッタレ勇士団でなくともコミュニケーションが取れないことは確信したよ。
「そうか、じゃあひとりでやっていける君はこれからどうするんだ」
「あんたには関係ないわ。町に戻って仕事でも探そうかしら」
なんだかんだ答えはするんだな。要は行先はないみたいだ。
フードを被り、少女は踵を返す。どこか焦っているようにも見えなくはないが、単に俺たちのことが嫌いなのかもわからない。
「それじゃ、またどこかで会えるといいわね。ご武運を――」
「あのっ!」
フミュウが声をかける。何を言うかと思えば――。
「わたしたちといっしょに冒険しませんか!」
「……えっ、は?」
当然、俺も同じセリフを心の中で吐いた。本当にこいつは突拍子もないことを言ったり、人を巻き込んだり……全く。
こいつのバカみたいに真剣でまっすぐで前向きな顔は、どうも苦手だ。
だからこそ、らしくない結論が俺の中で出たのだろう。
「わたし、これでも立派な冒険者になって目指したい場所があるんです! ラティスさまも本当はすごくやさしいですし、不死身ですし、あの伝説の戦士ですし、厳しい時もありますけどいつも私を守ってくれて、すごく頼もしいんです! でも、エルマちゃんが一緒に来てくれたら、ぜったいもっと! すごいパーティになれます! それに、えっと……すっごく楽しくなります!」
せめて語彙力と説得力のレベルも99まで上がっていてほしかったよ。最も、そんなものは俺にも元からないが。
「ほら、ラティス様も!」と巻き込んでくるな。
「……さっきはあんなことをいって悪かった。調剤や錬金術どころか、道具や装備の製作にも秀でた才能は戦闘には不向きかもしれないが、戦士の強さの根底を支え、培う不可欠な存在だ。なにより……こいつが仲良くなりたがっているからな」
「もうラティス様! 素直になってください!」
「率直極まりないことを言ったつもりだ」
ぷんすことまったく怖くない叱り方をするフミュウを他所に、少女は鋭い声を発する。
「あんたら、バッカじゃないの?」
思わずフミュウも彼女を見る。ため息をひとつ、じとっとした目で睨む。彼女は口を開いた。
「あんたらみたいなアンバランスなコンビに入ったところですぐに死ぬのが落ちよ。前にいたチームのほうがまだまし」
逆なでするような表情と態度。突き放すような言い方。だが、どこか違和感を抱く。
「あたし、安定した冒険者ライフが送れない弱小パーティなんて考えられないのよね。頭の悪い人も偉そうな人も大っ嫌い。あたしさ、あんたたちみたいな能天気とはちがって、崇高な志を掲げているの。人を見る目だってあるし、そこらの人とは格が違うし、頼まれたことはできるかぎり応えてきたつもりだし……」
その刺ついた声に毒がない。
「大人げないし、生意気だし、人と仲良くなれたこともないし、血筋もろくなものじゃないし」
徐々に声が弱まっていく。ひとつひとつの言葉をかみしめているような、そのたびに、体と握っていた手、そして声が震えていくのが分かった。
「ステータスだって戦闘に加担できるほどの数値はないし、レベルだって――」
とうとうその瞳から押し殺してきた感情があふれ出した。
もう何も言うことはない。ただ、震えながらもゆっくりと吐き出す彼女の言葉を待った。
「それでも……あたしを、仲間に入れてくれるの?」
「「もちろん!」」
100年後の幻想楽園《ファンタジア》~異世界最強のアラフォー戦士、全ステータスをポンコツ少女に持っていかれレベル1の最弱アンデッドになるけど実は無双レベルで強い説が有効のようです~ 多部栄次(エージ) @Eiji_T
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