第9話 地獄への道は善意で舗装されている





 ……。


 ……。


 …………エドガーとの連絡を終えたから、約504時間52分の月日が流れた、その日。私は、『火星』にて、私は考えていた。



 何をって、それは『亜人』たちの使い道だ。



 エドガーに助言を頼んだとはいえ、作ったのは私だ。作った以上は責任を取るのが筋という常識が、『尾原太吉』の記憶には有る。


 故に、彼に全てを任せるわけにはいかないだろう。それに、彼も人間の基準で考えれば高齢……あまり負担を強いるのもどうかな……というのが、私が出したひとまずの結論であった。


 ……で、だ。


 結局、何一つ妙案が思いつかないまま、ふと、新たな懸念というか、『ある事』を思い出したのが、約504時間と52分の月日が流れた時だ。


 このまま考え続けても打開策が出るわけでもないし、とりあえずは……という感覚で、それを確認する為に、地上の方は一旦置いといて火星に戻ってきたわけで。


 そうして、それ以降、私の頭を悩ませている『ある事』の中身とはずばり、『火星の獣』と『地上の亜人』との違いであり……『火星の獣』の使い道に関してである。


 ……そう、私は気付いてしまった。亜人たちの使い道に困るということは、火星に住まう『獣たち』もまた、同様の問題が生じるということを。



 ――そのまま放っておいても良いのだが、せっかく作ったのだ。



 ただ遊ばせておくのも何だし、考えた結果使えないならともかく、最初から結論を出して破棄するのは勿体無い。使えるモノは使う、それは『連盟種族』も言っていたことだ。


 それに、定期的に新しい『商品』を出すのは商売の鉄則であると、『尾原太吉が呼んでいた漫画』とやらにもあった。その鉄則から考えれば、そろそろ新しい『商品』を考えなければならない。


 だから、亜人と同様に、火星の獣たちも商品として転用出来ないかな……と、考えた次第なのだが。



(基礎部分は一緒だから、やっぱり使い道が……)



 結局はそこに辿り着いてしまったわけで……せめてもの打開策を講じる為に、私はずーっと『亜人』と『火星の獣』の違いについて、考えていたわけである。



 ……さて、だ。



 何故、違いについて考えるのかといえば、それは亜人とは性質が根本から異なっているからで、エドガーから得られる助言では対応出来ない場合が生じる可能性があるからだ。


 ……と、いうのも、だ。火星には、地上とは些か異なる生態系が築かれている。


 気候こそ似せてはいるが、こちらでは地球のように自然な淘汰が起こることもなく、意図的な遺伝子改良と管理的な繁殖と環境保持を行っているからだろう。


 もちろん、自然的ではないが、私の手による意図的な淘汰と選別は常に行われている。


 今でこそ当初より回数は激減しているが、それでも定期的には行われている。淘汰の対象となるのは遺伝子的な虚弱性や欠損……先天性の病を発症する因子を持っている個体である。


 地球上では、その果てに地上の覇権を握ったのは人間であった。だが、火星では……知的生命体への第一歩である(『連盟種族は除く』)、二足歩行へと至ったのは……猿だけではなかった。


 それはいわゆる、私が『獣』と称していた生物たちだ。


 『獣』たちは、『亜人』とは違い、獣の特徴が強く表に出ていた。例えば、骨格の形、体毛の濃さなどが最も分かりやすい特徴で、その姿はおおよそ……首から上が獣で、首から下がだいたい人間という感じだ。


 その獣たち……いや、地上の獣たちを『亜人』と称したので、火星の『獣』を『獣人』としよう。


 その獣人たちなのだが、彼らもまた高い知能を有している。現時点では一切の教育を行っていないので、その思考回路は生物が持つ本能に忠実だが、適切な教育を施せば、知性を得られるだろう。


 また、彼らは群れを形成する。亜人も連帯的な意識を持っていることは事前の調査で確認出来ていたが、獣人はそれの比ではない。明らかに、野生を生きる動物特有の性質が遺伝子レベルで強く出ている。


 つまり、亜人よりもはるかに本能に忠実というか……反射的に動いてしまうというか、即物的な行動を取りやすいのだ。



 これは、困る。非常に、困る。



 亜人たちの使い道ですら分からないのに、それ以上に扱いにくい獣人の使い道ときた。おまけに体毛が有る分だけ食肉用として加工する際に手間が増えるというマイナス点すらある。


 遺伝子改良やナノマシンによる本能抑制も可能といえば可能だが……そこらへんを弄ると、ホルモンバランスやら大脳皮質やらにも影響が出てしまうので、迂闊には触れない。


 亜人と同じだ。身体が脆過ぎて、そういった繊細な調整が本当に難しいのだ。



(おまけに、亜人も獣人も互いに対して強い敵対心を抱くようで、出会った瞬間には殺し合いか……ますます使い辛い)



 私のセンサーが、眼下の……獣人に貪り食われている亜人を捉える。


 既に、息絶えて15分。柔らかい部位に当たる腹部は真っ先に食われたようで、スキャンで見れば臓器の6割近くが獣人の腹に収まっていた。



 ……そこは、火星の大地に作った、簡易の円形ドームだ。



 広さにして、50㎡。観客席も控室もないそこは、出入り口すらない。厚さ4m、高さ20メートルの天井の無いその中に入れば最後、出る事は叶わない。


 少なくとも、この星に住まう獣人や、地上の亜人では、自力脱出は不可能だろう。


 入って来たモノを食らって少しでも長く生き長らえるか、逆に食われて相手を生き長らえさせるか。幾度となく使用されてきた実験施設の一つであるそこには、今日も勝者の雄叫びが上がっていた。



(……はてさて、どうしたものか……エドガーにはもう頼れないし、かといって、他に相談する相手は……)



 その姿を、しばし観察していた私は……十分なデータを取れたものと判断する。直後、ドームの内壁がパカリと開き、中より迫り出したのは……焼却用の巨大バーナーだ。


 ――使用した残骸を放置しても良い事は一つもない。後片付けは、コレに限る。


 一瞬の間を置いた直後に反射される轟炎。ごう、と、跳ね返った熱気が私の身体へと吹き付けられた頃には……ドーム内に、生きている者は一つも居ない。


 何せ、鉄もこの中では15秒と待たずに融解する程の熱量だ。地球上に存在するあらゆる防壁も、この中に入れば成す術もなく燃え上がって融解し、塵一つ残さず……ん?




 ……待てよ、そもそも、何故、相談相手をエドガーに限定する必要が?




 それは――ある意味、私にとっては盲点とも言える発想の転換であった。



 そういえば、そうだ。相談相手は何も、エドガーに限る必要はない。私が得たいのは『亜人』や『獣人』の使い道であって、人間たちの経済云々に影響を及ぼす類の大きな『商売』でもない。


 そもそも、『ミラクル・フルーツ』を販売する時だって、購入者に対してアンケートに近しい事は行った。対価としてフルーツ+1個という形になったが、本来は誰に相談しようが私の自由なのだ。



 ――何だろう、吹いている。風というか、冴えた何かが……!



 そうと決まれば善は急げとは、『尾原太吉』の言葉だ。


 細胞一つに至るまで完全に焼却が行われたのを確認した私は、自動制御に後を任せて……つい先日、新たに建てた『多目的ホール』へと早速向かった。





 ……『多目的ホール』。それは、文字通り、様々な用途に対応出来るように設計された施設である。


 外観は、人間たちの言葉でいえば大き目のビルといったところだろうか。縦横高さが50mずつの立方体。窓は一つも付いてはおらず、唯一の出入り口を入っても、数メートルも進めば行き止まりとなっている。


 一見するだけだと、何の為の建物なのかは分からない。少なくとも、人間の技術力では、この建物……というか、施設が何なのかすら解析することも出来ないだろう。



 その正体は、『ナノマシンの塊』である。



 言っておくが、ただのナノマシンではない。分子レベルで構造を入れ替え、あらゆる性質へと変化し、如何様な装置にも自由自在に変形し、モノによっては本物以上の性能を叩き出す事が可能な優れものだ。


 分かり易く言い換えるのであれば、機械にも建物にも化けられる極小の機械……といった感じだ。


 その、『多目的ホール』の行き止まりまで来た私は、壁に触れる。途端、指令を受け取ったナノマシンたちは瞬く間に再起動を果たし……ものの24秒後には、小部屋が形成されていた。


 いわゆる……撮影用のスタジオというやつだろうか。『尾原太吉』の記憶を参考にしたから、断言は出来ない。


 加えて、スタジオと言えるような道具は何一つ……いや、一つだけある。映像機器となる『カメラ(特殊)』で、様々な機能を搭載した特殊なカメラだ。


 部屋の広さはせいぜいが10㎡、高さは4mほど。ナノマシンによって照らされた室内は明るく、光学式カメラによる撮影を行っても、不測の事態は発生しないだろう。


 ……そこに、私はインターフェイス(例の、カプセルのやつ)を設置する。どうやったかって、『空間結合』を使って、だ。


 今回はわざわざカプセル外に出す必要がないので、そのままだ。次いで、私はカメラに映らない位置に移動しつつ、インターフェイスへと無線リンクを繋ぐ。


 途端、本体である私の姿と、カプセル内の私の姿を、交互に『私』が認識する。こうして改めて見ると、どうも体の作りが甘いというか、本体の方の私に比べて……いや、それはいいか。



 ――こぽり、と。カプセル下部より連結している循環器から、気泡が浮上する。ぴくり、と痙攣する手足の制御と、伴う感覚に……『私』は、幾度となく瞬きを行う。



 それを、『私』は……いや、横目で見やった私は、さて、と意識をカメラに向けた。



(地球上で、最も多くの者たちの目に留まり易い媒体はどれだ……?)



 カメラの状態を確認しつつ、地球上のネット回線へと接続。幾つか防壁(と、呼ぶにはお粗末過ぎるのだが)が見受けられたが全て突破し、そのまま調査を続け……候補は四つ。


 その内の二つは映像と文字を発信し、世界中の人達が観覧できるような媒体(ウェブサイト)になっている。大勢の人間たちが参加し、思い思いに情報を発信出来るようになっているが……どちらも、相談をするには手間が掛かるというか、応答されるまで時間が掛かる。


 後二つは、主に映像を発信する媒体のようだ。こちらも、二つともが世界中の人達が参加し、情報を発信しているようだが……その内の片方が、どうにも変だ。理由は不明だが、運営している者たちが行方を眩ませているとかで、接続が一時的に断たれているようだ。



 ……と、なれば、だ。



 必然的に残るのは……判断した私は、次いで、その媒体……いや、ウェブサイトへとアクセスする。カチカチ、と、私の視界にて表示されている擬似ディスプレイから操作してゆく。


 こんなモノ(擬似ディスプレイ)を出さなくても操作することは可能だが、盗み見て回線を繋ぐ場合と違い、向こうのサーバーの反応を確認しながらなので結果的にはこっちの方が速いのだ。



 ……で、アカウントとやらを求められたので、それも作る。



 住所は……火星という項目が無いので、しかたなく『ミラクル・フルーツ』を販売している所を入力し、作成完了。


 その際、利用する場合の注意事項が表示され……頭脳ユニット内に保存した私は、さて、と表示された『マイページ』とやらを確認する。



(……返答を求めるなら、リアルタイムでの放送を行った方がいいな。ふむ、サムネイル……?)



 よく分からないが、見出しみたいなものだろう。とりあえず、『私』の今の姿を撮影し、それをサムネイルとして使用する。


 ネットワークから調べた限り、より多くの人達に見て貰う為には幾つか方法というか手順はあるらしいが……まあ、それは追々で良いだろう。


 ……都合の良い事に、インターフェイスは女体ベースだ。全体的な傾向として、男体よりも女体の方が観覧されやすい傾向にあるらしいが……これを利用しない手は無い。


 インターフェイスとカメラと媒体のサーバー間の回線を相互確認。


 光源の量を調節し、利用規約とやらに違反していないかどうかの最終確認を行った私は……『私』は。


 こぽり、と、眼前にて浮上してゆく気泡を肉眼にて認識した『私』は、私だ。擬似ディスプレイに浮かぶ己の姿を参考に、放送を始めた。





『――こんにちは、人間の皆様。今日はあなた達に相談したい事がある。私の為に時間を割く事を了承する者は、そのままこのチャンネルを見ていてくれ』




 擬似ディスプレイに表示された動画画面には、私の姿が映し出されている。右上に小さく表示された『Live』の文字と、回線の手応えから……無事に放送が行われているのが確認出来た。


 ……後は、このまま視聴者が来るのを待つだけだ。


 しかし、暇だ。


 いや、作業中なので暇ではないのだが、こう、意図的に何もしない時間を作ると不安になる。プロテクトは異常なく作動しているので、万が一にもセーフティが起動する事はないだろうが……不安だ。



 ……。


 ……。


 …………。


 ……。


 ……。


 …………あ、一人来た。



 待機時間、1分1秒。だいたいの『新人』は1時間配信して1人視聴者が付くか否からしいが、思ったよりも速い視聴者の登場。これは、幸先が良いというやつなのかもしれない。



 ――1乙ぱい!



 と、思ったのだが、どうもそうではなさそうだ。いや、なんか懐かしい言葉というか、『尾原太吉』の記憶にもあった日本語が表示された事に軽い驚きを覚えつつ、返事をしようとした。



 ――垢BAN記念

 ――マジで丸見え(笑

 ――収益無視の糞度胸過ぎ惚れる



 だが、それをする前に、速くも新たな視聴者が現れ、コメントを発してゆく。見れば、視聴者数が瞬く間に上昇し、あっという間に500人を超えていた。


 コメントのユーザー名とやらを見れば、特に共通項はない。日本語もあれば英語もあり、ロシア語もあれば中国語もある……コメントの内容のほとんどは、『挨拶』と呼ばれるモノだ――ん?



 どうしたものかと悩んでいると、唐突に回線が切られた。



 それは通信の不備というよりは、大本の……媒体になっているウェブサイト側からの指示だ。調べてみれば、どうも、私の放送内容が規約に反するものと判断されたようだ。



(……性的なコンテンツ? おかしい、私の身体には性的興奮を誘発させる反応は起こっていないのだが……?)



 切られた回線を再接続しつつ、私は己の身体……すなわち、インターフェイスの状態を改めて確認する……が、やはり問題は無い。


 細かい機微は分からないが、少なくとも、規約にある『性的満足を与える事を意図したコンテンツ』でないのは確実……向こうのミスだろうか?



『……こんにちは、人数が集まったようなので相談を始めようと思うが、よろしいか?』



 ――あれ? BANされたかと思ったけどまた繋がった?

 ――BANされてない?

 ――垢BAN画面になったかと思ったら、また放送になったよ



 とりあえず繋ぎ直した回線を使って再び放送を始めれば、その僅かな間にずいぶんとコメントの数が増えていた。


 ……というか、『垢BAN』とか『BAN』とか何なのだろうか。


 コメントのけっこうな割合が、その単語を入れているが……ああ、なるほど、『禁止される、利用停止にされる』という意味合いの、ネットスラングと呼ばれる言葉の一つか。



『……似たような指摘が数多くあるので、答える。BANと呼ばれている行為は既に成された。しかし、それは媒体側のミスである可能性が高いので、こちらから回線を繋ぎ直した。故に、放送は再開された』



 ――は? BANされたの?

 ――BANされたのに繋いだって? え、公式?

 ――18禁サイトならまだしも、ココではありえない

 ――CG? いや、でもそんだけリアルなCGなんて……

 ――というか、普通に性的なコンテンツでは?(無垢な眼差し)



『性的満足を与える意図など無い以上、その指摘は間違いだ。もう、向こうからは回線が切られないように掌握したので、心配する必要はない』



 ――はい? はい? はい?

 ――まるで意味分からんけどおっぱいだからヨシ!

 ――割れ目丸見えなのにBANされないぞ……

 ――ここまで堂々とされるとエロさも何もない

 ――恥じらいって、大事



 何やら、混乱しているようだ。何に対して混乱しているのかは分からないが、納得してくれたのであればこちらもヨシという事にしよう。


 そう結論を出した私は、早速、集まってくれている視聴者たちに軽く自己紹介を行った後、相談を始めた。


 相談……といっても、そう話しは長くない。


 要は、『人間に似せて作った亜人』と、『獣の特徴が色濃い獣人』の二つの、有用な使い道はないかという話だ。


 エドガーに相談した件については、エドガー本人の承諾を得ていないので他人に話すわけにはいかない。


 なので、しばらく考えていたが思いつかなかったし、不特定多数の一般人と相談(対話)できる、このやり方を使ったのだということを説明したうえで。



『――説明は以上だ。質問が有る者や意見が有る者は順次コメントしてほしい。いちおう、答えられる事は全て答えるつもりだが、関係が無いと思われる質問に関しては無効とする』



 そう告げれば、彼ら彼女らの反応は凄まじかった。


 おそらく、私が宇宙人(ではなく、『ボナジェ』なのだが)である事に戸惑っているのだろう。それを見て、やはり『ボナジェ』ではなく宇宙人と己を紹介したのは間違いなかったと思った。


 何せ、宇宙に慣れている『月に居たあの者』ですら、私の正体を知った途端にあれほど動揺を露わにしたのだ。


 そういった予備知識というか、耐性の付いていない者がアレをそのまま見れば……心臓を停止してしまう者が現れても不思議ではない。



 ――え、これマジ? ドッキリじゃなくて?

 ――放送始まって20分ぐらい経っているのに、未だにBANされないんだけど……(震え声)

 ――裸を晒して視聴者数6万人を超えているのにBANされないって、何者?

 ――お薬切れた狂人案件かとおもったらマジの宇宙人案件?

 ――いかん危ない危ないNASAが卒倒しちゃーウ!

 ――ていうか、そのNASAが既に宇宙人と接触していたとか草生えない



 実際、この混乱を見る限りは妥当な判断だったと思われる。いちいち調べる必要性もないので実際にどういう状態に陥っているのかは不明だが……まあいい。


 さて、この混乱は後どれぐらい続くのか……静観するべきか否か。とりあえず、ポツポツと返答を続けながら、その判断に迷っていると。



 ――そもそも、実物を見ないとアドバイス出来ない



 というコメントが来た。それを見て、言われてみればそうだな、と今更な事に気付いた私は――本体である『私』が、調整を終えている『亜人』や『獣人』たちを捕まえて洗浄と矯正と洗脳処置を行っている――のを並列に処理しながら、返答する。



『亜人と獣人は現在、共に洗浄などの処理を行っている。獣人はまだ無理そうだが、亜人なら可能。お披露目出来る状態になったら出すつもりだが、どのような個体を所望なのだ?』



 ――とりあえず女の子希望、可愛い子に決まっているよなあ!

 ――種明かしまだ? 売れないアイドルとか出されそうなんだけど

 ――出せるもんなら出して見ろよw 言い訳して出さないに5000兆円

 ――子供出して諸々を濁して終わらせるに同級生の魂を賭けるぜ!

 ――↑自分の魂を賭けろよwww



『女の子、というはどのような個体なのだ? ♀(メス)なのは分かるが、年齢などの特徴を示してくれると齟齬が生まれ難いと思うのだが……』



 ――度胸試しに違法ロリでも出せば?(鼻ホジ)

 ――見える見える……どこぞの界隈が発狂するのが見える見える……

 ――ガチの宇宙人がそんなの気にすると思う? そんなん甘いよ

 ――まあ、ロリなら発表から逮捕まで一直線でしょ。



『……ろり? ロリータ、というやつで良いのか? それなら、何歳ぐらいが良いのだろうか? 成長期に入った人間は個体差が大きいが、区別するのは年齢のみで良いのか?』



 ――とりあえず、10歳から15歳ぐらいじゃないの?

 ――肉付きは個人差あるし、12歳ぐらいならまずロリでしょ

 ――まあ、中学生ぐらいまでならほぼ該当するだろ

 ――幼稚園児とかは?

 ――↑それはペドっていう違う分類に入るぞ



『人間に例えるなら、12~3歳前後ぐらいにまで成長した個体を出せば良いのだな?』



 そう尋ねれば、肯定のコメントが次々送られてくる。どうやら、視聴者たちもロリータを表す正確な年齢を理解しておらず、各自が想像する年齢を示してくる。


 なので、世界各国のデータベースに侵入し、その年齢のデータを掻き集め……そうして認識する、個体差のあまりの違いに頭脳ユニットがざわつく。


 数値としては微妙な違いでしかないが、1kg違うだけで見た目が変化するのが人間だ。人種の違いというか、同じ種族であっても、かなり個体差があるようで……っと。


 ……並列処理している本体の私から、準備を終えた個体の情報が続々と送られてくる。


 とりあえず、♂の個体は外す。次いで、取得したデータから該当する個体を選別し、該当しない個体を除いてゆけば……15体ぐらいの候補の準備が終わった。



(……まあ、実物を見て貰う方が早いか)



 そう結論を出した私は、『空間結合』を用いて亜人たちをカメラの外へと連れてくる。獣人は……やはり、まだ人間たちに受け入れられない可能性の方が高そうだし、亜人だけにしよう。



(……ふむ、『大脳制御膜』と血中のナノマシンは正常に稼働中……感度も濃度も、規定値を維持しているな)



 本体である『私』が、亜人たちの最終確認を行っている。並列に認識する亜人たちの情報に、(まだまだ課題は多そうだな)私はそう思った。


 というのも、亜人たちは見た目こそ人間に似せて作られてはいるが、人間のように教育的な処置が成されていない。いわゆる、人を人たらしめるモノがインプットされていないのだ。


 故に、そのままだと本能的な行動しかしない……というか、出来ない。まだ、猿の方がはるかに知性的な行動を取るだろう。



 だから、『大脳制御膜』という外部からの制御装置が必要なのだ。



 この『大脳制御膜』とは、その名の通りの代物だ。大脳(小脳も含まれている)を覆う厚さがミクロサイズの膜であり、外部からの衝撃を守ると同時に、外部から意図的に情報を入力する事や、肉体機能を操作する事が出来る。


 例えば……意図的に心拍数を操作したり、臓器の機能を落としたり……一度にやると負担が掛かるが、だいたいの事を習得させる事も可能である。


 ――これをしないと、とてもではないが『商品』として人前に出す事は出来ない。


 どんな使い道を考慮するにせよ、制御が難しいだけでなく持ち主に危険が及ぶ商品なんぞ誰が欲しがるというのだろうか。私とて、それぐらいの常識は弁えているのだ。



 ……さて、だ。



 改めて準備を終えた私は、その内の一体に指示を送る。途端、頷いたソイツは……仮名『α(あるふぁ)』は、無言のままにカメラから映らないギリギリの範囲にて足を止めた。


 服は……着せない方が良いだろう。私と違い、光でモノを認識する人間たちにとって、服などで体を隠せば得られる情報が半減してしまうだろうから。



『――準備が出来た。まず、亜人についての率直な意見を求める』



 そう告げると共に、指示を送れば……αは、足早に私の傍まで来ると、カメラへと向き直った。



 ――は? え、は? え?

 ――ガチの無修正じゃん!!???

 ――やばいやばいマジのロリw

 ――え、これって本当にドッキリじゃなくて?

 ――待って、ちょっと抜くから

 ――伝説はここに生まれたんやな

 ――美少女ロリっておまえ、犯罪の臭いが……



 瞬間、止めどなく続いていたコメントが、止まった。と、思ったら、正しく爆発的な勢いでコメントの数が増えた。


 そこに、言語の区別はない。世界中……というのは言い過ぎだが、私が確認出来る限りでも五か国の言語がある。つまり、最低でも五つの国の人間からコメントを送られていると思って良いだろう。


 その9割ぐらいが、現実を現実として認識出来ていないように思えるコメントであった。残りも、ほとんどが意味を成さない不明なコメントばかりで……その中に、だ。




 ――通報します、児童ポルノは犯罪ですし、性犯罪確定です




 という、誤解していると思われるコメントが幾つか有った。



(通報……ふむ、媒体を管理している所へ、違法な事を行っている事を報告する行為……か)



 何ともまあ、酷い誤解だ。なので、私はまずそこを訂正しておくことにした。




『先ほども説明したが、コレは人間ではない。人の形に似せて作った生物であり、道具でしかない。何を持って犯罪行為であると断定するのかが分からない』


 ――言い訳は無用です、もう通報しましたので


『通報とやらをするのはあなたの自由だが、あなたの誤解を意図的に広めるのは止めてほしい。あなたの意図が読めないので、それが敵対行為であるかどうかの判断に迷っている』


 ――リンクも貼り付けて拡散しました、もう逃げられませんよ


『逃げられない……意味が分からない。逃げるという言葉は不適切だと思われる。その言葉から、あなたは私に対して敵意を持っている可能性が有ると推測出来る……もう一度聞こう、あなたのそれは敵対行為なのか?』


 ――通報しましたので、もうコメントしません


『……ふむ』




 話が通じないというのは、こういう状況を示すのだろう。


 いったい、何がどうなってコイツの思考が暴走する事態になっているのかは不明だが、やっていることは『相談』という行為への妨害。すなわち、私の邪魔だ。



 ……些か、判断に迷う。明確な敵対行為ではあるが、直接の攻撃行為ではないからだ。



 以前の、あの国で軍人たちが攻めて来た時とは、状況も前提も違う。


 あっちは実際に武器を使用してきたし、何なら幾つか『ミラクル・フルーツ』を破壊したし、『商売』そのものを壊しかねない行為であった為に、大量のインターフェイスなどを投じる結果となった。


 だが、この場合は少し異なる……けれども、放置するわけにはいかないだろう。


 縦横無尽にぶつかり合うかのような混乱の極みに達しているコメントの中で、先ほどの『通報』とやらに賛同するコメントがちらほら見受けられるようになっているからだ。



 というか、ちらほら、どころではない。いきなり、賛同するコメントが増え始めた。



 気になって、コメントを送っているソイツのネットワーク(要は、サーバーを通じて)を探って調べてみれば……なるほど、と納得した。


 目的は不明だが、どうも『通報を行った人物』は似たような状況に直面した際、真偽を問わず『通報』という行為を行っているようだ。


 加えて、どうも思想が攻撃的というか、特定のグループに対して強い憎悪を抱いているようだ。


 人間にしか分からない機微なのかもしれないが、私には理解が難しい。『尾原太吉』の記憶にも情報が無い、ある意味では希少な存在なのだろうか。



 ……興味は引かれるが、まあ、いいか。



 排除するには至らないと判断した私は、そのまま『相談』を再開する。気付けば視聴者数が10万人にも達している事を嬉しく思いつつも、私は興味を持ってくれている者たちへと語りかけた。




『さて、話を戻そう。コイツの名はα(あるふぁ)。筋力的にも構造的にも君たち人間と似たようなモノだ。これの有用な使い道を知りたいのだが……何があると思う?』



 ――欠片も動じずに再開する度胸、マジモンの宇宙人ですね(震え声)

 ――気にも留めていない。これはむしろ、宇宙人に喧嘩を売る界隈を褒め称えるべきでは?

 ――構造的にも一緒って、それってアソコもだよね(ゲス顔)

 ――親とかは居るの? どういう経緯でその子はそこに居るの?

 ――犯罪映像かと思ったけど、ロリ娘の表情マジで変化していないの怖い

 ――人間そっくりに作ったロボットって言われたら信じるわ……

 ――I字バランスおなしゃす!



『親が何を示すかによるが、生み出した存在を示すのであれば私が親になるのだろう。車の生産者を親と呼ぶのと同じ事でしかないがな。αは特殊溶液にて培養して生まれた、数ある個体の内の一つに過ぎないから、それだけだ……ふむ、少し待て』



 質問に答えつつ、『I字バランス』なるモノをネットワークで調べる。


 把握した私が指示を送れば、αは言われるがままに片足を上げ――バランスを崩し掛けたので、待機していた他の亜人に支えさせる。




『I字バランスを行う為に必要な神経組織への伝達と筋肉組織等の柔軟性が足りていない。故に、補助を付けたうえでY字バランスとやらが限度だが……良いか?』



 ――あ、これ本物だ。本物の宇宙人で、このロリたちもガチのホムンクルス確定じゃん

 ――凄いね、何処とは言わないけどSNSで通報祭りになっているのに垢BANされていないっていう……

 ――何だろう、ロリの観音開きヌードなのに、まるでペットショップに並べられた商品を見ている気分になるよ……

 ――当たり前のようにロリ(全員が裸)が追加されたけど、驚き過ぎて驚かない自分がいる

 ――まあ、柔軟とかしていない子供だったら、Y字バランス出来るだけ凄いと思う

 ――どうすんのコレ? 俺の人生でこんな事態に直面するとは思わなかったよ

 ――ガチの宇宙人ならどうしようもないし、成るように成るしかないだろ

 ――一市民にどうにかせよっていうのが無理でしょ

 ――いやほんと、正義感()とやらが通用する相手じゃなくね?




 思ったような反応ではないが、受け入れられたと判断するところなのだろうか。


 とりあえず、逸れ始めて話を戻す為に再度『相談』を持ち出し、忌憚(きたん)のない意見を求めた。




 ――使い道って言っても、肉体の構造が人間と一緒なら、肉体労働も人間レベル……低賃金労働とか?

 ――低賃金って言っても、最低限の教育はしとかないと駄目でしょ

 ――怪我したら治るまでパフォーマンスガタ落ちするのは、ホムンクルスも一緒なんだろうね

 ――発展途上国ならまだしも、先進国では頭脳労働の方が高賃金だし、ある程度は集団行動に慣れていないと厳しい

 ――むしろ、発展途上国の方が集団行動に慣れていないと詰む。マジで、一匹狼だと長く生きられないし、邪魔でしかない




 すると、ようやく『相談』らしい相談が始まった。


 未だ爆発的な勢いで送られてきている意味不明な単語を並べたコメントや、二言目には『通報』と騒ぐコメントは多いが、最初の頃よりも明らかに私が求めていた類の返答が増えてきた。



(なるほど、やはり相談して正解だったようだ……だが、やはり『教育』か。覚えさせるだけなら簡単だが、言葉以外に何を覚えさせればよいのだろうか……)



 次々に送られてくる有用に成り得る可能性を秘めたコメントを確認しながら、私は……一つ、尋ねた。




『労働という行為をさせる為にはそれに見合った知識を与えなくてはならない。だが、見ての通りαを始めとして、亜人たちには知識も常識も無く、感情すら自覚出来ていない。この状態で、亜人たちに出来る仕事とは何だ?』



 ――知識はともかく、常識が無いっていうのは……

 ――その土地によって、暗黙の了解ってあるしなあ……

 ――ロボットのようにしか動けない時点でトラブル待った無し

 ――感情ってことは、喜怒哀楽が無い……う~ん、使い辛い

 ――現時点での使い道って何か考えているの?



『牛や豚や魚のように、食用の家畜にするだけだ』



 ――一瞬、ガチで息が止まった

 ――うっかり忘れそうになるけど、宇宙人なんだよね

 ――本当に家畜感覚としてか見てないのか(戦慄)

 ――拾った蛙を育てている程度の感覚なんでしょ(震え声)



 尋ねられたので、とりあえず候補としている案の中で私が考えている事をそのまま伝えたら、何故か怯えられた。


 いや、文字だけなので本当かどうかは不明だが、まあ、それはいいだろう……と。




 ――亜人って、肉体構造は人間と同じなんだよね? 例えば、亜人の体液が人間の体内に入った場合はどうなるの?




 これまでとは異なるコメントを見つけた。


 何処が異なるって、質問内容が具体的であったからで、『基本ベースは、人間と同じだ』そう、言葉を続けた。




『体液の種類にもよるが、基本的には無害だ。ただ、多量に摂取した場合や、精神的な負担が原因となって、異物として下痢などの消化器異常を引き起こす場合があるので注意が必要だ』


 ――例えば、どういうのが下痢を起こすの? 汗とか、大丈夫なモノはあるの?


『量にもよるが、駄目なのは血液などが当たるだろう。少量であれば問題ないが、多量になると消化不良を起こす。これは、亜人が逆の立場であっても同じだ……血液というのは腐敗が早いし、人間の臓器では消化に負担が掛かるからな』


 ――亜人から感染する病気とか、そういうのはあるの?


『存在しない。血中には高濃度のナノマシンが投与されていて、常に最善の状態が維持されている。故に、人間たちで言うエイズを始めとした感染症は一切感染しない』


 ――ナノマシンってことは、食事とかはどうするの?


『人間と同じモノを食べればいい。ただ、ナノマシンの影響から味よりも機能性の高い食事を求めるだろう。まあ、あまり深く考えず、人間と同じモノを与えればいい』


 ――亜人って、学習機能はあるの?


『人間と同等にある。しかし、あくまで記憶する機能を有しているだけで、その性能は個体によって差が生じるだろう。記憶できる量にも個体差がある……そこも、人間と同じだな』


 ――そういえば、亜人には意思や感情はあるの?


『生存本能に基づいた本能的な行動は取るが、基本的には無いと思っていい。例えるなら、エンジンを乗せた身体を、外部のコントローラーで動かしているようなものだ。自発的な意志は現時点でほとんど無い』


 ――感情などを意図的に習得させる際、どれぐらいの時間が掛かるの?


『時間に関しては、不明だ。日常生活を送る程度の読み書き計算などの覚えれば良いだけのモノであれば2時間程度で済む。感情に関しては……これは活動時間と環境と蓄積される記憶によって派生するので、断言は出来ない』


 ――それを早めるには、どうしたら?


『そうだな……マニュアル的な機能として、元となるサンプルデータをそのままインプットすれば、とりあえず恰好だけは付くだろう。ただ、その場合は一切の応用が利かないので、やはり学習には時間と経験による蓄積が必要だと思われる』


 ――性格の誘導とか、好き嫌いの好みとかは調整出来る?


『可能だが、方向性を定めるぐらいが限界だな。人間もそうだが、亜人の身体も脆い。定めた通りに活動し、指示通りに動くのであれば問題ないが、自発的な行動を伴うようにさせるには、やはりその都度調整が必要だ』




 これまで投げかけられた他の質問とは違い、やはり、具体的だ。『相談』というよりは『交渉』をしているかのような感覚を覚えたが……まあ、それでもいい。


 本来は不特定多数の者に聞いた方が良いのだろう。


 だが、他の者たちとは違い、何か明確な意図を持った発言であるように思えた私は、しばしの間その者との対話を繰り返す事にする。



 ……。


 ……。


 …………そうして、そのまま時間にして……5分11秒ほど。


 意味が有るのか無いのか、長いのか短いのか、何となく意図があるようにも思えるが無いのかもしれないと思いつつも、よく分からない応答が続けられた後。




 ――だったら、亜人たちの使い道はコレしかないですね




 そんな言葉が出されてしまえば……とりあえず、私の興味を引くには十分であった。




『ふむ、何か思いついたのか? 出来るならば教えてもらいたいのだが、それはいったい何だ?』


 ――『派遣』ですよ


『はけん?』


 ――はい、それも、仲介や中間を一切挟まずに、貴女が直接、亜人たちを派遣するのです


『……言っている意味が分からない。詳細な説明を求める』


 ――そうしたいのですが、コメント越しでは上手く説明出来ません。私は病を患っておりまして……出来るのであれば、私の下へ来てくれますか?


『病気か? なるほど、了解した』




 そんな提案が成されて……私はしばしの間、考えた後……了解した。


 と、同時に、ネットワークを通じて通信を逆探知し……発信元を確認。次いで、位置を確認した私……否、『本体の私』が、『空間結合』を用いてそこへと向かう。


 並列処理でそれを見送った私は、『相談』中止を宣言する。相談に乗ってくれた者たち(名残惜しむコメントが多かった)に一言お礼を述べた後、私はカメラを停止して……媒体へのアクセスを遮断したのであった。






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