第5話 商売を行う前のハードルを一つずつ(宇宙仕様)




 ふわりと、数か月前から発生するようになった(というか、するようにした)気流が、繁茂する草木をさわさわと揺らしている。



 地表へと着地した私の視線が、青空の向こうにて煌々と輝く『機械太陽』へと向けられる。戻るついでに軽くメンテナンスをした。離れていた間も、好調に星を温めてくれている。


 惑星全体へと、スキャン範囲を広げる。


 星の各所に設置した様々な設備もそうだが、この星はまだ出来立てだ。地球のように様々な生き物が生まれては淘汰され、年月を経て積み重ねられてきた……厚みのようなモノがない。


 故に、今はまだ変化に弱い。いちおう、マニュアルに従って様々な病原菌などに対応出来るDNAコードを混入させているので、いきなり疫病が発生して全滅……なんてことはないが、念には念だ。


 ……で、だ。


 各所に設置した設備も含め、この星(火星)にて生存している全生命体が平常であることを確認した私は……『使用予定地』として定め、予め整備しておいた空地にて、一つ、頷いた。



 ――『商売』、なるほど、それは盲点であった。



 夜が明け、火星へと戻ってきて、23分後。エドガーと名乗っていた老人の言葉を思い返しながら、私は、今後の事について思考を巡らせる。


 彼の言う通り、『商売』には限りが無い。それは、私一人だけでは絶対に思いつかなかっただろう妙案であった。


 何せ、サンプルとなっている『尾原太吉』には、商売の経験がない。


 コンビニの店員とやらをやった経験は有るようだが、それを商売と判断するかは……正直、今の私では迷うところだ。



 つまり、私の中には『商売』というデータがそもそも存在していないのだ。



 言葉というか、そういった概念は知っていたが、それだけで……彼の発言が無かったら、私は機能停止に至るまで一度として思い浮かべなかっただろう。


 その点について、私は彼に対して深く感謝している。今はまだ……というか、何やら彼の反応が途中からおかしかったから、少し間を開けてからお礼の品でも渡そう。



(しかし、エドガーはどうして途中から反応がおかしくなったのだろうか……やはり、この見た目は人間たちの警戒心を煽ってしまうのだろうか?)



 ただ、気になるのは……対談の途中で発生した、エドガーの反応の変化だ。


 エドガー自身は隠そうとしていたが、私のスキャンの前では無意味である。さすがに何を考えているかまでは読めないが、どういった精神状況になっているのかは分かる。


 あの時、エドガーが抱いていた感情は……恐怖。並びに、焦燥感……といったところだろうか。


 隠そうとしていたので、私もあえて触れるようなことはしなかったが……敵対行動を取っているわけでもないのに、怖がられてもなあ……というのが、今の私の正直な感想であった。



 ……まあ、気持ちというか、怖がる理由は分かる。



 何せ、人間たちにとって私という存在自体が未知だ。私を構成している様々を説明した所で、それを理解出来る者はいない。それは、人間たちが無能だからではなく、私を作り出した『連盟種族』が頭オカシイのだ。


 だってアイツら、ちょっとトイレに行く程度の感覚で『作業用に、小さい宇宙作るから』とか言い出す……っと、違う、話が逸れた、今はそうじゃない。



 とりあえず、エドガーのおかげで今後の行動理由は定まった。



 私は、商売をする。人類という知的生命体……かつての『尾原太吉』の同類である彼ら彼女らを相手に、商売をし続ける。


 その際、無用な戦闘を避けるという名目で、人間たちとの友好的な関係も築く……これならば、『待機モード』を心配する必要も無く、副次的にあのタコの命令を遂行中であるという名目にもなる。



(……良かった、上手く行った。プロテクトが補強されたようだ)



 この案は、私にとっては非常に有用に働いた。その一つとして、セーフティを抑え込んでいるプロテクトが更に強固になったのは……いわゆる、人間の言葉で棚からぼた餅というやつ……だったか?


 ……まあ、何でもいい。


 重要なのは、私がこれで終わりだと判断しない限り、私の動力が動いている限り、人類が存続している限り……少なくとも、不測の事態が起きない限りは延々と続けることが出来る目的を見付けられた、ということだ。


 ……で、だ。


 そこまで思考を巡らせた辺りで、私の視線が周囲へと向けられる。スキャンを通じて既に把握済みではあるが、ついつい目視による確認をしていしまうのは……『尾原太吉』だった頃の名残だろう。


 私の視線(というか、スキャン範囲)に映る景色……良く言えば自然的、悪く言えば原始的なモノしかないそれらを見やりながら……どうしたものかと、一歩目の難問を前に、頭脳ユニットが僅かに熱を持った。



(……『商売』を始めるとして、まず何をすればいいのだ?)



 そして、それが一歩目の難問であった。


 残念なことに、『尾原太吉』の記憶にて参考になるモノはない。マニュアルの中には幾つか該当するモノはあったが、それらはどうも私が知りたいモノからは少しばかりズレている。


 商売をする上での心構えだとか、売り上げを伸ばす秘訣だとか、利益に対する投資と貯蓄だとか、従業員の集め方だとか、そんなのは商売を始めた後で必要となる知識だ。


 私が欲しい情報は、何をすれば正しいのか、だ。


 それが知りたいのに、どうも……しっくり来る情報が見つからない。



(……もしかしたら、それこそが商売なのだろうか?)



 商売とは、いったい……そんな疑念が頭脳ユニット内を駆け巡りながらも、とりあえずは、一つ一つ出来そうな事を思い浮かべることにする。



 まず一つ……基本的なモノと思われる、物品の売買だ。



 そこらへんは、私にも分かる。『連盟種族』も、頭オカシクなるような商品を作ったり買ったり売ったりしている。『尾原太吉』の記憶にもあるし、それをやる事には何の問題もないだろう。


 次に思いつくとしたら、観光……というか、まあ、『尾原太吉』の記憶でもはっきりとしない部分だが……そういう、『さーびす業』とかいうのが、色々とあるらしい……が。


 ――よく分からない。それに、尽きた。



 『尾原太吉』の記憶に有るソレを再現するだけなら簡単だが、それなら別に私がやらなくてもいい。というか、本物が既にある。私がソレをやりたいのであれば話は別だが、特にやりたいわけでもない。


 いくら私でも、それはさすがに無意味であり行為そのものが虚無だろうと即座に判断し、却下する。少なくとも、現時点では早すぎる。



(……では、私は何を売ればいいのだ?)



 と、なれば、私がやれそうなのは商売の基本でもある物品の売買だが……ここで、新たな難問が一つ。


 それは、何を売れば良いのかが分からないということだった。


 昨日(というより、数時間前)、地球へ降り立った時にこっそり、エドガーより『商売』の話をされた時にもう一度、ある程度の情報を地球上のネットワークから仕入れておいた。


 商売上してはならない事は、既に把握している。


 各国によって何が駄目で何がイケるのかはバラバラなので個別の対応が必要だが、ほとんどの国で規制されているのは……麻薬と、武器と、酒だ。


 つまり、この三つ以外であれば、周囲に危険が及ぶモノでない限りは、だいたい禁止事項に引っかからないのでやれる。


 そして、だいたいの国でも高値で取引されるだけでなく、禁止されていない商品……と、なれば。



「……金塊(インゴット)か?」



 ――これだ、と思った。


 スキャンした限り(『尾原太吉』の記憶にも有った)、人間たちの生活を支えている様々な機器にはたいてい、金(ゴールド)が使用されている。


 考えられる理由としては、金の特性である伝導率の低さを制御盤の回路(いわゆる、『接点』)などに利用しているからだろう。『尾原太吉』の記憶には無いが、私自身の推測としては可能性が高いように思われる。


 鉄に比べて柔らかく、薄く延ばしたり広げたりといった展性や延性に優れ、低温で溶けるだけでなく、他の金属と混ぜて合金を作ることも容易。そのうえ、他の金属と異なりほとんど酸化しない。


 もちろん、金以上に優れた金属は地球にも存在している。しかし、どうやら得られる利益と掛かる費用の関係上(あるいは、総合的な判断で)、金を超える物質は無く……現時点で、代わりになる物質は無いようだ。



(無抵抗のアルミニウム……今の人類で扱い切れるのか? 下手に扱うと万単位の死者が出てしまうが……)



 しばし、色々と考えてみる。だが、考えれば考える程、人類相手に売り出すのに、これ以上の商品は無いように思えてくる。


 質量に比べて単価が高く、『物質転換装置(オメガチェンジ)』による生成の割合も良い。下手に加工なり何なりしなくてもいいから、手間も掛からない。



 ……。


 ……。


 …………よし、決めた、『金』を売ろう。



 そう判断した私は早速、『物質転換装置(オメガチェンジ)』を起動させ――傍にて転がっていた岩石を、『金』に転換する。


 私の腰の位置まである岩石に置いた掌から徐々に、『金』へと変えられてゆく。それを、二つ、三つ、四つ……近場の岩石を引き寄せ、その度に『金』へと変えてゆく。


 『物質転換装置(オメガチェンジ)』に、変えられない物質は存在しない(ただし、『連盟種族』などは除く)。地球上では貴重な『金』も、今の私にとってはそれこそ惑星一つ分を用意することだって可能である。



(……あまり大地を削ってしまうと、また調整が必要になる)



 とはいえ、欠点と呼んでいいのか判断に迷うところだが、さすがの『物質転換装置(オメガチェンジ)』だとしても、無から有を生み出すわけではない。


 どんな物質にも変えることは出来るが、素材(何でも良い)があってこそ。加えて、変化させた後の物質によっては、必要となる素材の量も激変する。


 いわゆる、相性というやつなのだろう。


 まあ、あまり考えたところで……チラリ、と。辺りに散らばったままの『金塊』を見やった私は一旦、手を止める。視線を空へ……その先に広がっている宇宙へ向ける。



(――おお、丁度良い)



 運が良い、というやつなのだろう。


 タイミング良く近くを飛んでいた隕石を引き寄せ、それも『金』に変える。さすがに他の『金』よりも大きく周囲の植物を破損させてしまうので、障害物の無い開けた場所へと安置しておく。



 ……何というか、やたら目立つなと思った。



 何せ、高さが約10メートルの縦と横が約20メートルの金塊だ。遠くより様子を伺っていた動物たちが、金塊のあまりの場違いさに恐れ戦き、慌てて離れて行くのを私は探知していた。



 ……さて、と。他には……残念ながら、近くには無いようだ。



 スキャン範囲を広めて確認する事は出来るが、とりあえず最初はこれぐらいで良いだろうという判断の下、作業を終了する。



(大気から……止めよう。濃度のバランスが壊れて、せっかく育てた生物が死んでしまう)



 量にして……地球の基準に換算すれば、合計約50万トン分の金塊。


 これがどれ程の値段になるかは情報が不足しているし相場というものがよく分からないので不明だが、最初の取引としては……悪くないのではなかろうか。



「次は……この見た目だな」



 チラリと、視線が己の身体を向く。私にとっては気に留める部分など何一つ無いが……『商売』という観点を教えてくれた、聡明なエドガーですら恐怖心を抱いたぐらいだ。


 やはり、見た目だけでも極力人間に似せた方が無難というやつなのだろう。マニュアルにも、似たような事が書いてあるし……よし。





 ――続いて、私は生体プラントへと向かった。









 ……。


 ……。


 …………マニュアルを元に私が用意した『生体プラント』の見た目は、人間たちの感性と言葉で当てはめるのであれば、『工場』の一言である。



 もちろん、全てが同じというわけではない。違う点だって、探せば幾らでも見つかる。



 その中でもまず目に留まるのは、稼働しているのは全てロボットや機械であるので、内部に照明の類が一つとして取り付けられていないということだろう。


 明かりなど無くても視認が可能な私に、光源を確保する意味も必要もない。また、ここに設置してある様々な設備も同様……だから、そういった装置を取り付ける必要がないのだ。


 で、そのプラントの内装だが……簡潔に述べるのであれば、『培養カプセルが等間隔で設置されている』といった感じだろうか。


 大小様々な大きさの、形も異なる各カプセルには、これまた様々な生き物が収められ、定められた手順に従って生育が行われている。


 大気濃度や環境を地球に似せているので、生まれる個体も地球のソレに似ている。いや、もちろん、中には違う個体も多くいるが、いずれは少しばかり違うだけの、似た個体ばかりになるだろう。



 ……ちなみに、最初の……生体プラント稼働の際に使用された『種』は、『物質転換装置(オメガチェンジ)』にて作られた代物である。



 この『種』とは、文字通り、命の種だ。



 宇宙に生きるあらゆる生き物(例外はある)の元であり、設定を入力すれば如何様な生き物が製造出来る優れものだ。


 正直、そんなものすらこんなにあっさり作れるのかと、『連盟種族』の凄まじさにドン引きしたが……まあ、今更といえば今更な話なので、この話は終わろう。


 この『種』には、正式な名前は無い。マニュアルにも『種』と有るだけで、呼び名はそれぞれが勝手に付けているらしく、好きなように呼べばいいと記されていた。



 だから、私はマニュアル通りに、『種』と呼んでいる……で、話を戻そう。



 言うなれば、この星の現在は、進化の途上。本来であれば数百年、数千年の時を経て起こる進化と退化が、ここで行われている。


 定期的に捉えた個体(無差別)を解剖し、DNAの虚弱を見つけては改良して修復したDNAを元に培養し、それを野に放つ……というサイクルを繰り返している。


 要は、弱肉強食と呼ばれる淘汰を意図的に繰り返し、DNAの補強を促しているようなものだ。


 故に、ここは……全て、この星にて解き放っている生き物の母体……言うなればここ(生体プラント)は、この星の唯一にして原初の母親である。



(……また、来ているな)



 私の視線が、建物の外……を通り越し、距離にして700メートル程離れたところで、こちらを見つめている獣たちの姿を捉える。


 獣たちの姿形に共通点は無いが、皆、このプラントで生まれた生物だ。いや、正確には、このプラントで生まれた個体より生まれた、肉の胎を介して生まれた個体だ。


 だから、なのか……は、さっぱり不明だが、この星の生き物たちは、この『生体プラント』にだけは侵入や破壊といった行動を起こさない。時折見つめては来るが、一度としてそれらをしていない。


 と、同時に、獣たちはみな、私に対しても攻撃を仕掛けて来ない。近づいても威嚇するようなことはせず、甘えてくるといった行動もせず、まるで空気のような扱いをしてくる。



 ……いったい、獣たちの間で私という存在はどのような位置づけになっているのだろうか?



 以前より興味はあるが……まあ、今はいい。それよりも、今は私の身体……地球にて商売をする為の、専用の身体を用意しなければならない。


 思考を切り替えた私は、プラント内部を進み……制御ユニットのコンソールへと後頭部からの端子を差し込み、操作する。


 最初はマニュアルに記載されている通りの『種』しか作れなかったが、さすがにもう慣れた。今では、マニュアル外の『種』もある程度は作れるようにはなっていた。



(……あれ? ちょっと待て? 手応えが……)



 が、しかし。



(おかしい、手足の数が……心臓が7つになったぞ。違う、そうでは……大脳が10個を超えてしまった……)



 ここに来て、私は直面した。



(……もしかして、人間を作るの、とても難しいのでは?)



 ――『人間』の『種』を作り出す、その難しさに。



 コンソールに(正確には、私の頭脳ユニット内に表示されている)映し出されている成長予測図には、私の目から見ても人間とは思えない姿が表示されている。


 有り体にいえば、化け物だ。間違っても、人間ではない。


 いくら何でも、心臓が9つに目玉が20個、大脳が8つに消化器官が三つに不揃いの手足が計31本の……それを『人間』と呼ぶのは、さすがの私でも出来そうに……あっ。



(……そういえば、あのタコたちも上手く作れなかったではないか)



 うっかり、していた。そういえば、そうだった。その事を思い出した私は、今頃になって……己の甘い考えを理解した。



 ――あの『連盟種族』ですら、脆すぎるうえに弱すぎるから作るの無理って面倒臭がった生き物……それが、人間なのだ。



 何もかもが規格外のタコ共が。ブラックホールの中に別荘を作り、『今日の重力は刺激的だね』と呟くあのタコ共ですら……そうだったのだ。


 そう、出来ない事は無いのではと本気で思ってしまうぐらいのでたらめな奴らですら、そうだったものを……私が作る?



 ――不可能だ。直後に、私は答えを出した。



 しかし、今のままでは……この姿のままでは、私への警戒心を永遠に解く事は出来ない。少なくとも、見た目だけは……そう、見た目だけでも、人間たちに似せたモノでなくてはならない。



(……とりあえず、見た目だけを似せた個体を作ろう)



 まずは、作ってから考えよう。


 そう判断した私は、火星に戻る際にこっそりと抜き取っていた、地球上のネットワークにて保管されている生体データ(約2億人分のサンプル)を元に、対人間用のインターフェイスの製造を始めた。



(……よし、見た目は人間に近づいた……が、駄目だな。臓器が貧弱すぎて、培養液を出てから十分後に死亡してしまう)



 しかし、それは……困難な道のりであった。



(いっそのこと、手足を一本ずつ増えるまでは許容範囲……いや、駄目だな大した違いが出ない。わざわざ増やす利点が無い以上、手足は二本ずつが基本だな……)



 正しく、トライ&エラー。頭脳ユニット内に表示された進化予測図を確認しては、サンプルデータの一つとして回収し、次へと流用……時には一からやり直す。



(細胞分裂の回数を早くする代わりに、生命力を底上げすれば……いや、駄目だ。新陳代謝が活発化し過ぎている。これでは、常時食物を摂取していないと餓死してしまう……が、方向性は……)



 実際に作ろうとして、分かる。あのタコ面倒くさがらずにやれよと思っていたが……初めて、あのタコの気持ちが分かった気がする。



(心臓は二つ……そうだな、この際、二つあった所で外部より視認出来なければ、それで良いだろう。大脳は……頭蓋骨の大きさを維持したまま……幾つかの感覚を排除し、余ったリソースを他の制御へ……)



 はっきり言おう、人間……脆すぎ。


 正直、自然発生的に生まれた存在をナメていた。絶妙……ある意味、奇跡的な進化と調整を経て、今の姿形になっていることを……私は、これでもかと理解させられた。


 何と言えばいいのか……笑い話に出来ないぐらいに脆すぎるし柔らかすぎるし壊れやすいし、盛大な徒労に力を注いでいるのではと思うぐらいに、失敗が積み重なった。




 ……。


 ……。


 …………そうしてプラントを訪れてから、早130日……ようやく、その日。



 私は――人間たちの中で活動する事が出来るインターフェイスを完成させた。



 その『個体』は、お世辞にも『人間』というカテゴリーに入れて良い存在ではないだろう。見た目はサンプルを活用して警戒心を抱きにくいようにはしているが、その中身は明らかに違う。


 まず、このインターフェイスの見た目は人間に似せてはいるが、細胞組織そのものが人間のソレではない。遺伝子そのものが根本的に別物であり、そういう観点でみれば、人間ですらない。


 見た目は人間の基準で15,6歳の女にはなっているが、身体能力は完全に別物だ。少なくとも、このインターフェイスの体当たりを受けて生存が可能な生物は、地上にはいないだろう。


 なので、下手に動かすと周囲に危険が及ぶ。それを防ぐ意味合いも兼ねて、インターフェイスは特殊な溶液で満たしたカプセル内にて保存する事にした。


 もちろん……理由は他にもある。その中でも一番の理由は、劣化の防止だ。


 何せ、このインターフェイスは寿命が短い。故に、普段は封印されており、大脳内部は完全に空白の状態が保たれ、脳波や臓器はおろか細胞組織の全てが停止している。


 このインターフェイスを動かすには、私の頭脳ユニットとの回線を繋ぐ必要がある。繋いだ瞬間、自動的に稼働し、活動限界を迎えるか、私から回線を切断しない限りは……大丈夫である。



 ……ただし、動ける範囲はカプセル内部に限定される。



 カプセル内部に居る限りは、最長300日ぐらいは使い回しが可能だ。言い換えれば、カプセルの外に出ればその限りではなく……どう持ち堪えたとしても、3時間が限界だろう。



(……よし、インターフェイスの準備は終わった)



 とはいえ、出来ただけでも十分。想定していた以上に時間が掛かったが、仕方あるまい。


 そう結論を出した私は一旦、プラントの外に出る。


 視界一杯に広がる白い結晶……『機械太陽』と星の自転が作り出した季節……今が、地球における冬の時期であることを私に見せてくれる。


 パッとスキャンをしてみれば、インターフェイス開発作業を始める前に比べて、生存はしていても、明らかに活動している生物の数が少ない。


 どうやら……今回も前回と同じく、獣たちは冬眠のプロセスを行っているようだ。

 前回の時は全体の10%ぐらいが冬眠のプロセスが発動せず、冬眠出来ないまま死亡したが……今回は2%ぐらい……少しばかり、安心した。



「……よし」



 しばし、外の景色を眺めていた私は……さて、と思考を切り替えると。



「……作るか、『空間結合(ワープ装置)』を」



 自力での大気圏脱出が叶わないインターフェイスを地球へ運ぶ為の装置を開発する為に、私は頭脳ユニット内にてマニュアルを広げ……設計図を構築し始めるのであった。




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