気分屋の入道雲

奥久慈 しゃも

気分屋の入道雲

 僕には人の頭の上に、雲が浮かんで見えている。


 それは、小さい雲もあれば、傘よりも大きい雲の時だってある。


 いつからだろう、僕は浮かんだ雲が、その人の気持ちを表していると分かるまでに、時間はそんなに掛からなかった。


 泣いている時には雨が降るし、怒っている時は真っ黒な雲がバチバチと音を立てている。


 雲の様子を見れば、その人がどんな気持ちなのか大体は見当が付くのだから、僕はこの能力を結構気に入っている。


 僕は今、小学校の教室でこの前受けたテストが配られている最中だ。


 テストを受け取りに行ったクラスメイトの頭の上を、僕は自分の点数をそっちのけでじっと見ていた。


「なあ、佐藤。お前はどうだったんだよ」


「別に、いつも通りだよ」


 クラスで一番頭が悪い武田君に返事をしたのは、クラスで一番に頭の良い佐藤君。


 佐藤君が冷静に振る舞って他の人は誤魔化せても、僕の目は誤魔化せない。彼の頭の上の雲はどんどん大きくなって、色も少し灰色だ。


(さては、あんまり良くなかったんだな)


 とは言っても、佐藤君にとっての悪い点数なんて、僕だったらきっと褒められているに違いない。僕はなんだか腹が立ってきたので、そっぽを向いて窓の外を見た。


 こんな感じで退屈な授業の暇つぶしにも、僕の能力が大変役に立っている。


 それから学校が終わって、僕は友達の家でゲームをして遊んでいた。


「また負けた!」


 悔しがるのは僕の友達の足立君。


 足立君は基本的に良い人だけど負けず嫌いがタマニキズ。


 こうしている今も、雲は大きくなっている。


「やったぁ。また僕の勝ちだ」


 だからこうやって、僕はわざと負けてあげているのだ。


 本当に僕の能力は人付き合いにも役に立つ。


 そして、家に帰った僕は「ただいま」と言ってドアを開けると、お母さんから「お帰り」と返事が返ってきた。


 僕がリビングに行くと、頭の上で今日一番に大きくて真っ黒の雲を浮かべたお母さんが椅子に座っていた。


 何とかしてここから逃げなくてはいけないと、僕は急いで言い訳を考えた。


「ええと、宿題やらなくちゃ……」


 僕にしては上出来な言い訳だ。けれども、お母さんは逃がしてはくれなかった。


「待ちなさい。これ、貴方がリビングに置きっぱなしにしたランドセルから出てきたの……」


 僕はお母さんに言われてテーブルを見てみれば、そこには、今日の授業で返されたテストが置いてあった。


「ちょっと来なさい」


「はい……」


 僕の能力はそこまでバンノウではないようだ。

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