真相

 警察の捜査の結果────事件数日前、成島ひかりがネット通販を利用して、青酸カリを入手していたことが判明した。

 通販サイトの購入履歴を刑事が突きつけると、成島は、あっさり自分の犯行であると白状した。


 星宮麗華が救急車を呼びに、早川タツ子がタオルを取りに地下室を離れた瞬間────成島ひかりは、懐に忍ばせた青酸カリを、舞鶴聖天の口に含ませたのだ。


「あたし··········あたしは、聖天さんを解放してあげたかったんです」

 両手で頭を抱え込み、大きな瞳に大粒の涙を浮かべ、成島は目の前の刑事を睨みつけた。

「聖天さんは、死にたがっていた。だから、あたしが叶えてあげたんです。舞台や稽古場では麗華さんの目が光っていたし、それ以外の場所では奥様が付きっきりだった。だから、今しかないと思ったんです」

 取調室の机を両手で叩き、刑事たちを真っ直ぐに見据える。その迫力は、とても脇役ばかりの新人女優には見えなかったという。

「あたしでなければできなかった! 奥様でも麗華さんでもない! あたしが! あたししか、聖天さんを救えなかった!」


 成島ひかりの言葉を二人に伝えると、早川タツ子は大きく目を見張り、星宮麗華は膝を叩いて笑ったのだという。


「まあ、あの子が」

「虫も殺したことのないような顔して、意外とやるのねえ、あの娘」

「わたくし、てっきり星宮さんが犯人だと思ってましたのよ」

「わたくし、ついにタツ子さんが天誅を下したのだと思ってたわ」


 何故自分が犯人だと主張したのかを尋ねられると、二人は揃って首を傾げた。


「何故って…………ねえ」

「そんなの決まってるじゃない」

「悲劇には華が必要ですもの。舞鶴聖天、最後の悲劇ですわ。その華になりたいと望むのは、そんなにおかしなことかしら」

「彼の作品の主演女優は、ずっとわたくしだったのよ。そりゃあ気合いを入れるでしょ」

「でも、駄目ね。嫉妬に狂った妻の凶行なんて、ありきたり過ぎたかしら」

「悪女に溺れる男って可愛いじゃない。ああでも、今回はあの娘に一本取られたわね」

「ああ、でも、惜しいわ」

「負けは認めるわ。でも、ちょっとだけもったいないところがあるわね」


 二人の女優の声が、綺麗に揃った。


「どうせなら、恋茄子マンドラゴラを使えば良かったのに」

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恋茄子殺人事件 三谷一葉 @iciyo

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