第4話ソウルの夜景

「みんな知ってるよ」

ボクは玲華に言った。玲華はワザとおどけて、もうウンザリ、という表情をした。

「博茂は行方不明、私が朝鮮系だって知ってどっか消えたわ」

玲華がボクの隣の席にすわる。


「この前お婆ちゃんが亡くなったの。そのときパパに大切な話があるって言われて。そしたらパパが、玲華には韓国人の血が流れてるんだよって。私、24で初めて自分のルーツ知ったわけ。

私、ずっと日本人として育ったのよ。だからパパから生い立ちについて告げられたとき、ビックリしたの。急だったから戸惑ったわ。でもね、最近韓国もいいかなって思うんだ」


ボクは知ってるよ。玲華が韓国の芸術祭のオーディションに参加してること。それがきっかけで玲華のルーツが博茂にバレたってこと。


結局、博茂と玲華の問題は解決していないのだった。玲華に朝鮮人の血が流れていることは、変わらない事実だし、これからも博茂は人種差別を続けるだろう。そうして二人は恋人同士だ。


ボクも、人生にのぼせたような状況がしばらく続くだろう。


すべての終わりは新たな始まりでもある。もの事はすべて途中経過だ。ボクは果敢に生きる玲華を見習わなきゃならない。


「人生ままならんけど、せめて楽しもうぜ」と海斗が笑う。

「チア〜ズ、俺らの人生に乾杯」

海斗のコールでみんなが一斉にグラスをかざした。そう、いつもこうして生きてきたじゃないか。クソ真面目を笑い、たとえトラブってもへっちゃらな顔して、世の中を渡り歩いてきたんだ。これで浮かばれなければ、諦めるしかない。


ボクは酒の入ったグラスを口にしながら、成美の顔色をうかがった。成美はボクと視線が合ってニンマリと微笑んだ。


そろそろ北海道は雪が降る。


数日後、自室のベッド内にいたボクのスマホに通知が届いた。スマホで Twitter をチェックしてたときだ。「博茂がライヴ配信を始めました」と。博茂がインスタライヴを始めたらしい。あいつ、どこで何やってんだ?

ボクはスマホでインスタグラムをチェックした。博茂のアイコンをタップすると、彼が薄暗い中ボソボソとしゃべっている。


「……こんばんは、博茂です。見える? ここは韓国のソウルだ。今……夜の8時半くらい。俺は今、韓国ソウルの高級レストランで夜景を見ながら食事をしている。俺は混乱している。さっき大きなホールで韓国人の管弦楽団の惑星を聴いた。ホルストの惑星だよ。素晴らしかった。忌み嫌っている韓国人たちが演奏する管弦楽が飛びきり素晴らしかった。俺はどうすればいいのだろう……混乱している。リアルで目の前の巨大な木星に圧倒されるようだった。本当に、宇宙船に乗って巨大な木星の衛星軌道上をまわっているかのような気分になった。そんな韓国人たちの演奏だった。実に誇り高く堂々とした演奏。感動しているが、混乱もしている。蔑視していた韓国人が……なんということだろう。これからどうしよう。

……ソウルの夜景、写ってる? 美しいな……とても美しい」


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愛しのコリアンガール Jack-indoorwolf @jun-diabolo-13

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