孤独の瓶ビール

影迷彩

孤独の瓶ビール

カレンダーは12月24日。電球で明るくした部屋で、俺は冷蔵庫をゆっくり開けた。

ひんやりした空気が中から漏れ、食べ物の匂いと共に俺の顔に吹かれる。

俺は躊躇いと共に、冷蔵庫の中に手を伸ばす。

手にとってはいけない、それを開けてはならない。

そう惑いながら、手にした瓶ビールを、私はリビングのちゃぶ台にドンと置いた。

ふぅっと一息つき、私は天井を見上げる。狭い部屋、そこには俺一人しかおらず、一人瓶ビールを飲み干す結果となる。

俺はぼんやりと天井を眺めた。俺一人で飲むには多すぎる量。クリスマスぐらい、他に誰か一緒に飲む奴はいないかと思い始める。


俺は会社勤めのサラリーマン。口下手で不器用、他に話し相手はおらず、こちらからも人の輪には入りづらかった。

ふと、一人だけ顔を思い出せるほど仲のいい誰かを思い出しそうになった。

その頃になると、瓶ビールの蓋を空け、無意識に俺はがぶがぶとイッキ飲みを始めている。

腹がゴロゴロ鳴り出し、腹がよじれるほどアルコールに痙攣し始めても、俺は飲むのを止めない。頭が混濁し、ただただ瓶ビールを腹に満たす作業を続ける。

突然、腸の内側から爆発するように、俺の意識はそこで途切れた。

身体が爆発したような感覚だけが思い出せる。飲み干しすぎたアルコールにより、俺の身体は爆弾となってアルコールを撒き散らし四散した。


俺は目覚める。布団からはみ出た身体を起こし、スマホの画面に目をやる。

時刻は7:00。日付は12月24日。

またか、と俺は頭を抱えた。

俺は12月24日の晩、必ず瓶ビールを飲み干して身体を爆発させ、その日の朝に目覚めるというループに陥っている。


この朝を何度繰り返したことか。気が滅入りそうになり、会社の玄関をくぐると俺は倒れそうになる。


「大丈夫ですか?」


倒れそうになる俺の肩を、同僚である彼が横から支えてくれた。

俺はそこで、彼の顔を思い出す。人付き合いの下手な俺にも、助けや誘いをかけてくれる人だ。

「あ、あぁ大丈夫だから……もういいよ」

俺はつい彼の手を払い除けてしまう。彼を置いて、俺はオフィスにつく。


クリスマスだというのに激務なこの日を、俺は何度も繰り返す。

そして疲れて帰っては、無性に瓶ビールが飲みたくなる。腹が爆発するのが分かっていても、飲まずにはいられなくなる。

俺のクリスマスはこんな感じだ、誰とも付き合えない、我が身に不釣り合いな酒を飲んでは爆発する。

俺には、こんなクリスマスしかないのか。


そう思いながら何度目かのループの朝、倒れそうになるなる俺をまた彼が支えてくれた。

「大丈夫ですか?」


「あ、あぁ、俺は大丈夫だ……」


その手を払い除けそうになるのを慌てて止め、彼の顔を見た。逞しい、俺と違って明るいタイプの表情だ。


「なぁ、俺ん家に上等な瓶ビールがあるんだが……良ければちょっと、一緒に飲まないか?」


そう言って俺は俯いてしまう。何を言っているんだ、急に俺は!


「いいぜ、今日は予定空いてるからな!」


彼の明るい表情が俺に向けられる。俺の色褪せたループの1日に、何か変化が訪れようとしていた──

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