ラグランジュポイントvs恋バナ
澄岡京樹
どきどき! 恋の五角関係!?
ラグランジュポイントvs恋バナ
西暦2220年。人類は地球圏外への開拓を進めることに成功。これにより、スペースコロニーやテラフォーミングなどの新たな生活圏拡大政策が推し進められることとなった。
それから数十年、地球・火星間に存在するラグランジュポイントの一つ〈ミルキーウェイオアシス〉では新たなコロニー建造が始まっていた。その護衛任務に就いたのが、汎用巨大人型兵器
量産型AG〈ヌルポガ〉4機と新鋭モデルのAG〈フォカヌポゥ〉で構成されたその部隊は、無事〈ミルキーウェイオアシス〉に到着した。あとはそれぞれの持ち場で待機するだけなのだが——
『ところで隊長。俺浅学なんでラグランジュポイントって何なのかよくわかんねーんですけど』
ヌルポガ・パイロットの一人、シゲミツがフォカヌポゥ・パイロットのルーク隊長に質問を投げた。無線通信である。しかしその通信に割って入る者がいた。同じくヌルポガ乗りのジョウである。
『おいシゲミツ! 今話すことかそれ!』
ジョウは誰よりも真面目だが融通が効かない面もある。シゲミツとしては知識を増やすことと場の空気を和ませることを考えてのことであったが、中々そうもいかない。皆既に慣れたことではあった。
『ジョウ、落ち着け。少し話をしよう』
『……隊長がそうおっしゃるなら』
『うむ。では簡単に説明をしよう』
そう言いながらも、ルークとてそこまで詳しいわけではなかった。AG乗りになって十年以上経つが、正直ラグランジュポイントについてそこまで熱心に考えたことがなかったのだ。それゆえに、なんかそれらしきことをフワッと伝える他なかった。よって——
『なんかその、アレだ。恒星や惑星それぞれの重力圏に挟まって、その、なんかいい感じに安定したエリアのことなんだ』
などと物凄くフワフワとした説明となってしまった。無重力空間での会話ゆえフワフワしてしまったなワハハ的なジョークを言うことができれば良かったのだが、ルークは普段から
『とにかく……そんな感じだ。感じなんだ……』
ルークは今すぐ家に帰りたかったがそういうわけにもいかないので頑張って乗り切ることにした。ルークはリーダーなので堪えられると思うタイプであるため心の中でずっと(頑張れ! 頑張れルーク! 俺は頑張れるやつだ耐えろ、堪えろルーク頑張れルーク!)と叫び続けていた。
その時であった。今まで沈黙を貫いていた三人目のヌルポガ乗りであるアーロンが通信に参加した。
『以前何かの本で読んだことがあります。……ラグランジュポイントはラブコメにも喩えられる——と』
アーロンは天然だった。天然だったのでラグランジュポイントについて自身が知っていることをマイペースに話し始めたのだ。
『例えばこうです。この宙域は地球と火星の重力圏に挟まっています。これはつまり地球と火星のカップリングということになります』
『『『なるほど?』』』
三人は正直アーロンが何を言っているのかよく分からなかったが、話し始めたアーロンは止まらないのでしばらく耳を傾ける他なかった。
『ですがこれが仮に……地球・月・火星の三天体の間でラグランジュポイントが構成された場合どうなるでしょう——そう、三角関係です。コズミックラブコメにおけるトライアングルなのです。まずいですね。誰と誰が誰を取り合っているのかは分かりませんが、話がややこしくなってきました』
『いや、ややこしいのはお前だけだぞアーロン』
ジョウが口を挟むがやはり無駄。アーロンの与太話アクセルは止まる事なく進み、このままトリプルアクセル、いや四回転目に到達しかねない。というかした。
『しかしそうなっては火星の衛星フォボスとダイモスが黙っていません。これはもう五角関係、しかし実力は互角ではありません。なぜなら衛星と惑星では大きさの規模が違います。ですが落ち着いてください』
『いやアーロン落ち着くのはお前だよ』
ジョウが落ち着けと促す側に回る羽目になっていた。アーロンのヒートアップは止まらない。
『なぜならラグランジュポイントは安定する場所。つまりそこがラグランジュポイント足り得るということは五角関係の重力圏の影響はうまく均衡が保たれているということです。そうですこの場合の五角関係は互角関係なのです』
『隊長命令だ。ジョウとシゲミツ、頼むからアーロンを黙らせてくれ……』
『すみません俺が余計なこと言ったばっかりに』
『もういい、もうわかったアーロン! 頼むから黙ってくれ!』
三人の悲痛な叫びが宙域に木霊す。宇宙では音が響かないらしいがとにかく木霊した。そんな気がした。
人類が宇宙に生活圏を広げて四半世紀が過ぎた今、それでも天然キャラは変わらず最強の感性とテンポで君臨していたのだった。
ラグランジュポイントvs恋バナ、了。
ラグランジュポイントvs恋バナ 澄岡京樹 @TapiokanotC
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