白夜行の藤原埼玉
焼べるは怨嗟
振り下ろすのは正義の鉄槌
錬成するは英雄の墓標
戦場に散った者共よ
今この時は
私に力を寄越せ
荒野に幾千もの銃火器が顕現し地面へと刺さる。神崎ひなたの固有結界『名も無き英雄達の墓標』が展開したのだ。
「すごーい!さすが、ひなたん。」
藤原埼玉は呑気にはしゃぐ。場違いなその態度も致し方無い。それだけの実力差が両者にはあった。藤原埼玉がその気になれば今直ぐにでも鬼殺しの空き瓶を粉砕出来る。神崎ひなたにしても同様である。
「藤原埼玉!!今すぐその口を黙らせてやる!」
神崎ひなたは錬成した武器を藤原埼玉に向けた。
「デグチャレフPTRD1941、サンダーボルトⅡ、AK47カラシニコフ、ブローニングM1917。フルバースト!!!!!!」
銃弾の洪水が藤原埼玉に襲いかかる。しかし、届くことはなかった。銃弾は藤原埼玉の目前で動きを止め、ぽたぽたと地面に落ちる。
「まだだ!藤原ッ!!埼玉ァァァァーーー!!!QF 3インチ 20cwt高射砲。ファイヤーーー!!!!」
12.5ポンド弾頭が藤原埼玉に向けて放たれた。しかし、これも届かない。力尽きた弾頭は、ゴトン、と大きな音をたてて転がった。
「ひなたん。ひなたん。ひなたん。ひなたん。ひなたん。どうしたの?調子悪いの?こんなものじゃ無いんでしょ。まだまだ小手調べだよね。それじゃこっちから行くよー。」
藤原埼玉は魔術を行使する。まず変化が起きたのは地面に散らばった銃弾だ。パキン、と音を上げて割れ始めた。次は空気が光だした。ダイヤモンドダスト現象が表れた。凍てつく空気が世界を崩壊させていく。あの日と同じように。
藤原埼玉の魔術は物体の動きを止める、ただそれだけである。魔導学園で転がるボールを止め続けた日々。 その修練は前人未到の領域にまで藤原埼玉を押し上げていた。
あの日、藤原埼玉が転がしていたボールが凍り破裂した。新たな魔術に目覚めたのだと藤原埼玉は思った。この感覚を忘れないために、藤原埼玉は中庭に出て魔術を行使した。
青々と生い茂っていた草木が凍り散り始める。一時おいて、空気が光りだす。凍てつく空気が学園中を覆いだした。
最初の犠牲者は中庭にいた生徒である。瑞々しい若人の肉体は結晶へと姿を変え砕け散る。死を運ぶその風は学園中の教師や生徒を凍りの結晶へと変えてしまった。2人の例外を除いて。術士である藤原埼玉と固有結界で難を逃れた神崎ひなたである。
藤原埼玉はこの場から逃げ出した。まさか、このような結果になるとは思いもしなかったのだろう。後悔の念、理不尽な現実、他の誰かの責にも出来ないこの結果の重圧に、藤原埼玉の精神もまた砕け散った。
学園は風で舞う氷の結晶によって、きらきらと輝き続けた。
夜の闇すら白く染め上げる。全てが鎮まり返った美しい光の世界で、彼女はたった1人で歩み続ける。再生の闇が彼女に訪れる事はない。
人呼んで白夜行。それが藤原埼玉の二つ名である。
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