第266話  別行動とギルドへ





 1度見た光景の場所ならば何処へでも転移することができる魔法、『瞬間転移』により、地上にやって来ていてオリヴィアの友神のラファンダ、リーニス、レツェル、ヘイススは神界へ送り届けられた。


 その後、最高神プロメスの権能により彼女達の住居に転送され、リュウデリアもまた『瞬間転移』により龍神信仰の教会へと戻ってくる。




「プロメスのところに行って元の場所に送り届けてきたぞ」


「そうか、ありがとう。お疲れさま」


「うむ。それにしてもバルガス、クレア。お前達もヘイススに魔法を施したな」


「オレ達と繋がってるから狙われるかも知れねェだろ?だからちょっとな」


「“も”……という……ことは……リュウデリアも……何か……やったのか」


「迎撃用のお守りを渡しておいた。レツェル達にも渡してある。問題はないだろう」


「それなら安心だな」




『殲滅龍』に『破壊龍』、そして『轟嵐龍』が施した魔法だ。普通の神では突破することができない。最高神のプロメスならばいくらかやりようがあるかも知れないが、それをするいうことは必然的にリュウデリア達と敵対するということに他ならず、そんな事をする愚かさは持ち合わせていないことを知っているため、彼等はプロメスが手を出すとは考えていない。


 敵対した時の甚大な被害のことを考えて友好的に接している。でなければアポも無しに突然やって来たかと思えば、ある者達を探し出して連れて来いなどという願いは聞き入れないだろう。


 まあ尤も、プロメスは神界を滅ぼす筈だった獣を殺してくれたリュウデリアに感謝しているので友好的なのであるが。加えれば、自身が最高神になる前に最高神をしていた前最高神のあまりの所業に、よく消してくれたと思っている部分があるので彼等に嫌悪感はない。




「さて、今日はどうするか」


「あー、ちょっといいか?」


「なんだ、クレア」




 吐き散らすために早起きしてしまったのでまだ時間がある。朝とも言える時間帯なので今日はこれから何をするか方針を決めようとして話題を出したリュウデリアに、クレアは弱々しく手を上げて口を開いた。


 どこか行きたいところでもあるのかと思ったら、彼は少しの間単独で動くという。その理由は、単純に昨日飲んだ酒がまだ胃に残っていて腹がゴロゴロして気持ち悪いのだそうだ。なので気分が良くなるまで、元の大きさに戻って適当に飛んでいたいという。


 元の体の大きさから使い魔サイズになると、常に窮屈な感じがするそう。酔って気持ちが悪いのに窮屈さを感じていたら何時まで経っても気持ち悪いままだろう。だからのびのびと飛んで気分を解放したいということらしい。


 この意見にはバルガスも同意し、それを否定する意見など出なかったので2匹は一旦ここで離れることになった。気分が良くなったらこのトールストに戻ってくるらしいので、その時に合流しようということになった。




「いやァ、悪ぃな。何かあればリュウデリアに言ってくれ。魔法で報せるだろうからよ」


「有事の……際は……呼んでくれ。使い物に……なるか……判らないが」


「気にしなくていいぞ2匹とも。しっかり休んで体調を戻してくれ。口直しに『龍の実』でも食べていくか?」


「……っ!貰う貰う!やったぜッ、ありがとなオリヴィア!」


「ありがとう……是非……貰おう」


「ふふ。構わないとも。じゃあ、またな」


「おう!」


「では……また」




 異空間から取り出された龍が好んで食べるという『龍の実』を渡すと、嬉しそうに尻尾を振って受け取り、しゃくしゃくと齧りながら龍神信仰の教会から出て行ったバルガスとクレア。認識を阻害する魔法を掛けてから外に出て、飛翔して少しすると体の大きさを元に戻した。


 大空を飛ぶ蒼い龍と赫い龍は少しの間一緒に飛んでいたが、やがて2匹は別々の空に向かって飛んで行った。気分が良くなったら戻ってくるので、それまでの散歩だと思い快く送り出した。


 バルガスとクレアに『龍の実』を渡しながら、自分も口直しに齧っているリュウデリア。オリヴィアは同じように気分転換はしてこなくて良いのか?と聞いたが、多少の無理をしてでもオリヴィアの傍に居たいと言った。




「……っ!そ、それはズルいじゃないか……」


「はは。……だが肉弾戦は今は無理だ。恐らく動いている内に吐く。少しの間は魔法だけの戦いになるな」


「大丈夫だろう。リュウデリアの魔法ならば、大抵の存在は消し飛ぶ」


「突然アンノウンみたいなのが来たら危ないがな。それで、今日はどうするか」


「冒険者ギルドへ行って何か依頼でも受けてみるか?」


「トールストに来てからギルドに行っていないか……スリーシャはどうする?」


「私は構いませんよ。ミリも大丈夫よね?」


「うん!いいよ!」


「ヴェロニカ、お前も来い。くれてやった篭手を魔物で試してみるとしよう」


「畏まりました。では、子供達に空けることを伝えてきますので少々お待ちください」


「外で待っているぞ」


「はい」




 サテムから龍神信仰の司教であるヴェロニカを訪ねて来て、まだ1度も冒険者ギルドへ顔を出していない。別に出さなければ除名という訳でもないのだが、今のところ立ち寄った町などのギルドには顔を出しているし依頼も受けているので、今回もそれで良いかと思っていた。


 それに、リュウデリアがヴェロニカに授けた純黒の篭手。その性能を調べるのにも魔物討伐の依頼は向いているだろう。魔物を討伐して性能を確認しながら報酬も手に入る。まさにうってつけという訳だ。


 龍神信仰の子供達はしっかりしているし、年が一番上の子供達が下の子供の面倒を見れるのでヴェロニカが居なくても問題はない。悪事を働いている集団でもないので襲われることはないのだ。まあ仮に襲われたとしてもリュウデリアの魔法によりバックアップを受けた子供達はそこらの大の大人より強くなっているのだが。


 少しの間教会を空けることを告げてきたヴェロニカが外に出てきたので、オリヴィア達も一緒になって移動を開始した。使い魔サイズになったリュウデリアはオリヴィアの肩に乗っていて、気分が悪くなったら言うんだぞと言われてので小さく頷いた。




「ヴェロニカは冒険者となって資金を集め教会を建てたのだろう?それも『英雄』に届くとまで言われていたらしいじゃないか。まだ登録は生きているのか?」


「はい。登録自体は殉職するか本人による希望で脱退するか、もしくは冒険者協会から強制的な除名がない限りは消されませんので、まだ登録は生きています」


「ランクは何なんだ?」


「SSです。『英雄』クラスはSSSとなりますので、一歩手前でございます」


「あの、何故ヴェロニカさん程の方がSSSにならなかったのですか?」


「あんなにつよいなら、えいゆうでもおかしくないよ?」


「冒険者活動をしていた頃はよく周りから言われました。しかし『英雄』になるには知識や実力、実績などが必要です。私の場合魔力がなく、それにより魔法が使えなかったため『英雄』には至りませんでした。所謂いわゆる不適格……というものでございます」


「ふーん?リュウちゃんをあれだけ殴り飛ばせるんだ、『英雄』でいいと思うんだがな。実際、あの鱗を素手で割るんだ。相当な強さだぞ」


「ありがとうございます。しかし私は構わないのです。目的は資金集めであり、名声や権力ではありませんでしたから。私は私の想う自由のため行動していただけです。『英雄』に届くと評されようと、私の行動は変わりませんでした」


「……ふふ。その考え、行動、まさにリュウちゃん好みだぞ」


「……っ!それはとても嬉しいお言葉です」




 目的のためならばその他のことなど、心底どうでもいい。リュウデリアの考え方に似通っている。なのでオリヴィアはヴェロニカのことを気に入ったのだろう。夢の実現のため、他から何を言われようと興味が無く、また直向きに走る。ヴェロニカはリュウデリアにとって最初から好印象の性格をしていたわけだ。




「言い忘れていたが、こういった他者の視線や耳があるところではリュウちゃんのことを本名で言ってはならないぞ。ある意味有名だからな。だから私みたいにリュウちゃんと呼ぶんだ」


「……っ!?そ、それはあまりに不敬なのでは……しゅをそのように呼ぶなど……っ!」


「……………………。」


「ん?……うん。リュウちゃんが、その“主”と呼ぶのもやめろと言っている。普通にリュウちゃんの本名でいいとのことだ」


「そ、それこそ私には……っ!」


「では様付けにすればいいんじゃないか?名前の方がそもそも呼びやすいしな。今はリュウちゃんだが。それに折角許してもらっているのに不敬だからと呼ばない方が余程不敬ではないか?リュウちゃんの顔を立てることも大切だぞ。龍神信仰の頭のお前ならばよく理解していると思うが」


「……っ。お、畏れ多いですが……えと……りゅ、リュウちゃん?」


「フッ……」


「ふふ。満足げだぞ」


「うぅ……か、顔が熱いです」




 絶大な信仰心を捧げる相手をちゃん呼ばわりしてしまい罪悪感を感じながら、リュウデリアはそれに満足げにしていることから少しばかりの背徳感を味わい、だが結局恥ずかしいので顔が真っ赤になってしまった。虹色に輝く美しい瞳が溜まった涙でより綺麗に輝く。


 熱くなった顔を冷ますために頬に手を当て、チラリとオリヴィアの肩に乗るリュウデリアに視線を向けると、小さく頷いているのが分かったので、許可が下りた以上従うのが信徒というもの。少しずつ慣れていこうと心に誓った。


 そうして大通りを歩いて進むオリヴィア一行は、純黒のローブで全身を隠す2人組と真っ黒なシスター服を身につける女性という光景により人の視線を集めてしまう。それでも各々気にせずにギルドへ向かい、到着すると早速正面扉を開いて中へ入った。


 冒険者ギルドへ入ってきた者をチラリと見た他の冒険者達は、オリヴィアとスリーシャの姿に小首を傾げたが、ヴェロニカを見た瞬間1度静まり返り、その後慌ただしく狼狽えていた。




「お、おおおい!?あれ『葬拳そうけん』のヴェロニカじゃねーかッ!?」


「ここ数年ギルドに来なかったのに何でだっ!?」


「あ、あれが『英雄』にすら届くとまで謳われた冒険者ッ!?」


「うぉっ……すげ……本当に虹色に輝く眼をしてる……」


「すげぇ美人……しかも体つきも……」


「おいバカ……っ!変な目で見るな……っ!」


「龍神信仰の頭だぞ……っ!?手を出したら塵も残さず殴り消されるぞ……ッ!?」




「……『葬拳そうけん』?」


「その場に居合わせた冒険者の方々が私の戦いを見てそう呼び始めたのです。理由はそう大したものではございません」


「説明は大丈夫だ。何となく察しはつく」


「えっと、そうですね……私も何となくは……」


「ゔぇろにかさん、すごいんだねー。みんなおどろいてるもん」




 ギルド内を一気に騒然とさせたヴェロニカは、騒ぎの中心人物にも拘わらず表情一つ変えなかった。本当に周りからの言葉など興味ないのだろう。彼女達は騒がれながら依頼が貼ってある掲示板のところへ行き、何の魔物を討伐しようか吟味し始めたのだった。






 ──────────────────



 バルガス&クレア


 気分が優れないため一旦別行動。元の体の大きさに戻って自由に空を飛んでいる。なお、飲んだ酒の所為で本当に体調が悪く、時々地上に降りて吐いているらしい。





 ヴェロニカ


 龍神信仰の教会を建てるために冒険者で資金集めをしていた。主に討伐依頼を消化していて、ランクが上がればそれだけ強い魔物との戦闘になるが、悉くを拳で沈めてきた。


 見た目からは想像できない腕力を用いた拳による戦闘スタイルで、敵ならば一切容赦せず葬ることから『葬拳そうけん』と呼ばれていた。


 なお、資金集めが終わり教会を建ててからは用がなくなったのでギルドへは顔を出していなかった。


 リュウデリアのリュウちゃん呼びはすごく恥ずかしい。でも慣れるために頑張っている。





 リュウデリア


 ヴェロニカから主と呼ばれるのが何となく変に感じたので、リュウデリアと呼ぶように言った。それだと不敬に思えるということなので、リュウデリア様でいいと思っている。





 オリヴィア


 魔力がなく魔法が使えないだけで、リュウデリアとあれだけ戦えるヴェロニカを『英雄』にしないのか……と、少し困惑している。


 これだけ戦えるならむしろ『英雄』でいいのでは?と思うが、変なしがらみがあるならどちらにせよ『英雄』にならなかっただろうなと考えて別によかったのかとも思っている。





 スリーシャ&ミリ


 スリーシャは実のところ、ヴェロニカを相手にした時に勝つビジョンが浮かばない。長年生きていることで強さが解るが、ヴェロニカの肉体から感じる強靭かつ研ぎ澄まされた気配に圧倒される。


 肉体一つでも、極めるとここまで強くなれるのかと驚いているくらい。


 ミリはヴェロニカはやっぱりすごい人間さんなんだなと思っている。





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