第265話  またねを





「──────おかえり、リュウデリア。水いるだろう?」


「……ありがとう、オリヴィア」


「オリヴィア、オレも~」


「私も……頼む」


「そう言うと思って、もう用意してあるよ」


「ワーイ。流石だぜ」




「ほらレツェル、あなたの水よ」


「えへ……ありがとうラファンダ」


「負けちゃったねー、レツェル?今まで無敗だったのにさ」


「ふふん。リーニスにはわからないでしょ。負けることで得られることもあるんだよ(ドヤァ」


「……めっちゃムカつくんだけど」




信じられないほど吐いて、吐いて吐いて吐きまくったリュウデリア達は、覚束無おぼつかない足取りでノロノロと龍神信仰の教会に帰ってきた。


吐いてから1時間以上は経っており、普通に朝の時間帯なのでオリヴィア達はもう既に起きていた。朝起きてリュウデリア達が居なくなっていたのでどうしたのかと思ったが、何となく吐きにどこか行ったのでは?と考えつくと仕方ないなと溜め息を溢した。


苦笑い気味でジョッキの大きさをしたグラスに水を入れてリュウデリア達に差し出したオリヴィアと、普通のコップに水を入れて差し出したラファンダから受け取ったレツェルは、連日続けてこれは嫌だな……と、心の中で意見を一致させた。




「はーあ……水がこんなに美味く感じたのは初めてだ……」


「ぷぷぷ。りゅうでりあがすごいよわってるー。おねぇちゃんがかんびょうしてあげようか?♡」


「こんなところに酔い覚ましが……んあー」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!たべないでおかあさんたすけてぇっ!」


「はぁ……ミリはなんでやられるの分かっててやるの。リュウデリアも、変にミリで遊んではダメですよ」


「チッ……スリーシャが言うなら仕方ない。良かったなアホな俺の妹?」


「うぅ……わたしおいしくないよ……」


「頭が悪いから確かに不味そうだ。それもかなり」


「あー!すごいばかにした!おこった!ミリおこったよ!もうゆるしてあげないんだから!」


「美味い果実があるんだが食うか?」


「えっ、いいの?わーい!」


「ホントにアホだな」


「……む~~~~~~~~~っ!」




リュウデリアから手渡された瑞々しくて美味しそうな果実を両手でしっかりと抱えながら、頬を限界まで膨らませて精一杯睨みつけるミリ。でもそんなことをして怖いと思わせられるわけもなく、リュウデリアはおーコワイコワイと言いながらおどけるだけだった。


いつもののやりとりに、この子達はいつもいつもこんなことしてるんだから……と言いながら微笑んでいた。いつもより更に優しげなスリーシャの眼差しに、リュウデリアは首を傾げた。


オリヴィアからリュウデリアが如何にスリーシャのことを大切に想っているかを聞かされたので、ぶっきらぼうだけれど優しい自分の子供という認識が更に強くなり、見る視線も優しくなったのだ。リュウデリアは爆睡していて知らなくても無理はないが。




「それにしても、昨日のは飲み過ぎでしたよリュウデリア。あなたは飲み過ぎると何をするかわからないんですから、ほどほどにしてくださいね」


「理性はあった。大丈夫だ」


「もしいきなり魔法を使ったらどうするんです?私達ではあなたの魔法には耐えられませんよ?」


「そんなアホな真似はしない。俺だからな」


「どこから来るんですかその自信は……それでも、万が一があるでしょう。オリヴィア様を傷つけたいんですか?」


「……その返しはズルいだろう……」


「そういう話を最初からしていますからね。無理な飲み方をして極度に酔わないこと。いいですね?」


「……わかった」




母親のスリーシャが言うならば、素直に従うリュウデリア。悪酔いして魔法でも謝って暴発させてしまえば、いくら彼が防御の魔法陣を施した服を身につけているからと言っても、強力な純黒なる魔力の攻撃は貫通する。なので割とシャレにならないのだ。


愛する相手が近くに居るのだから、危ないことはしないように変な酔い方をする酒の飲み方はやめることと、鼻先に人差し指を突きつけられて叱られたリュウデリアは、わかったと言って頷いた。


あなたもまだまだ子供ですねと言われればムッとしたようだが、既に1000年以上生きている母親のスリーシャにニッコリと微笑まれながら何か?と言われればもう黙るしかない。何でもないと言えば、理解してくれてさえいればいいんですよと、頬を優しく撫でられた。目を細めて受け入れていると、またミリがおちょくりだす。




「やーいやーい!りゅうでりあ、おかあさんにおっこらーれたー!」


「──────握り潰す」


「はぎゅっ!?ご、ごべんなざいぃ……」


「言ってるそばから……」




バシッと捕まえて力を込めていくと苦しそうに藻掻くミリ。言ったら怒られるとわかっているだろうに言うんだから……と、またスリーシャは困ったように溜め息を溢した。今度ばかりは知らないと顔を逸らすと、ミリは絶望したような顔になった。


両手を使って塩を揉み込むように揉みくちゃにしてミリに罰を与えたリュウデリア。中々終わらないじゃれ合いを尻目に、ラファンダとリーニスはレツェルと話していた。




「あ、報告があります。今回なんと、私にも欲しかった飲み仲間ができましたー!はい拍手!」


「わー」


「へー」


「反応うっす。興味なさすぎでしょ」


「死んで復活するまで飲み仲間も彼氏もできないと思っていたから、驚いてはいるわよ。内容に興味が持てないだけよ」


「良かったねー。お酒の量抑えれば仲間ぐらいできるんじゃないかなとは思ってたけど、漸くできたんだ。いやー良かった良かった」


「興味ないにも程があるでしょ……」




折角報告したのに……と言ってむくれているレツェルだが、何だかんだ言いつつも良かったねと祝ってくれていることは知っている。なので嬉しそうに笑いながらピースをした。


レツェルが飲み仲間が欲しがっていたことは知っている。酒に付き合った時には1回は必ずその話題が出るからだ。散々その話題を数百年も言われているのだから耳にタコができるくらい聞いている。驚いていると言えばいるが、どちらかというとレツェルの飲み仲間をやれるリュウデリア達に驚いている。




「じゃあ、私達はそろそろ神界へ帰るわね」


「呼んでくれてありがとね、リュウデリア。オリヴィアとお話しできて良かったよ。ヘイススとも友達になれたし」


「お酒飲みに誘うから、また飲もうね3匹とも!」


「レツェルは酒を飲んだ後と飲む前の口調全然違うんだね」


「今それ言うの!?」


「俺が送っていってやろう。と言ってもプロメスのところにだが」


「最高神様を足に使うの畏れ多すぎるんだけど……」


「気にするな。アイツは使ってこそだ。でなければ居る意味がない」


「もっと意味あるからねっ!?」




リュウデリアのどこまでも不敬な言い分に驚いているレツェルだが、ラファンダとリーニスはもう慣れたので苦笑いだった。ヘイススのことも送っていくと言って自分に触れさせる前に、バルガスとクレアからストップが入った。


どうやらヘイススに用事があるようで、2匹はヘイススの傍まで来ると、それぞれが彼女の肩に手を置く。どうしたの?と言って首を傾げるが、彼等は何でもないと言って笑った。何がしたかったのだろうかと思っていたが、次は感謝された。




「オレ達の武器をありがとよ。これ以上の武器なんざこの先手に入らねぇよ」


「酒を飲んで……言うタイミングが……なくなっていた。だから……今言う。ありがとう……ヘイスス……また……会おう」


「……うん。喜んでくれているようで何より。また会おうね。欲しい武器ができたら、その時に言ってよ。特別に造るからさ」


「おう。期待してるぜ」


「では……また」


「じゃーなー」




「オリヴィア。また会いましょうね。今度はちゃんと私達から遊びに行くから」


「今度はオリヴィアの料理食べさせてね!上達したか見てあげる!」


「次は私ももっと美味しいお酒持ってくるから!」


「レツェルは程々でいいからな。ラファンダとリーニスもまた」




各々別れの挨拶を済ませて、リュウデリアに掴まった。全員の準備が整ったところで、彼の魔法が発動して景色が忽然と変わる。1度見た光景ならばどこへでも行くことができる魔法は、またしても神界の最高神が住む城へやって来た。


それも謁見の間である。そこには誰かがプロメスに謁見していたのか、玉座から見下ろせる段差の一番下で跪いており、プロメスの脇には複数の護衛の戦士の神が居た。


突然やって来たので目を丸くしたが、侵入者だと判ると武器を構えながら走り寄ってくる。何者だと怒号を飛ばしながらやって来るのでラファンダ達はリュウデリアの後ろに怯えて隠れてしまった。肝心のリュウデリアは怯むことは絶対になく、人差し指を下に向けて振って戦士の神を床に叩きつけて縫いつけた。




「ぐ……くる……しい……っ!」


「動け……ない……っ!?」




「パーティーは終わった。ラファンダ達を元の場所に戻せプロメス」


「あぁ、そういうこと。いいよ。あ、ちょっと待っててね」


「は、はぁ……」




跪く神に断りを入れてから権能を行使してラファンダ達を連れて来る前の場所に戻そうとしたが、思い出したようにリュウデリアが待ったを掛けた。


彼は体から鱗を4枚剥がすと手の中で握り締め魔法陣を展開。手の中で鱗の形を変えた。掌を開けると、中には純黒の色をしたお守りが入っていた。それをラファンダ達に1つずつ渡すと、肌身離さず持っておくように言った。




「それは外敵からお前達の身を護る為のものだ。俺と関わった事で良からぬ事を考える塵芥が居るだろう。だがそれを持っておけばお前達が害されることはない。神殺しの魔法を施してあるからな。手を出せば必ず相手を殲滅するだろう。お前達は持っているだけでいい」


「そんなにすごいもの……いいの?」


「オリヴィアの友神だろう。当たり前だ。ヘイススに関してはこれが無くても安全だがな。先程バルガスとクレアが肩に触れたとき魔法を掛けていた。狙われる確率はヘイススが1番高いからな」


「オリヴィアはリュウデリアの伴侶で、ラファンダ達はその友神って皆知ってるからね。まあ、狙うなら私だよね。ていうか、あの2匹あの時にそんなことしてたんだ」


「まあそれでも持っておけ。俺の鱗を変質させて作ってある。そう簡単には壊れんし濡らしても魔法ですぐに乾く」


「すごーい……大切にさせてもらうね」


「オリヴィアのことよろしく頼むわ、リュウデリア」


「またね」


「あぁ。またな。……プロメス」


「はいはい。じゃ、跳ばすよ」




パチンと手を合わせると、目の前に居たラファンダ、リーニス、レツェル、ヘイススの姿が消えた。皆和やかに手を振っていたのでリュウデリアも振り返し、消えると手を下げた。


床に縫いつけになっている神の魔法を解いてやると、死ぬ間際の威力だったのでその場でぐったりとしている。殺しても良かったが、ラファンダ達が居る手前やめておこうと思ったのだ。




「助かったぞ、プロメス。これは礼だ。貰っておけ」


「それは?」


「昨日飲んだ酒だ。美味いぞ」


「へぇ……わかった。貰うね」


「うむ。ではな」


「ばいばい」




異空間から、レツェルが他の神から奪っ……貰ったという昨日飲んだ大樽の酒を1つ置いてその場から『瞬間転移』をして消えたリュウデリア。プロメスは置かれている大樽を見て、今日はお酒に合う料理にしてもらおうかなと思いながら、困惑したまま跪いている神にニッコリと笑みを浮かべた。






──────────────────



ラファンダ&リーニス&レツェル


リュウデリアと接点がある数少ない神なので狙われる確率が高い。なので敵から身を護る術としてお守りを渡された。以前オリヴィアが持っている物と同じものだったので『お守り』というものは知っている。


お守りは敵意を持って近づいた敵に対して、自動で最適且つ高威力の魔法を撃ち込むというもの。魔力はかなり注ぎ込まれているので、毎日使ってしまうことになっても200年は保つ代物。





ヘイスス


バルガスとクレアからも気に入られて、肩に触れられた時に魔法を施されている。内容はリュウデリアの渡したお守りと同じようなもの。目立たないように魔法陣を施されている。





リュウデリア


お守りをラファンダ達に渡しておいた。自身を殺すために人質のように連れ攫われる可能性があると理解しているため。なので過剰とも言える性能をしたお守りを持たせた。


ちなみに、お守りには防御魔法も施されていて、直径2キロ程の隕石が落ちて来てもバリアを張り傷一つつくことなく守ってくれる。持っている限り安全の代物。あとクソ頑丈。





プロメス


ラファンダ達の送り迎えをやってくれた最高神。


レツェルが持っていた大樽の酒を貰い、後ほど飲んだ。とても美味しく、つい酒が進んでちょっと酔ってしまい、次の日頭が少し痛くなった。






謁見の間に居た神


えっ、誰?どういうこと?……え?



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