第263話  ガールズトーク





 リュウデリア、バルガス、クレアの3匹がレツェルとの酒飲み勝負に勝利を収めたものの、途轍もない酒の量で完全に酔ってしまい眠ってしまってから少し、オリヴィア達はガールズトークを楽しんでいた。


 神界に戻ることがなくなり、必然的にあまり顔を合わせることがなくなっているオリヴィアとリーニスとラファンダは、会わなかった時間を取り戻すように話に花を咲かせた。


 しかし3柱だけで楽しむのではなく、新しく友神となったヘイススやスリーシャとも話して仲を深める。特にラファンダとリーニスからしてみれば、リュウデリア達以外での地上の生物はスリーシャが初めてなので新鮮でもっと話したくなるというものだ。




「へー。じゃあ、スリーシャが共生してた大樹を襲おうとしていた魔物と戦ってくれたのがリュウデリアなんだ」


「生まれてすぐだというのに、そんな魔物と戦って生き残るのね」


「言葉も知らず、狩りの仕方は本能で察し、魔力の使い方を教えてくれる者も居らず、それでもリュウデリアは強かったですよ。ただ、加減がわからず……危なくあの森を消されていたかも知れませんね」


したたかすぎない……?」


「それにしても、リュウデリアはよくその魔物との戦いで森を消さなかったね。結構危なかったんでしょ?」


「直前に魔力の使い方を変えてくれました。私の声に反応してなのかは……わかりませんが」




 ラファンダ、リーニス、ヘイススの3柱とスリーシャが共通して話せる話題はリュウデリアだった。ラファンダとリーニスに関しては、オリヴィアを救いに神界へ渡り暴れ回った後から。ヘイススは昔に助けてもらったことから。だがスリーシャは生まれて間もなくのリュウデリアを知っている。


 彼はものすごく強いよね。前最高神だったクソ野郎を堂々と殺せるくらいだったし、やっぱり昔から強かったのかな?というリーニスの疑問に答える形で、リュウデリアの過去が明かされる。過去と言っても、スリーシャや小さな精霊と会った時のことだが。




「その時のことはリュウデリアもうっすらとだが覚えているらしいぞ。魔力のブレスで魔物を消し飛ばそうとしたら、どこからか安心する声が聞こえたから直前で怒り狂った精神が落ち着いて冷静になったと」


「そうだったのですね……しっかり届いていたのですか」


「気恥ずかしいからか、それとも解っているだろう?精神なのかスリーシャやミリのことを褒めるようなことは口にしないが、私にはしてくれるんだ。リュウデリアはスリーシャのことを、心の底から慕っている。ミリもな。会ったのがスリーシャ達であったのが、生まれ落ちて最初の幸福だとも言っていた」


「そ、そんなことをリュウデリアが……?」


「あぁ。だから助け出したんだろう?どれだけ離れていようと、どれだけ敵が居ようと。リュウデリアにとって、スリーシャを救うにあたって出てくる障壁はどんなものでも越えるに値するんだろうな」


「そう……ですか。そうですか……この子はもう……本当に良い子なんだから……っ」


「えへへ……いいおとうとをもって、おねぇちゃんしあわ゙っ!?ねてるのに“おとうと”にはんのうしてきた……ッ!?」




 スリーシャやミリには語られない、リュウデリアの思っていることがオリヴィアの口から話された。残虐で、残忍で、冷酷で無慈悲。敵には一切容赦しない彼は、親しい者には甘い。特にスリーシャ達には、オリヴィアとは違った甘さを持っていた。


 生まれ落ち、言葉も理解していない孤独で独りの黒龍を育てたのは、他でもないスリーシャだ。言葉や魔法。魔力について教えた。世界の大きさについても語り、翼を使った飛び方も教えてあげた。種族は全く違う。血なんて繋がっている訳がない。それでも、リュウデリアは彼女を母親として認識している。


 ミリが命からがらリュウデリアの住む森へやって来て助けを求めた時、冷酷で冷徹でもある彼ならば自分達で何とかしろと言われるとさえ思っていた。しかし彼は考える素振りすら見せず助けに向かった。その時のことを、ミリはリュウデリアに申し訳なく思っていた。こんなに優しいのに、助けてくれないと思ってしまったことに。


 謝りたいけど、謝ったら今更何を言っているんだと呆れられながら怒られるだろう。だからミリは謝れない。謝る必要がないとリュウデリアが思っていることを理解しているから。同時に、ミリの姉妹達を助けられなかったことを悔いていることを知っているから、言い出せなかった。


 弟という言葉に反応して鷲掴みにしてきた手から逃れようとしていたミリだが、今度は潰れないように抜け出そうと思えば抜け出せる力強さで握ってきた手に笑みを浮かべる。そっと手から脱出すると、リュウデリアの上下する胸の上に降り立ち、心臓の音を聞きながら横に目を瞑った。




「ねてるいまなら、いってもいいよね?……りゅうでりあ、あのときたすけてくれてありがとう。あと、たすけてくれないかもって、うたがってごめんね。しんじゃったこたちのことは、きにしなくていいんだよ。おかあさんをたすけてくれただけで、みんなよろこんでるから。わたしも、りゅうでりあとあえてうれしいよ。これからも、ずっとみまもってるからね」


「ミリ……」


「初めてお姉ちゃんらしいことできたな、ミリ」


「はじめてなのっ!?」


「良い子ね、ミリは」


「いいなぁ。私もこんな妹欲しかったなぁ」


「リュウデリアを慕う方はあまり居ないけど、これだけ想われてるなら数なんてどうでも良くなるね」


「主を良く想ってくださる方々が居て、私はとても嬉しく思います。もちろん、私も主を慕わせていただきますが」




 リュウデリアのことを想うミリの優しい心に触れて、オリヴィアは胸が温かくなった。世界中が彼のことを理解して受け入れて欲しい……なんて事は露ほども思っていないが、こんな風に想ってくれる存在が居ても良いだろう。


 ヴェロニカはリュウデリアが悪に系統する龍であることは承知の上で信仰している。南の大陸で大暴れして国の中枢である王都を幾つも破壊していることも知っている。だが彼女は、彼の強さや自由さを感じ取り、この方しか居ないと本能で理解したからこそ、想うことにしたのだった。


 人間とはこれまで、旅をしている者達という設定上それなりに接してきた。だがそれでも、リュウデリアが自身の体の一部を使った物を与えるのは見たことがない。つまりは、それだけヴェロニカのことを認めて気に入っているのだろう。彼は強い者がとても好きだから。




「ヴェロニカ。お前は自覚していないだろうが、リュウデリアにこれほど認められた人間は初めてなんだぞ」


「……そうなのですか?」


「あぁ。相当気に入らなければ、自身の体の一部を与えたりしない。その篭手はもちろん、リュウデリアの鱗を使っている以上凄まじい価値があるが、それ以上に初めて人間に与えられた代物だ。それを理解して使うんだぞ」


「はい……はい。認めていただいたことを胸に、大切に使わせていただきます」




 リュウデリアは強い者が好きだ。もっと言うなら、自身に並び立つかそれ以上の存在との殺し合う瞬間が好きだ。しかしそれ以外にも、口先だけではない者も好きだ。夢物語を語るだけで終わるのではなく、そこに至るまで動いた者が好きなのだ。


 ヴェロニカは幼い頃に読んだ子供向けの本から龍にのめり込み、信仰してきた。真の自由を得るため、貴族という身分を捨て冒険者となり、自由を得てからは自由を得られない者達を自由へ導くために龍神信仰を創設し導いてきた。その確固たる実績が彼を動かしたのだろう。


 オリヴィアがリュウデリアが気に入ったであろう理由を語ると、ヴェロニカは両手の甲に刻まれた純黒の魔法陣と化している篭手に触れ、嬉しそうに顔を綻ばせた。嬉しそうにしている彼女に、オリヴィアはリュウデリアの手を取り差し出した。それに首を傾げると、取って触れてみろと言う。




「……よろしいのですか?」


「構わない。これだけリュウデリアに気に入られている者は初めてだし、それを邪険にしたら私に余裕がないみたいではないか。それに、私としてもお前の人間性には感嘆としているし認めている。お前にならリュウデリアに触れても何も言わん」


「ありがたき幸せです。本来は不敬ではあるところと自覚しておりますが……オリヴィア様に勧められたので是非……」




 自身の神であると、篤く信仰しているリュウデリアの身に許可なく触れるのは不敬であると理解しているものの、伴侶であるオリヴィアが許可をしたので折角ということで恐る恐る彼の手を取るヴェロニカ。


 彼に触れたのは、信仰することを認めてもらうための戦いという名の試練を受けた時。だがそれは戦いであってこのように触れるものではない。実質彼に触れるのは初めてだった。恐らく、この感動、この幸福は生涯忘れることはないだろう。それだけ大きな事だった。


 彼の手を取って持ってみると、やはり鱗が硬かった。矢や剣など何のその。果てには名剣の鋭さすら意に返さぬ非常に高い硬度を持つ純黒の鱗は、彼の体温で内側からほんのりと温かみを持っていた。重く、ずっしりとしていて筋肉質。自身とは比べものにならない筋肉量を感じ取った。


 リュウデリアを構成するものの1つである、馬鹿げた程高い身体能力。肉体的な強さ。巨体であり超重量を持つ彼の体を高速で長時間動かすための良質で健全な逞しい筋肉。ヴェロニカは感動しながらリュウデリアの前腕を擦り、温かさを掌に感じ取って感覚を覚えてから、そっとオリヴィアに返した。




「貴重な体験、誠にありがとうございます」


「構わない。人間ではお前にだけ、特別だからな」


「ありがたき幸せです、オリヴィア様」




 普段のオリヴィアを知っていれば、目玉が飛び出るくらいの衝撃だっただろう。他者の、それも友神ではなく人間の女にリュウデリアを触らせるなどと。自身はリュウデリア以外の男に触れられることを極端に嫌い、自身以外の女がリュウデリアに触れることを極端に嫌うあのオリヴィアが許可を出した。


 ヴェロニカ・イル・ウィルステッドという人間の女は、これまでの行いからオリヴィアに気に入られるだけの事をしてきた。数少ない、リュウデリアを心の底から慕う者ということもあるのだろう。兎に角として、オリヴィアが人間を認めるということも滅多にない。


 自由を得るために藻掻き、悩んだこれまでの事は無駄になっていなかった。これだけ報われているのなら、自身は幸福以外の言葉が見つからない。ヴェロニカはまたありがとうございますと言いながら頭を下げて、静かに涙を流したのだった。




「ヘイススの事もとても褒めていたぞ。いや、これはリュウデリアに限らずバルガスとクレアもだが」


「それはまぁ、武器造ってあげた時に揉みくちゃにされたからね、知ってるよ。造った甲斐があるってものだよ」


「事情があって過去の神界へ行くことになったことがあってな。そこでリュウデリア達は強敵と会ったのだが、そこであの武器を使ったんだ。凄まじい力だったが、元から自分の一部だったのではと思える使い心地だったらしいぞ。とても感謝していた」


「大切な心臓まで使ったから、親和性は高いはずだよ。オリヴィアのも今度何か造るから、要望があったら言ってね」


「ありがとう。是非頼もう」




 リュウデリアに限らず、バルガスとクレアもヘイススの鍛冶の神としての腕を高く評価していた。それは専用武器を造ってもらい、彼等の内で試しに使ってみた時からわかっていたことであるものの、特に素晴らしいと語っていたのは過去の神界で戦った獣との戦いの後だった。


 本来の自分の力、眠っている潜在能力をフルに覚醒させて引き出し、完璧に扱える状態にしてくれる恐ろしい性能を秘めた武器。当時はいきなり現れて心臓を使わせろと言われて怒りもしたが、今となっては大満足である。




「そういえば、リュウデリアはまた強くなったみたいだね。オリヴィアを助けに来た時は戦いの神に少し苦戦してたみたいだけど、私達を呼びに来た時は戦いの神の精鋭を前にしても余裕って感じだったよ」


「あぁ……リュウデリア達はすぐに強くなるからな。強い存在との殺し合いが好きなのに、戦いの最中に強くなるものだから相手からしてみれば堪ったものではないだろうな」


「リュウデリアはもう、神の戦士達ですら相手にしなくなったのね……」


「そもそも今更だけど、いくら地上に於いて最強って言われてる種族が突然変異だっけ?になったとしても、ここまで強くなるもの?」


「それは私も考えたわ。神と戦って生き残った者は過去を遡れば居るし、それらは伝記として伝えられるでしょう。でも、クソ野郎とはいえ最高神を真っ向から斃すなんて、どう考えても普通じゃないわ」


「私としてもそれらに関して思わないことはないが、でもいいじゃないか。強ければ死なない。私はこれからもリュウデリアと一緒に居られる。私としてはそれだけで十分だ」


「はぁ……どの角度からでも惚気るんだから、オリヴィアは」


「確かにねぇ。聞いてるこっちの身にもなって欲しいなぁ?」


「ふふ。だね」




 幸せそうにリュウデリアの頭を撫でているオリヴィアに、熱いことねと言ってイジるラファンダと同意するリーニス達。幸せなことは良いことだと返して胸を張るオリヴィアに、皆で笑った。






 ガールズトークはまだまだ続き、彼女達は各々にあった話などを持ち出してその時間を楽しむのだった。







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 龍ズ&レツェル


 ぶっ倒れて寝てる。





 ミリ


 リュウデリアの胸の上で横になってたらスヤァ……と寝てた。





 スリーシャ


 リュウデリアから母親として絶大の信頼と愛を感じて涙ぐんでしまった。本当に良い子だなぁ……としみじみしている。





 ラファンダ&リーニス


 やっぱりリュウデリア達強くない?強すぎない?と思うが、オリヴィアが嬉しそうに楽しそうにしていると、まあ何でもいっか!となってしまった。





 オリヴィア


 めちゃくちゃ意外だが、ヴェロニカにリュウデリアに触れることを許可した。スゴい。けどそれは正妻としての余裕。あと、オリヴィア自身もヴェロニカのことは気に入ったから。





 ヴェロニカ


 リュウデリアから体の一部を貰う程気に入られた、世界で初めての人間。彼からの好感度が高く、また伴侶であるオリヴィアからの好感度も高いためリュウデリアに触れることができる。


 起きている時に触れても何も言われないくらいには好感度が高い。



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