第259話 友神達と鍛治の神
──────258。
この数字の意味することがわかるだろうか。これはリュウデリアが神界に侵入し、根底から殺した神の数である。
1度目は戯れとして向かってくることを赦した。壮大とも言える優しさ溢れる心で。しかし2度目となると鬱陶しいので今度こそ根底から殺すと宣言した。
目的は最高神。その言葉を聞いて、リュウデリアの傲岸不遜な言い草に従う神は居なかった。最初だけは。
手に純黒なる魔力を纏わせ、向かってきた2度目の神の頭を擦れ違い様に引き千切った。結果、純黒に侵蝕され、根底から死んだ。記憶を刻んだ記録を抱えて復活することはない。その神の器に代わって新たな神が誕生するだけで、死んだ戦士の神はもう生まれない。
オリヴィア奪還の際にも同じ事をしていた。それをいざ目にすると“死”という概念を前に動けなくなる。ゆっくりと歩き続けるリュウデリアを、いつしか神々は左右に分かれる形で道を開けてしまっていた。もう勝てないことが、心の底から理解させられた。どう足掻いても無理だと。
「最初からそうしていれば良いものを。無駄に死んでも恥ずかしくはないのか?何度も言っているだろう、“雑兵如きに何ができるか”と。そもそもプロメスを殺しに来た訳ではない。呼んでくれば俺がより早く神界から姿を消すぞ」
「くッ……ッ!!」
「お前達に提示する選択肢は2つ。周りの無辜な神々を巻き込んで盛大に死に散らすか、プロメスを呼んで俺の元へ来させるかだ。さて、どうする?ちなみに、俺は雄も雌も赤子も関係無く殺すぞ。根底からな。ほら早く決めろ。3。2。1──────」
「ッ~~~~~~~ッ!!!!わかった!最高神様を貴様の元へお連れするッ!だからこれ以上暴れるなッ!」
「連れて来るのが遅かったらその限りではないかも知れないなァ?」
「……ッ!クソッ……悪龍めが……ッ!!」
「ほら、さっさと行け塵芥。遊び半分で世界樹を根元から引っこ抜かれたいのかァ?」
人差し指を立てて上に向かってクイックイッと動かして挑発するリュウデリアに、神々の戦士部隊の隊長が苦虫をこれでもかと噛み潰した顔をして駆け出した。口先だけでなく、本当にできる力を持つのだから恐ろしい。
呼んでくるならばわかりやすいところに居た方が良いだろうなと思いながら、長い廊下を進む。後ろには警戒しながらついてくる戦士部隊が居るが無視した。手は出せない。どうせ恐怖で動けなくなるのだから。
廊下を進んで金色の表面をした両開きの扉の前に辿り着くと、開けようともせずに直進。扉は超高温に熱せられた熱のように溶け出して半円を描いて穴が開いた。リュウデリアに触れることもなく溶けてしまった扉を
奥に行けば数段の段差があり、その一番上には特別豪華な玉座がある。プロメスが座るためのものだろう。まさしく王のための玉座。それを眺めたリュウデリアは翼を広げて飛翔すると玉座の前まで来て、周りをぐるりと回って眺めた。
「──────ッ!?な、なんという不敬ッ!!」
「地上の龍如きがァ……ッ!!」
「いつか貴様に神罰が下るぞッ!!!!」
「ふぅむ……座り心地はまあまあだな。見通しはいいが、今の俺には
なんとリュウデリア、神界を統べる最高神のみが座ることを赦される玉座に何の躊躇いも無く着席。座り心地を確かめるために座面に尻を押しつけ、肘掛けに腕を置いてみる。脚を組んで段差の一番下に居る神々を見下ろすと、頬杖をつきながらつまらなそうに見下ろした。
最高級品も最高級品。肘掛けや脚は黄金色に輝き、背もたれや座面は真っ赤なクッションが使われている。豪華絢爛なたった1つの椅子には莫大な価値がある。それを勝手に座っておきながら挙げ句にはまあまあと言うのだから、完全に舐めているとしか言えない。
さて、少し待ったがプロメスが来ないのでそろそろ世界樹を引っこ抜いて下の街に倒してやろうかなと思った時、溶けてしまっている入口の扉から、あちゃーという軽い声が聞こえてきた。入ってきたのは少年の姿をした美しさを極めた存在。その圧倒的存在感に、神々の戦士部隊は一様にすぐさま膝を付いて頭を垂れた。
「こんにちは、リュウデリア。君が来るなんて珍しいね。ていうか初めてだよね。どうかしたの?」
「はッ。最高神如きが頭が高いぞ。俺を誰と心得る。お前の前に居るのはリュウデリア・ルイン・アルマデュラ。殲滅の王である」
「ははぁ……面会の機会をくださり恐悦至極にございます、至上の王よ」
嫌に美しい所作で片膝を付いて頭を下げる最高神プロメスに、周りの神々がザワついた。なんということをさせているのかと殺気立ったが、リュウデリアの遥か上から嬲り潰す殺気と睨みによって皆が口を閉じた。
ニコやかな笑顔を見せてノリの良いやりとりをしたプロメスに、リュウデリアははーあと言いながら態とらしく溜め息を溢した。少しくらい怒る素振りを見せればいいものを、部下達を前にして示しのつかないことをするとはと呆れている。
「もういいわ。茶番も茶番だ。何も面白くない」
「クスクス。それで、ボクに何の用事?何かすごい数の戦士達が死んじゃったみたいだけど」
「それはお前の塵芥達が悪い。いや、そんなどうでも良いことは放っておけ。お前に聞きたいことがあった」
「何かな?」
「オリヴィアの友神である、酒の神レツェル。料理の神リーニス。智恵の神ラファンダ。それと鍛冶の神ヘイススは何処に居る」
「それを知るためにボクのところに来たの?」
「無限の大地が広がる世界で
「しょうがないなぁ。いいよ。ちょっと待ってね」
上からモノを言われているのに、それがリュウデリアとの接し方の1つと捉えているプロメスはすぐに了承した。その場で少し黙ると、独り言を呟く。今大丈夫か。時間はあるか。会いたいと言われたから許可を得るために話し掛けている。そういった会話が聞こえてくる。
独り言を呟いて少し、プロメスが両手を合わせて叩くと、4柱が謁見の間に現れた。悠久の時を生きる故に姿形など一切変わっていないオリヴィアの友神のレツェル、リーニス、ラファンダ、そしてリュウデリアとクレア、バルガスの専用武器を鍛えたヘイススだった。
会いたいと言う者が居て、できれば呼び掛けに応じて欲しいと最高神プロメス直々に言われたから即座に応じた4柱は、その者がリュウデリアとわかると大なり小なり驚いた様子だった。まあ1番驚いたのは、最高神が座するための玉座に脚を組んで座っていることだろうか。
「リュウデリアっ!?神界に来るなんてどうしたの!?オリヴィアに何かあった!?」
「おぉー、リュウデリアじゃーん。ヒック……あれ、兄弟居たっけ?増えたぁ?」
「レツェルは飲み過ぎよ。というかこんな時間から飲んでるの?はぁ……リュウデリアも久しぶりね。取り敢えずその玉座から降りた方がいいわ」
「えっと……何で私は呼ばれたの……?」
「別の場所に居る存在を転移か。それも触れずに。つくづく、権能はデタラメな力だ。それと久しいな、レツェル。リーニス。ラファンダ。それと俺に兄弟はもう居ない。俺が殺したからな。ヘイススに関しては俺が呼びたいと思ったからだ。オリヴィアは無事だ。全く問題ない」
「えっ、兄弟居たの……?」
「身内まで殺しちゃってるのね……」
「わはー。頭がぐらんぐらんするぅ……!」
「呼んでくれてありがとう……?」
各々がリュウデリアが呼んだ張本人であることに驚き、シレッと口にした兄弟を殺した話に思考を持っていかれ、レツェルは倒れそうになるほど酔っ払っている。ヘイススはレツェル達とは会ったことがないので初顔合わせだ。なので、何の用なのかイマイチ理解していない。
そんなヘイススの元へ、玉座から立ち上がったリュウデリアが歩いて向かってくる。目の前に立つとヘイススが上目遣いになりながら見上げる。そんな彼女の頭にリュウデリアは手を置いて、優しく撫でた。頭の上に置かれた大きく力強い手。それが撫でている心地良い感触。でもなんで?と疑問に思っていた。
「俺が命じていたんだな」
「……っ!!もしかして……」
「あぁ、過去に遡り獣を殺した。はは、まさか武器を造るよう言ったのが俺自身とは夢にも思わなかった。だがそれよりも、お前は俺の言葉に従い、見事素晴らしい武器を造った。ありがとう、ヘイスス。お前は素晴らしい鍛冶の神だ」
「っ……っふ。ぃ、いえ……いいえ!あの時は助けてくださりありがとうございました……っ!この時間軸のあなたを一目見た時からずっと、ずっとお礼を言いたかった……ッ!!」
「あぁ、確かに受け取った。ヘイスス、お前にあの時出会えたのは、俺の生涯の中でも幸福の奇跡だ。今はただ、あの時の出会いを喜ぼうではないか」
「ゔっ……うぅっ……っ!」
自分が知っていても相手が知らず、しっかりとしたお礼も言えなかったヘイススは、リュウデリアからの言葉に涙を流した。同じ時間軸の命の恩人に面と向かって言えた。そして嬉しい言葉を貰った。それだけで大粒の涙を流す理由になる。
頭を撫でられながら俯いて涙するヘイススの頬に手を当てて顔を上げさせると、親指で涙を拭ってやり、肩を抱いて静かに抱き寄せた。ヘイススはリュウデリアの腕の中でまた泣いてしまった。彼がこんなことをするのは相当相手のことを認めている証拠。見る人が見れば目を剥くことだろう。
周りに最高神やレツェル達、戦士部隊が居ることを思い出したヘイススは顔を赤くしながら涙を拭ってリュウデリアから少し離れた。気恥ずかしそうにする彼女にクツクツと笑うと、今度は料理の神のリーニスに向き直る。
「次に用があるのはお前だ、リーニス」
「え、ごめん。私何かしたっけ……?」
「事情があり、神界の野獣を食おうと思ったのだがどう調理すればいいのかわからん。俺だけならば生でそのまま食うか焼いて食うのだが、人間にも食わせたい。そこで、お前に調理を頼みたい。神ならば神の世界の獣を調理できるだろう?」
「あ、そういうこと。もちろんできるわよ。料理の神ですからね!その頼み、引き受けるわ!うんと美味しいの作ってあげる!」
「うむ、頼んだ」
「リュウデリア。私とレツェルが呼ばれたのはどういった理由かしら?私達は料理なんて大した腕前じゃないわ」
「オリヴィアの友神として折角だから招待しようと思ってな。きっとオリヴィアも喜ぶことだろう。ヘイススも一緒に来い。プロメス、お前を呼んでもいいがどうする」
「んー、ボクはいいかな。行ってもいいんだけど彼女達が萎縮しちゃうだろうし、最高神嫌いのオリヴィアも気分が下がっちゃうだろうからさ。それに仕事もあるし、部下がうるさそうだから」
「ふむ、そうか。では早速行くとしよう。俺に掴まれ」
「うぇへへ。いえーい!地上で酒盛りだぜぇい!」
酔っ払っているレツェルがフラフラとした足取りのままリュウデリアにべっとりくっついたのを皮切りに、彼の体に触れていくラファンダやヘイスス達。全員が触れたのを確認すると『瞬間転移』を使ってその場から忽然と姿を消した。
跡形もなく居なくなったリュウデリア達に、戦士部隊が騒がしさを見せる。次元を超えた瞬間転移が可能とすることはつまるところ、神の手引きが無くてもいつどんなタイミングでも神界に来ることができるというもの。加えれば、精鋭の黄金の戦士部隊ですら歯牙に掛けられないという強さ。
戦士部隊の隊長がプロメスの元へやって来る。肝心のプロメスは雑用をさせられたに等しいというのに、元気そうで良かったぁと呟いていた。
「プロメス様。あの龍はあまりに危険です。何か手を打つべきと進言します」
「……?ボクの前の最高神が正面から殺された相手を君達がどうするの?」
「そ、それは……」
「仲が良いレツェル達やヘイスス。ましてやオリヴィアを使ってリュウデリアをどうこうしようと考えない方がいいよ。そんなことしたらまた同じ事の繰り返しだし、今度こそ神界滅ぼされるよ?」
「奴にそこまでの力があると?確かに奴は異常な強さです。地上の生物として理解の範疇から逸脱しています。しかし何かしらやりようがある筈です……っ!」
「無理でしょ~。不可能に近いよ。そもそもとして、
「……はい。ですが、それが何か?」
「察しが悪いなぁ。その神界の獣を殺したのがリュウデリアだよ」
「な……っ!?」
プロメスから聞かされた真実に開いた口が塞がらないと言わんばかりの戦士部隊の隊長。話の内容を聞いていた戦士部隊も当然吃驚している。忘れることなどできない、神界が滅ぼされるとまで言った獣。それは黒い存在に殺されたとされていたが、それが奴なのかと驚愕するのだ。
そんなの嘘だ。信じられない。見てもいないことを頭ごなしに否定するのは簡単だが、実際にリュウデリアは過去に跳び、神界を滅ぼすとされた神喰らいの獣をその手で殺している。
愛する番を取り戻すために最高神を殺し、神界を滅ぼす獣まで殺しているリュウデリアにどうすることもできないことを悟る。怒りを買えば、今度こそ滅ぼされる。今まで地上のことなんぞ気にも留めていなかったのに、攻め込まれれば半ば終わりだと思ってしまう現状。神は上位者ではあるが、これが命を脅かされる感覚かと、恐怖を交えて理解した。
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オリヴィアの友神ズ
酒の神レツェル。料理の神リーニス。智恵の神ラファンダ。突然最高神プロメスから通信が頭に直接流れ込んできたのでビックリした。会いたいって言ってるのは誰かと思えば全く予想していなかった。
元々リュウデリアの目的はリーニス。神の世界の獣を料理してもらうため。
ラファンダとレツェルは折角だから一緒に誘おうと思っていた。その方がオリヴィアも喜ぶとリュウデリアが思ったため。
鍛冶の神ヘイスス
リュウデリア、バルガス、クレアの専用武器を鍛えた神。“あの方”という存在に言われて武器を造りに来たと言っていたが、実は過去に渡っていたリュウデリアであった。
言われたことを実行に移し、素晴らしい武器を造ってくれたことからリュウデリアからの信頼と好感度はかなり高い。泣いていると抱き寄せてやるくらいには高いのでクソレアな神。
最高神プロメス
見た場所にしか『瞬間転移』ができないので、リュウデリアがまず頼らなくてはならなかった神。チート権能を使ってレツェル達の頭に直接語り掛け、転移させても良いと承諾を得たので転移させた。
見た目は超美少年だが、最高神としての強大な神格と凄まじい権能による力は本物。
リュウデリア
神の獣を調理するなら、やっぱり神にやらせれば万事解決だろ!ということで刃向かう神々ぶっ殺した無慈悲の悪龍。
進化して強くなったことで少し前には足止めされていた相手を口先1つで殺せるくらいになってしまっている。
最高神が相手でも顎に使うし、最高神専用の玉座にはめっちゃ勝手に座る。キレられたらキレるので注意。
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