第258話 単独で次元を超える
神界とは、正真正銘の神々が生まれ、住まう別次元の世界。その世界は無限に続いているとされ果てがない。
食べ物は果物や野菜などがあり、地上で言う動物に位置する神獣などが居るため、神の生活は地上と差して変わらない。ただ、神界は地上とは違う空気が流れている。地上の生物にとっては激毒になるほどのものだ。
そのためリュウデリア、バルガス、クレア達ですら神界では地上と全く同じ空気を得るために魔法を常時使用している。加えるならば、住む世界が違うので神界が異物を排除しようと排斥行動を行うため、魔力で魂に至るまで防御し存在証明を行わなければならない。
そんな神界の、それも過去でリュウデリアは向かってくる神獣を全て殺し、シレッと異空間に突っ込んでいざという時の非常食として確保していた。魔法で作った異空間は生ものの鮮度を保つようにしてあるため、入れておいて腐ることはない。
龍神信仰にて、リュウデリアのみを信仰することが許された者達。自身に信徒ができたことを祝うためにパーティーのようなものを開こうとし、食材に神獣などを使おうと思ったものの、ある事に気がついた。それは、どう調理すればいいのかわからないという初歩的なものだった。
「主よ。これはどう調理すれば……?」
「ふむ……──────全くわからん」
「食べられると思って出していただいたのでは……?」
「食えるぞ、確かに。だが俺の場合
「そう……ですね……はい。恐らく食中毒?に近いものになるかと」
「だろうな」
調理場にやって来た子供達とヴェロニカ。そんな彼女達は調理してもらうための材料を出しに来たリュウデリアと共に居た。が、異空間から取り出したものは、イノシシのような頭だが目が4つあり、口から立派な牙が生えながらも1本の角が額から生え、背中には骨に似た材質で形作られた腕2本ある生物だった。
毛皮は茶色を基調としているものの、紫色の斑模様がついていて、なんとなく毒を持っていそうという印象だった。これは生で食べたら死ぬのでは……?とヴェロニカは思ったが、持ち出してくれたリュウデリアが居る手前言い出せず、ぐっと呑み込んだ。
胸の前で腕を組み、首を傾げてどうしたものかと悩んでいるリュウデリアは、尻尾の鋭く鋭利な先端で床をカリカリと引っ掻く。さてさてどうするかと数秒考え、あることを思いついた。
「調理ができんならば──────調理できる奴を連れて来ればいいだけの話だ」
「普通の料理人には荷が重いと思いますが、誰か調理できそうな人物のお知り合いが……?」
「“人”ではないが……まあいいだろう。少し待っていろ。あぁいや、他の料理を先に作っていろ。いいな」
「はい。畏まりました。さ、みんな。主に気に入ってもらえるような美味しいご飯を作りますよ」
「「「───────はい!」」」
「──────フハハハッ!ここに来るのもいつ振りだ?いや、そこまで間は空いていないか。まあいい。取り敢えず向かうか。何故か“
神界の神獣を自分だけが食べるならばまだしも、人間が食べるとしたら調理しなければならない。だがちゃんとした調理方法を知る者は皆無。そこでリュウデリアは単純に調理ができる者を連れて来ることにした。誰か?神の世界で手に入れたならば神の世界に居る奴だ。
つまり、リュウデリアの狙いは最初から神界に居る、とある神だった。ということは……だ。彼は今神界に居る。本来、神がゲートを開くことでしか行けない別次元の世界なのだが、彼は少し『瞬間転移』を弄り、別次元である神界に渡れるようにしたのだ。もちろん、一度見た光景の場所というのが条件ではあるが。
神界に辿り着く前に地上の空気を自身の周りに創り出し続け、魔力で魂に至るまで覆い尽くし、存在証明を行った。これにより神界の空気で窒息することもなければ、世界に異物として認識されず排斥行動にも移られない。
彼の目には、真上に見上げても頂上が見えない巨大樹が存在している。幹の太さは数キロはあるだろう。根元には街のように建物の集合して綺麗に並んでおり、場所によっては畑のようなものもある。前に来た時はオリヴィア奪還のために破壊を撒き散らしたというのに、見事に整備されていて破壊の跡が見当たらない。
あの純黒に侵蝕され、破壊され尽くした大地を戻せるのは最高神のプロメスくらいだろうと考えながら、リュウデリアは翼を使って飛んで巨大樹である世界樹の頂上を目指した。
数十キロメートルという途方もない距離を飛行して登り、頂上に到着するとやはりあった。最高神が居る宮殿である。前のものは下衆クズゴミ野郎の塵芥が建てたものだから新しくしているだろうと思っていた。でなければ、『瞬間転移』で跳べた筈だからだ。それができなかったということは、見て記憶している景色とは異なっているということだ。
新しくできているのは城だった。王城と言って良い。正面から見てシンメトリーになっていて、庭も細部まで手入れが行き届いている。庭の始まりの位置に降り立ったリュウデリアは正面玄関ホールまで一直線になっている庭を眺めてから、傍で庭に入る者を見定めている神の門番に目線を送った。門番は2柱居り、リュウデリアの姿を呆然と見ていた。
「おいおい。どうしたァ?俺の顔を見て固まったりなんぞして。そんなに見ない顔だったか?」
「は、き、貴様は……ッ!?」
「あ、あぁああの時に攻め込んできた純黒の龍ッ!?」
「あの時とはどの時だ?俺には見当もつかんが……クククッ」
「な、何故此処に居るッ!?」
「何が目的だッ!!」
「安心しろ。お前達塵芥が目的ではない。目的はプロメスだ。どうせあの中に居るんだろう?通らせてもらうぞ」
「ふざっ……ふざけるなァッ!!」
「誰が貴様のような悍ましく危険な存在を我らが最高神様の元へ向かわせるかッ!!絶対に通さんッ!!」
「───────── ほ う ?」
「「──────────ッ!!!!!」」
記憶に新しい、神界に攻め込んできた侵入者。3匹の地上の龍。復活ができる死ではなく、根底からの死を与えられ数多くの神が死んでいった戦い。門番はその戦いのことを覚えていた。いや、忘れもしない。あの時の恐ろしさは筆舌に尽くしがたく。もう見たくないとさえ思った。
ある意味、伝説の生物。地上には、神すらも根底から殺せる怪物が居るという事実は大きな噂となった。そんな伝説の龍が目の前に居る。ましてや目的は最高神プロメスという。純黒の龍が前最高神を単独で殺したというのは周知の事実。もしかしたら、また殺しに来たのかも知れない。
ならば命を賭してでもここで食い止める。そう強い意志を持って神の鍛治師が鍛えた戦士用の槍を強く持って鋒を向けたのだが、リュウデリアはその戦闘態勢に対して口の端を持ち上げて嗤った。
気配が、重くなる。引力を持ったかの如く吸い寄せられる感覚を味わい、しかし体が重い。槍を持つ手が大きく震える。目の前の地上の龍が恐ろしい。恐怖で固まった門番の神2柱に対し、彼は右手を持ち上げて人差し指を向けると……上から下に向けてゆっくりと振った。
「──────『墜ちろ』」
「──────がッ!?」
「──────ぐぎ……ッ!?」
ばきりと音を立てながら体が突然堪えきれないほど重くなり、美しく舗装された庭園の石床に顔ごと叩きつけた。身に着けた甲冑がビキビキと嫌な音を立てながら拉げていく。肉体が砕け散りそうだ。明らかにリュウデリアの攻撃に、2柱は目線を上げることすらできない。
ざりっとした足音を出しながらリュウデリアがゆっくりと歩き出す。まるで門番には最初から興味が無かったと言わんばかりの軽い足音に、最高神の元へは絶対に行かせないと意気込んでいた門番達は歯噛みしたが1歩も動ける状態にない。
「そういえば、神は殺されて死んでも復活するんだったな。前の記憶を足した記録を抱えて」
「ぐッ……くァあァ……ッ!!!!」
「う…っ……ぁあァ……っ!!!!」
「──────ならば動けない程度に加減する必要もないよなァ?ハハハッ!
やめてくれ。その一言すら言える暇もなく、道に落ちた果実を踏み潰されたように、うつ伏せに倒れた状態のまま潰れた2柱の神の死体。人間と同じ真っ赤な血が弾けるように広がり、流れていく。それを興味なさそうに眺めたリュウデリアは一言、見る価値もなかったなとだけ呟いた。
「──────居たぞっ!!」
「奴だっ!奴がまた神界に攻め入ってきおったっ!!」
「皆の者!武器を手に構えよ!我等が世界に奴のような存在を野放しにしてなるものかッ!」
「今此処に、神々の怒り、神々の恐ろしさを突きつけてやるのだッ!!」
「これはこれは……何時ぞやの戦士部隊ではないか。そんな数を集めてどうした?祝い事でもあるのか?」
「黙れッ!貴様こそ何の目的があって──────」
「待て待て塵芥。同じ質問を投げるな。俺は最高神に用があるだけだ。静かにして通すというのならば何もしないが?どうす──────」
「──────最高神様の元へ行かせるなッ!!この場で殺せッ!!!!!」
つい最近に攻め込んできて、数多くの神々を根底から殺した伝説の神殺しの龍。それも前最高神を単独で殺したという怪物が最高神に用があると言うのだ。そうかと言って通すわけがなかった。否の返答を武器の投擲によって返されたリュウデリアはその場から動くことなく、飛来する槍を受けて槍を粉々に粉砕してから、はぁ……と溜め息を溢した。
やれやれと言わんばかりに肩をすくめて、仕方ないと呟いたリュウデリア。別に殺すつもりで来たわけではないというのに、やって来たのは銀と金の甲冑を身につけた戦士部隊だった。空を飛べるようになる力が込められた脚の甲冑により空から見下ろしてくる、目測600の戦士達を前に、リュウデリアは……笑みを浮かべて嗤うばかり。
「──────お前達は全員『止まれ』」
「な、にィ……ッ!?」
「これ……は……ッ!?」
「嘗ての……四天神……リヴェーダ様の……ッ!?」
「言葉の……権能ッ!?」
「の、真似事だがな。効くだろう?俺が言った通り指先1つ動かせまい。まあ当然だが。あの戦いの時はお前達の相手は面倒だった。まだ俺も
悠々とした足取りで庭園の中央の道を歩いて進んでいくリュウデリアを、空中で止められてしまった戦士部隊の神々はただ見ているしかできなかった。
あの時は足止めくらいはできた。有効打も入れられた。攻撃が全く効かない……なんてことは少なくともなかったはず。しかしこれはどういうことだろうか。これだけ近くに居るのに、近づくどころか口先すら動かせない状況。むざむざ最高神の元へ向かわせてしまっている恥。
語らせずして気配でなんとなく神々の心情を察したリュウデリアは、これもまた興味なさそうに一瞥しただけで戦士部隊達の包囲網を歩いて抜けた。そして固まって動けない戦士部隊を背後に、右手を持ち上げてパチンと指を1度だけ鳴らす。
戦士部隊の神々は、1文字の言葉すら発することも許されず、リュウデリアの魔力によって全員1度に首が3周回った。首の骨がゴキバキと鳴り響き、神経が、皮膚が、筋肉がぶちぶちと嫌な音を立てて千切れていき、最後には首が落ちていき、『言霊』の魔法が解除されたのか頭を失った胴体も同じく落ちていった。
「向かってきたところで雑兵如きに何ができるか。それこそ塵芥であろうに。まったく、体操の方がやり甲斐があるわ。それにしても……これだけの騒ぎがありながらプロメスめ、何故姿を現さん。どうせ城の中にも雑兵は居るのだろう。全て殺して行くことになるぞ。俺は一向に構わんがなァ……フハハハハハハハハハッ!!」
王城の正面の両開き門に蹴りを入れて叩き割りながら楽々と侵入したリュウデリアは、見渡す限りに武器を構えて険しい表情で控えている神の戦士達を目にし、つまらなそうに溜め息を溢した。また性懲りもなく向かってくるぞ、塵芥共が。と、口にし……左手の人差し指を立て、まるで空中に絵を描くように術式を刻んで魔法陣を構築した。
「1度目はまあ、
凍てついている向かってくる筈だった神々を前にリュウデリアは宣言し、尻尾を振って周りに居る凍った神々を粉々に砕いた。ゆっくりとした歩みは止まらず、最高神プロメスの居る場所を目指した。
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神界
神々が住まう世界。地上の人間のような生活を神々も送っている。だが神獣は地上の魔物よりも凶悪凶暴巨大大量という害悪仕様。それでも神々はそれら神獣を狩って日々の暮らしの糧にしているので人間とは全く違う強さを持つ。
以前リュウデリア達が乗り込んで破壊した街や大地は、最高神プロメスの剣之宇都の力により元に戻された。
神々の戦士達
銀の鎧や金の鎧を身に纏った者達。金の鎧を着けている者が1番強い部隊。リュウデリア達に攻め込まれて殺された事を反省し、日々の厳しい鍛練を積んでいるため、攻め込まれた時よりも力がついている。
しかし相手が悪く、成長している筈なのだが瞬殺されている。もう何柱かはリュウデリア達の恐ろしさを思い出してしまったらしく、恐怖で脚が竦んで動けなくなっている。
リュウデリア
シレッと別次元への『瞬間転移』を可能とさせた。神がゲートを開かないと渡れないはずなのだが、イチイチオリヴィアに頼むのもな……ということで急遽完成させた。
神の戦士達が鍛練を行い成長している間に進化している怪物。神界では、悪性高い神殺しを為した伝説の龍……として語られていることを知らない。前最高神を殺しているので、バルガスとクレアよりも目立って禁忌の存在とされている。もちろんバルガスとクレアも禁忌認定されている。
本人がその事を知った時には、恐らく面白がって悪役ムーブ(元から)をかまして神の街やら王都を遊び感覚で壊滅させる。
──────────────────
最近また読んでくださる方が増えたので一応……読み専の方も多いと思いますが、私が単純に気持ち良くなるのと、書くためのやる気に繋がりますので
どうかぁ……高評価をぉ……お願いします!(土下座ァ
この小説の目次、その1番下に➕があり、3回押していただけると夜をぐっすり眠れます。あ、私が。
あ、それと……ギフトありがとうございます!泣いて喜びました!
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