第245話 情報収集の場所
「──────りゅうでりあ!アレなに!?いっしょにたべよ!」
「アレ?……綿あめか?俺は要らん。口周りがベタベタになる」
「えー……そっかぁ……」
「……はぁ。今回だけだぞ」
「……っ!やったー!」
鱗に砂糖が付着してベタベタになり、後が大変になるので綿あめはそこまで好きではないリュウデリアなのだが、ミリが見るからに残念そうにしているのを見て、溜め息を吐いて仕方ないと言いたげながら一緒に食べることを了承した。
使い魔の役をしているので自分で買いに行くことはできず、自身を抱き抱えているオリヴィアに綿あめが売っている店まで言ってくれと小声で頼んだ。態々言わなくても、目の前で会話をしているのだから聞こえている。最初からそのつもりだったと、フードの中で微笑んだ。
あまり我が儘は言わないようにと注意はしているものの、純粋なミリにはその言葉はあまり効果がなく、最初は気をつけるのだが初めて見るものに目移りしてしまい、結果としてリュウデリアを連れ回そうとする。身内には優しい彼は、妹の面倒を見るが如く付き合ってやり、その光景をオリヴィアが微笑ましく見守る構図が出来上がっていた。
「ミリの奴、自分がお姉ちゃんだーとか抜かしてたが、めちゃくちゃ妹じゃねーかよ」
「落ち着いている……リュウデリアと……元気な……ミリを……揃えれば……必然的に……そうなる」
「あの子ったら……クレア。バルガス。あの子が何か危ないことをしようとしたら、遠慮なく止めてください」
「それについては問題ねーよ。大体はリュウデリアのところに居るしな。アイツが見てない訳がねェ。ま、オレも気をつけとくが」
「問題……ない。だが……ミリは……あれくらい……元気な方が……いい。見ていて……和む……からな」
「ありがとうございます。皆さんが居れば、本当に心強いです」
リュウデリア達のことを後ろから更に見守るのが、スリーシャとバルガスにクレアである。スリーシャは人間に苦手意識を持っていて、ミリが同じような目にまた遭わないか心配なのだ。周りを見ても、彼女のような精霊は居ない。物珍しそうにこちらを覗き見ている者も少なくはない。
珍しいからという理由で攫われ、魔力を奪われ、死んでいった小さな精霊達。もうあのような光景は見たくない。だからミリが危険な目に遭わないか心配になっている。きっとそういった場面になれば、スリーシャは危険を
心配だ……という意識が気配として発せられ、クレアとバルガスはそれを感じ取って目を細める。これがどうでも良い者ならば放って置くのだが、リュウデリアの育ての母親だというのならば放って置くことはない。できることをやるまで。つまり、敵の排除である。
スリーシャはリュウデリア達、突然変異な龍達の強さが他と比べても強いことは知っている。ただ、その強さが一体どれ程のものなのかは完璧には理解しきれていない。龍という種族の中でも最強クラスの者達が。そんな存在が身近に、もっと言うなら3匹の内の2匹が肩に乗っている状況。スリーシャやミリに危険が及ぶ確率は、限りなく0に近かった。
「くんくん……なんかおいしそうなにおいがするっ」
「肉の焼ける匂いのことか?」
「そう!」
「果物ばかり食っていたクセに、肉にも反応するのかお前は」
「……?りゅうでりあがたべてた、どうぶつのおにくなんかいももらってたべたよ?」
「そうだったか?」
「うんっ。おいしかった!」
「なら屋台の肉も食べてみるか?」
「おりゔぃあさま、いいの!?」
「いいぞ。まだ食べられるならな」
「たべたい!それにまだたべられるよ!」
それなら行こうか。そう言って次に向かう場所をスリーシャに目配せして教え、歩き出した。肉とタレの焼ける香ばしい香りを頼りに歩いていくと、小さな出店のような屋台があった。店主は犬の獣人。歳は20代頃の若い青年だった。頭に手ぬぐいを巻きつけ、熱せられた炭の熱さに額から汗を流しながら商品を焼いていた。
オリヴィア達が近づいてくると、お客だと思ったのか人の良さそうな笑みを浮かべていらっしゃいと声を掛けてきた。傍に置いてある濡れたタオルで炭がついて黒くなり汚れた手を拭くと、笑みを浮かべたままお一つどうかと営業トークが始まった。
「ここはどういったものを売っている?」
「ホカホカに炊いた米を肉でぐるっと巻いた、『肉巻き』ってのを出してます!じいちゃんから教わった秘伝のタレを使ってるんで美味いですよ!美味しくなかったらお金はいらないんで!」
「ほう……?それ程自信がある……ということだな」
「はい!さあさ、どうです?今ならお安くしますよ!」
「ふむ……ミリ、食べたいか?」
「うん!おいしそうだから!こめ?っていうのもたべてみたい!」
「そうか。では店主、取り敢えず3つ貰おうか。使い魔達が気に入れば追加で頼もう」
「へへっ。ならうんと美味いのを期待しててくださいよ!」
青年は注文を聞いて、焼き途中の肉巻きを仕上げていく。炭を使った遠赤外線の焼きに肉汁が網を抜けて滴る。白く焼けた炭に肉汁が落ちてジュッと音を立てながら、風に乗せてタレと肉の焼ける匂いを運んでくる。食欲をそそる香りに、肉好きの腹ぺこ使い魔達が腹をぐぅ……と鳴らした。
ミリも匂いを嗅いで美味しそうだと言い、焼けるまで待ちきれないと言わんばかりにオリヴィアの周りをくるりと回る。その様子を犬の獣人の青年は笑いながら、肉の焼き加減をトングを使ってひっくり返して確認し、もう出しても大丈夫だと判断したら皿代わりの、綺麗なつるりとした表面が特徴の葉の上に乗せて差し出した。
「はい、肉巻き3つ!お代は食べてからでいいですよ!お約束通り美味しくなかったらいただかないんで!」
「ありがとう。スリーシャ、お前達に2つやるから食べていいぞ。私達は1つでいい」
「分かりました。クレア……じゃなくて、クレちゃん、バルちゃん。はいどうぞ」
「ミリも食べてみろ。リュウちゃんは少し待ってくれ。私達はそんなに食べないから、最後に全部食べてしまっていいぞ」
お試しで食べてみるので、1個ずつは買わないで、食べ合いをするために少なめにしたオリヴィアは、スリーシャ達の方に2つ渡し、自分達は1つを食べ始めた。ミリは体が小さく、口も小さいので一口は大した量じゃない。オリヴィアは一口食べられれば満足なので、残りは全部リュウデリアの口の中へと消えていった。
スリーシャ達は、2つをそれぞれ彼女が一口ずつ食べて、残りはバルガスとクレアに食べさせた。皆が口の中に入れた肉巻きを
焼きながら塗ることで、熱でタレが焼けて肉に焼き付き、旨みが凝縮されている。表面はパリッとしていながら、肉を噛み破ると、内側で控えているホカホカの白米が押し寄せる。タレの濃い味と相まってダンスをしているようだ。この店独自のタレの味は白米と合うこと合うこと。一行は美味いと言うことを忘れて、
「どうです?美味いでしょう?じいちゃん直伝のタレですからね!」
「あぁ。とても美味かった。どうやら使い魔達も気に入ったようだ。代金は無論払おう。ついでに追加で50個ほど購入したい」
「ごじゅ……っ!?」
「できないか?」
「で、できますできます!すぐに作るんでお待ちを!あ、3つの代金は1200Gのところ1000Gでいいですよ!」
「1つ400Gだな。ならば先に50個の方の金も払っておこう。合わせて21000Gだ」
「あ、ありがとうございます!」
まさかそんなに多く購入してくれるとは思ってもみなかった獣人の青年は、暑さとはまた違うところから出てきた汗を拭いながら、気合いを入れて肉巻きを何個も網の上に乗せて焼き始めた。今日は1人でこの屋台をやっているが、弟にも手伝ってもらえばよかったと少し後悔しつつ、折角美味しいと言って多く買ってくれたオリヴィア達の為に、腕によりをかけて作っていった。
「バルガス……じゃなくて、バルちゃんとクレちゃんも美味しかったですね。オリヴィア様がたくさん買ってくださいましたので、あとで食べましょう」
「「……………っ!」」
「おいひぃね、りゅうでり……ふぎゅっ」
「ミリ。リュウちゃんだぞ。名前を間違えるとお仕置きされてしまうから気をつけるんだ」
「ご、ごめんなさぅあうあうあう……っ」
店主が目の前に居るのに、『殲滅龍』であるリュウデリアの名をそのまま口にしようとするので、飛んでいるところを彼の純黒の鱗に彩られた尻尾に掴まり、引き寄せられて頬をムニムニと弄くられてお仕置きをされた。
南の大陸で王都を襲撃して滅ぼし、何十万人も人間を殺した災厄のような存在である『殲滅龍』と、同じく同等に危険視されている『轟嵐龍』と『破壊龍』の名は、1度の移動距離が長いとされている龍という種族であることも含めて、情報は大陸を通して世界中に発信される。
なので南の大陸で人間を大虐殺したリュウデリア達は、当然その所業から西の大陸にまで名前が広まっている。つまり不用意に口にしてしまえば混乱を招いてしまうのだ。彼等も態々自体をややこしくしようとは思っていない。今は旅の一行という立場で来ているので事を構えるつもりはないのだ。
もちろんのこと正体がバレてしまい、人間達が排除行動に移った際には、旅の一行が神と龍と精霊のパーティーであると情報が広がないよう口封じのために、そこに居る者達全員が死ぬ殲滅が行われる。
「できました!お待たせしました!」
「思ったよりも早かったな」
「急ぎましたけど、全部しっかり焼いたので大丈夫ですよ!まいどありがとうございましたー!」
「ありがとう」
「さて、腰を下ろして食べるか?それとも何処か向かいながら食べるか?」
「図書館を探そう」
「としょかん?リュウデリアが言っていた人間の街などに置かれている情報の収集場所のことですか?」
「そうだ。そこでならスリーシャもあらゆる種類の情報を得ることができるだろう。俺が人間共の社会について多少なりとも知っているのは、図書館を利用し情報を頭の中に入れていたからだ。言っておいて損はない」
「そうですか。ではその図書館に行ってみたいですね。よろしいでしょうか、オリヴィア様」
「構わないとも。場所はそこら辺の人間に聞けば分かる。早速行ってみようか」
「ありがとうございます」
リュウデリアが物知りであるのは、図書館に置いてある本を読み漁り、知識を吸収しているからだ。選り好みをせず、置いてある本を1から100まで全て読んで網羅し、それを忘れることなく記憶しているからだ。例え読めない言語があったとしても、法則性を見つけて解読して理解する。
言語よりもなおのこと複雑なものである魔法を扱うからこその離れ業なのか、元からの頭の良さなのかは分からないが、リュウデリアにとって図書館での情報収集はやらなければいけないことの1つだ。バルガスとクレアも、最近は自然の中に住んでいたので本とは離れていた。久しぶりに読みたいという気持ちだ。
大通りを歩き、オリヴィアがすれ違った適当な人間に図書館があるかどうかを聞き、あると答えられたので道を教えてもらう。大まかな道を把握すれば、あとは歩くだけなので先程購入した肉巻きを送っておいた異空間から取り出して皆で食べ始めた。
「んー!やっぱりおいしい!」
「肉と米がよく合うな」
「うむ、美味い」
「人間はこんなに美味しいものを作れるんですね」
「そこは素直にスゲーと思うわ。ンなの考えねーもんな、オレ等。精々肉焼いて食うぐらいだ」
「それも……稀で……殆どは……そのまま……食う」
「りゅうでりあも、もりでどうぶつをそのままたべてたね!」
「調理というものを知らなかったからな」
そもそもとして、リュウデリア達は龍なので普通に過ごしていれば調理をするという考えにならない。得物を捕らえて食らう。それだけだ。元の頭が良いので焼くくらいならば普通に思いつくのだろうが、調味料を使った料理は思いつかないだろう。故に、彼等は人間の料理については素直に感心している。
今皆で食べている肉巻きも、米と肉。大雑把に言えば醤油さえあればどの過程でも手頃に作れるものだ。しかし、この米を稲から育てて収穫し、醤油は大豆から作らなくてはならないので、そういった知識が前以て持っていないと考えつくことすらないだろう。よくもまあこれだけのものを考えつくものだという感心。
昔の人間が無償で提供したという、米や調味料の数々。これが無かったら今頃、どのような食生活を送っていたか検討もつかない。もしかしたら採れた野菜などを煮込んで味の薄いスープや、パンなどを主食にしていたかもしれない。そうなれば、旅をする楽しみがかなり減るところだった。
一行は食べ歩きをしながら図書館を目指す。リュウデリア達と同様に知識をつけるため、スリーシャに本を読ませるために。そしてオリヴィアは、歩いている最中に武器を持った人間を見て、あ……と言って何かに閃いたようだった。
「スリーシャ。私達と同じように冒険者登録をしてみるか」
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スリーシャ&ミリ
森の精霊なので果物などをメインで食べていると思われるが、実際は肉も食べる。リュウデリアが森に住んでいた頃は、彼が取ってきた獲物を貰って食べたりもした。魚も食べるが、身近にあった果物を主に食べる傾向にはある。
ちなみに、ミリは苦いものが苦手で、スリーシャは苦手なものがない。強いて言うならば人間。
バルガス&クレア
久しぶりの人間の料理に舌鼓を打っている。人間のことは弱くて愚かでしょうもないと思っているが、料理を考えついたことには心より感心している。ついでに突然変異のように強い個体にも。それ以外は基本どうとも思っていない。
リュウデリア&オリヴィア
リュウデリアは肉巻きを気に入った。元よりガツンとくる味つけが好みなので、いくらでも食べられる。大きさ的に一口で食べていくので50個は割とすぐに無くなる。
オリヴィアは2個食べたらもう満足したので、リュウデリアにあーんをさせて食べさせている。
自分達が冒険者登録をしているのだから、スリーシャのこともついでに登録してしまおうと思いついた。
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