第238話 延々の死
死とはどんなものだろうか。死についていくら考えようと我々に答えは出せない。何故なら死を経験していないからだ。
臨死体験をした者が、死後の世界を見たと話す時がある。だがそれは一時的に死に近い状態に陥っただけで、息を吹き返したならば死ではない。つまり死んでおらず、死を理解したことにならない。賛否両論あるだろうが、死とは終わりだ。終わっていないのに死を知るのはおかしな話だ。
不死身は死なない。死んで蘇っても、それは死にきれていないため死ではない。アンノウンも死を繰り返しているが、復活している時点で死そのものの状態にはならない。だが、死とはどういうものであるかの一端は理解出来ている。それだけ死を重ねすぎた。
死とは終わり。何もかもの終着点。それをこの短時間でどれだけ経験させられていることか。自身はむしろ相手に死を与え、存在を消さなければならない。歪みを生み出し調停を狂わす異分子を排斥する星の意志。“調停者”として生まれたからには使命を全うする。それが存在意義。なのにこれはどうなっているのか。
「げ、『
「──────効かない。効かない、効かない、効かないんだよッ!!そんなものはどうでもいいッ!もっと、もっとお前を壊したいッ!殺したいッ!俺を殺してみせろッ!死ぬほどの死戦を与えてくれッ!!はははははははははははははははッ!!!!」
「ぁ……ぁああああッ!!何なのですかッ!あなたはッ!」
「俺はリュウデリアッ!リュウデリア・ルイン・アルマデュラッ!!!!そして龍だァッ!!!!」
死ぬ。目の前が真っ暗になり、何もかもが終わる。何も感じない無の状態が訪れる。星との接続が死により切れて、再接続されて復活する。五体満足。何もかもが同じ。死ぬ前と何も変わらない。ただし、死ぬ前と同じ死を与えられる。同じ復活。同じ死。同じ相手。同じ狂気。アンノウンの精神を蝕みつつあるのは、何と言えば良いだろうか。
また死んだ。首を純黒の刀で斬り落とされた。復活する。死んだ。頭を殴り壊された。復活する。死んだ。蹴りで体が2つに砕かれた。復活する。死んだ。復活。死。復活。死。復活。死。復活。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。
わたしはいったい……なんどしんだのだろうか。
「──────楽しいなァッ!強いお前との殺し合いは楽しくて心が踊るなァッ!!良いんだぞ遠慮しなくてもなッ!!地球が壊れなければ復活するんだろうッ!?ならば
わたしはいったい……なにとたたかっているのだったか。
斬られて体が半分になり死ぬ。頭を掴まれて引き千切られて死ぬ。抱き締められてへし折られて死ぬ。炎に焼かれて死ぬ。凍らされて砕かれて死ぬ。雷を受けて焦げて死ぬ。風の刃に斬り刻まれて死ぬ。岩に潰されて圧死する。大爆発に巻き込まれて粉々になって死ぬ。首を噛み砕かれて死ぬ。尻尾に貫かれて死ぬ。貫手が腹を破って死ぬ。魔力の光線に消し飛ばされて死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死とは何だったかすら忘れそうになるほど死ぬ。
一方的には死なない。もちろんこちらの攻撃も届くし、少量になってしまっているとはいえダメージは与えられている。蓄積していけばその内彼の命に届くだろう。
──────その内とはいつだ?いつまで死ねば良い?
普通は何度も死なないところを何度も、何度も死んでいる。殺されている。その度に復活し、殺される。攻撃が通っても効いている様子がない。いや、痛みを生を実感するための要素の1つにしか考えていないのだ。だから痛みから恐怖を感じないし、死ぬほどの戦いを求めているから死を恐れない。その他なんてどうでもいいから、被害を考えない。
アンノウンは“調停者”である。存在意義は調停を脅かす異分子を排斥すること。なのに何故星を守っている?その他大勢の命のためにその身を犠牲にしている?確かに調停を守ることは先の者達を守ることも同義だろう。だがそれは結果的にそうなのであって、直接守るものではない。
守っているのか、救っているのか、消そうとしているのか、殺されているのか、殺したいのか、消したいのか、生き残りたいのか、どうしたいのか、境界が混ざり解らなくなる。考えている暇が無い。その暇を与えてくれない。へばりついて離れてくれない狂気が、向こう側からやって来る。
触れれば触れるほど、離してくれず、侵される。侵蝕してくる。純黒に染まる。犯される。解らなくなる。ぐちゃぐちゃになる。目に見えない何かが新たに生み出され、追いつめようとしてくる。足掻かなければならない。抵抗しなければならない。なのにそれは、足掻けば足掻くほど、抵抗すれば抵抗するほど歓喜に身を震わせる。陶酔感に酔い痴れて、恍惚となり、より上を求めてくる。
「わ、私は調停を守るために……ッ!!」
「そうだ。調停を乱し歪める、邪魔な異分子の俺を殺すんだ」
「そうです……あなたを殺し……いえ違いますッ!!“特異点”を消すために……ッ!!」
「
「では何故、私が死んで……ぅぁ……私は死にません……私は星がある限り不滅の──────」
「あぁ──────
「わ、私……っわたしは……っ!!」
何かが込み上げてきて、黄金の剣を握る手の力が弱まってしまった。蹴りで剣が弾き飛ばされ、リュウデリアに正面から抱き締められる。腕を巻き込まれて動けない。ミシリと自身の体と力んでいる彼の体からも聞こえてくる。ばきばきと骨が砕けていく音と激しい痛みに包まれて、口から血を噴き出した。彼の顔に掛かると、口を開けて長い舌で血を舐め取る。
目の光が殆ど失われて痙攣するアンノウンを、まるで恋人と再会して交わす熱い抱擁のように抱き締めたまま、彼は顔に付いた血の次に、アンノウンの頬をぬめる長い舌で下から上へと舐めた。生温かい感触と、興奮から乱れている息遣い。鋭い牙がある口を耳の傍に近づけて、囁くように語る。
「殺し合いは──────愉しいだろう?」
「か……ぁ゙……っ」
「俺が死ぬその時まで──────延々と殺し合おう」
「ごッ……ぉ゙ぼ……ッ!!」
「幾時間でも幾日でも幾月でも幾年でも、例え万年でも億年でも────── い く ら で も な 」
────────────ッ!!!!!!!!
潰されて死んだ。また死んだ。でも復活する。そしてこの復活は
何を愉しんでいるのか解らない。愉しい理由が思いつかない。何を愉しめばいいのか検討もつかない。でも死は訪れる。何度もだ。飽きようが拒否しようが鬱陶しく思おうが悲観しようが求めようが認めようが、アンノウンはリュウデリアによって殺される。
1時間。10時間。1日。5日。7日。15日。30日。50日……100日。3ヶ月強……アンノウンはリュウデリアに殺され続けている。戦いは変わらない。全力だ。全力で殺しにいって、全力で殺しに来る彼に殺されて復活する。休みは無い。戦いは途切れない。延々と地獄のように終わらず続く。時間と積み重ねられる死に、アンノウンは少しずつ侵されていった。
「何日経ったァッ!?だがまだ終わらんぞッ!感情が昂ぶって仕方がないッ!その度に魔力が呼応してしまうッ!時間など些事だと実感するッ!不思議と疲れんッ!だがそれでいいッ!もっと殺ろうッ!もっと殺させてくれッ!そして
「ぁ……ぁあ……ああぁあああああああああッ!!!!も、もう嫌です……し、死にたくありませんっ……復活したくありませんっ……もうこの戦いは……ッ!」
「くっははッ!!はっははッ!死ねィッ!!!!」
凶刃が振り下ろされた。話を最後まで聞いてくれない。それこそ、自身が死ぬまで終わらず、それ故にアンノウンが諦めず戦い続けると思っている。地球への星を殺しかねない魔法を受け止めるのも嫌だ。殴られるのも、蹴られるのも、斬られるのも突かれるのも貫かれるのも締められるのも何もかも嫌だった。
100日の殺し合いの中で、ダメージはリュウデリアに蓄積されている。その他にも全力を常に出し続けたことで両腕両脚の筋肉は断裂して皮膚を突き破り血を噴き出し、左眼は斬られて潰れ、口から血を流している。鱗も自身の長時間に及ぶ過剰な強化に耐えきれず殆どが罅が入って砕け散る寸前だ。なのに下から新たな鱗が生え始めるというループを繰り返し、動く度に砕けて古くなった鱗が剥がれていく。
息も肩でしているし、最初と比べて気配も小さい。なのに魔力はそこを見せない。雰囲気が圧倒してくる。諦めのあの字も見せず、思考が止まらない。殺し合いに飽きを見出していない。どこまでも、本当にどこまでも殺し合おうとしている。残る黄金の瞳に見られているだけで、獲物が自身しか居ないのだと実感し、逃げられず逃がしてくれないことに絶望を感じるようになった。
アンノウンは使命も何もかもを放棄し、唯一つ。その他の有限の命ある者達と同じ考えに至った。それは“死にたくない”。ただそれだけ。難しい考えなどではないシンプルなもの。もうこれ以上戦って死を経験したくなかった。復活はしてしまう。リュウデリアは止まらない。ではどうすればいいのか。アンノウンにはそれが解らず、それにすら絶望し、結果、形振り構わないという選択肢を作り出した。
「ま、待ってくださいっ!!」
「ぁあ?」
「ふ、ふふ……あはは……ま、待ちましょう?ね?少しだけ、止まっていただけますか?」
「何をだ。俺まだやれる。動ける。殺せる。戦える。お前は俺よりも更に動ける。ならばやれることは1つだろう?」
「……っ……ぉ、お願いですから……もう……止まってください……理由は何でも良いです。何でも良いんです。だから……お願いします……っ」
向かってくるリュウデリアに正面から抱きついた。いや、縋り付いたと言えば良いだろうか。あれだけ感情の表現が薄かった美麗なアンノウンの顔に、
全身が自身の血で塗れている所為で、アンノウンが復活する度に新しくなる装束を赤く染めていく。鋭い右眼がアンノウンを見下ろす。振り下ろして殺そうとした純黒の刀をゆっくり下ろすだけの動作で、数十枚の鱗が砕けながら地面に落ちた。ぱらぱらと落ちた彼の鱗をアンノウンが急いで拾い始め、両手の上に乗せて供物を捧げるように震えながら差し出す。
アンノウンは何が何だか解らない。解らないからよく解らない行動に出てしまっている。意味の無い行動で取り敢えず戦いを終わらせようとしていた。理由はもう何でも良い。そう言ったことは本心で、この戦いが終わるならば何でもするつもりだった。
「……戦いに飽きたか?」
「違うんです……もう死にたくないんです……私ではあなたを倒せません……消せません……だからもうやめてください……お願いしますっ!」
「もう……戦う気がないのか。俺はこれだけ疲弊していて、あと少しで殺せるかも知れないのにか?」
「──────あなたは死にません。死ぬようには見えません。例え疲労して、死ぬ寸前だとしても、あなたは死なないんです。私では不可能です……だからもう……」
「──────興が醒めた」
折れてしまった。心が折れてしまった。粛々と行ってきた使命を放棄してまで、この戦いを終わらせたかった。それを告げると、興奮して乱れていた息が戻り、妖しい光を持っていた眼はそれを失わせ、鼓動のように脈動して溢れ出ていた魔力は静まり、魔法のために回していた思考回路は平静へと変わった。
冷たく、白けた声だった。興味が移り変わりやすい子供が、今先程まで遊んでいたオモチャを捨て去るような変わり身の早さで、リュウデリアは価値が無くなってしまったアンノウンを見下ろした。縮こまっているアンノウンに、彼は手を伸ばす。
愉しかったのに。そう最後に呟いてから、縋り付く目をしたアンノウンの頭を握り潰して溜め息を溢した。
──────────────────
アンノウン
殺し合いに心が折れてしまった。終わりそうに思えて終わらない戦いに意味を見出せず、使命を放棄して終わりを求めた。戦いを終わらせる方法が解らず、結果……意味の無いことを取り敢えずしてどうにかするという、意味の解らない選択肢を取った。が、幸い戦いは終わることになった。
リュウデリア
100日間。全力戦闘を繰り広げながら、その昂ぶった感情を媒介に魔力を急速に生み出し続け、無限に思える量の魔力を半永久的に稼働させ続けていた。完全に無意識であり、感情の昂ぶりにより行われたもの。
硬すぎた鱗は自身の長時間に於ける過剰な強化と激しい動きによって砕けながら、それを補うために肉体が鱗を作り出し、動く度に古くなった鱗が砕けて落ちる。筋肉はほぼ全身に於いて断裂し、左眼は斬られて潰れ、自身の動きで内臓にダメージを負っている。だが戦えることを自覚していた。
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