第234話 星の意志
「聞き、理解してください。
リュウデリアはアンノウンの正体について推測し、それを話した。答え合わせは簡単に終わらせている。確実性が無いので合っている部分もあれば、間違っている部分もあるだろう。謂わば近からず遠からずと言った具合。
当のアンノウンから明かされなければ不明瞭な部分が解らない。だが明かして欲しいというものでもない。リュウデリアとしては、相手の情報を少しずつ掴んでいき、最終的には完璧に明かすというのもまた、楽しみの1つと考えているからだ。何故、何で。そう思い疑問が湧いたら、知りたいという好奇心で彼は動く。
正直教えてくれるならそれでも良いし、教えたくないならばそれでも良い。そう思っているリュウデリアに、アンノウンは自身から明かすことにしたようだった。どちらにせよ知られるならば教えてしまっても良い。教えたところでどうしようもないのだから……と。
「私はこの世の調停の和を乱す者を間引き排斥する
「……星の意志?」
「この星……“地球”そのものですよ。あなたが先程語った『核』は、謂わばこの星なのです。故に、如何なる存在であろうと私を倒すことはできません。私を完全に倒す……それはつまり、この星を破壊することと同義なのです。星を破壊したとしても、あなた達にとっては詰みでしょう」
「あぁ……なるほど。そういうことか。随分と大層な『核』だな。では何か?星
「端的に言えばそうなりますね。星にとって邪魔になる異分子……“特異点”を消すことが私の使命。そのために生み出されたのですから」
「ほう……」
普通の存在ではない。それは今更の話であるが、スケールが大きすぎた。生物が住まう地上というレベルを超え、地球という星そのものがアンノウンの『核』である。そしてアンノウンを完全に倒すということは、つまり『核』の地球を破壊しきるということと同義。つまり生物は死に絶える。
地球の意志により生まれたというアンノウン。地球は生きていて、意思すらも持ちうるという事を知らなければ、まずアンノウンの正体には辿り着けない。リュウデリアは何となく察した。魂が無いアンノウンが何かと繋がっているが、先があやふやになって解らなくなっていたのだが、それは繋がり先が大きすぎて視えなかったのだ。
相手をしているのは在って当たり前だと思い、存在していることに疑問すら抱かない星。そしてその星が遣わせた、邪魔となる存在を消し去る“調停者”。まさしく、星の調停を守る者。リュウデリアの強さに星すらも危機感を抱いたということとも捉えられてしまう。
アンノウン自身からのタネ明かしにより、正体が判明した。そして今考えられるアンノウンの打倒方法がない。本体は地球だという者に、有効となる攻撃が思い浮かばないのだ。倒すには地球諸共という話になり、地球上の生物である以上リュウデリアはその手段が取れない。つまり、明確なアンノウンの攻略方法が無い。
「理解しましたか?あなたが私に勝てない理由が。何をしようと、不可能なのです。この星で生きている以上何をしても無駄です。ならばこれ以上の戦いは必要ないと思いませんか」
「俺に諦めて死ねと?」
「最初からそう提案しています」
「無理……不可能……か。
「私に勝てないというのは認めるのですね」
「──────状況はな」
「……?」
首を傾げるアンノウン。勝てないのは事実。いや、正確には勝つと自身含めて全てが死ぬと言った具合か。兎も角として、リュウデリアは自身の状況を正確に把握しているしているからこそ、現時点でアンノウンに勝つ方法が無いことを認めている。
聡明である彼を以てしても、勝つための手段が
敵を前にして静かに目を閉じ、すぅ……と、息を大きく吸った。胸が息を吸い込んだことで盛り上がる。そして吸った空気を全て吐き出した。腕を広げて、今ある何もかもを感じ取る。吹いて鱗を撫でる自然の風。太陽の温かな光。眼下の地上の景色。遠くの空に浮かぶ白い雲。これらの全てが、彼の状況を祝福しているようだ。
何をしているのか少々解っていないアンノウンは再び首を傾げる。これは今を実感しているだけだ。特別なことなんて無い。ただ息を吸い、吐き出し、実感に浸り、胸に燻る想いを強くする。
「なァ……アンノウン」
「何ですか?」
「強い……というのは、どう思う?」
「抽象的な問い掛けですね。それに何の意味が?」
「良いではないか。少しくらい。話に付き合え。なに、そう長話にはならん」
子供に言い聞かせるように語り掛けてくるリュウデリアに、目を細めたアンノウンはある種の不気味さを感じながら話し合いに応じた。星の意志から生み出されたと言っても理性はあり、個々としての考えを持つ。故に彼の言う『強い』というものに対して少し考え、答えを出す。
「その時点での最高な現状なのではないですか。精神面なのか、それとも肉体面のことを言っているのかは知りませんが、強いと言うからにはそういう事だと思いますが」
「ほう……お前、意外と普通の考え方をするんだな」
「なっ……。……………………あなたは私を馬鹿にするために問答をしたのですか」
「うん……?はは、そんなつもりで言ったのではない。それに、お前の場合普通というのは良い意味だぞ。よく解らん存在だというのに、考え方までよく解らんと、ますますよく解らん」
「はぁ……もういいです。それで、あなたはどうなんですか。『強い』という事に、何を思うのです」
「そうだな……強いというのは、俺からしてみればつまらなく、虚しいだけのものだ」
はぁ……と、溜め息を吐き出しながら、虚しいと言うリュウデリアによく解らないという顔をする。アンノウンには確かに解らないのかも知れない。何せ“特異点”という存在を消すためだけに生み出された、地球の防衛本能のようなものなのだから。強さについて考えようとすら思わないだろう。
「理解している顔ではないな。まあつまり、強いと俺の相手になってくれる奴が少なく、つまらないというだけの話だ。難しいことなんて言っていない。単純だろう?」
「まあ、そうですね」
「そうですね、と……クク。興味は薄いか」
「そんなことより、つまらないから何なのですか。要領を得ません」
「……俺は強い。殆どの生物が相手にならん。無限に続く次元……神界を滅ぼすという獣も、結局本気で相手にしたが全力が出せなかった。俺の
「まさか、だから今が楽しいとでも?」
「楽しい?ちょっと違うな──────これからもっと楽しくなる」
怒気も、殺意も、嫌悪感も、何も感じない。あるのは、歓喜だった。黄金の瞳に炎が灯る。朦々と燃え盛る、期待の炎だ。リュウデリア・ルイン・アルマデュラは強者が好きだ。単純な強さが好きだ。他者を寄せ付けない強さを求める。だがそれは自身が求めるのではなく、相手に求める。自分を超える存在を、凌駕する力を、目も眩む特別を求める。
どうか楽しませてくれ。自分と殺し合ってくれ。叩き伏せて、見下せるならばやってみてくれ。自身が弱者なのだと突きつけてくれ。そして、それだけの者が自分の前に現れてくれ。自殺を望んでいるのではない。強い者と殺し合う、その瞬間を、その刹那を狂おしいほどに求めているのだ。外見も思想も何も問わない。強ければ良い。
男だろうが女だろうが、人間だろうが龍だろうが獣人だろうが、神であろうと構わない。強ければ良い。弱いとダメだ。あと1歩で殺せるのに殺せず、あと1歩で殺されるが届かせない。そんな危ない橋渡りをしたい。その想いが強く、強く、強く、そして強く、狂気となって膨れ上がり、魔力が独りでに呼応する。
雰囲気ががらりと変わり、得体の知れないものへと変貌する。今までも異質ではあったが、今の彼は異質からもかけ離れている。触れる者も、触れようとする者も、それこそ何もしていない者まで呑み込もうとする底無しの何か……そう、言葉にするなら混じり気の無い『純黒』だった。
大気に亀裂が入る。彼の傍の空間に穴が開き、そこに手を突き入れる。何をしているのかと思えば、何となくその光景に見覚えがある。彼と戦う前に消した、2匹の龍と同じ動作だ。
異次元となった空間に手を入れてから、何かを掴んだ。彼はそれを無遠慮に引き抜いていく。出てくるのは純黒の柄と鞘だった。それが姿を現した時、アンノウンは視界が純黒に塗り潰され、独りぼっちになる感覚を味わった。言いようのない、不安を抱かせた。そしてその不安を払うために、地球の意志により生み出された特別な体は、彼へと向かっていた。
「お前は此奴を使うに値する。いや、使わなければならない」
「──────ッ!!」
「頼むぞアンノウン。易々と死んで壊れてくれるな。俺の気持ちを踏み躙らないでくれ」
左手に持った鞘を左腰の位置で固定し、右手で柄を握る。左手の親指が鯉口を切り、彼を表すような純黒の刀身が現れる。音も無く、ただ抜刀して左斜め下から、対角の右斜め上へと振るった。その動きは流麗で、隙も無く、故にアンノウンに回避という選択を迫らせた。
受け止めんと突き出した黄金の剣とは別に、体が勝手に後方へ回避を開始していた。反射の回避に自身でも困惑したアンノウンは、純黒の刀身の先端、鋒に眼球を斬り裂かれる寸前の距離で避けた。そして目にしたのは黄金の剣が二振りとも、ぐうの音も出ぬ程綺麗に真っ二つにされているというものだった。
斬り裂かれた黄金の剣は、一瞬で純黒に侵蝕され、砕けるように分解されて消えた。リュウデリアの鱗を堂々と斬り裂き、腕すらも落とした切れ味を持つ黄金の剣を、二振り纏めて斬った。太陽の光を浴びて、その光すらも呑み込む純黒の刀は、彼と同じく異質を超えた異質さだった。
「何を驚く。既に同じような経験を2度はしている筈だぞ」
「……確かに彼等があの武器を取り出した時は、不思議な感覚を覚えました。しかしあなたのそれは、彼等と比べてもその枠組みから外れています」
「かも知れんな。何せ、能力が能力だ」
「能力……」
「俺がつまらないと感じてしまう要因の1つだ。それを見せてやろう。久し振りだからな、特別だぞ」
刀身を剥き出しにし、抜刀している状態の刀を鞘へ戻し納刀する。左手に持つ鞘ごと刀を目前に翳し、右手を添える。刀から尋常ならざる気配が漂い、膨れ上がっていく。世界が塗り潰されようとしている。純黒が空間を呑み込んで支配し、解き放たれるこの瞬間に歓喜している。
相当な事が無い限りは使わない刀を使い、そして自身の持つ本来の力を解放する。知らずの内に脳や肉体が自壊を防ぐためにセーブしている力を引き出す。肉体は隠れている潜在能力により自壊をしようとするが、本来の力を取り戻した肉体はそもそもとして、より強靭となり壊れない。
全てが完璧に噛み合い、最高の状態、完璧の全力を解き放つ。アンノウンは身の毛もよだつ感覚を味わう。目の前で対峙する彼を生物や龍と認識するよりも、ただただどこまでも黒い純黒としか思えなくなった。
「……解号。
リュウデリアのみ使うことが赦される、彼の力の一部である専用武器。その真名の解放。黑神世斬黎は歓喜に打ち震えている。使われてこその武器。解放してこその力。彼と全てが接続され、使われる。それが堪らなく素晴らしく、崇高で、喜びだった。
溢れ出る莫大な魔力と、感じ取れる並外れた生命力。そして鋭い気配。本来の力を解放し、取り戻したリュウデリアはそこで終わらず、新たな力をアンノウンに見せつけた。己の魂に刻まれた、たった1つの術式を読み解き、解明する絶技。世界広しと言えど、できる者は少数である魔の道の
「術式展開──────『
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アンノウン
星の意志から生み出された、異物の排斥者。世界の調停を乱す者を消し去る調停者。それ故に魂を持たず、『核』はアンノウンを生み出した星そのもの。なので完全に倒しきるには、星を消すしか方法が無い。そのため地球に住む存在には、明確な攻略法が無い。
黄金の剣は、アンノウンと同じく星により鍛えられ創り出された武器。なので数に限りなど無く、星がある限り無限に生成される。恐ろしいほどの切れ味は、星にとっての異物を確実に排除するために概念的に強化されている。
星の異物を排除するためという性質上、“特異点”に必ず勝利するという概念を内包するが、“特異点”によってはその概念を無効化する特別な者もいるため、絶対に勝てるという保証は無い。それ故に星に悪影響を与える異物。特異な点。ただし、アンノウンはこれまで全ての“特異点”を消してきた。
リュウデリア
オリヴィアと共に生きる日々は愛おしくて好きだが、ほんの少しだけ不満があった。圧倒的強者との、ギリギリの殺し合いを望んでいる。強ければ強いほど彼のボルテージが上がり、より高みへと上る。それでも相手にならないだけの強さを持つ者と殺し合いたいという想いが、心の奥底に根を張っている。
誰もが思わずにはいられない、理不尽なほどの強さを持ち、それに付随する純黒による侵蝕を持つが、その力によって戦いが楽しめないことに不満を抱いている。
術式展開『
魔法、魔術などで使われる構築した術式ではなく、魔力を内包している者達が、魂に刻み込んでいる変えられない唯一つの術式。これを発現させると、自身に有利な場所へ周囲を強制的に変化させる事が出来るが、そもそも出来る者は殆ど居ない。その難易度は魔の道を極めに極め抜いた窮極の奥義故に超高難度の絶技。魔の道の頂点。
『
リュウデリア・ルイン・アルマデュラの専用武器。鞘、鍔、柄、刀身の全てが純黒である刀。恐ろしいほどの切れ味を持ち、その鋭さは黄金の剣をも軽く凌駕する。折れず曲がらず錆びず、リュウデリアの一部となっている武器。
使うと強くなりすぎて相手を一瞬で殺してしまうという単純な理由から、常に異空間に仕舞われているため、使われる時に歓喜する傾向にある。
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