第222話 お揃い
「──────俺と同じ魔力の放出方法ではないか!お揃いだな!実に素晴らしい!ははははははははははははッ!!!!」
「ふぐっ……」
感極まったようにオリヴィアを抱き締めるリュウデリア。脇に手を入れてから抱き上げてクルクルと回った後、下ろしてから抱き締めていた。彼の声色はとても嬉しそうだ。本当に嬉しさから抱き締めているということが分かる。
こうなった切っ掛けというのは、オリヴィアがリュウデリアに向けて超高威力の魔力の光線を撃ち放ったのが元なのだ。あのリュウデリアが防御の姿勢に入るほどの威力であり、彼が防いだ場所以外の部分は地中深くまで消し飛んでしまった。
自分でも思ってもみなかった威力になり、オリヴィアはてっきりリュウデリアに怒られるものだと思っていた。しかし、彼は怒るどころか嬉しそうに褒めてくるのだ。抱き締められるのは嬉しい。けど、何がそこまでさせているのか微妙に分からない。なので彼女は、満足した様子で離れる彼に問い掛けたのだ。
「怒っていないのか?」
「怒る……?何に怒ると?」
「いや、思っていたよりも高い威力の攻撃を……」
「あぁ、その事か。全く気にしていない。確かに良い威力ではあったが、あれで俺は倒せんぞ。まあそんなことよりも、俺が興奮しているのはオリヴィアの魔力の放出方法が俺と同じだったからだ」
「その魔力の放出方法というのは……?」
「俺がよくやる
口内に溜めた魔力に指向性を与え、一度に放出する魔力放出。魔法陣を必要としない簡単な攻撃に思えるそれは、溜め込む魔力の量が増大すればする程制御が難しくなる。ましてや、リュウデリア程の莫大な魔力ともなると、暴発して辺り一帯はおろか、自身すらも巻き込んで自滅しかねないものである。
溜めて一点に凝縮しながら、それが暴発しないように抑え込みつつ、放つ際には全方位に魔力が飛び散らないようにしっかりと指向性を与えながら、魔力を制御して光線状に飛ばす必要がある。それらを一度にやるので、簡単そうに思えて意外と難しいのだ。現に、使用しているのはリュウデリアやクレアにバルガス、『英雄』ソフィーくらいだった。他にも国の最終兵器等もあったが、彼が滅ぼしたので今は良いだろう。
取り敢えず言いたいのは、魔法陣を必要としない魔法故に、簡単に見えるが簡単ではないということだ。そしてその撃ち出す方法は、各々が違う。例を上げるとすればリュウデリア。彼は口内に魔力を溜め込み、ブレスとして放出する方法を好んで行う。魔法陣を組んで放つやり方や、尻尾の先から出したりもするが、基本はブレスだ。
次にクレア。彼は息を吹いて小さな風を生み出し、そこから円を描いて放出する魔力の基盤を造り上げ、そこを起点として撃ち放つ。バルガスはリュウデリアと同じように魔力を溜めるが、球状にしたものを殴るなり専用武器で打つなりして強引な指向性を与える。結果的に同じような攻撃でも、それぞれのやりやすさによって方法が違う。
それに対して、オリヴィアの魔力放出は、膨大な魔力を込めて凝縮し、指向性を与えて撃ち放つ。リュウデリアと同じ方法だ。違いは口から放つブレスか、武器の鋒の先から放つかの違い。そこは大して重要ではなく、やり方が同じだという点だった。だから彼はお揃いだと口にしていた。
同じように魔力を凝縮し、同じように凝縮した魔力を放つ。術者によってやり方が違ってくる攻撃だからこそ、同じだった事にテンションが上がっているのだ。それを説明されたオリヴィアは、なるほど……と考え込みながら、彼と同じでお揃い……と、段々嬉しくなってきた。
「ふふ。お揃いだ」
「うむ。お揃いだ」
「説明されてやっと気づいたが、私も嬉しいぞ」
「想像して魔力を使う以上、あの方法が1番合っているということになる。だからつい嬉しくてな」
「ふふ。ふふふっ。もう、かわいいなぁ。抱きついてもいいか?」
「ふっ……よし来いッ!」
「クスクス。とうっ」
自分と同じ部分に気がついて、ついテンションが上がっていたという彼が可愛くて仕方なく、オリヴィアはもう一度抱き合いたくなって許可を求めた。言わずに抱きついても受け止めてくれることは分かっているが、お遊びで聞いてみた。
彼は両腕を広げて受け止める姿勢に入る。どこか嬉しそうに尻尾が揺れているので、彼の気持ちは筒抜けである。素直な可愛い尻尾だなと、感情が出てきてしまっていることは敢えて教えず、軽くジャンプしながら抱きつきに行った。
彼の背中に腕を回して抱きつくと、同じく背中に腕を回されて抱き締められる。足が締めに浮かないくらいの高さで止まり、そのままリュウデリアが体を回転させた。ぶらぶらと足が遠心力で浮く。ちょっとしたイタズラに、オリヴィアは楽しそうに笑った。
彼が居るのが花畑であれば微笑ましいだろうに、そこは地中深くまで抉れていたり、澱んだ水があったり空気が汚染されていたりと酷い光景の中であった。それ故に見ている者は居らず、思う存分に彼等だけで楽しめると考えれば、その点だけは呪界も良いものかも知れない。
「さて、もっと練習をするとしよう。折角良い舞台に居るのだからな」
「ふふ。そうだな」
笑い合いながら抱き締め合っていたリュウデリアとオリヴィアは離れ、技の練習の続きを再開した。周りへの被害を一切考えなくていい場所は実に便利である。彼等は暫くの間、思う存分魔法や近接格闘を試していく。ヤルダが掴んだ情報を持って帰ってくるまで。
西の大陸のとある場所は、常に天気が悪い。雨雲が掛かるのは当たり前。温度に関係無く雹が降ってきたり雷が落ちたりもする。そんな気紛れの天気が続く地帯の上空、雷鳴轟く雷雲の中をものともせず、ある龍が飛んでいた。
雷雲の雷は、その龍を歓迎するかのように避けていた。王のために道を開ける兵士のようである。何もしなくても、雷に当たることはない龍は、真っ黒な雲の中だというのに、向かうべき方向が分かっているのか迷いなく飛んでいる。
最近、地上ではある事に悩まされていた。それは、天気が良い日、それも快晴の空が見えていたというのに、突然目に見えて黒い雷雲が発生して雷鳴が轟くのだ。あれだけ天気が良かったのに、何故いきなりこんな天気になるのかと思ってい間に、雷雲は地上に向けて雷を落とした。落ちれば地を抉るような雷が、誰に向けるわけでもなく無差別に落ちてくるのだ。
避雷針を用意しようが関係無く、雷は定まった道を突き進み落ちるだけ。その場所に落ちることを定められたように、雷は落ちて破壊を撒き散らした。何者かの攻撃ならばまだ良いが、自然現象ともなれば誰も攻められない。家を破壊されようが、家畜が雷に当たって死のうが、仕方ないで済まされてしまう。
力が無い者は、その力を恐れる。しかし相当な実力者であれば少しは気づけた筈だ。この雷が何者かの力によって引き起こされたものであると。正確には、直接雷を落としているのではなく、存在しているだけで雷に干渉しているだけなのだが。兎も角、雷が自然現象ではないことは確かである。
まるで自然現象の災害を撒き散らしていた龍の名は、バルガス。『破壊龍』と称されしバルガス・ゼハタ・ジュリエヌスである。最近まで住処にしていた場所に留まっていた彼だが、もうそろそろ別の場所に移ろうと考えて飛んでいた。西の大陸で、北が良いか西が良いか、または南か。リュウデリア達と東側から来たので東は除外している。
「む……何か……来る」
雲の中を飛行中。バルガスは何かを察知した。その何かの詳細までは判明していないが、何かしらが自身の方へ向かってくる……いや、現れると予感した。第六感なのか勘なのかは彼に聞いてみないと判らないことではあるが、何かしらが来ることを前提に彼は動いた。
ゆっくりと飛んでいた飛行をやめて、その場で滞空する。雷雲の中故に視界が悪いので何処から何が来るのかは判らない。そこで目を閉じて意識を集中する。範囲は自身の周囲一帯。気配による感知領域を広げていくのだが、それらしきものを感じ取れない。気のせい……にしては、確かなものが頭に響いた。
いつでも動けるように、気配を探りながら集中していると、バルガスは集中していたことにより自動的に肉体を動かした。赫雷が彼の躯体に帯電し肉体の強化を刹那の内に終わらせ、大きな体を丸め、顔は腕をクロスさせて防御する。防御態勢が整ったと同時、彼に何かが衝突した。
重い一撃であった。元の大きさである30メートル超えの巨体が吹き飛ばされそうになるものだった。肉体を赫雷と魔力で強化し、翼を使って踏ん張ったというのに、数十メートルは後退した。そして、それだけの力が衝突してきたことにより、周囲には衝撃波が発生して分厚い雷雲を吹き飛ばした。大きく円形に消し飛んだ雲を横目に見て、陽の光を浴びて良好になった視界でそれを捉えた。
「何者だ……お前は。突然……私を……襲うとは……いや、それより……何処から……現れた?」
「──────あなたからも███と同じような力を感じます。██を生み出す可能性を秘めた存在ならば、私の手で引導を渡しましょう」
「自己紹介も……無しか。言っている……意味も……解らない。」
「……あなたも
「彼……?……おい。お前から……クレアの……魔力の……残滓を……感じる。何を……した?」
「それを答える義理を、私は持っていません。あなたにこの世界から消えてもらう為、███たる私が来ました。どうか、無益な抵抗はせず消えてください」
「クレアを……どうしたか……答えるつもりは……無しか。それに……お前の……頼みだが……断る。私を……消したいならば……力尽くで……消してみろ」
雷雲が消し飛ばされた円形の空間で、バルガスはそれと対峙する。突然襲い掛かって来たというのに、イマイチ彼にも理解出来ないことを言って戦闘の意思を見せてくるその存在。そして彼は、目の前に居る存在からクレアの濃い魔力の残滓を感じ取った。相当な出力の魔法を使った証拠である。
しかし、それだけの残滓をこびり付かせながら、目前の敵に傷は全く見当たらない。それどころか、存在そのものがよく解らない。何を相手にしているのか疑問が生まれてしまう。軽く首を振って気を落ち着かせる。クレアの姿が見えないのは、何かしらの理由があっての事だろう。
友であるからこそ、『轟嵐龍』クレア・ツイン・ユースティアの強さをよく知っている。専用武器も持ち、解放した際の力は並大抵の相手では前に立つことすらできない。そんな彼と戦い、無傷で勝つなど有り得ない。何かしらの事情があって居ないだけだ。そう思わないと、この目前の敵が歪な存在でならないのだ。
彼と同じようなことを口にする。クレアの濃い魔力の残滓。引導を渡す。これだけの材料が揃っていれば、嫌な考えも思いついてしまうが、そんなことは有り得ないと否定する。しかしバルガスはその否定する考えと頭とは別に、無意識の内に異空間よりあるものを取り出して手に握った。
「……それは」
「私が……無意識に……█████を……出していた?なるほど……それだけの……力を持つと……本能的に……理解している……ということか……ならば……使うとしよう。使い……早々に終わらせ……クレアについて……全て……吐かせる」
「やはり、あなたも███に連なる者なのですね。彼と同じです。█は悲鳴を上げています。あなた方のような者が現れるようになって。そのため、███の私が居ます。安心してください。どれだけ足掻こうと、私を討ち滅ぼす方法は存在しません」
「それは……やってみなければ……解らんだろう。クレアについて……聞ければ……それで……いい。その後は……お前を……破壊して……終わりだ」
「無駄なのです。███の私は████により███████。つまり──────」
「…………──────そんなことが……有り得ると……言うのか」
「事実ですので。私は虚偽を口にしません。口にする必要がありませんから。私が現れたということは
「……言って……くれる……では……ないか」
目前の存在が口にしたことは、バルガスの思考を一瞬とはいえ停止させた。端的に言って、何を言っているのか理解が追いつかなかった。これまで色々な者達と出会ってきた。最近だと無限に続くという神界をも滅ぼせる獣と出会った。しかし今回の敵は、また毛色が変わった相手だった。
手に握った専用武器、█████に視線を移す。いつの間にか無意識の内に呼び出して握っていた、本来の力を取り戻す武器。これを手にしたということは、本能がこれを必要したということ。ならばもう、使わないという手はない。
赫雷が彼の体に奔る。消し飛んだ雷雲が再び発生し、雷鳴を轟かせる。天変地異を表すように黒い雷雲が大きく渦を描いた。世界が悲鳴を上げているようだ。バルガスの目前の敵は、彼のことを目を細めながら見ていた。
「……解号。
赫雷と共に在る突然変異の龍。『破壊龍』バルガス・ゼハタ・ジュリエヌスの本来の力を引き出す専用武器が、再び解放されようとしていた。
「────────『
──────────────────
リュウデリア
毎回簡単に撃っているブレスだが、意外と難しい。そのやり方は術者によって様々なので、同じやり方で撃ったオリヴィアに感動してテンションが上がっていた。お揃いというだけで喜んでいるが、そんなのはオリヴィアに対してだけ。
オリヴィア
魔力の光線を放った方法が、リュウデリアがブレスを撃つ時にやるやり方だったので少し驚いた。テンションが上がって抱き締められるのは嬉しいが、正直もっと抱き締められていたかった。呪界から帰ったら誘ってみようかな……と考えている。
バルガス
襲い掛かってきた相手と戦闘を開始。本能が全力でいけと言っているので、それに従い専用武器を解放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます