第135話  少しの後悔




 強大な存在によって齎された破壊の跡地に、神々は1柱も見掛けなかった。誰も居ない。誰も住んでいない。そんな場所で、バルガスとクレアは周囲にこびり付いたその存在の気配の残痕を感じ取り、想像上ではあるが最低ラインの強さを構築した。


 結論は、元の時間軸での神界で相手をした神々よりも、遥かに上の強さを持つというもの。恐らく権能を持っているだけの神では相手になるまい。最低でも四天神。最高神でも対等に戦えるか解らないのではという、だった。


 正直に言うと、バルガスとクレアの2匹はゾクゾクしていた。それだけの強さを持つ者がこの神界に居て、殺し合えるのだということに。強さを求めて戦いに明け暮れ、結果として強くなりすぎた種族の龍は、強い存在を前にすると戦って殺し合いたい欲望が溢れ出てくる。


 最近の龍は強い者の下に就くことを良しとしてつまらなく、それどころか強すぎる者を嫌悪する傾向にある。龍王に仕える精鋭部隊然り、彼等の姿や力を目の当たりにして陰口を叩く龍達然りだ。だが彼等は龍らしい思考回路を持っており、加えて自身の絶大な力を理解しているので、自身よりも強いと思える相手は大歓迎だ。




「随分とオレ達を煽る粋な計らいすンじゃねェの。お陰で楽しみで仕方ねェっつーのよ」


「リュウデリアには……悪いが……先に……見つけて……しまおう」


「ふむ。ではどうする?リュウデリアみたいに魔力を飛ばして見つけるか?」


「あれはリュウデリアの魔力量だから出来る荒業だぜ。しかも小石1つにとっても認識するのは面倒で仕方ねェ。だからもっと違う方法を取るンだよ」


「どんな方法だ?」


「襲われていない……神々の住まう……ところに行き……何処に行ったか……聞き出す」


「此処から一番違い村や国に行くということだな。しかし、素直に教えると思うか?恐らくお前達が地上の生物だからと舐めて掛かると思うぞ」


「ンなら喋らせるだけだわ」




 約30日間が時間跳躍の影響で跳んでしまい、シモォナが襲われたところを見て呆然としている間に話し合うオリヴィア達。そしてリュウデリアのように魔力を音波状に細かく小さくして超広範囲に飛ばす方法は、彼だから出来る荒業だからやらないし向いていないと言ったクレアは、別の案を出した。


 奇しくも、その方法は別の場所でリュウデリアが取っている方法と同じ聞き込みだった。違うのは、遠すぎて強大な存在の影響を受けておらず聞き込みしても何の情報も入ってこないのと、既に破壊を撒き散らされた場所があり、そこから一番近い神々の集まる場所に聞き込みに行くことだ。


 これだけの事が起きていれば、必ず国は何が起きたのかと調べるはず。そしてシモォナ達だけが神界の終わりだと騒いでいるということは無いと思うので、必ず強大な存在をどうにかしようとする神々が居るはずだ。その者達から居場所を聞くのだ。


 今からやることが決まった彼等は、再びクレアがオリヴィアを抱き抱え、バルガスが悲しんでいるシモォナを抱えて空に飛び立った。地上から見るよりも空から見れば、やはり悲惨な光景となる。シモォナは心の中で、こんな光景をこれ以上作らないようにするために、一刻も早く強大な存在を見つけ出して倒してもらわねばと思った。




「うーっし。ンじゃオハナシさせてもらいましょうかねェ」


「最初の……言葉は……予想……できるが……」


「そうなのですか?」


「シモォナ……お前は分からないのか?」


「え……?」




 何のことですか……?と言う前に、一番近いところにあった国の前に降り立った。シモォナがオリヴィアの発言に疑問を感じながら、門番の神2柱に中に入れてもらえるように話をつけ為に前に進もうとすると、オリヴィアが腕を横に出して止めた。


 何故止めるのか。そう口にしようとする前に、バルガスとクレアがそれぞれ門番の方へ行ってしまった。自分達が前降り立つのを訝しげな表情で見ていた門番達は、彼等が近付いてくると手に持っている槍の先を向けて何か怒鳴りつけていた。


 一言二言何かを話たバルガスとクレアだったが、怒りの表情でずっと怒鳴っている門番の神々にやれやれと顔を横に振ると、尻尾で横面を各々殴り付けた。すると、門番の神々は頭が横に飛んでいってしまう。殺されてしまったのだ。だが神は蘇り復活する。


 そういう認識のシモォナは、何て事をしてくれたのかという思いはあれど、そこまで驚愕はしなかった。しかし、一向に門番の2柱が復活しないことに違和感を覚えた。遅い……と、感じていた彼女に、オリヴィアがそっと耳打ちで教えてくれた。彼等は神を根底から殺すことが出来る術を持っているから、あの門番達が復活することは無い……と。


 顔が蒼白くなる。恐らくだが、入れてくれるように頼んだが、怒りの形相からして強く拒否されたのだろう。その腹いせか何かのつもりで殺してしまったと。それはいけない。神を怒らせてはならない。いくら強大な存在を倒せる力を持つ彼等といえど、戦う前から深傷を負ってしまう。なのでシモォナは急いで2匹の元へ走り寄った。




「何故殺したんですか!?」


「通せっつったら地上の生物がどうのこうのウッセーから殺した。ま、コイツら殺したところでオレ達の時間軸に関係無ェだろ。神界のことだしな」


「今から……門を……破る。顔を見られて……不都合ならば……下がって……いろ」


「何の罪も無い方々だったんですよ!?それに門を閉めているということは、外からの攻撃……あの存在を警戒しているからですよ!?それをあなた達は壊すというのですか!?」


「は?じゃあ壊さないように配慮して上から行けって?何でオレ達がコイツ等に気を利かせなきゃならねーンだよ。嫌だね」


「最初に……開けていれば……壊さなかった。開けなかったのは……この者達の……責任だ。私達は……この国が……滅びようが……興味は無い」


「私は……私はこんな事をさせるために呼んだのではありません!やめてくださいっ!」


「嫌だっつったろーが。わっかんねェバカだなお前。見るのが嫌なら目でも瞑って黙ってろ。そもそも、神界を滅ぼすって奴を殺しに行くのはそうだが、他の神を傷付けないとは一言も言ってねェンだよ。邪魔する奴は誰だろうが殺す。それがオレ達だ。そして、そンなオレ達を呼んだのは……お前だぜ?」


「そ、そんな……っ!やめてくださ──────」


「──────偉い奴さっさと出せ虫ケラ共がオラァッ!!」




 魔力を纏った脚で回し蹴りを聳える門に放つと、激しい轟音を立てながら拉げて破壊した。中に居る普通の神は音を聞いて吃驚し、襲撃だと思って逃げ惑う。そんな大混乱の中を2匹は歩いて進み、建てられた王の住まう城へと目指していった。


 だがこんな大事を起こしては国の王である神に仕える兵士達がやって来る。そして案の定、城山兵舎から数々の兵士達がやって来た。悠々と歩くバルガスとクレアを取り囲み、襲撃者である彼等を今すぐにでも処刑しようと武器を構えている。


 王を出せとだけ言ったクレアに、会わせるわけが無いと叫びながら答えた神が、手に持つ剣で斬り掛かった瞬間、地面に赫雷を奔らせて、周りに居た兵士達が残らず肉の塊となった。生存者は居ない。1柱も居ないのだ。


 こんな状況を作ったのは、赫雷を纏ったバルガスだった。遅緩する世界に入り込んで、取り囲む兵士の神々を殴り殺したのだ。300は居た筈だが、瞬きをするような一瞬の出来事だった。それからも残る兵士が向かってくるが、今度はクレアが虫を払うように手を振ると、走り寄る神々が小さなサイコロのような肉塊にされていった。


 目的はこの国から情報を提供してもらう事だった筈だ。それがいつの間にか襲撃に変わり、鏖殺へと切り替わっていた。魔力をそこまで消費しないように節約をしているのか、安易な攻撃方法で神を殺していく2匹に、シモォナはなんて者達を連れてきてしまったのかと少し後悔してきていた。


 何の罪も無い神を殺させないために、強大な存在を倒してもらうべく、その力を秘めた者達を未来から連れてきたというのに、今やっていることは何だろうか。これなら強大な存在とやっていることは同じではないか。神より強いということは証明されたが、こんな事は望んでいなかった。




「まあ諦めろ。バルガスとクレアがあぁなのは元からだ。彼等は自分に対して邪魔する者や鬱陶しい存在、敵には無慈悲だ。だから軽い気持ちで接触する者達を悉く殺していく。それに神だからとか、罪も無い者達だからというものでは、殺さない理由にはしてくれんぞ」


「なんという……地上の生物はここまで……っ!」


「地上の生物というより、彼等は根っからの龍だからこそだ」




 全ての兵士を殺し終えてしまったバルガスとクレアを眺めながら、顔を見られないように純黒のローブのフードを深く被ったオリヴィアが、シモォナに龍というものを教えていた。彼等は他者に対して実に冷酷非道で残忍で、そして無慈悲だと。罪無き者でも容易に殺し、邪魔する者も等しく殺してしまう。


 故に今この虐殺が起きているのは彼等の責任ではない。彼等の話を聞かずに取り合おうともしなかった神側が悪いのだ。素直に話を聞いて中に入れてやり、強大な存在についての情報を明け渡していれば、このような混乱の事態には陥らなかった。


 国を護る立場にある兵士達が全滅し、彼等を恐れて逃げた神々のお陰で辺りには1柱の姿も無かった。嫌な静けさと、撒き散らされた地面の赤い染み。そして神だった筈の肉塊が、神界を救うために時間跳躍までしたシモォナを包み込んでいた。




「オラ、さっさと情報吐いちまえよ。こっちは無駄な時間を使いたくねェンだよ」


「近くを襲った……怪物は……何処へ……行った?」


「た、助け……ぶぇっ!?」


「だーから、無駄な時間使わせンなってーの。怪物が何処へ行ったか言やァいいンだよ」


「次に……無駄な……事を……言ったら……両脚を……毟る」


「わ……からないっ!あの怪物が何処へ行ったかなんて解らないっ!本当だっ!報告では忽然と姿を消したとあって、何処かへ向かっていく姿は誰も見ていないんだっ!」


「あ?忽然と姿を消しただァ?」


「本当だっ!嘘はついていないっ!」


「ンだよ。空間系の力でも持ってンのかァ?チッ。メンドクセー」


「もう……お前に……用は……無い。さっさと……失せろ」


「ひ、ひいぃ……っ!!」




 城の中から王の神を引き摺り出して来て、胸倉を掴みながら足が地面に付かないくらい持ち上げて、睨み付けながら問いを投げた。兵士達が次々と殺されていくのを見てしまったからなのか、王は酷く怯えながら助けを求めたが、そんな者は居るはずもなく、問いに答えないからということで頬を尻尾で引っ叩いた。


 そしてやっと情報を話したかと思いきや、襲った強大な存在……怪物は確かに近くを襲って行ったが、何処へ行ってしまったのかは解らないというのだ。その理由が、忽然と姿を消したというのだ。まるでリュウデリアが使う瞬間転移のように、その場から消えたのだそうだ。


 それでは何処へ行ったかこっちも解らない。情報を得るために襲撃したのも大した意味は無いか……と、バルガスとクレアは溜め息を溢した。しかし1つ解ったのは、怪物は場所を点と点で移動する術を持っているということだ。少し面倒な力を持っているなと思うが、それなら逃がさないように戦えば良いだけの話だ。




「さってと、次だ次。移動方法が毎回同じって訳でもねーだろうし、何か手掛かりがあるかも知んねーから急ぐぞ」


「空間系の……力。運良く……鉢合わせ……出来れば……苦労は……しないのだが……」


「確かにそうだな。では急いで次に行こうか」


「私の……私達の選択は間違っていたの……?それとも合っているの?」




 自分の力ではバルガスとクレアを止めることはできないし、言葉で言って聞かせようにも、彼等は邪魔をしようとしている者の言葉なんぞ聞かないことだろう。故にシモォナは、未来から怪物を倒せる強さを持つ者達を連れて来るという作戦が、本当に合っている選択なのか分からなくなってきていた。






























「──────マズいな。これは」




 一方その頃。所変わってリュウデリアの方では、100を超える神の死体を山のように積み上げ、辺り一面を血の海にしながら1匹、その死体の山の上で座って胡座をかいて、脚の上に肘を置いて、掌で顎を支えながら溜め息を吐いていた。


 怪物の情報を集めるために飛んでは降りて聞き込みをして、聞いても何も得られず、また次の場所を探す事数回。リュウデリアはあまりにも手に入らない怪物の情報に面倒くささを感じていた。




「もう既に7つの国は滅ぼしたが、情報が一切手に入らん。まったく、実に面倒な……」




 元の時間軸の地上で滅ぼした国の数よりも多くなってしまった、神の国の殲滅。神物を使い。地形を崩して利用し。魔力を使わない素手で撲殺し。拳を地に打ち込んで国諸共大地を割った。そうして無理矢理王を引き摺り出して問いを投げるのだが、一向に情報が集まらなかった。


 そろそろ何処が襲われていた……という事くらい聞いても良いと思うのだが、それすらもない。このままではバルガスとクレアが先に殺してしまうのでは?と思い悩んで、これからも同じ事を続けて良いのかを考えていた。






 強大な存在……怪物は何処に居るというのか。そして、その怪物に関する情報は何時になったら入ってくるのか。リュウデリアは面倒くさそうにもう一度溜め息を溢した。






 ──────────────────



 シモォナ


 バルガスとクレアのやった事に、連れて来る相手を間違えたのではと本気で心配になった。何故、止められたから殺すという考えに至るのか分からなかったが、種族そのものが違うし、彼等は少し特殊なのでそこら辺を考えてはいけない。





 バルガス&クレア


 やっていることはリュウデリアと全く同じだった。最初の門番との会話で、素直に入れてくれるならば普通に問いをして帰った。でも通さないし、王とは会わせないから失せろとまで言われたら強硬手段を取るしかないので、邪魔な奴等は残らず殺していった。


 怪物が瞬間転移系の力を使うことだけは掴んだので、リュウデリアよりも一歩リードしている。





 オリヴィア


 違う時間軸とはいえ、同じ神が目の前で殺されていっても思うことはない。精々、素直に入れていればこんな事にはならなかったものを……と憐憫の感情を抱いているくらい。別に助けるつもりはない。





 リュウデリア


 既に7つの国を滅ぼしてしまった。そのどれもが、地上の生物に教えてやることは無い。神界からも失せろという言葉だったので、返されるセリフの種類が少なくて飽きている。なので7つ目の時は何の宣言も無しに大地ごと国を左右に割った。


 未だに情報は0。知らないところでオリヴィア達にリードされていることを知らない。




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