第133話  問いの為の襲撃






「……ん?そういえば『繊密な総観輿図ファルタラヴィア』を使っても破壊された地形を半径50キロ圏内にかけなかったな。あの村に寄って問うた意味は無かったということか……ははッ。俺としたことが、うっかりしていた」




 空を飛びながら1匹で愚痴を溢した。神々を食らう存在が居るならば、それはそれは激しい戦いの形跡があるはずだ。しかし魔力を飛ばして広範囲を調べた時、一切視られなかった。つまりその時点で村によって聞き込みをする必要は皆無だったことを示す。


 神の子供を殺したのはものすごく意味が無い行為だった。だが殺してしまったことは仕方ない。それに石を投げてきた方が悪いのだ。村長らしき老神もそうだ。素直に話を聞いて答えていれば、無駄に死なずに済んだ。まあ、もう後の祭りなのだが。


 空を飛んでいるリュウデリアはこれからの行動……というよりも目標を設定した。それはオリヴィア達を見つけるのではなく、連れて来られる原因となった強大な存在を見つけ出して殺すことだ。元々の目的がそうなのだから、きっとオリヴィアやバルガス、クレアも同じ事を思って行動する筈だ。


 同じ目的を抱けば、必ず合流することは出来る。無限に続く大地であろうが、その神界を滅ぼしうるとまで言わしめた存在だ。事の重大さによって不安の煽る情報や絶望の声が上がる筈。それを聞きつけて向かえば、自ずと彼女達と再び会えるし、神界を滅ぼす強大な存在は少なくとも一個人なので、こっちでもあっちでも存在している……ということは無いだろう。端末でない限り。


 そうして目標を定めたところで、リュウデリアが今からやらなくてはならないのは情報収集だ。それも強大な存在そのものに関するもの及び近くに居たかどうかというもの。ちょこちょこ魔力を使っているが、何十キロも魔力を飛ばすとそれなりに消費することになる。なので『繊密な総観輿図ファルタラヴィア』はそう乱発したくはない。


 龍の突然変異で他よりも魔力が多いリュウデリア、バルガス、クレアの3匹でも、魔力量に関して群を抜いているのがリュウデリアだ。圧倒的魔力量を誇る彼からしたら微々たるもの。しかしあくまで目的は神界を滅ぼす強大な存在。その力が未知数の内に魔力を使いすぎて、いざ戦いの時に全力が出せません……なんてことは笑えない。


 これが地上であり、大気中に魔素が含まれているならば魔素を体が自動的に取り込んで魔力へ変換するのだが、ここは神界であり、魔素なんてものは一欠片も含まれていない。それどころか空気が全て地上の生物にとって有毒であるときている。滞在に於いて面倒極まりない場所だ。気を抜いたら地上に弾き出されてしまうことも加味して。




「ふむ……情報を集めるのに適した場所は神が多く住んでいながら、他の組織とある程度の情報交換をしていそうな場所か。……村だと他の村とで連携していたとしても交換する情報がそこまで詳細でない可能性が高い。最悪孤立している為行っても有益な情報が得られるとは思えん。既に1つは役立たずだしな。となれば向かうべきは……──────此処から50キロ圏外にある神々の国だな。国同士ならば連携している国も複数あり、民の為に事細かな情報共有をしていることだろう」




 次に狙いを定めたのは、村を小さな組織とすると、大きな組織である国だ。住んでいるだろう神の数が桁違いなので、脅威となる情報はそれだけ良く調べられ、他の同盟を組んでいたりする国と情報のやりとりをしている筈だ。ならば村よりも断然国に対して問うた方が効率はいい。


 だが疑問があることだろう。国が手に入れている情報はきっと王の神が持っている。そしてそれを地上の生物であり、訪れたばかりのリュウデリアに話すだろうか。問い掛ければ答えるだろうか。それは当然否だ。余所者がいきなり、それも神ですらないものが謁見なんてものを出来ようはずも無い。当たり前に追い返されるだろう。


 そして重ねて疑問が湧くことだろう。リュウデリアが、素直に返されるのだろうかと。それこそ否だ。立ち寄った村で殺されてしまった。老神の言葉を借りるならば、彼は善性よりも悪性に大きく傾いた存在。他の者……それこそ善性の人間ならば無理強いは出来ないと素直に引き下がるだろう。


 ならば悪性の強いリュウデリアはどうなるか。素直に引き下がるなんて以ての外。邪魔するならば一切悉くを滅殺して殲滅する。それこその龍。故の悪性。無慈悲なる純黒の『殲滅龍』の悪名である。




「……っ!何だ貴様はッ!」


「神ですらない者が何の用だッ!」


「この国に貴様風情が求める者は無いッ!即刻立ち去れッ!」


「ふぅむ。それは困ったな。情報を求めているだけなのだが、どうしても通してはもらえんか?」


「貴様程度の下等生物にくれてやる情報なんぞ無いわッ!」


「私達は即刻立ち去れと言ったぞッ!従わないならば武力行使で貴様を排除するッ!」





「そうか……──────では死ね」



























 神々が住まう、とある1つの国があった。神界に生息する動物のようなもの……神物が襲ってきても、腕利きの神々が造った防壁と門のお陰で被害を受けたことは無かった。そもそも神物が穏やかなところに建国されているので、争いとは殆ど無縁であった。


 今日も今日とて防壁の中は平和なものだった。しかしその平和は突然崩された。まず最初に起きたのは門の破壊だった。外から強大な力が加えられたように弾き飛ばされた。神界で採取できる分厚い鋼鉄の門は見事に拉げており、弾き飛ばされた先にある民家に落ちて、その重さで神を押し潰した。


 絶叫が響き渡った。普通に過ごしていた一般の、何の力も持たない神々が襲撃によって悲鳴を上げながらその場から逃げ出す。破壊されて無理矢理開け放たれた煙を朦々と舞わせている入口からは、門番であろう2柱の神の腰から千切れた死体と、首から千切られた生首を持つリュウデリアが歩いて現れた。


 鬱陶しそうに翼をはためかせると、周囲に舞っていた煙が吹き飛ばされた。そうして見えてくるのは、数々の神物達だ。その数は大凡1500。それぞれが恐怖でも感じているのか、体を震えさせていて、リュウデリアの様子を窺っていた。


 指示を待っている神物達に、背を向けた状態で手に持った死体の神々を適当に放り捨ててから命令を下した。




「俺はこの国の王である神に用が有る。話が終わるまで、お前達は他の神々を適当に殺しておけ。どうせ神はそのくらいでは死なん。好きにしていろ。ただし、俺の邪魔だけはさせるな。もし仮にお前達が使い物にならんと思ったその時は……解っているな?」




「「「────────────ッ!!!!」」」




「理解したならばさっさと行け、塵芥共」




 邪魔をしようとする神々の相手を、そこら辺に居た神物を使ってやらせる。その間にリュウデリアは存分にこの国の王と話をするのだ。神物達は殺気を飛ばされて恐怖を抱かせられ、従わないならば殺すと脅されている。その為ならば神々の国くらい攻め入る事なんて訳ない。


 掛け声を受けて我先にと国の中へ入り、目につく神を引き千切り、噛み千切り、押し潰し、殺し回った。その阿鼻叫喚の中を、リュウデリアはゆっくりと進んでいき、王の神が居るだろう城へと向かう。


 途中で神の兵士達が武器を持って向かってくるが、邪魔をさせれば殺すと言われている神物達が全力で阻み、対立する。それを横目で見ながらその調子だと少し褒めてやった。すると、恐怖の象徴でしかなかったリュウデリアから褒められたと思い、言葉にし難い幸福感を抱いた。


 少し褒められた程度で神物の士気が爆発的に上がり、数では優位だろう兵士達を押していった。神と神物による戦いを一瞥しながら、リュウデリアは単純な塵芥だなと内心で嗤っていた。存分に力を示して死んでいけと言っただけなのに、死に物狂いで頑張る神物が可笑しくて嗤うのだ。




「随分と立派な城だな。虱潰しに探すのは面倒であるし、この程度の神に魔法を使うのもな……よし、そこにいる鼠共。城の中へ入って場を掻き回せ。そしてそこの犬のような奴。一番豪華で煌びやかな服装をし、身辺を複数の神に護らせている奴を俺の前に連れて来い」


「「──────っ!!」」




 ワニ程の大きさをした総勢50匹の鼠に似た神物達に、城の中へ入り込んで場を掻き回して混乱させろと命令し、その傍に居た犬とヤマアラシの針を合わせたような神物に、典型的な王の特徴を教えて連れて来るように命令した。


 そしてリュウデリアは優しいので、ニッコリと目を弧にして嗤い、近くにあった30センチ程の石を片手で砂になるくらい徹底的に握り潰しながら教えた。しっかりと与えてやった仕事を全うするように。それを見た神物達は何度も首を縦に振って、嬉しさで体を震わせながら城の中へ突撃していった。なんと物わかりの良い神物達だろうか。


 城の名から複数の悲鳴や怒号を聞きながら、道の端に置いてあった屋台のところへ行き、見たことの無いトゲトゲとした木の実を3つ手に取り、匂いを嗅いでから齧って食べ始めた。中には細かい食べられる種があり、微かな酸味の後から甘さが溢れてくる。果汁もたっぷりなので喉が潤った。




「なんだ、神界の果物も美味いではないか。む、この枝は……?」




 美味いと解ったので屋台に置いてある赤いトゲトゲした果実を次々と食べていき、オリヴィア達にも食べさせてやろうと、食べた物以外の赤い実は全て異空間に入れてしまった。そしてその隣のところに並べられているのが、沢山の木の枝だった。並べられている以上は売り物なのだろう。何故こんな物が?と疑問に思い手に取る。


 触った感じは単なる枝だ。良く解らないので小首を傾げながら中央の位置で真っ二つに折ってみた。すると不思議なことに折れた断面からかなりの勢いで水を吐き出し始めた。水滴が出てくるなんて話ではなく、蛇口を捻ったように水が流れでてくるのだ。


 重さは普通の枝と同じなのに、折ると含んでいる水を吐き出すという面白い枝に目を丸くして可笑しそうにクツクツと笑うと、枝を上に持っていって落ちてくる水を口で受けとめた。ごくり、ごくりと喉を鳴らしながら水分補給をし、出なくなったらそこらに捨てた。15センチ程の枝から5リットル程の水が出て来たのだった。


 これは使えるし、水が欲しくなった時に便利だと思い、屋台に置いてある水が流れ出る枝を全て異空間に仕舞った。その後も、前から見ると六角形に見える黄色い果物や、よくわからない干し肉などを食べて王の神が出てくるのを待った。やがて10分が経つと、中から1柱の神を口に咥えた犬の神物が出て来た。




「良くやった。引き続き他の神を殺して回れ」


「■■っ!」


「さて……お前に聞きたいことがある、この国の王」


「貴様ッ!!この私を誰と心得るッ!!この国を治める王である神であるぞッ!!貴様のような地上の──────」


「おいそこの鼠。この阿呆の片腕を噛み千切れ」


「なっ!?や、やめ……っぎゃあぁああああああああああああああああああああッ!!」


「はッ。国を治める神が……何だって?ぎゃあーとは何だ?俺はまだ質問をしていないのだがな。無駄な時間は使わせない方が良いぞ。それだけお前は痛みに苦しむ事となる」


「ふざけ──────」


「次は片脚を千切ってやれ」


「お゛お゛お゛お゛お゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」


「変な叫び声だな。で?黙る気になったか?」


「……っ……っ」


「良い良い。最初からそうすれば良かったのだ。解ったか?塵芥の低能神」




 目の前に投げ出された、この国を治める王の神にしゃがみ込んで話し掛ける。しかし相手が神でないと知るや否や、上から目線で叫き始めたので背後に控える鼠の神物に命令して腕や脚を噛み千切らせた。右腕と右脚を無くした王は、これ以上変なことを言えば更なる痛みを与えられると思い黙った。


 それで漸く質問が出来ると思ったリュウデリアは、手の中にある黄色い六角形の果物を上に放ってキャッチしてを繰り返しながら問い掛けた。この辺りに神を食い物にしている強大な存在は居るかどうか。もしくはそれを目撃したり情報が入った神から教えられていないか。


 その質問に意味はあるのかと最初に答えてしまった王の神は、求めている答えではないと言われ、リュウデリアに命令された鼠の神物に残っていた脚を噛み千切られて絶叫した。叫び声を上げて藻掻き苦しむ神に、リュウデリアは手に持つ果物を見せつけて握り潰した。次は殺すと言いながら。


 それからは恐怖で言葉の節々を噛みながらも答えていった。そんな情報は持っていないし、そういう情報も入ってきていないと。それを聞いて、魔力で調べた50キロ圏外の最初の国程度ではダメか……と内心で思いながら、握り潰して手についた果実の汁を舐め取った。




「お、お前の問いには答えたぞ!?は、早く解放してくれ!」


「あぁ。そうだな。鼠共、その神を殺して良いぞ」


「……ッ!?何故そんなことを……ッ!!がぁああああああああああああああ……ぁ……ぁ……──────」


「一度死ねば元に戻るのだろう?俺の親切を受け取るが良い。さて、お前達はこれから好きに生きていけ。神共を殺し続けるのも良し。今までのように生きるのも良し。己の好きにしろ。だが、お前達は良い働きだった。それだけは褒めてやる」


「「「────────────ッ!!!!」」」




 用は無くなったリュウデリアが、血塗れの道を歩いていき、翼を広げて大空へと飛んでいってしまった。その後ろ姿を眺めていた神物達は、死から復活した神々に目を移す。殺戮の快楽を覚えてしまった神物達は、再び神々に襲い掛かり、死屍累々を築き上げる。


 王のカリスマではない。悪のカリスマだ。言葉1つで悦楽を見出させ、恐怖を混ぜることで不変とする。大したことは言っていない。だが持ちうる強大な力と悪性で、神と争いを起こさなかった神物を神殺しの殺戮群団へと変えてしまった。






 また何の罪も無い無辜なる神民が殺された。彼が行く先々ではこういった事が起こることだろう。そしてその原因たるリュウデリアは、空で可笑しそうに嗤った。






 ──────────────────



 神物


 地上でいう動物みたいなもの。皆が知るような動物に似た姿形をしているが、腕が多かったり脚が多かったり頭が多かったりする。大きさも全く違ったりする。


 リュウデリアに恐怖を抱いていたが、少し褒められるとあの強い存在に認めてもらえていると錯覚して従順な兵士となる。怖さで心臓をバクバクさせているのに、近くで心配してくれている異性に心臓をバクバクさせていると錯覚する吊り橋効果みたいなもの。





 リュウデリア


 神々を殺す気に満ち溢れる神物を阿呆な塵芥共だな……としか思っていない。神の兵士達に邪魔されるのが面倒なので、そこら辺に居た神物達を殺意の波動で無理矢理呼び寄せて従わせていた。


 別に自身にカリスマがあるとは思っていない。何故か適当に吐いた心無い言葉で盛り上がっていることに首を傾げるが、やる気を出しているならば別にいいかと放って置いた。


 自身が居なくなった後、神物達が嬉々として国を襲っているのを気配で察していたので、空で嗤った。悪性の強い身の程を弁えずに神界に居る地上の下等生物なのでね、仕方ないね。




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