第111話  多忙






「やるではないかヘイスス!」


「クソみてーに弱ェ武器造ったら殺してやろうと思ったけど、大した腕だな!」


「流石は……神界で3指に入る……鍛冶職人だ」


「痛っ……痛たたたた……わ、分かったから、そんなに強く背中叩かないでっ」




 見事リュウデリア、バルガス、クレアの専用武器を造り終え、少しの試用を済ませたら、彼等からの褒賞の言葉をもらっていた。肩を組まれて雑にガシガシと頭を撫でられ、背中を強く叩かれる。3匹に揉みくちゃにされているヘイススは、力が強くて抵抗できない中、しっかりと武器が造れてホッとしていた。


 手応えも完璧だったので良かったと思っているのだ。長年、それこそ何千年と鍛冶をしているので、出来栄えは察することができる。なのでそれぞれの武器が形を為し、完成した姿を見たときに、これは今までの武器の中でも傑作だと確信した。


 喜んでもらえているようで良かったと感じ、同時に命の恩人から言い付けられた命令を熟し、恩返しができたことに嬉しく思った。そうして3匹に揉みくちゃにされて、髪もぐちゃぐちゃになったヘイススはどうにか解放してもらい、コピーの工房を破棄したプロメスの隣に立った。




「じゃ、ボク達はこの辺で失礼させてもらうよ」


「『あの方』の恩返しをさせてくれてありがとう。オリヴィア、何か欲しい武器があったら教えて。造ってあげるから」


「ではその時は頼む。今は特に必要だとは思っていないからな」


「分かった。待ってるね」


「さて、じゃあパパッと帰ろうか。神界は今頃ボクが居なくて大慌ての大忙しだろうしね」


「無理を言ってここまで手伝っていただきありがとうございました、プロメス様」


「……?神界で何かあったのか?確かに俺達がかなり破壊した部分があるが」


「あぁ、君達は気にしなくて大丈夫だよ?ちょっとゴタついてるだけだから。それにボク最高神が居るからね」




 ニッコリとした子供らしい笑みを浮かべるプロメスに、リュウデリア達は目を細めた。明らかに何かあるという物言いだったが、聞いたら聞いたではぐらかされた。そんなに気になっているという訳でもないが、面白くはない。が、所詮は地上とは全く関係無い神界での話。自分達がどうこうするというのは違うという事で、ふんと鼻を鳴らして追求はしなかった。


 ヘイススも黙っていて、特に何かを言う事も無さそうなので、プロメス達とはここで別れることになった。どうやら本当に予定が入っているようで、プロメスが想像した透明の円盤の上に乗って宙に浮かび上がり、上空へと浮遊していった。


 雲が円を描いていき、中央の景色が空と異なったものへと変わる。神界へ行くためのゲートだ。最後にプロメスとヘイススが手を振ってきたので、軽く手を振って答えた。2柱が神界へ帰るとゲートも閉じて、先程までの青空が広がった。




「ふむ。奴等が帰ったところで、最近手に入ったある情報をお前達に教えよう」


「んー?何だ?」


「私達に……関係する……ことか?」


「うむ。約1ヶ月後、スカイディアで“御前祭”なるものが開かれるらしいぞ」


「あ?御前祭?ンだそりゃ」


「初めて……聞いた……何かの……祭りか?」


「トーナメント式で立候補した腕に自信のある龍が戦い、勝ち抜いた者には龍王共の精鋭部隊に入るか、龍王の座を賭けて決闘を挑む権利を与えるという。つまり、他の奴等の戦いが見れる訳だ」


「かッ!精鋭部隊って……あのゴミ共だろ?ノーガードのオレに一つもダメージ入れられねェカス共じゃねーか。それに入るくれェの奴等なら見る価値無ェンじゃねーか?」


「私も……精鋭部隊は……弱いと……思う。話に……ならなかった」




 雷龍のウィリスから聞いた情報をそのままバルガスとクレアに伝えるリュウデリア。約1ヶ月後という少々アバウトなところがあるが、スカイディアの上に居る気配が異様に多いときがあれば、その時が“御前祭”当日であるという事になる。常に浮遊して飛んでいるスカイディアは、ゆっくりだが世界中を回っている。


 しかし一度行けば気配を掴んで遠すぎない限り、スカイディアの場所が龍には分かるのだ。だが、クレア達からしてみれば、“御前祭”になんの魅力も感じなかった。強さ自慢で優勝すれば、龍王の身の回りを守護する栄えある精鋭部隊に加わることができるという。その時点であまり乗り気になれないのだ。


 理由は違えど、彼等は精鋭部隊の誰かしらから決闘を挑まれ、返り討ちにして殺している。それも全く本来の力を使わずに、適当に戦って適当に勝っているのだ。そんな格下も良いところの精鋭部隊に入れるのが褒美ともなれば絶対につまらない。それに、龍王への決闘は絶対に選ばないと確信できる。何故ならば、龍王はリュウデリア達も認める強さを持っていると知っているから。


 だがそんな不満げなクレア達へ、リュウデリアは可笑しそうに笑いながら提案をしてみることにした。確かに行かなくても全く問題は無いが、行ってみても面白いことがあるかも知れないと。




「俺は龍の常識を光龍王から聞いたが、この情報は教えられていない。つまり意図的に隠していたということになる。つまるところ、俺達が出れば結果が見えていると踏んだ筈だ」


「まあ、そりゃあなァ?龍王の奴等にだって負ける気ねェしな」


「俺達は龍王以外の龍に嫌われている。悍ましい容姿の龍擬きだとな。そんなはぐれ者である俺達に好印象を抱いている者は居ない。だからこそ、凌ぎを削って戦っている者達へ──────言葉を掛けてやるのも良いのではないか?」


「……くくッ。確かになァ?その他にも言葉を掛けてやンねェとなァ?」


「……ははは。きっと……喜んで……くれるに……違いない」




 口端を持ち上げ、目を三日月のように歪めながらケタケタと不気味に嗤う。きっとくれるに違いないと。流石に戦いへ参加するつもりは起きないが、戦いに参加する者達に興味が湧いてきた。それに、リュウデリアは加えてあることを彼等に教えた。


“御前祭”というのは100年に一度開かれる由緒正しい催し物である。それ故に龍王は絶対に参加する事になるし、その龍王の子供も集まるらしいと。あの龍を纏める最強の7匹から生まれた龍。つまり最強の血を継いでいるのだからある程度の強さはあるはずなのだ。ならば是非とも、をしなければならないと。




「クククッ……」


「きひひッ……」


「はははッ……」




「なんて悪意の孕んだ嗤い方をしているんだあの龍達は……」




 リュウデリア、クレア、バルガスの3匹が、面白そうに嗤っている姿を眺めていたオリヴィアはこう語る。




 ──────あれは碌でもないことを考えている時の笑い方と声だ。うん。間違いない(正解)。





























 悪意しか感じられない会話をして、3匹で嗤っている彼等とは別に、神界へ帰ってきた現最高神プロメスは、ヘイススを連れて世界樹の有る場所を目指している。その表情は和やかさなんてものは欠片も無く、真剣な表情を浮かべていた。


 少し前にリュウデリア達が破壊を撒き散らしたことで、一部では純黒が大地を侵蝕していたり、竜巻によって大穴が開いていたり捻れていたり、雷が落ちた後炎が上がって緑を広範囲に渡って燃やしていたり、見える限界の向こうまで大地が裂けていたりとしている。


 そこの世界樹の根元へ行くとヘイススを降ろした。彼女はプロメスが忙しいと言っている理由を知っているので気まずそうに目を逸らす。本当はこんな時に恩返しの手伝いを申し出るときではなかったのだが、後になると逆に無理かも知れないし、自分も興味があるから行ってみようと、プロメスが地上に居るリュウデリア達の元へ連れて行ってくれたのだ。


 お気をつけて。そう言ってくれたヘイススに微笑んで、いってきますとだけ答えたプロメスは、彼女から視線を切ってある方向へ向かって飛んで行った時には、元の真剣な表情に戻っていた。


 世界樹の元から離れて少しすると、権能を使って瞬間移動をした。目的地は世界樹から数百キロは離れている地点である。するとそこでは、神々の戦いが繰り広げられていた。相手は同じ神ではない。戦争をしているのではないのだ。寧ろ、神がこれ以上の被害は出すまいと、懸命に戦っていた。




「──────ぐあぁあああああああああッ!!!!」


「怯むなッ!!誘導部隊が隙を作っている内に仕掛けろッ!!」


「権能を持つ者は使っていけッ!!他の神を巻き込んでも構わんッ!!奴を殺せッ!!」


「ぁ……あ゛ぁ゛あ゛あ゛………」


「俺の……脚は……?」


「クソッ!!押されているぞッ!!」




「……前最高神は一体何を考えて“こんなの”を封印していたのかな……尻拭いはボクがやらなくちゃいけないんだったら最初から始末しておいてよね」




 それは獣だった。破壊と絶望を、そして絶対の死を齎す災厄の獣だった。血のように赤く長い毛並みを持ち、大きく裂けた口からは奥へ3列も重なった鋭い牙が所狭しと並び、口の奥にはもう一つ同じ口が存在している。目は4つあり、それぞれが別々の動きをして獲物を捉えて離さない。


 顔は狼をベースにしながら、人のような輪郭も持ち合わせていて、憎悪に取り憑かれながら悦楽を見出し、それでも憤慨しているような恐ろしい形相をしている。頭上には黒い輪が浮かんでおり、色が違えば典型的な天使が頭上に浮かべる輪にも見えただろう。


 4足歩行を主とした体の構造でありながら、その全高は約300メートルあり、全長も数百メートルある。神々は巨体を誇る、そんな災厄の獣に立ち向かっていくが、前足を振り下ろせば大地を砕き割りながら、鋭い爪が放つ斬撃に斬り刻まれる。一度咆哮すれば、衝撃波だけで神の体が粉々となって滅び去るのだ。


 プロメスがこれ以上他の神が戦っても意味が無いと、権能で声の大きさを増幅させて呼び掛けた。最高神の登場に喜びの声と嬉々とした表情が浮かぶ。これなら勝てる。最高神ならばこの災厄の獣を殺せる。そう確信しているのだ。そうして喜んでいる神々に、鋭い声で邪魔だから下がれと命令し、プロメスが巨大な災厄の獣と対峙した。




「“最高神ならば勝てる”……かぁ。ボク、生まれてそう時を重ねていないし、権能の使い方も完全に把握している訳じゃないんだけどなぁ……けど、仕方ないよね」


「■■■■■■■■■■………っ!!!!」


「だってボク……最高神だし。いくら前の最高神が封印していたもので、今更封印から解かれて暴れ出したとしても、他の無辜な神々をむざむざ殺させる訳にはいかなから戦わないとね」


「■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」


「君……でしょ?なのにこの威圧感に強さって……本体はどれだけ強いのやら。ホント、嫌になるよ。けどさぁ……──────最高神の前で他の神を喰い殺す君を、ボクは赦さないし赦してあげない。だがら大人しく死んでねッ!!」


「──────■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」




 掌を中央に向けるように上下に構える。中央では黄金に輝く立体的な正四角形が乱回転していて、回転が止まると災厄の獣の体を完全に囲む黄金の正四角形が展開された。掌を勢い良く合わせて正四角形体を押し潰して破壊する。すると、連動して災厄の獣を囲む黄金の正四角形も小さくなって爆発した。


 眩い光を放ちながらの爆発だったが、災厄の獣は何も無かったようにその場で唸り声を上げている。毛ほどのダメージも受けていない。まるで見に受けた権能を破棄したような、上から叩き付けられる力に、プロメスは額に一筋の汗を流す。


 災厄の獣が左前足で地面をガリガリと引っ掻いて削る。と、災厄の獣はプロメスの目の前まで来ていた。巨体を使った非常に速い俊敏な動き。面での攻撃に、プロメスは避けきれないと悟り、そして受け止める事も困難だと考えてい瞬間移動をした。背後へ回り込むと、弱点を探すために権能を生み出し、神眼を発動させて弱点を探る。


 だがその時だった。突進してきた災厄の獣との距離は離れていた。にも関わらず、災厄の獣が前脚を横凪に振るえば、自身の体の側面に異常な程の重い衝撃が叩き付けられた。




「かは……ッ!?な……にが……っ?」




「■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!」




「ごぼっ……と、『跳べ』ッ!!」




 ──────何で何も無いところからあれ程の衝撃が……なるほど、攻撃したときの衝撃だけを別の場所に移してきた訳か。ホント、嫌になるなぁ……。




 横に吹き飛ばされ、数百メートルは移動して木々の中に突っ込み、何十本もの木をへし折りながら止まらず、最後は岩にぶつかって止まった。だがすかさずの災厄の獣による、上からの踏み込みがあって『言霊』の権能を生み出して使用し、上空へ瞬間移動した。


 眼下に居る災厄の獣は、気配で察したのか顔を見上げさせて睨んでくる。点に見えるくらいの上空へ移動したのに……と、思いながら、本腰入れて本気で掛からないと殺されるなと考え、凶悪な権能を複数同時使用した。






 神界の最高神と前最高神が掛けた封印から解き放たれた、末端の災厄の獣による激しい戦闘音はいつまでも続いていた。彼は戦う。災厄の獣が死ぬその時まで。他の神々を護るために。






 ──────────────────



 災厄の獣(末端)


 血のように赤く長い毛並みを持ち、大きく裂けた口からは奥へ3列も重なった鋭い牙が所狭しと並び、口の奥にはもう一つ同じ口が存在している。目は4つある。


 顔は狼をベースにしながら、人のような輪郭も持ち合わせていて、憎悪に取り憑かれながら悦楽を見出し、それでも憤慨しているような恐ろしい形相をしている。頭上には黒い輪が浮かんでいる。大きさは300メートル。突然変異のジャイアントレントと同じくらい。でも強さは雲泥の差。


 前最高神が自身の力で封じていた獣であり、リュウデリアに殺されたことで封印が解けて現れた。その昔神々を喰らい、神界を滅ぼそうとした災厄の獣の切り離された一部。だがその強さは生まれたばかりとはいえ、最高神プロメスにも迫っている。





 プロメス


 神界は今忙しいと言っていたのは、災厄の獣(末端)が神界で暴れて神々を喰らい、蹂躙しているから。それでもヘイススの頼みを聞いたのは、今を逃すと頼みを聞いてあげられないし、それどころじゃなくなるから、今の内に行っちゃおうということになった。


 あと、単純にリュウデリア、バルガス、クレア達を見てみたいということもあった。彼等に災厄の獣(末端)の退治に協力を仰ぎたかったが、神々の問題にほぼ無理矢理関わらせるのもな……と思って言わなかった。因みに、避難は済んでいる。





 リュウデリア&クレア&バルガス


“御前祭”について少し何かを考えている模様。何なのかは分からない。彼等は応援と労いと言っていたので、恐らく戦っている者達を応援するのだろう(無い)





 オリヴィア


 悪い笑い声を上げているリュウデリア達に、絶対に碌な事しないだろうし碌な事考えていないなと察している。だが止めようとはしない。だってスカイディアに居る龍達の事なんて興味ないから。




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