第112話  ダムニスの街






「それで、また共に行動するか?どうせ1ヶ月後にはスカイディアに行って会うんだ。別れる必要も無いと思うが?やることがあるならば別だが」


「ンや、別に何もねーからまた一緒に行くわ。バルガスはどうすンだ?」


「私も……構わない」


「では、次の街は皆で一緒だな」


「よろしく頼むぜ」


「世話に……なる」




 約1ヶ月後に迫っている“御前祭”。そこでちょっと見学していく事が決まった一行は、このあとどうするかを決めていた。というのも、何度も集まっては別れてを繰り返している彼等だが、どうせ1ヶ月後にはまた会うことになる。


 ならば、態々ここで別れるのではなく、一緒に“御前祭”まで行動を共にしても良いのではないかと案を出した。まあそれも確かにと頷いて同意したクレアとバルガスは、久しぶりの同行動をすることとなったのだ。つまり、オリヴィアの使い魔が3匹となるということだ。


 そして、街が何かをしでかした場合、3倍の被害を被るということでもある。是非とも静かにして刺激を与えないで欲しい。でなければ、また国や街が消し飛ぶ事となる。




「ンじゃ出っぱーつ!」


「そっちは反対だ」


「……知ってるし!!」


「ほらクレア。私達とはぐれて迷子になるなよ?」


「やめろ。このオレが方向音痴みたいな扱いすンな。定着しちゃうだろうが!」


「ふふっ。分かった、分かったからそんなににじり寄るな。ふふふっ」


「せめて本人に見えない聞こえない場所で笑え!」


「クレアは……それで……いいのか??」




 気を取り直して、北東へ向かおうとしたところ、クレアが腕を振り上げて元気よく南西に向かったのでリュウデリアが補足した。そっちではないと。すると踏み出そうとした一歩を出して進む前に、体の向きを反対に向けて歩き出した。オリヴィアがクスリと笑って迷子にならないようにと注意すると、必死に食って掛かる。


 おバカキャラが嫌なようだ。実際、リュウデリア、バルガス、クレアは頭が良い。瞬間記憶能力を持ち、本一冊を瞬く間に読破する。そしてそれを忘れない記憶力と高度な魔法陣の機構を頭の中だけで組み立てる情報処理能力が備わっている。自然に生きる龍だから粗暴で野性味溢れているかと思えば、とんだインテリ系なのだ。しかし間違いはする。


 現にクレアが自信満々に方角を間違えた。まあ行く方向を教えていなかったので適当に歩き出しただけなのだろうが、でも間違えた。それがオリヴィアには面白くてつい弄ってしまうのだ。他の者に言われたら怒るのだろうが、オリヴィアが相手だと遊ばれているトカゲだった。




「つかよ、この武器小さくね?」


「あぁ、確かに。お前達の体は本来巨大だからな」


「元に……戻った時……仕えない……のでは?」


「……ふむ。周囲に人間は居ない。試しにやってみるか」




 言われてみれば確かにと、オリヴィアは再確認した。ヘイススの大きさに合わせて人間大のままでいて、そのまま武器を造ってしまったものだから武器のサイズも人間大の者が使うサイズと同じなのだ。これでは元の大きさになった時に使えない。


 そもそも、ヘイススが提示した特殊な超金属だって、大きな塊ではあったが到底彼等の本当の大きさに合わせたサイズの武器を造るだけの大きさは無かった。つまり、最初から人間大に合わせた大きさの武器しか造れなかったのだ。


 盲点だったと思っているオリヴィアの傍ら、リュウデリアは左手で鞘に納めた純黒の刀を持ちながら、右手で顎を擦った。何かを考えている様子。そして思い付いたことはやはり実験してみてこそと思い至り、サイズを変える魔法を解いた。縮んでいた肉体が元の大きさへと変わっていく。


 太陽の光を遮って影を落とし、見上げる大きさへとなっていく。約30メートルの全高。そしてそんな彼の左手には……巨大な純黒の刀が握られていた。共に大きさを変えたのだ。魔法によるものではない。寧ろ小さくしていた魔法を解いたので、刀に何かが掛かる訳がない。


 まるで予想通りだなと言わんばかりにクツクツと笑うと、左手で鯉口を切って右手で柄を握り込み、ゆっくりと抜刀した。すらりと純黒の刃が現れる。中もそのまま大きくなっている。表面上だけではない。しっかりと全てがリュウデリアの体の大きさに合わせられていた。


 抜刀した刀を鞘に納め、かちんとと小気味良い音が鳴る。満足そうに一度頷いてから、体のサイズを変える魔法を自身に掛け直して小さくなっていった。




「元の大きさになっても問題ないな。魔法も掛けていないというのに勝手に大きくなった。恐らく、この武器達は俺達に完全に合わせられる、謂わば半身みたいなものなのだろう」


「まあ、万が一変わンねーっつーンなら魔法でデカくしてたけどな」


「血に……鱗に……心臓まで……使っただけは……あるということだ」




 目の前でリュウデリアが証明したことで、武器の大きさについて考える必要は無くなった。最早己の半身と言っても良いくらいの馴染みと性能、そして専用武器と評せる他者への拒否反応。ヘイススは本当に良い仕事をしたと手放しで褒められる。


 それぞれが手の中で武器を弄ぶ。バルガスが上に放って受け止めて、上に放って受け止めてを繰り返し、あっ……と言いながら取り溢して地面に落とすと、地割れのように大地が裂けた。それだけで?思いながら柄に手をやって持ち上げると、金鎚が機嫌良さそうに赫雷をばちりと纏わせた。


 それを見ながら何やってんだよーとケラケラ笑っているクレアは、扇子を広げて閉じてをマスターしてずっとバサバサやっていて、開いて顔を扇ぐと程よい風が生み出されていた。普通に扇子を扇いだら出てくる風の強さではないが、龍ならば満足する強さだ。そこで上空の雲が地上に影を落としたのに気が付き、一扇ぎ上に向けてやると、上空の雲が消し飛んだ。


 広範囲が快晴になったので、そこまでやらんでも良いのにと思いつつ、異空間から『龍の実』を取り出した。右手に持って上に放り投げ、その間に右手は純黒の刀の柄へ置く。そしてほんの一瞬だけ右腕がブレ、かちんと音が鳴った時には事が終えられていた。手の中に落ちてきた『龍の実』は4等分に切られていた。




「あ、オレにもくれよ」


「良いぞ。バルガスとオリヴィアも食うといい」


「ありがたく……貰う」


「ありがとう。……ん?これは……」


「気が付いたか?一つだけ当たりがあったが、オリヴィアが引いたか。運が良いな。確率は25%と高めだが」




 リュウデリアの手の中から4等分にされた『龍の実』をそれぞれ持っていった中に、オリヴィアが手にしたものだけ、黄金色に輝く皮の部分だけが器用に切り抜かれ、何かの魔法陣が描かれていた。細かいところまで完璧に描き込まれていた。何の効果があるのだろうかと思っていると、リュウデリアがゆっくりと離してみろと言ってきた。


 言われた通りにゆっくりと『龍の実』を離してみると、魔法陣が淡く光って効力を発揮し、その場で浮かんでいた。支えも無しに浮いているので、しっかりと魔法陣として機能していた。見れば見るほど細かい。素人目からでも凄いと思う。何だか食べるのが勿体なく感じてしまうが、リュウデリアが食べないとそれこそ勿体ないというので、手に取って齧った。




「ははッ。やっぱ『龍の実』は最高に美味ぇな。ところでよ、今向かってる街は何があンだ?つか、後ろからリュウデリアの魔力の残痕が感じられンのは何でだ?」


「かなりの……魔力が感じる。それに……広い」


「あぁそれか。色々あってな。オリヴィアを処刑すると抜かしおるから皆殺しにした後国ごと諸々を吹き飛ばした」


「マジかよ。最高じゃねーか」


「私も……久しぶりに……国を……襲ってみたい」


「ならば今度、3匹で誰が最初に魔法無しで住民を皆殺しにできるか勝負するか?」


「なにそれ面白そう」


「オリヴィアもやってみるか?」


「はは。私ではお前達の早さに勝てないから大丈夫だ。見学させてもらうさ」




 不穏な勝負をしようとしているのに、オリヴィアは苦笑いだった。気分一つで人間の国が滅び去ろうというのだ。だがそれも仕方ないのだろう。龍に襲われて町や村が滅ぶという記事は偶にだが出ている。そんなことをする龍の内の1匹なのだから、可哀想だからやめてやろうとはならない。


 やはり魔法無しで素手のみとなると効率的なのは……と話を進めていく彼等に、本当にやりそうだなと思って止めようとしないオリヴィアも似たようなものなのだろうか。


 神も結局は人間という種族に何とも思っていないのだ。史実にあるような施しを神らしく与えるのだって、単なる気紛れかお遊びでしかない。人間にとっての天変地異は、神にとって簡単に引き起こせるものでしかないのだ。話のスケールが違うから、神には勝てなくて当然と、神側も固定観念として定着してしまっているのだ。


 彼等は時々武器の練習がてら周囲を壊したり、消えない竜巻を発生させたり、うっかり大地を純黒に染めながら北東にある街を目指した。まだ目には見えないが、比較的近くということもあり、陽が落ちて暗くなってはしまったが、ミスラナ王国領地内の街、ダムニスに着くことができた。




「君、こんな時間に来たのか?」


「此処までもう少しだったんでな、折角だから野宿せずに来た」


「そうか……魔物とかに出くわさなかったか?」


「確かに会ったが、私はC級冒険者だ。そう簡単には負けない」


「ん……?あ、本当だ。それは失礼なことを言ったね。身分も証明してもらったし、通っていいよ。ようこそ、ダムニスへ!」


「あぁ、ありがとう」




 門番の男から通って良いと言われ、入るための2000Gと許可証を交換して中へ入っていった。今の時刻は7時なので、まだまだ人が道を歩いている。恋人とデートしていたり、子供と外食をしている親が居たりと。魔道具の街灯の光と、店の明かりに照らされて、そこまで暗いとは感じない。


 両肩と腕の中に使い魔サイズになったリュウデリア達が居る。フードを被っていて真っ黒な姿に3匹の使い魔、そして周りが暗いとなると少し怪しさが出てきて人目についていた。中には子供が指を指して使い魔のリュウデリア達がカッコイイと叫んでいる。何となく誇らしげにしている3匹が居たのは内緒だ。


 さて、街に着いた事だし腹拵えとして何か食べようと小声で器用に騒いでいるクレアと、賛同するバルガスを宥めて、最初にやるのは泊まるための宿探しだと言った。目に見えて肩を落としているクレアとバルガスに、その次は飯屋にでも行こうと言うと、これも目に見えて元気になった。


 道行く人にいい感じの宿が無いか尋ねながら街の道を進んでいくと、ベッドの絵が描かれている看板を見つけた。取り敢えずあそこに行ってみるかと提案して頷いた3匹を確認し、オリヴィアは宿に向けて歩みを進めた。扉を開けて中に入ると、玄関からすぐに設置されたカウンターに腕をついて寝そべる12、3歳の女の子が居て、暇そうにしていた。


 オリヴィアがコホンと咳払いすると、がばりと勢い良く顔を上げてキラキラとした目を向けてきた。見た目が不審者だというのに、そんなことは関係ないと言わんばかりに駆け寄って来る。元気な犬の尻尾が幻視できてしまうくらいの動きだ。




「いらっしゃいませ!お泊まりですか!?」


「あ、あぁ……使い──────」


「使い魔ちゃん達の同伴もオッケーです!今なら一泊のお値段を2割引にしていて、朝ご飯もついてきますよ!シャワールームも洗面所もトイレだって完備!毎日掃除していますので清潔感溢れています!」


「……そうか。なら、そうだな。ふむ……取り敢えず3泊分で頼む」


「さ、3泊も……っ!ありがとうございます!」


「……随分と必死だな。何だか不安を煽られるが、何かあるのか?」


「えっ。あ、あはは……やっぱり必死すぎましたよね。いやぁ……通りを挟んで向かいにある宿屋にお客吸い込まれてしまって、最近客足がちょっと……」


「そういうことか。確かに向かいの方が大きくて新しい感じがしたな。だが、まあ……私はそこまで求めていないからここで構わない。それで金は幾らだ?」


「泊まっていって下さってありがとうございます!お金は1泊5000Gですが、2割引で1000G引いた4000Gで、3泊ということなので12000Gです!」


「分かった。……ほら」


「えーっと、はい!ピッタリですね!確かに!」




 元気でハキハキと接客する女の子は、恐らくこの宿屋をやっている両親の娘なのだろう。慣れた手つきで金を受け取って確認し、鍵を持って案内をしてくれる。荷物があれば持っていくとのことだが、特に持ってもらうだけのものは無いので大丈夫と伝える。


 そんなに身軽で此処まで来たのだろうかと不思議に思って首を捻っている女の子だったが、深くは聞かずにそうですかと笑顔で答えた。良くできた人間の子供だなと思いながら案内を受けると、殆ど部屋が空いているからなのか、角部屋に通してくれた。


 ドアを開いてくれて中に入り、魔道具のランタンに明かりを灯すと、ベッドと机があり。カーペットも敷いてあった。洗面所には身体を拭くためのバスタオルとバスローブが置いてあり、使い捨ての歯ブラシもあった。大きな鏡が壁についていて、バスタブも真っ白で綺麗だ。蛇口には水垢も無くて清潔。何で人があまり入らないのか不思議だった。


 確かに道を挟んで向かいの宿屋は、今いるこの宿屋よりも2倍くらいの規模を誇っていたが、そこまで違うものかと思う。まあ、そこらへんは店としての競争なのだから、自分達が言えたことではないので、まあ良いかと置いておいた。




「良い部屋ではないか。私は気に入ったぞ」


「えへへ。ありがとうございます。お掃除は私がやってるんですよ!何かあったら大体さっきのカウンターのところに居るんで来て下さいね。鍵は持っていて下さい。でも無くすと弁償ってことになっちゃうので気をつけて下さいね!」


「分かった。ありがとう」


「いえいえ!これからもう部屋で休まれますか?」


「いや、今から使い魔達と一緒に何か食べてくる」


「了解です!」




 一旦女の子と部屋を出て、廊下を進んで玄関まで来た。では、また後で!と見送られながら宿を出て行く。夜の道を歩いて進んでいると、今まで黙っていたクレアとバルガス、ついでにリュウデリアが肉が食べたいと小声で騒ぐので、今日の晩飯は肉になることが決定した。






 仕方ないなと、クスリと笑ってオリヴィアは肉料理を提供してくれる店を探していくのだった。短い間とはいえ、楽しい4人旅がまた始まったのだ。







 ──────────────────



 宿屋の女の子


 めっちゃ暇しているところにお客が来てくれたので感激している。例え相手が全身真っ黒だとしても、客なら何でも良い。部屋の掃除は彼女がやっていて、隅々まで清潔感がある。向かいの宿屋に客を吸われて客足が減っていて、どうしようと悩んでいる。


 向かいの宿屋が建てられるまでは普通に繁盛していたので、それなりに大きい宿屋なので、部屋も大きめで設備も完備している。少なくともオリヴィア達は気に入っている。





 龍ズ


 ダムニスへ来る途中、普通に厄災振り撒いていた。消えない竜巻も地割れも侵蝕も全てアウト。でも気にしない。


 街について最初に食べるのが肉という、最早お決まりと化していた。オリヴィアは苦笑いではいはいと聞いてくれるので甘えている。端から見れば完全に手懐けられた使い魔。本当は龍。





 オリヴィア


 また4人旅が始まったので、龍3匹の手綱を握るのは彼女。肩や腕の中に居る使い魔君達は、食べ物盗まれただけで全力攻撃しようとするので気をつけないといけない。まあ、その時はしっりと止めたので問題は無いと思う。


 宿屋は普通に気に入っている。綺麗で広いし、埃も全くないので清潔で好印象。更には安いのでとても良い場所を見つけられたと得意気になっている。




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