第77話  融合魔法






「クソッ──────マジでいてェ……」


「……これが……人間のいう……火傷か……?」




 周囲を減らない戦いの神々に囲まれているクレアとバルガスは愚痴を溢していた。リュウデリアの為に道を作って世界樹へと向かわせて、風神と雷神を喰らって強さを得てから、2匹は上で観戦していた炎神とぶつかった。


 被害は甚大だった。余裕を見せていただけあって炎神の炎の権能は強力無比であった。まるで太陽を相手にしているようだった。強靭な鱗を灼いて焦がし、熱によるダメージを与えてきた。攻撃範囲も広く、余波だけで神界の地上に生えている数多の木々を消し炭にしていた。


 まあもうその炎神はクレアとバルガスの手によって下されているのだが、無視できないダメージを負ってしまった。2匹共全身が所々焦げている。動くだけでも痛く、単純に動きが鈍ってしまっていた。全身に奔る痛みに唸り声を上げ、殺して消滅していく、ちっぽけな炎の塊にしか見えない地上に倒れて燃えている炎神を見下ろした。


 燃え尽きる火の如く燃え尽きて死んだ炎神。そしてその炎神を斃してからというもの、戦いの神々の強さがまた変わった。銀の鎧と白銀の鎧を着ていた神々が後ろに下がり、前に出てきたのは黄金の鎧に身を包んだ神々だった。


 身につけているものが変わっただけかと思われるだろうが、銀から白銀に変わるだけでも強さが段違いに変わったのだから、また強さに変化が起きているだろうと当たりをつけていた2匹は、番えて放たれた矢を受けて悟った。射られた矢が鱗に触れると、光を放って大爆発したのだ。


 1本の矢が出すには強力すぎる爆発力だった。その威力たるや、炎神との戦いで灼けて傷付いた鱗が粉々に砕け散り、肉を抉った程だった。それが雨のように降り注いで来たので傷付いている今の状況で受けるのは拙いと判断し、蒼風を巻き上げたり赫雷を奔らせて迎撃し、自身に辿り着く前に迎撃していった。


 そしてそんな戦闘の傍ら、クレアとバルガスの2匹は、龍の優れた視力を使って世界樹の根元を見た。そこにはシャボン玉の表面のような色をした正方形の物体があった。このような正方形の謎の物体が形成されるのは3度目だった。一度目は青と茶の2色が基本となり、太陽のようなものが7つ移動していた。2度目は空色と雲の形をしたものが描かれていた。


 そしてその正方形が現れる前には、必ず純黒が見えた。つまりリュウデリアが何らかの力を食らって閉じ込められているのだ。ここからでも解る強い気配の持ち主と正方形に入っているので、恐らくは一対一の状況を作るために閉じ込められているということが解った。


 チラリと見えたが、リュウデリアの左腕が無くなっていた。それだけの負傷をする相手が居て、連戦を強いられているともなると、この先どうなるか解らない。唯でさえ制限時間もあるというのに、まだ殆ど動けていない事を考えるとマズいのではという考えが浮上する。




「おいバルガス。あの正方形、展開してンの何奴どいつだと思う。オレは正方形の近くに居る襤褸着てる奴だと思ってンだけど」


「……私も……そうだと……思っている……アレを消せば……リュウデリアが縛られる……心配はない……早く……オリヴィアの元へ……向かってもらわないと……私達が……保たない」


「やっぱそうだよなァ?……仕方ねェ。これ以上リュウデリアの邪魔させる訳にもいかねーから、取り敢えずアイツぶっ殺すぞ」


「……了解……した」




 それぞれが風神と雷神を喰らったことによって魔力も増大して強くなり神界に居られる時間は8時間に伸びていた。しかし炎神との戦いと黄金の鎧を身に纏おう戦いの神との戦闘により、強力な魔法を使って膨大な魔力を使用してしまい、制限時間は4時間を切っていた。


 こっちで相手している神よりも強い気配を持つ神が邪魔をして、そこに変な空間に囚われているともなると時間が掛かってしまうのは嫌でも解る。でも、今ここでそんなに時間を割いている訳にはいかないのだ。


 相手をしている神々を魔力の意図的暴走によって弾き飛ばして無理矢理距離を取らせ、魔力を練り上げて魔法陣を構築した。クレアとバルガスの中間に蒼と赫の魔法陣が重なって何かを形作ろうとした時、形成した魔法陣の中心に黒い点が出来た。気配から権能。攻撃されたと考えるよりも先にその場を退避しようとするが、体が引っ張られた。


 構築した魔法陣を黒い点に吸い込まれて砕け、クレアとバルガスも引き寄せられて体をぶつけ合う。黒い点に向かって集められているのだと解っているのだが、引力が強すぎて引き剥がせず、硬い鱗が重なってがちりと音を断続的に立てていた。




「毎度毎度めんッどくせーなァッ!!」


「……周囲の奴等を……頼む……私は……この球体を……破壊する」


「あいよッ!!オラ死ねェッ!!」




 風の刃を無数に飛ばして牽制と攻撃を会わせて行う。触れると防ぐことも困難な蒼い風の刃は白銀の鎧を着る神でも避けられない速度を出して四方八方を飛び交った。だが黄金の鎧を着た神はやはり避けていった。中には防御しようとして黄金の盾を構えるも、盾諸共両断された。それを見て防ぐのは愚策と学んだのだろう。避けることに重きを置いいる。


 爆発する矢も、鱗に鏃が刺さる貫通力に優れた矢も、深くまで刺さるだけの力と鋭さを持つ投擲された槍も、2匹を囲うように小規模の竜巻を生み出した。撃ち込まれた矢も槍も絡め取って竜巻の風に乗せて加速させ、寸分違わぬ狙いで返した。


 まさか返されるとは思っていなかったのだろう。射った神は返された矢に被弾して体を貫通したり、爆発をもろに受けて四散したりした。槍も頭を撃ち抜かれたり、体に突き刺さって取り敢えず動きを止める。遠距離で攻撃すれば竜巻に呑まれてこちらに返される。だが近付けば竜巻に含まれる風の刃で微塵切りにされてしまう。


 そこで、竜巻という性質上台風の目のように穴が開いている真上から攻めることにした。黄金の鎧を身に纏う神に続いて白銀と銀も向かって上から竜巻を見下ろす。だがクレアは既に真上に向けて魔法陣を構築しており、蒼い光線を撃ち放った。罠にはまった神々は身に纏う鎧すらも残さず完全に消し飛んでいった。


 そうして牽制と攻撃の両方を熟しているクレアの隣で、バルガスは引力で2匹を引き寄せている黒い点の破壊を試みていた。見た目こそ小さいものなのだが、どう考えても見た目に釣り合っていない力を持っている。だから避けようとしても2匹で押しくら饅頭みたいなことになっているのだ。


 人差し指と親指の間で赫雷を発生させる。ばちりと小さく轟きながら、吸い込んで引力を発生させている黒い点に近付かせ、親指と人差し指の間で挟み込み、赫雷を撃ち込んだ。しかしその赫雷を吸い込んでいってしまったので、出力を上げて攻撃した。すると黒い点は赫雷の出力に負けて自壊し、引力を元に戻った。




「まったくよォ……あの感じは重力の力場だろ。今度は重力の神ってか」


「……そのようだ」




「これ以上は好き勝手やらせる訳にはいかん。大人しくしろ、地上の龍」




「はッ。だったらテメェ等も大人しくオリヴィア寄越せやボケ。渡しさえすりゃ、ンなとこさっさと出て行ってやるよ」


「……渡さないから……こうして……抵抗している……まあ……リュウデリアが……行く以上……奪還は確実」




 懐にしまえるような小さな杖を持っている、魔法使いのような格好をした男の神が居る。強い気配であることから、引力でクレアとバルガスの動きを阻害していた重力の神であることが窺えるだろう。また強い権能を持った神が来やがったとクレアは舌打ちをし、重力の神の更に向こう側にある正方形をチラリと見る。


 正方形の形をした異空間を創ってリュウデリアと四天神を閉じ込めている縛りの神を、既に2匹共補足している。後は届いて殺せるだけの魔法を撃ち込めば良いだけなのだが、重力の神が居るとなると、侵入者の足止めをしている神を害そうとしている者の攻撃を邪魔しない理由がない。


 バルガスもリュウデリアが行ったのだから連れ攫われたオリヴィアの奪還は簡単だと言ってはいるものの、彼らしくもなく時間が掛かっているのは事実。制限時間もあるので、ここは手助けをしたいというのが本音。ならば、やるしかあるまい。立ち塞がる重力の神を相手にしながら、リュウデリアのサポートをする。




「重力の力を思い知るといい」


「はッ!もう受けるかよンなもん!」


「……同じ攻撃は……通じない」




 重力の神が杖を向ける。発生するのは先程のものよりも大きい、直径3メートル程の黒い球体だ。凄まじい引力が働き、呑み込まれてしまえばあらゆる方向からやって来る重力の重みに潰されてしまうことだろう。クレアとバルガスの2匹の中間に創られた重力球だが、今度は事前に察知したのて瞬時にその場から離れて避けることに成功した。


 消えては現れてを繰り返しているようにしか見えない速度で動き回り、重力の神が生み出す重力球を避けていく。当たらずに放置されている重力球が連鎖的に強力な重力を生み出して、地上の草木や土を上に持ち上げて巻き込んでいく。粉々になりながら重力球に張り付いて巨大な土の木の集まった球が出来上がった。


 これならば触れても問題ないと判断して、クレアとバルガスは魔力を腕に集中させて、全力で球を殴った。弾け飛ぶ土塊と木の破片。狙われた重力の神が瞠目しながら苦々しい表情で舌打ちをし、自身の前に重力球を生み出した。破片は全て重力球に吸い寄せられて、砂粒1つとて重力の神には触れなかった。


 小癪。そう思いながら、一向に当たらない重力球に唇を噛んでから、クレアとバルガスを巻き込むように設置させている重力球の他に、弾丸が如く飛んでいく重力球も生成して飛ばし始めた。逃げ場を少しずつ無くしていく2匹にほくそ笑む。


 飛ばしている重力球は拳程度の大きさしかないが、当たれば近くにあるものを呑み込むので剥がすことは出来ない。体を潰されるまで終わらない重力の塊だ。設置している重力球は更に強い引力を持っているので、変に近寄るだけでも引力で吸い寄せる。それらが時間が経てば経つほど増えていく一方なのだ。


 自身には近付かせず、延々と遠距離から攻撃していればいい。クレアとバルガスの近接戦が非常に強いことは解っているので、近づかせないまま仕留めようとしているのだ。2匹をそんな簡単な方法で仕留められる訳がないというのにだ。


 設置型の重力球の総数が100を超えると、地上の岩盤を引き剥がしているのではないかと疑いたくなるくらいの土が持ち上がり、巨大な土の塊となった。このままだとまた此方に向かって飛ばそうとしてくるだろうと思っていると、やはり2匹が現れたので、突き進んで殴り抜こうとする軌道上に重力球を創り出した。そして重力そのものを操って背後から押してやるのだ。


 重力球に向かって背中押しをされた状態のクレアとバルガスが、顔から重力球に突っ込んでしまい、ばきごきと不快な音を奏でながら肉の塊へと変貌していく。それを見て、重力の神は高笑いした。




「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!仕留めたぞッ!!地上に住む龍如きがッ!!神に逆らうからそのようなことになるのだッ!!ハッハハハハハハハハハハ──────」




「──────つって舐め腐ってるから死ぬンだよクソボケ」


「──────油断した……お陰で……造る時間が……出来た」




「──────ハハハハハハ…………は?」




 声が聞こえた。今先程肉塊に変えてやった筈の龍2匹の声だ。どうして、どうやってと思って潰れていたはずのものを見てみると、潰れていたのは、クレアとバルガスの形をしていた土の人形だった。精巧に作られ、色までまったく同じに造られたそれが、重力の神には本物であると錯覚してしまい、隙を晒しながら時間を与えてしまった。


 少し離れたところで、クレアとバルガスは蒼い魔法と赫い魔法陣を重ね掛けして二重魔法陣を造り上げていた。形成されているのは巨大な蒼い矢であり、そんな矢は赫雷が帯電しながら纏っており、凄まじい魔力を放っていた。矢の後ろにはバルガスが居て、その後ろにクレアが居る。


 クレアは魔法陣を構築して爆風を発生させ、バルガスの背中を押して加速させ、赫雷を纏ったバルガスが赫雷を纏う蒼い巨大な矢の矢筈を全力で殴り込んだ。進行方向はクレアが風の通り道を創って補強し、貫通力と威力は赫雷が補った。違う術者の魔法を融合させる融合魔法。完璧に息が合わないと魔法が自壊してしまう。


 やろうと思っても出来る者は非常に少ない超高難度魔法である。融合魔法をやりたいからといって練習しても出来ず、生涯を掛けても一度も出来なかったという例がある程のものを、重力球を避けながら少しずつ造り上げていき、少しの隙を見て完成させて撃ち放った。




「「融合魔法──────『破嵐を撒く禍矢トォルテン・ピアズ』」」




「──────ッ!!!!」




「──────んっ!?えっちょっ……っ!?」




 暴風を周囲に撒き散らしながら赫雷を轟かせる禍々しい巨大な矢は、土塊と化した重力球を木っ端微塵に破壊しても尚速度を緩めることなく突き進み、重力の神の胸に突き刺さったかと思えば赫雷で肉体を破壊し、無理矢理貫通して体を千切った。灼けて焦げていたり、所々か赫雷で吹き飛ばされながら上半身と下半身に分けられた重力の神は、朽ち果てる葉の如く消滅していった。


 そして、周囲を囲っている戦いの神々を巻き込んでいき、それでも止まること無く、一直線にある場所に居るある存在に目掛けて飛んでいく。それに気が付いた戦いの神々が己の命を犠牲にして止めようと試みるが、クレアの蒼い追い風と、バルガスの破壊を撒く赫雷が融合した矢は、止まる様子を見せなかった。


 やがて、世界樹の根元まで突き進み、まさか遠距離から個人を狙って魔法が飛んでくるとは思っていなかった縛りの神は、何かがもの凄い速度で向かってくる時の轟音を聞き、驚いて振り返るが遅かった。恐ろしい速度で突き進んだ矢の貫通力は凄まじく、世界樹の根元の土に全体をめり込ませ、帯びている赫雷が周辺を破壊した。爆発音と砂塵が舞ってしまったが、砂塵が晴れると正方形の異空間がノイズを奔らせ、解かれるところだった。


 縛りの神によって擬似世界に追いやられていたリュウデリアは出て来ることが出来た。そんな彼と共にの神も出てきたのだ。






 そしてクレア達は瞠目する。出て来たリュウデリアが、体の所々に穴を開け、大量の血を噴き出していたのだから。






 ──────────────────


 黄金の鎧を身に纏う神々


 もう一段階上の強さを持つ戦いの神々であり、手に持つ武器は神が作製して鍛えた武器である神器である。人の作る……謂わば人器とは比べ物にならない性能を持っている。矢1本でもその力は違う。





 重力を司る神


 某魔法学校のような服装をしており、懐に入る位の短い杖を持っている。実力的には上の下くらいであり、普通に強い。が、クレアとバルガスの融合魔法によって蹴散らされた。





 クレア&バルガス


 リュウデリアが縛りの神によって世界樹の根元から動けていない事に気が付いて助太刀をした。融合魔法は初めてだったが、自分達ならば問題ないだろう精神でやった。普通は狙っても出来ない超高難度の魔法。





 融合ゆうごう魔法


 完全に息が合っていないと出来ない、魔法の合体であり融合。その難しさは極まっており、やろうと思って出来るものではなく、融合魔法をやろうとして生涯を掛けても出来なかった者がいるくらい。超高難度魔法とされている。





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