第44話  招待




 王都メレンデルクへ歩いて向かおうとしていたオリヴィア達に助けられた、侯爵の爵位を持ったマルロ・ウィンセ・テナムト・ラン・カーネンテ=レッテンブル……マルロが是非とも送らせてくれということで、言葉に甘えて一緒に馬車で向かっている現在。少し時間が掛かるというので話をしていた。


 何故王都へ?と聞かれたので旅をしていて、まだ行った事の無い王都に行こうと考えたと言えば、絶対気に入ると言われた。建物は綺麗で栄えている良い国だとのこと。侯爵の位に就いているので自身の身を置く国を悪くは言わないだろうという考えが過るが、まあそこら辺は着いてからにすれば良い。


 向かっている王都には美味しいものが沢山あるとマルロが話した瞬間、ピクリと尻尾を反応させたのが3匹居たりもしたが、旅の資金はどう稼いでいるのかという疑問に冒険者をしていると答えると、やはりというべきかランクを聞かれた。


 Eランク冒険者をしていると言うと、流石にマルロは驚いた。馬車の中からオリヴィアの戦いを見ていたが、使っている魔法はどれも高威力だった。まず先の戦いを見て、術者がEランク冒険者だとは思うまい。だから素直に驚いたのだ。実はAかBにまで引き上げても良いという打診があったことは内緒である。




「そういえば、お名前を窺っておりませんでしたな」


「あぁ……私はオリヴィアだ。こっちはリュウちゃんに……クレちゃんにバルちゃんだ」




「「……………………………。」」


「……ぶふッ」




「……かっこいい」


「そうだろう。私の使い魔達だ。強いぞ、とてもな」




 龍はとても強いで済むのか?と言いたい。しかも龍の中で最強クラスの力を持つ3匹である。まあまず真っ正面から斃すのは無理だろう。と言っても隠しているのでマルロとティネが知るときは来ないのだが。因みに、バルちゃんとクレちゃんと呼ばれている時に、ひっそりと笑ったのはリュウデリアである。


 まだ小さい女の子なので人見知りがあるティネだったが、気になっているリュウデリアを見て目を輝かせていた。でも助けてくれた人の使い魔で、大切な者達なのだからと、勝手に手を伸ばすことはしない。ちゃんと教育を受けているのだろう。


 触りたそうにウズウズしながら、かっこいいと評しているティネに自慢げとなり、両肩に乗ったバルガスとクレアを掴んで差し出した。ティネは、え?と不思議そうにしていたが、意図が伝わると嬉しそうに2匹を抱えて楽しそうに撫で始めた。


 渡された側であるバルガスとクレアが、ティネの腕の中でポカンとしている。どうやら渡されるとは思わなかったらしい。じゃあリュウデリアは渡さないのかと視線で訴えると、フードの中でニッコリと笑った。目が良いので真っ暗なフードの中は見れる。不自然な程ニッコリ笑みを浮かべるオリヴィアに、バルガスとクレアは目元を引きつかせた。




 ──────アイツ……リュウデリア渡したくねーから代わりにオレ等を渡しやがった……ッ!!とんでもねーなオイ。しかもオレが何を言いたいのかゼッテー伝わってるからなあれ。




 ──────……流れるように……渡された。人間の子供故に……撫でるだけで終わっているが……釈然としない。




「ツヤツヤだぁ……2匹ともかっこいい!バルちゃんとクレちゃんって魔法つかえるの?」


「使えるぞ。バルちゃんが雷魔法が得意で、クレちゃんは風魔法が得意だ」


「そうなんだ!じゃあリュウちゃんは!?」


「んー……何でも出来るな。全部得意だぞ」


「えっ!じゃあじゃあ、氷だして!」


「こらこら、ティネ?オリヴィア殿が困ってしまうだろう?」


「……ごめんなさい。……あっ、氷だー!!」




 ジトーッとした2匹の視線を受けても何のそのなオリヴィア。するとティネから使い魔はどんな魔法が出来るのかと言われた。3匹の戦いの余波で天候がとんでもない事になっていたので、何となく赫雷と竜巻から得意な魔法は雷魔法と風魔法だと認識していた。


 しかしリュウデリアの得意魔法が解らない。雷も風も氷も土も使うので、何でも出来る。つまり苦手な魔法が無く、何でも出来るオールラウンダーなのだ。故にちょっと解らない部分があるが、全部得意であるということにした。


 すると、人見知りよりテンションが勝ったのか、ティネが氷を出して欲しいと、アバウトなものを求めてくる。そこで求めすぎだとマルロに窘められると、残念そうにした。それを見て、まるで出来ないから求めるなと言われている気がして、ティネの目前に透明な氷の結晶を造り出した。


 パキパキと音を立てて極小なものから大きく結晶化していき、二十センチ程度の氷が出来た。最初は純黒のものを造ろうとしたが、オリヴィアとウルフとの戦いで純黒だと目立つと言われたので、それを考慮して透き通った水のような氷を造った。


 大気中の水分を凍り付かせることで造り出した氷を、ティネが受け取った。抱えていたバルガスとクレアを膝の上に降ろし、両手で大切そうに受け取った。触れば本物の氷だ。冷たくてひんやりして、包み込めば体温で溶ける。




「わっ、わっ!冷たくて気持ちいい!すごーい!」


「ふふ。私の使い魔達はとても強くて頼りになるからな」


「凄い使い魔ですなぁ。こんなあっさりと、しかも透明度が高くて美しい。しかし、その使い魔達は見たことの無い姿形をしてますな」


「私もそれは解らん。図鑑などを見て調べたが、載っていなかったからあまり知られていない種族なのやも知れん」


「ほほう……そんな貴重で強い使い魔を3匹……オリヴィア殿は将来大物になるでしょう。戦いも見事でしたからな」


「まだ冒険者ランクもEだ。これからも旅を続けながら少しずつ上げていくつもりだ。だからそう早くは大成しないぞ」


「では、その時を楽しみに待っているとしましょう」




 そう言って、マルロは楽しそうに笑った。フードで顔も見えない相手だというのに、不審がらずに会話に花を咲かせる。時折人見知りが消えて打ち解けたティネが会話に参加したりとしながら1時間程馬車に揺られていた。常にティネの膝の上で撫でられているバルガスとクレアは諦めてしまっている。


 馬を操っている御者が見えたと伝えてきたので、窓を覆っているカーテンを開いて外を覗き込めば、土の壁が見えただけだった。前方には大きな穴が開いており、向こう側の景色に高い白塗りの塀が見えていた。何故土の壁のようなものの向こうにあるのかと疑問に思えば、マルロが説明してくれた。


 王都メレンデルクは、30メートルの土の壁に囲まれた国なのだそうだ。国の一番端にある塀から1キロ程度離れて土の壁が迫り立っている。しかも、不思議な事に、真っ正面から見て右側半分が草原地帯で、左半分が湖のようになっているという。それも土の壁の上からは水が流れて滝が出来ている。


 左側の壁と同じくらいの高さで、大地が盛り上がったような場所が出来ており、上は川のようになっていて、滝を作っているのだという。魔物に襲われても、入口は一つなので警戒するのも迎撃するのも容易で、上から賊が攻めて来ても、国の外側である塀まで1キロはあるので矢も魔法も届かせられない。つまりとても平和な国だという。


 草原には危険な魔物は居ないし、湖にも居ないという。襲われる危険性は少ない、そんな国。土の壁に開いた第一の入口には兵士が居り、専門をしている。御者が対応して簡単に通してくれた。侯爵のマルロならば当然とも言える。


 通された後はまた1キロ程馬を走らせて、国の入口である門の所までやって来た。今度は王都に入るための許可証を受け取る為にオリヴィアは一度馬車を降りた。目的はと聞かれたので旅の途中で寄ったと話し、冒険者の証明書も見せた。怪しくないことはマルロが説明してくれたので、すぐに許可証が発行された。


 タグのような鉄製の許可証を受け取って、また馬車に乗り込む。門番の兵士に見送られながら王都メレンデルクの中へと入っていった。




「王都と言われるだけあって建物が綺麗なんだな。言われた通りだ」


「そうでしょう。王は綺麗好きで、建物が壊れたりすると税金で少し賄ってくれるのですよ。なので城下町の建物は綺麗で、必然的に住民も綺麗を保とうと清掃を怠りません。眺めるだけでも気持ちが良いでしょう?」


「あとね、王様が住んでる城はね!近くに行ってもすっごいキレイなんだよ!」


「あの中央にある高い建造物がそうか。確かに此処からでも白く輝いているな」




 入口から王城まで一本道になっているが、途中で木製の橋が架かっている。誰かの出入りがある時だけ降ろされて渡れるようになっており、それ以外の時は上げられて入れないようになっている。王城は周囲を広い用水路で囲んでいて、唯一の出入り口がその橋だけだ。勿論そこにも兵士が見張りをしている。


 中央の一番広い街道は人が自由に歩いていて、皆が笑顔で楽しそうだ。店も多く出ていて、出店のようなものまである。食べ物を売っている店も当然あって、道端で作って売っていたりするので良い匂いが馬車の中からでも解ってしまう。なのでリュウデリア達が尻尾を小さく振っている。オリヴィアはフードの中でクスリと笑った。


 窓から王都の中を眺めていると、冒険者ギルドの看板が見つかったので、後で寄ろうと考えながら景色を楽しんだ。王都なだけに広大な広さを持っていて、色々な店や売り物があって面白い。オリヴィアは女神でリュウデリア達は龍なので、人間の知らない事が多くあるのだ。




「まずは儂等の屋敷まで来てくだされ。恩人として、もてなしをさせてほしい」


「オリヴィアさん!一緒にご飯食べよ!リュウちゃん達も!」


「では、少し世話になろう」


「ほっほ。それは良かった。口に合う料理を出させてもらいます」




 貴族の侯爵であるマルロは、簡単に言うと金持ちだ。故に持っている屋敷はとても大きなものだ。王都の中で金持ちが住んでいる高級住宅地の一角に、その屋敷がある。馬車が道を暫く進んでいれば、一つ一つが広い庭と大きな屋敷が建っている区域に入り、マルロが後少しで到着するというので大人しくしていると、馬車が止まった。


 背丈よりも高い金属製の白い柵に囲まれ、庭の中央に美しい造形の噴水が見える。所々に植えられている木は手入れが行き届いており、綺麗な丸い形にカットされていた。敷地内にはゴミ一つ無く、屋敷へのアプローチのタイルは磨かれたように清潔感がある。


 そしてメインの屋敷。一軒家が大きくなった高級住宅ではなく、左右にも広い本物の屋敷だった。外壁は真っ白で、シミも無ければ劣化などによる罅も無い。太陽光を取り入れる窓も大きな掃き出し窓から腰窓まで様々で、その数だけ部屋があると思うと、一体幾つあるのだろうと考えてしまう。


 馬車の窓から屋敷をリュウデリア達と一緒にオリヴィアが眺めていたら、ドアを開けられた。外にはメイド服を着た使用人が立っており、目が合うと深く頭を下げた。マルロは馬車からさっさと降りて行き、ティネはバルガスとクレアを抱えながら出て行った。その際、メイドの使用人が首を傾げていたが、似たような姿をしたリュウデリアを見て、心得たと言っているような微笑みを浮かべた。


 オリヴィアが出て来るのを待っていてくれたマルロとティネに待たせたと言ってリュウデリアを抱えながら傍まで行く。ではどうぞと言われて、敷地内に足を踏み入れる前に、屋敷の大きな両開きの玄関扉が開いて、中から何十人ものメイド服を着た使用人が出て来た。使用人は屋敷までの真っ直ぐなアプローチの端に待機し、流麗な動きで礼をした。どうやら出迎えのようだった。




「「「──────お帰りなさいませ、マルロ様。ティネお嬢様」」」


「うむ、出迎えご苦労。それとこの方は、儂等が帰路の途中で魔物に襲われているところを助けて下さった恩人、オリヴィア殿。ティネとオリヴィア殿が抱えているのは使い魔達だ。恩人でありお客様だ。丁重にもてなせ」


「使い魔のリュウちゃん、バルちゃん、クレちゃんのご飯も美味しいの作ってあげてね!」


「畏まりました。主人であるマルロ様、お嬢様であるティネ様を助けて頂きありがとうございます。全使用人を代表しましてこの私、メイド長メルゥが感謝申し上げます。何か御用があれば、是非私にお申しつけ下さい」


「分かった。少しの間だが世話になる」


「はい。よろしくお願い致します、オリヴィア様」




 一番手前側に居たメイドがメイド長であったらしく、メイド長メルゥは他の若いメイド達よりも年上な大人の女性だった。着ているメイド服には一切の皺が無く、気品漂うものだ。一つの仕草を取っても洗練された動きだった。女のオリヴィアから見ても、おぉ……と感心する程だ。


 荷物があればお持ちしましょうか?と聞かれたが、生憎別空間に荷物を飛ばしているので持っていってもらうものは無い。大丈夫だと伝えると礼をされた。そしてメルゥが先頭でマルロ、ティネ、オリヴィア達と続いていく。玄関扉を通って中に入れば、やはり中も屋敷に相応しい装飾が施されていた。


 床には赤い絨毯が敷かれていて、奥には広々とした2階へ続く階段がある。上を見れば天井からシャンデリアが垂れていて豪華なのが一目で解る。壁も白く、所々には彫り物が施されており、最早装飾が一部となっていた。金持ちは違うなと、宿に泊まった事があるオリヴィアとリュウデリアは感嘆としていた。






 1時間以上の道のりを来て、マルロの屋敷へ招待されたオリヴィア達は、食事の前にさっぱりとして欲しいと、大浴場へと案内されるのだった。







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