第12話  典型的な流れ



 アレクは商人などが通ってくる、周りに草が生えているのに、人が通る部分の土が露出しているという分かりやすい道を通っている。この道を道なりに進んでいくと、ルサトル王国があるのだ。月に3、4回訪れる商人が荷車を使うので、荷車を引く2頭の馬と護衛の人の足跡でその部分の草が枯れていき、今のような道が出来上がったのだ。


 道は開けた場所にあるので魔物が来れば直ぐに分かる。つまり魔物が近寄ってきて戦闘にならない限りは、悠々自適な旅が楽しめるのだ。商人の場合は移動する時に魔物に襲われる可能性があるから、冒険者に依頼をして護衛をしてもらうという事も有るが、他にもそういった商人の荷車を狙って襲ってくる盗賊の撃退などもある。


 話が逸れたが、要は何事も起きなければ無事にルサトル王国へ着くのだ。アレクは運が良いのか、村を出てから数時間経つが、魔物一匹すら出会っていない。彼は快晴な空の下、ルサトル王国へ着いたらまずどうしようかと考えながら歩っている。ルサトル王国には冒険者ギルドがある。それは知っているのだが、長旅の終着点である。美味しい物の1つや2つ食べてからにしたいと言っても罰は当たらないだろう。


 まあアレクの事なので、今はどうしようかと考えながらも、いざ着いてみれば冒険者ギルドへ直行するだろうことは窺い知れるというものだ。そして先の何も無ければ、普通に着くという話なのだが、そうもいかないようであった。アレクは聞こえたのだ。誰かが助けを求める声が。


 アレクは何も言わず、何も躊躇わず声のした方向へと駆け出した。アレクの走る速度は目にも止まらぬ速さで、走り出してから直ぐ、声の主が乗っているであろう荷車が見えた。それにプラスして走っている荷車に襲い掛かる魔物の姿も見えた。魔物は狼に似た姿をしており、毛皮が薄緑色で、森などの緑色が多い場所に生息しているグリーンウルフという魔物である。


 群れで行動するので獲物を見つけると集団で襲い掛かってくる。爪には毒を持っていて、食らうと痺れて動きが鈍くなったり、重症だと動けなくなってしまう。襲われればそれなりに厄介な魔物だ。




「──────おりゃあッ!!」


「──────ッ!?」


「グルルルルルル………」


「──────ッ!?君は……!」


「そのまま走らせて下さい!魔物は俺がどうにかしますから!」


「わ、分かった!」




 走っている荷車に襲い掛かっているグリーンウルフに、あっという間に追い付いたアレクは腰に差した剣を引き抜いて、今にも荷車を引っ張っている馬に飛び掛かろうとしたグリーンウルフに斬り掛かった。父のガレスから餞別に貰った剣は切れ味が良く、グリーンウルフの胴体を易々と斬り裂いた。更に、薄く魔力を纏わせているので切れ味も上がり、グリーンウルフに深手を負わせた。


 悲鳴を上げて地面に倒れ込み、走っていた速度も相まって転がった。倒れたグリーンウルフは起き上がってくる事は無く、一撃で死んだということが分かった。仲間がやられたことに気が付いた残りのグリーンウルフ五匹は、荷車を襲うことをやめて、標的をアレクへと変えた。上手く誘導出来たと悟ったアレクは、その場で足を止めて剣を構える。


 グリーンウルフも足を止めてアレクに躙り寄り、五匹でアレクを囲うように円を描いて様子を見ている。腹を空かしているのだろう、唸り声をあげ、口からは大量の涎が垂れている。アレクを見る目は完全に獲物を狙ったそれであり、グリーンウルフから殺気が飛ばされている。


 逃げるつもりは毛頭無い。この場でこのグリーンウルフを逃がしてしまえば、また群れを作ってここら辺を通る荷車や人を襲いかねない。だが、一方のグリーンウルフとてアレクを逃がすつもりは無かった。久方振りの獲物なのだ。これ以上獲物を狩り損ねると、空腹に堪えきれず餓死してしまうだろう。


 ぐるぐるとアレクの周りを彷徨って機会を探る。アレクはグリーンウルフの殺気にも、円を描く動きにも惑わされず只管前を向いて剣を構えている。気配を読み取り、殺気を感じる。グリーンウルフが如何動いても直ぐに対応出来るように。




「…………──────ッ!!」


「──────そこだっ!」




 どちらも攻め込まず、静かな均衡を保っていたが、それはグリーンウルフによって崩壊した。空腹にもう堪えきれなくなったのだろう。涎を撒き散らし、アレクの背後から全速力で駆け出して飛び掛かり、毒のある爪で引っ掻こうとした。しかしアレクはその動きが解っていた。


 背後からのグリーンウルフの飛び掛かりに対し、振り向き様に剣を振り抜いた。交差するグリーンウルフとアレク。アレクの剣には血が付いており、グリーンウルフは着地することなく、そのまま地面へと倒れ込んだ。遅れて何かが落ちてくる。ごとりと音を立てながら落ちてきたのは、グリーンウルフの頭だった。アレクは擦れ違い様にグリーンウルフの首を両断したのだ。


 剣にこびり付いたグリーンウルフの血を振り払い、今度は左右同時に襲い掛かってくるグリーンウルフに対応した。挟み撃ちの攻撃である。左右から来ている以上、前か後ろかに逃げ道があるのだが、残念ながら残っているグリーンウルフは四匹。遅れて前と後ろから向かってきていた。ならばもう囲まれているのと同じである。グリーンウルフは今度こそ、人間を仕留められると思っていた。しかしそれは早計であった。


 左右のグリーンウルフから伸ばされる毒の爪が、触れようとした瞬間にアレクは上へと跳躍して左右からのグリーンウルフの攻撃を躱し、なんと空中からグリーンウルフの首を狙って剣を揮った。足場が無く、不安定な状態だというのにアレクはグリーンウルフの首を見事両断し、着地すると同時に飛び掛かって襲い掛かってきた前と後ろからのグリーンウルフには、魔法で土の壁を作り出した。




「──────『隆起する土の壁マッド・シールド』っ!」


「──────ッ!?」


「隙有りッ!!」




 目の前に、下から迫り出てきた土の壁が現れた事で顔から激突し、怯んでしまった。そこをアレクは突いた。土の壁を解除してグリーンウルフに接近し、体勢を崩している所を狙って剣を振り下ろして首を両断。残った最後の一匹は、仲間が全員やられてしまった事で臆してしまい、踵を返して逃げ去ろうとした。だがここで逃がせばまた襲い掛かってくる。


 腹を空かしていて、丁度そこに荷車を引いた馬が見えたので襲い掛かったのだろう。自然の中で生きているグリーンウルフに罪は無い。唯、狙う相手とタイミングが悪かったのだ。襲わず逃げているグリーンウルフに罪悪感を感じながら、その場で地面を強く踏み込んで弾丸のように飛び出し、振り返って駆け出そうとしたグリーンウルフの側面にやって来て首を刎ねた。


 ふぅ……と、アレクは息を吐き出して肩の力を抜き、抜いて剥き出しの剣を腰の鞘に納刀した。戦闘は終わった。周囲に他の魔物が居ない事は分かっている。魔物を狩るのは村に居た頃からやっていたので慣れたものだ。だが最後の一匹は後味が悪いと感じた。恐怖を抱き、生き延びようとしている魔物を、追い掛けて殺してしまったのだから。だからアレクは両手を合わせて黙祷を捧げた。この世界でたった1人しか知らない祈り方だったのであった。


 グリーンウルフに黙祷を捧げ終わったアレクは、馬車が走っていった方を見る。馬車はアレクが指示した通り走り去って行ったようだ。助けたのにお礼を言われていない……なんて不粋なことは思わない。寧ろ助けられて良かったと、心から思った。アレクは周囲に倒れているグリーンウルフの亡骸を見て、溜め息を吐いた。少しやることが出来たと言うように。



































「おぉ……っ!ここがルサトル王国かぁ……っ!」




 アレクは3日掛けて着いたルサトル王国を見て、見上げながら感嘆とした声を上げた。村に高い建物は無かったので見上げる程高い建造物が珍しく、いや、アレクの場合は久し振りに見たのだった。国を覆う防壁の役割をした壁も見た限り分厚く、頑丈そうだ。門も鋼鉄に造られていて、今は開いているが、閉めれば魔物からの侵入を防ぐことが出来るだろう。


 ルサトル王国に入国するには少しの金が要る。入国手数料というものだ。それさえ払えば入国することが出来る。移住するにはまた違う手数料と手続きが必要になってくるのだが、今回アレクは冒険者になる為に来たので移住ではなく、滞在となる。


 アレクは早速ルサトル王国の入り口前に来ている、入国するために順番待ちの列に並んだ。人を捌く速度は速いので直ぐにアレクの順番が回ってきた。立っている門番に持ち物検査をされ、問題が無いと言われて入国手数料を払い、許可証を受け取り、いざ中へ入ろうとした時、門番はアレクの顔を見て何かに気が付いたように待ったを掛けた。




「おい、お前ここ数日の間に荷車を魔物から助けたりしたか?」


「え?……はい。そういえば3日前に助けましたけど……」


「昨日ここへやって来た商人が、お前に似た特徴の少年に助けられたと言って、見つけたら報告するように頼まれている。少し待て」


「は、はい……」




 門番に待つように言われてしまい、ルサトル王国へ入ることが出来ない。仕方ないと諦めて、アレクはその場で待機する事にした。門番はまだこの国に滞在している、件のアレクが助けた商人を呼びに行っているのだろう。どれくらい掛かるのだろうかと、次々中へ入っていく他の人達の列を見ながらぼんやりとしていた。


 それから待つこと15分程。アレクは先程走って行った門番と、その横で一緒に走ってアレクの元へ向かってくる男性を見た。商人だろう男性はまだ若く、三十代位だろうか。駆け付けながらアレクを見て、安心したような表情をしたので、助けた商人というのは、この人物で間違いないのだろう。


 門番と一緒にやって来た商人の男は、アレクの前で止まって膝に手を置いて荒い息を鎮めている。呼吸が整った商人の男は、アレクの手を両手で取って固く握手をしながら頭を下げた。




「君だね!?あの時助けてくれたのは…っ!ありがとう、本当にありがとう!あの時君に助けてもらわなかったら、今頃私はここに居ないよ」


「あ、いえいえ。そんな大した事してませんし、偶然通りかかったところでしたから、あなたが助かって良かったです」


「本当に助かったよ。実はあの時、雇っていたC級冒険者がグリーンウルフの毒にやられていてね。君に助けてもらって先に行かせてもらってなかったら、冒険者の命も無かったんだ。是非私からお礼をさせて欲しい!」


「え、いやでも…お礼なんて……」


「いいから。ほらほら」




 商人の男はアレクの手を取って門を通り過ぎていった。許可証はもう門番から受け取っているので、問題は無いが、お礼なんて受け取ろうと思っていなかったので、些か困惑気味だ。偶然通りかかったところで襲われていたのを助けただけなのに……と言っているが、最初はアレクと荷車の距離は離れていた。唯アレクの聴力が凄まじいのと、駆け付ける速度が他の人達と一線を画していただけだ。


 ルサトル王国の中に入って、感慨に耽る余裕も無く、アレクは助けた商人の男の奢りて昼食を頂いた。食事を頼んで配膳して貰うまでの空きの時間にも、商人の男は改めてアレクにお礼を言った。そして自己紹介がまだだった事に気が付き、商人の男はケイトと名乗った。


 それから商人のケイトとアレクは話し合い、配膳された料理を共に食べて店から出て来た。アレクはその時に袋の中に入った10万Gを手渡された。この世で流通しているゴールドは、謂わば紙幣である。そしてその場で助けたにしては破格であり、受け取れないと固辞したのだが、命を助けてもらったのにこの程度出さなければ商人の名が廃ると言って、無理矢理アレクに持たせた。


 勿論、ケイトは感謝だけの為に金を渡したのではなく、これからも商人と客としてもよろしくお願いするという意味も込めて渡しているのだ。更に言うならば、グリーンウルフ六匹と戦って、見たところ無傷で倒して来たアレクを、今度の護衛に選ぶために唾をつけた……という事も有る。


 いつか護衛役を頼むと言われて、アレクとケイトはその場で別れた。ご飯をご馳走して貰ったのに、更には別で決して少なくないお金を貰ってしまった……と、独り言ちて冒険者ギルドへと向かっていった。




「……ここが冒険者ギルド──────『餓狼の鉤爪ウルフ・クロー』かぁ」




 人に道を尋ねながらやって来たのは、幼少の頃から入ろうと決めていた冒険者ギルドであった。ルサトル王国にあるのはウルフ・クローというギルドで、冒険者ギルドは冒険者組合をトップとして、あらゆる国に設置されており、一般人からの仕事の要請や、お偉い人の仕事等の、仕事の斡旋をしている。


 少し緊張しながら両開きの扉を開けて中へ入ると、冒険者ギルドに所属している者達が数多く居て、それぞれ話したり騒いだりしていた。そして冒険者達はアレクが入ってきた事に気が付く。扉から入ってきたのがまだ少年であると分かって、アレクを見ながらコソコソと話して厭らしい笑みを浮かべている。


 少し肩身が狭い思いをしながらギルドの中を進んでいき、受付カウンターまでやって来た。受付をしている女性は笑みを浮かべながら対応をしてくれる。




「初めまして。御用は何でしょうか?」


「あ、えっと……冒険者登録をしたいのですが」


「はい、冒険者登録ですね。では手数料として2000G頂きます」


「はい!」


「……はい、確認しました。冒険者についての説明を受けられますか?」


「あ、お願いします!」


「はい。承りました」




 アレクは冒険者のシステムについて余り知らないので、受付の女性の説明を聞くことにした。冒険者ギルドに登録すると、冒険者組合の方にも登録内容が明け渡され、ルサトル王国で登録しても、登録内容は冒険者ギルドが有る国ならば何処でも同じように仕事を斡旋して貰えるのだ。そして冒険者登録をすると、ランクが示されたタグを貰えるので、それを使えば一種の身分証明書になる。


 冒険者のランクは下からFと始まり、E・D・C・B・A・S・SS・SSSという風に階級で分別されている。一定の貢献度や活躍をすれば、そこのギルドを任されているギルドマスター判断の基、冒険者ランクが上げられていくということだ。そしてSSSランクというのは、『英雄』と云われる者達と同等の力を持っているとされ、冒険者ギルド最強の存在であり、大陸に数人しか居ないともされている。


 仕事はクエストボードから見つけ、必要ランクが記載されている依頼の紙を取って受付カウンターで受付をし、仕事を行うというものだ。仕事を一緒に行けるのは4人まで。但し別々のパーティーとして連携して行くのであれば、8人までは認められる。そしてギルド内での暴力沙汰は禁止されており、見つけ次第それ相応の処罰を用いる。


 一つ一つ丁寧に説明をしてくれたことにより、一度で把握する事が出来たアレクは、受付の女性に礼を言ってギルドについての説明は終わった。そして丁度、違う受付の女性が出来上がったアレクの冒険者としての証明書であるタグを持ってきた。


 タグは基本身に付けておき、提示を求められたり身分を証明したりする時に見せて欲しいと言われて頷きながら、Fと刻まれたタグを見つめて、首に掛けた。これでずっと夢だった冒険者になることが出来たのだ。さて、これから今日泊まる為の宿を探そうとしたところで、受付の女性から言い忘れていた事があると言われる。それは狩った魔物等の換金をする事が出来るということ。


 狩った魔物の一部分を持ってくれば、狩猟系クエストの達成基準を満たせるが、丸々一匹持ってきたりすればそれ相応に報酬は上がるし、単純に引き取りも出来るのだ。それを聞いてこれ幸いと、アレクは何の疑問も無く、手を翳して魔法陣を生み出し、魔物の死骸をその場に出した。


 まだまだ子供の見た目であるアレクが行った事に、その場に居た冒険者は目を丸くし、出て来た魔物の死骸が何なのかを理解して吃驚した。




「「「えぇ───────────────ッ!?」」」




「えっ!?今のは空間系の魔法!?高難度な魔法だからと最低でもSランク冒険者レベルでないと扱えないというあの……!?それにこの魔物は……グリーンウルフにワイバーン!?それもこんなに!?」


「え?……俺なんかやっちゃいました?」


「あ、アレクさん!この魔物はどうしたんですか!?」


「……?もちろん、ここに来る前までに襲われたので返り討ちにしたんです。いやー、買い取ってくれるならとても嬉しいです。どうしようかと思ってましたから!」


「ち、ちょっと待ってて下さいね!?今買い取り業者を呼びますからっ!」




「アイツしれっと空間系魔法使ったよな…?」


「何モンだ…?アイツは……」


「とんでもねぇ奴が入ってきやがった……」




 その後ギルド内が騒然となり、他の冒険者達は遠巻きでアレクの事を見ていた。アレクは数多くの視線が自身に集まっているのを自覚しながら、どうしようとオロオロしている。それから数分すると買い取る為に受け渡しをしてくれる業者が来て、アレクの持ってきたグリーンウルフ六匹と、道中襲い掛かってきて返り討ちにしたワイバーン五匹の鑑定に入った。


 村を出て襲ってきたワイバーンのように、炎で消し炭にしたのではなく、剣を使って首を斬り落としたので、実に状態が良く、買い取り価格も上昇した。どれも一撃による絶命と分かると、ギルドはまたも騒然となった。ワイバーンはBランクに指定されている魔物であり、Bランク冒険者が複数人居て倒せるというものだ。




「え、えぇっと……買い取り価格は総じて62万Gとなります」


「えぇ!?そんなに高いんですか!?」


「……グリーンウルフは一匹2万で、ワイバーンは一匹10万という計算になり総額62万です……私も初日でこんな大金渡したのは初めてです……」


「……ワイバーンも全然強くなかったのに……」


「ワイバーンが強くない!?あなたは一体……」




 アレクは実に……実にラノベ主人公のようなことをなぞってやっている。倒してきた魔物は最初から高ランクのもので、珍しい魔法を使って周囲を驚かせて自身は何に驚いているのか理解していない。典型的なものとも言えるだろう。そしてこういう場合は、高確率で冒険者ランク飛び級の打診が入っているのだ。


 無論、それはアレクにも言えることで、実は受付の女性は別室に居るギルドマスターのところまで行って、アレクがワイバーンを1人で複数狩ってきた事を報告した。それに興味を持ったギルドマスターは今、アレクの元へやって来たのだ。ギルドマスターは元SSランクの冒険者であった。つまりこの場で最も強く、そして相手が嘘をついているか分かる魔法を使える。


 二階建てとなっていて、二階の部屋にあるギルドマスター専用の部屋から降りてきたギルドマスターは、白い頭髪に厳つい顔。その顔には生々しい傷が付いており、筋骨隆々の姿をしていて高身長な為、前に立たれると威圧感が尋常では無い。そんな中で、アレクはギルドマスターから質問を受けた。




「俺はガンダル。このギルドのマスターをしている。小僧、お前が1人でワイバーンをやったのか?それに間違いは無いか?」


「あ、はい。ワイバーンは俺がやりました」


「……嘘では無いな……真実か。………良し。アレクだったな?お前ギルドマスター権限により──────Bランク冒険者に任命する」


「……え?」




「「「えぇ──────────────ッ!?」」」




「いきなりBランク冒険者!?」


「何なんだアイツはよォ!?」


「飛び級にも程が有るぞ!?」




「──────待ちなさい!!」




「……?」




 歴代最速のBランクへの飛び級で盛り上がっているところに、鋭い声が掛けられた。段々とアレクの周囲に集まってきていた冒険者の壁を別けてやって来たのは、髪が赤く、背中に自身の背より大きい大剣を背負っている美少女だった。アレクは突然やって来た少女の姿に見惚れている。しかしそんなことはお構いなしアレクの元までやって来た赤髪の少女は、人差し指を突き付けて決闘をしろと言った。


 いきなりやって来て、はいBランクというのは納得がいかない。そんなに実力があるならばC級の自身が決闘をして力を見定めても構わない筈という。いきなり来て何を言っているんだと思っているアレクとは別に、実力が見たいというギルドマスターの意見が通ってしまい、ギルドの手合わせ用の敷地に移動してやり合うことになった。


 ギルドの出入り口とは別の扉から出て、開けた場所にてアレクと赤髪の少女は対峙していた。決闘の合図はギルドマスターが行い、決闘に勝てばアレクは晴れてBランク冒険者となり、赤髪の少女が勝てばアレクはFランクからスタートという話になっていた。赤髪の少女が大剣を構え、アレクは腰の剣の柄に手を置いた。そして、ギルドマスターの開始の合図が出される。




「いっくわよ──────きゃぁ……っ!?」




「「「え、えぇ────────────ッ!?」」」


「サーシャが一撃で吹っ飛ばされた!?」


「しかも……気絶してるし……」




「……あれ?軽く剣を振っただけなのに……。もしかして……まずかった?」




 赤髪の少女、サーシャが一歩踏み出す前に目前に現れたアレクが剣を一閃し、サーシャは舞様にも飛んでいって目を回していた。有り得ない光景に、外野に居る冒険者達は口々に騒いでいる。そしてその中に、驚きを隠せないでいるのがギルドマスターである。


 元SSランク冒険者であるギルドマスターのガンダルは、アレクの動きが見えていたと言えば見えていたが、ギリギリ見えていた。そしてCランクの中でもBランクに上げても十分な力を持っているサーシャを、それもその見た目に反して怪力のサーシャを軽々と吹き飛ばし、更には軽く剣を振ったときた。


 今サーシャを倒したというのに喜ぶどころか、簡単に終わってしまった事に困惑して頬を掻いているアレクが、将来大陸に数人しか居ないと云われているSSSランク冒険者になるのではないか……と、冷や汗を流しながら考えていた。




「あ、あんたの強さは……まあ仕方ないから認めてあげるわっ。だからしょうがなく……しょうがなくっ、私のパーティーに入れてあげるわっ!」


「えぇ……?俺まだパーティーとかは……」


「……むうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


「や、やっぱりサーシャさんのパーティーに入りたいです!入らせて下さい!」


「ふ、ふん!仕方ないわね。入れてあげるわ、感謝しなさいっ」




 アレクは全く以てテンプレのような事をやりながらその日は終わった。だがそんな平和な日常は長くは続かない。何故なのか?それは……強者は強者を引き付けるからだ。






 ある存在と邂逅を果たすまで……あと3ヶ月。






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