スリリング・レイシスト・ワンス

エリー.ファー

スリリング・レイシスト・ワンス

 町は霧に包まれているし、誰も歩いていない。

 およそこの町ではルールを重んじることが大切とされている。新しく何かを創るということではない、誰かの言うことをよく聞くこと、それだけが評価基準として生きている。

 誰かが言う。

 この町は平和だ。

 誰かが言う。

 この町は理想だ。

 誰かが言う。

 しかし、革命は起きない。

 革命の起きない町はいつまでも町を名乗ることができるが、きっと明日には忘れられてしまう。毎日、ここに何かがあると思い続けることでようやく存在できるはずなのに、言葉や単語にすがるように生きていくことになる。

 埋もれてしまう。

 多くの町を踏み台にして、ここまで生き残ってきたこの町も、いつかの消えた町のようになっていく。

 ウイルスが蔓延しなければこんなことにはならなかった、と誰かが言った。

 しかし、事実は無関係だ。

 何かが起きたから生まれた問題なのではない。何も起きなかったから生まれた問題なのだ。

 誰も問題視しないから、誰もが問題だと認識するまで肥大化したのだ。

 町に住む人々は皆、この町が好きだと言う。しかし、誰もこの町のために動こうとはしない。動き方も、動いたことで狙うべき到達点も分からないと口々に言うが、それをすり合わせることすらまともにしない。

 いいように扱われたのだ。

 貴方も。

 僕も。

 私も。

 俺も。

 あたしも。

 誰かも。

 町は少しずつ縮小しているらしいが、誰も外には出て行こうとしない。それはきっと幸せの形を探す旅に飽きてしまったということなのだろう。

 失ってしまうことを一つのステータスとして語り継ぐ限りは全くと言っていいほど町はよくなってはいかない。一昨日も、昨日も、今日も、明日も、明後日も。そのすべてが未来へとずれていく。

 永遠にずらされた要素は、残念ながら誰の手の中にも落ちないため変わらず待ち構えるディストピアと手を繋ぐはめになる。

 これはこの町だけの物語ではない、すべての町にあてはまることだ。変わらなければいけないと思いながら変わらなかったツケは必ず払うことになる。そして、それはその問題を起こした本人たちではなく、次の未来の世代の解決すべき問題となる。

 責任ではない。

 ただ回ってきただけに過ぎない。

 それを、良いとか悪いとかで判断するということがそもそもの間違いなのである。

 良くなるべきだと口では言うのに、立ち上がらないのは、悪い政治家でもなければ、怠惰な国民でも、無責任に未来に現れる子供たちでもない。

 この町とは全く無関係に生きているすべての人間である。

 町を清潔にしたいと誰かが言った。

 ゴミ処理場を作ろうと誰かが言った。

 ゴミ処理場の周りに住む人々の気持ちを考えろと誰かが言った。

 ゴミ処理場がなければ町は不潔になるばかりだと誰かが言った。

 ゴミ処理場を作るための金がないから、清潔にするかどうかは後回しにしようと誰かが言った。

 ゴミ処理場を作ってもいいが、自分の家の近くだったら反対をすると誰かが言った。

 ゴミ処理場を作ることで雇用が生まれると誰かが言った。

 ゴミ処理場で働く人間なのだから程度の低い人間だろうし町の治安が悪くなるに決まっていると誰かが言った。

 議論は白熱する。

 そうこうしているうちに、あたりは綺麗になった。


 今はもう、町はない。

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