第514話 モダン・ネアンデルタール
コロンビアマンモスと、3匹の若いディオニクスの戦いが始まった。
ディオニクスはトラやヒョウのような生態を持ち本来は単独で行動する。成長したディオニクスは体重3トンにも達し ――寒冷な土地にはもっともっと巨大な肉食恐竜はいるが―― 温暖なオーワ(アマゾン)の森の比較的小さな恐竜群の中では圧倒的な頂点捕食者として座している。
しかしいま、マリー少尉たちの前に現れたディオニクスはまだ1トンにも達していなかった。もちろんそれは彼らが人間でいうと10歳ほどの若い個体であるからなのだが、重要なのは彼らが大人のディオニクスより厄介であるということだった。なぜなら性成熟に達していない個体は縄張りを持たないため、協力して狩りをするという恐ろしい習性を持っているからだ。ほとんど別種のような生態を持つことから出世魚のように「ヨース・ディオニクス」と別称を与えられているほどである。この3匹もまた巣立ったばかりの兄弟であり、あと3,4年ほど成長を続け性成熟を迎えたら縄張りと雌をめぐって血で血を洗う仲たがいをするのだろうが……いまは見事な連携でマンモス狩りを仕掛けてきたのだった。
――――――
『後ろから!?』
マンモスの首に跨っているマリーは、急にウィリー走行が始まったようにガクンッと後ろに倒れ込みそうになり、マンモスの後ろ足が奇襲を受けたことに気づいた。もちろん彼女は後ろを振り返る。と――!
『なんですって!!?』
もう視界いっぱいにディオニクスがいるではないか。
つまりこのディオニクスはもうマンモスの尻の上に乗っかっているのである。現生の最大の肉食獣であるシロクマ(調べたら雄のシロクマは400~700kgほどらしい。そもそも700kgの個体がいるというのが驚きだ)それを優に超える800kgのヨース・ディオニクスに飛び乗られたのだ、そりゃあさすがのコロンビアマンモスも膝をつきそうになるだろう。
さらに尻に飛び乗っている一匹とは別にもう一匹いて、そちらはサブウェポンの手の爪を立てつつマンモスの左足を抱きかかえていた。まるで力士の鉄砲稽古のように押し倒そうとしているのだ!
『まずいわ!』
両足を怪我しているマリーは戦力にならず、ただただ「パオーン!」と悶えるマンモスに掴まっていることしかできない。
[だが、よくぞ耐えた!]
一方、ゴールデンスキンはマリーの「まずいわ」に対して、とっさに海底人語で返答した。これはマリーからしたら意味のない独り言であるが、ゴールデンスキンとしてはマンモスを褒めた形である。
このことはもちろんマンモスの前方にいる一匹も本能的に分かっていて、俊敏な足力を使って回り込んで側面から体当たりをしかけようとしてきた。やはり大人には無い俊敏さと異例の共闘戦術を繰り出す年若いディオニクスは、実質的にオーワの森で最強の存在だ。
すでに一匹に攻撃されている左の後ろ足に対して、もう一匹が助走をつけて体当たりをしようものなら押し倒されてしまうだろう。マンモスの方もそれを分かっていて一匹に圧し掛かられ一匹に左足を絡まれながら何とか旋回するが間に合わない――そんなときだ。
[させん…!]
回り込もうと駆けていた一匹をゴールデンスキンが殴ったのである!
彼は会心の
もちろんゴールデンスキンは蹴られるような恰好になって吹っ飛んだが、同時にディオニクスも「ギャオォォ!」という咆哮しつつ倒れた。
――な、殴って倒した!!?
ついさっきまで4.5万光年先の宇宙にいたのだ。未来と原始の落差にマリーは唖然とした。
――こいつ…
――まさか、ただの
そう。ゴールデンスキンはホモサピエンスではない。
シロイルカの話を聞いて、勘の良い方は察していたかもしれないが彼はネアンデルタール人なのだ。しかも、肌が金色なのは差し引いても普通のネアンデルタール人でもない。シロイルカの語ったように海底人文明を勃興した
[つぎ…!]
それを物語るようにディオニクスに蹴り飛ばされて木に叩きつけられても、ゴールデンスキンはピンピンしていたのである。
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