第471話 宇宙人と出会ったら最初にすべきこと
突如、オーワ(アマゾン)の
サウロイド世界の22の
しかも今回は月の一件とは規模が違う(※)。
今回は10万の兵力が動員されている。作戦領域も南アメリカ大陸全土と広大で連邦軍の初の本格作戦と言ってよいだろう。向こう月で基地の司令官を務めていたレオも、将軍がひしめくこの大軍の中ではただの一人の準将校(大佐)に過ぎない。
※なお月面基地も実地人数(レオやエース、エラキ曹長などだ)こそ少ないが、連邦軍が手を抜いていたわけではない。月面基地の設計・試作・建造までを含むと超大型の事業だった。そもそもアクオル市の人工ピラミッドを造るところから始まったのだから…。
――――――
11月でもパナマは暑い。午前9時の時点ですでに25度を超えていた。
しかしこれはサウロイド達がもっとも好む気候であり、また窓の外から聞こえるカラフルな鳥たちのさえずりが議場の緊迫感を削いでいた。将校用にホテルの大ホールを借りた(接収した)はいいが、そのせいでどうもバカンス感を拭えない。
『大事なことを見逃していると思いますが』
末席のゾフィの歯に衣着せぬ物言いは、そんな議場の空気をピリッと引き締めてくれた。
『何をかな?司軍法官』
レオが即応した。物言いを受けたのを自分とし、対立構造を引き受けることでゾフィの立場を危うくさせないために気を利かせたのである。もしオエオ将軍に先に「何をだ?」と言わせてしまって答弁が白熱したら、彼女は議場のすべての将軍を敵に回して今後、会議に呼ばれなくなってしまうかもしれなかった。
『大佐。あなたはつまり、今回の
ゾフィも他人行儀に応えた。二人が同郷の出と知っている何人かは苦笑しているが、それ以外の議場全体は素直に答弁に耳を傾けている。
『いかにも。そうですよ、司軍法官』
『よかったです。使っている道具から、私もそう推測します。…しかしですね。よくよく考えると変だと気づきませんか?』
ゾフィは続ける。
『彼らは、なぜ熱帯雨林にいることができるのでしょう?』
『いる? 変わった表現を使いますね。もう一つの次元跳躍孔があるはずだ、ということを言いたいのですか?』
『違います違います。あ、いや
ゾフィは少し道化を演じつつ言い直した。コナン君の「あれれ、おかしいぞ」である。
『熱帯雨林でなぜ病気にならないんでしょうか?』
――!?
誰が声を発するわけでもなかったが、議場全体がハッとなったのが分かった。
『病気…。そうか、ウィルス。ばい菌、感染症』
レオも盲点だったと自分を大いに恥じた。
『月面ではお互いに宇宙服を着ていました……だから問題にならなかったんです。それですっかり失念していましたが――
『ああ。それだ。それだよ』
ここからオエオ将軍が話題を引き取った。
『我々の
宇宙人に出会って何より最初に懸念しなければならないのは、お互いが保菌するウィルスの問題だ。宇宙人が友好的かどうかなどはこの問題に比べれば些細なことである。愛くるしいE.T.に出会おうが、破壊者サノスに出会おうが、まずすべきことは大急ぎで無菌スーツを着ることなのだ。
『免疫を造ってやるのはそこまで難しいことではありません』
ここで技術系の将校の一人が発言する。
『少なくとも次元跳躍孔を人工的に開くのよりは、ずっと簡単でしょう。テクノロジーとしては』
『そうです』
ゾフィは後の議論は任せようと着席しようとしていたが、そのまま続けた。
『でもここで言いたいのは、彼らが
『というより、裏で糸を引く科学文明がある…と考えるのが自然ですね』
と、レオ。
『その何者かが、彼らにワクチンを処方したというわけか』
オエオ将軍も頷いた。彼は敢えてチープな表現をしたが、ともかくそういう事だ。猿人間と彼らが使役する動物たちはサウロイド世界の感染症に対する免疫を持った状態に準備してから攻め入ってきたはずなのだ。サウロイドのインフルエンザが彼らに感染することはないだろうが、それとは別にサウロイド世界には哺乳類に特効の病原菌があるはずだ――オーワ(アマゾン)の熱帯雨林などは特に。
『そういう事です、オエオ将軍。…そして越権ついでに提言させてください』
ゾフィは場が整ったとばかりに、最初から言いたかったことを言った。
『彼らが単なる野蛮人ではないとするなら事態は想像以上に深刻です。森を焼いてでも彼らの本拠……つまり次元跳躍孔を見つけるべきです』
ドオォッと議場にどよめきが走ったが、ゾフィはさらに続ける。
『つまりですね将軍。私はオーワの森に対する絨毯爆撃を提言します』
レオは喧々諤々となった議場の中で一人「ゾフィのやつ、やっちまったよ…」と頭を抱えた。これは司軍法官として懲戒免職級の発言であったからだ。
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