第470話 パナマ会議
サウロイドは未発達ながら世界政府がある。
あるいはそれは発達した国連とも言ってもいい。
以前、知的生命の優劣を決める一つのパラメータに“思いやれる範囲”があるという話があった。寄り集まって力を合わせられる群れのサイズ、それが大きかったからこそホモサピエンスは自分達より体格に勝るネアンデルタール人を打倒できた…というのはよく聞く話しだ。もちろん、その“思いやれる範囲”は言語や通信(究極的にはテレパシーなども入るかもしれない)によって下支えされている。テレパシーを使いこなす高度な宇宙人はもっと大きな共同体を創れるかもしれないが、ここでいうサウロイドは有線電話とFAX、トランシーバー、そして少しの衛星通信という人類から40年ほど遅れた技術しか持っていないのに、ともかく世界政府までは達成しているのだからすごい。(なお、なぜ人類より劣るコミュニケーション技術しか持たないのに人類が持ちえなかった世界政府をつくることができたのか、というのは至極簡単な話だ。人口が3憶しかいないからである)
かくいうことで、サウロイド世界では
サウロイド連邦軍だ。
――――――
そんな連邦軍の大本営はパナマに設置された。
そして大本営で1回目の作戦会議が開かれた日、それが正式に開戦の日となり(宣戦布告はしようがない。相手が謎すぎたためだ)未来の子供たちは歴史の授業でこの日付を覚えることになるだろう。
『さてこの会議だが、まず一つ宣言しておく。作戦、人事、兵站の話は参謀部と次官級のすり合わせに任せる。彼らの方が得意だ』
会議は午前9時に始まった。大佐以上のメンバーを集めた、ほとんど年始の挨拶のような会議である。まぁ確かにオエオ大将のいうように、この場で細かい人員の振り分けなど話していてもキリがあるまい。
『だからここで話したいのは奴らを…どう見るかだ』
オエオは「どう見るか」と表現した。シンプルな表現だがこれは戦うための共通認識を求めたということだ。天災と捉えるか、害虫と捉えるか、野蛮人と捉えるか…そういうことだ。野蛮人なら意思疎通の可能性もあるし、害虫なら徹底的に殺して構わないという事になる。
議場は「殺してしまえ」「いやまずは話し合いだ」といった種々の意見でワッとなった。
『待て待て。そこでまず、レオ大佐の意見を聞こうではないか』
オエオが手の甲を見せて場を宥めた。(人間は手のひらを見せるが逆なのだ)200歳のサウロイドのオエオは普通にしていると腕の羽毛が汚らしくなるので、それを嫌い全部剃っているためスキンアームである。文字通り、鳥肌だ。
『私ですか?』
末席に座って、指名されることもないと思い資料を読むのに集中していたレオは驚いた。月面司令だったのに
『資料だけではなんとも…』
我々は物語を俯瞰する神の視点を持っているので、いま戦っている猿人間……謎のネコ科動物を使い、拝樹教という謎の信仰を持つ彼らが、少なくとも2034年の我々でないというのを理解している。それどころか歴史上のどの文明に属していないことをすぐに理解したがサウロイド達はそうではない。
彼らが「この猿人間は月で闘った連中とは違う」と確信を持つのは、レオとエースが戦場に出たあとのことだった。
『しかし…』
しかし、と言ったレオは、この時点ですでにある程度の確信を持っていたようだ。
『殺し方には、どこか非科学的なものを感じます』
レオはオーワ最大の
『
レオは月面基地の戦いのことを言っている。
『しかしですね。こういう殺し方は、彼らはするでしょうか』
レオの見ている写真は、猿人間の
『たぶん月で出会った彼らなら爆弾を使うでしょう。……まぁ爆弾を使うから優しいということはなく、むしろ
『月の連中とは違うということか?』
オエオは、待ってましたとばかりに頷いた。なるほど、自分からその推測を言うのが嫌だったからレオに言わせたのだろう。
『私はそう見ます。ですから上位目標として――』
『実際に白兵戦はしていないキミが分かるのかね?』
レオは言葉の途中で別の将校にちゃちゃを入れられたが、冷静に言い直した。
『ですから上位目標として、一人でいい、一人でいいから捕虜をとるよう各隊にお願いしたい。参謀部にはそう作戦に織り込むよう打診して頂きたい』
『そうだな』
オエオも満足そうだ。と――
『あの!』
末席のレオよりさらに末席、壁に沿って並べられた背もたれに無い椅子に座っていた一人が起立した。そこに座っているのは書記や秘書や司軍法官である。
『まったくもって、大事なことを忘れていると思うんですが!』
『!?』
将軍たちを前に臆することなく生意気なことを言った小柄の女サウロイド、それはそうゾフィだった。
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