第469話 受け取り手の無い望遠鏡
ヤーレンとコレイの
『コ、コレイ!? うわっ!』
これといったビジネス的野心も無ければ特別な才能にも恵まれず、ごく普通の中産階級の市民として職業的に肉牛(デメテルサウルス)の畜産業の道を選び、安定した
彼らは
彼らは日々の余暇時間を楽しみにする血の通った人間だ。コレイは休日に友人とBBQをするのが好きだったし、ヤーレンは日光浴をしながら時代小説を読むというのんびりした時間を楽しんだ。最近コレイは楽器を始めたし、ヤーレンは中古の天体望遠鏡を注文したばかりだった。些細だが夢があった。未来への希望があった。
人が死ぬというのは、そうか、中古の望遠鏡がもう永遠に主を失うようなものなのだ。
――――――
『うわっ!』
という驚きの声を発する暇さえ与えず、獅子の牙は二人の喉を捉える。
実際はこの一撃でもう勝負ありだが、筋肉中の酸素が無くなるまでは動くことはできよう。二人は本能的、反射的に足や尻尾をバタつかせる。膝を曲げて、抱きつき
しかし
二人は成人した男性のラプトリアンであり、体重は250kgもある。200kgオーバーといえばゴリラの中でも特に生育が良い個体と考えていい。
そんな二人がいくらスキを突かれたといってもこうも簡単にやられてしまうのだから、やはり猫科の動物は進化史の中でも傑出したハンターと言えよう。ジュラシックワールドの中では「恐竜に比べて哺乳類がいかに貧弱な種であるか」と語られるが、この例を見ると実際はそんなことはないと痛感する。他人の芝生はなんとやらで、恐竜への憧憬が評価を高めているに過ぎないのだ。
確かに体のサイズは劣っていても、俊敏さ、頭脳、視覚や嗅覚といったセンサー、柔軟性、そして繁殖力といった総合性能で考えればむしろ哺乳類に軍配があがるかもしれない。実際、今回は隠密性が勝負の決め手になった。ネコ科のしなやかな体は音も立てず二人の背後に忍び寄ってゼロ距離での奇襲を成功させたのである。
もちろん本作はファンタジーではないので、このライオンに似た白いネコ科動物は無敵ではない。サイズこそ巨大だが(400kgはありそうだ)、あくまで動物なのでレールガンが直撃すれば、あっさり一撃で仕留められるのは間違いない。しかし問題はこの俊敏な相手に連射の効かない一撃必殺のレールガンを浴びせるのが非常に難しいことと、今回のように一匹を運よく倒しても二匹、三匹目がすぐに襲ってくるという点だ。
そう。
白銀の獅子はその神々しい見た目とは裏腹に、いうなれば量産兵器なのだ。
我々は犬や猫がたった1年でほとんど成獣になってしまうことをよく知っているが、これは成長の遅い恐竜達にとっては最も恐れるべきことだった。なにせ1年あれば特に訓練もせずに勝手に最強のゲリラ兵が次々に誕生するのである。
ヤーレンとコレイの小さな抵抗と失敗は、この戦いを象徴する一件となった。
この、拝樹教というカルトを信仰する謎の猿人間の特殊能力は科学力でもなければ、ましてや身体能力ではなく、なにより動物を操る力だったのだ。そして――
そうした動物が明確な
しかも
最悪のゲリラ戦が始まることは想像にたやすい。
だからサウロイド軍の参謀部が「海上(実際は川の上)の村を奪還しても仕方がない。猿人間が侵入してきている
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