第397話 三人の盗掘者(中編)
サウロイドが放棄した地下基地の暗闇を――
人類の月面第二基地の指揮官であるアヌシュカ中佐と
通過儀礼(大人として認められるための試練)の最中の見習いプレデターと
月面での長期滞在をサポートする
――という奇妙な三人組が進む。
しかもその三人組は、彼らが蟻人間やモスキート人間と仮称する四本腕の謎の怪人から逃れてサウロイドの基地に逃げ込んでおり……そしてこのサウロイドの基地は2年前に強酸の体液を持つ生物兵器に滅ぼされた跡地であるという。
ホモサピエンス、プレデター、サウロイド、四本腕の怪人、そして
いよいよ物語は混迷を極めてきていた。
――――――
―――――
どぉん…! どぉん…!
基地から締め出されたモスキート人間の大群が、ゾンビのごとく閉ざされたシャッターを叩く音はまだまだ続いて、その音は三人を苛立たせはしたが同時に音が徐々に遠くなるおかげで、自分達が基地の奥に進んでいるという指標にもなってくれていた。
三人は音と逆の方へ勘で進み続け、あるT字路を適当に右折すると何やら急に行き止まりに到達したのである。
「なんだここは…?」
その行き止まりは‟少人数用のカラオケボックス”ほどのサイズの空間になっていて、中央には畳一枚ほどの穴が開いていた。
「階段か」
プレデター見習いのナオミは、その長方形のマンホールのような穴を覗き込みながら呟いた。
そうこれこそがエラキの言った‟縦階段”である。
「地下施設でありながら、さらに地下へと降りる階段があるというのは匂わんかね?きっとこの先には何かあに違いない」
ナオミは相変わらずの地球語で言った。映画をライブラリーにして自動翻訳しているので何か芝居じみたセリフ回しになるのである。
「ふぅむ…」
ブルースもナオミの隣に並び出て、一緒に縦階段を覗き込んだ。
「そうだとしても、降りる選択肢はないわ…!」
アニィは二人に対して背中合わせで、後方を油断なく警戒しながら憤った。
「行き止まりなら、さっさとさっきのT字路に戻りましょう…!」
「まてよ、アニィ」
ブルースは落ち着いていて、アニィを御しつつ隣のプレデターの娘に訊ねた。
「これは階段なのか…? お前の地球語は合っているか?」
「ああ、単語の誤用は認められない。私は別の星で見た事がある」
この縦階段は基本的には二畳ほどの縦穴の構造であり、手前の畳をA、奥の畳をBとすると、Aの1段目は深さ1.5m、2段目は4.5m、3段目は7.5m……と階層を成している一方でBの1段目は3m、2段目は6m、3段目は9m……と互い違いに階層を作っていた。つまり断面図にして見ると、マリオやロックマンなどの平面のアクションゲームでありそうな足場が左右に互い違いに並んでいるような穴で、右の足場に飛び乗り、左に飛び乗り……と交互にジャンプする事で縦に進んでいけるような形状になっていたのである。
「脚力に優れた宇宙人は、梯子よりこういう階段を好むのだ」
プレデターの見習いとして多くの宇宙人を見てきたナオミが、二人に説明した。
「月でなくてもか?」
ブルースはそんな縦穴をのぞき込みながら言った。
人間でも、健康な人間ならばという括弧付きではあるが、頑張ればこの縦階段を上り下りする事はできるだろうものの、1.5mの段差に飛びついてはよじ登り、反転してまた飛びつきはよじ登り……を繰り返すことになってとても便利には思えない。
だからブルースは「月だからこういう建造なのだろうか」と訊ねたわけだ。
「否。もっと重力の強い星でも縦階段を見たことはある。当たり前だろう。
ナオミの顔はプレデターマスクで見えなかったが、首や肩の動きだけもう「人類は何も知らないんだな」と馬鹿にした表情を浮かべている事が分かる。
「そうか…」
しかしブルースは特に憤る事なく、その声にならない罵倒を受け入れ、真摯に納得した。
「彼らならヒョイヒョイ飛べるという事か…」
「……彼ら?」
大人しく縦階段を覗き込んでいたナオミだが、「彼ら」という言葉を聞くや骨付き肉を見せられた虎のようにクワッとブルースの方に向き直った。
「彼らとは…!?」
「いや…」
ブルースは只ならぬ闘気を感じ口を噤んだが、背中合わせに立っていて後方を警戒していたアニィは気づかずにポロリと暴露してしまった。
「そりゃこの基地を造ったサウロイド達でしょ」
「…サ・ウ・ロ・イ・ド?」
盗んだ地球語の中にない単語が飛び出したからか、ナオミはたどたどしく復唱した。
「あ……」
それを聞いてからアニィはようやく、自分が余計な情報を言ってしまった事に気付いた。この宇宙人(プレデター)と気付かぬうちに仲良しゴッコが始まってしまっているが、コイツは何人もの人間を殺した敵だったのを忘れていた。
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