第398話 三人の盗掘者(後編)

 アニィ、ブルース、そして見習いプレデターのナオミはサウロイドが破棄した地下基地の中を進み、謎の小部屋にたどり着いた。その部屋には扉は無くただ床の真ん中に畳一畳ぐらいの長方形の穴が、マンホールのようにぽっかりと口を開けているだけだった。

 これが噂の、梯子という文化を持たないサウロイドが狭いスペースで上下移動するために用いる「縦階段」だという。


――――――


 すでにここが地下基地なのに、地下に降りる「縦階段」があるという事は下に何か特別なものがあるだろう――という三人の予想は当たっていた。我々はすでにエラキ曹長から聞かされているが、この縦階段は第二の次元跳躍孔ホールを封印した石棺へやに降りるモノなのである。そしてその石棺へやの中にはおそらくこの基地を滅ぼした数体の生物兵器エイリアンが次の獲物が訪れるのを仮死状態で待っているに違いない。違いないのだが……


「それよりアンタ……!」

 地上での虐殺劇を思い出してしまったアニィはそれどころではなくなっていた。

 思い出せばこの小柄な宇宙人プレデターは銀色のマスクでずっと顔を隠しているが人間であり、人間であるのに多くの人命を容赦なく奪ったのだ。


――いったい何が目的なのよ!?


「アナタ、人間なのよね…!? どうして!」

「……」

 ナオミは黙っている。

「…都合良く地球語が翻訳不能かしら?」

「……」

 ナオミは尚も黙っている。

 だが何かをはぐらかそうとしているのではない。ただただ彼女自身もに動揺していたのである。

 マスターに従って宇宙の方々を旅してきても出会わなかったのに、いよいよ大人になれるか否かの通過儀礼の狩りの場で、自分と同じ姿に出会うとは思っていなかったのだ。自分の種族の星は核戦争か何かで破壊されたと思い込んでいたのに、実際はこの連中と同じ、つまりこの衛星の主星であるにあることを悟ってしまった…。

 いや。

 それよりなにより、元老院が自分への試練として、わざわざこの場所を狩場に指名したという悪趣味ぶりに吐き気がした。


――同族殺しをして大人になった事を示せと?

――それならば頼まれずともやってやる

――しかし何故黙っていたのだろう……!?

 元老院はいいとして、マスターに裏切られたことは彼女を大いに動揺させていた。


「なんとか言いなさいよ…!」

 背後を警戒しているアニィはナオミと背中合わせのまま、お尻で小突いた。(半分仲間になったとはいえプレデター相手になかなか豪胆な行動だ…)

「ふぅむ。この先(縦階段の下)に興味があるが」

 一方、ナオミはナオミで一切の動揺を悟られないまま話題をすり替えた。プレデターとしての鍛錬は心にも及んでいるのだろう。

「お荷物を二人も連れては無理だ」

「そういう話じゃないわ!」

 もちろんそれに気づいたアニィは一度食い下がったが、

「そういう話のはずだ」

「……! くぅ……もう!分かったわ」

 ナオミの言い分も分かるのでそれ以上は訴追はしなかった。

 いまギャーギャー言っても詮無い事なのは彼女も分かっている。危険な地下基地ダンジョンの中で仲間同士で愁嘆場を演じていて敵に不意打ちを受ける……そんな安っぽい映画になるのはごめんだった。

「もういい。アンタの正体なんてどうでもいい」

「そうしてくれたまえ。君達となれ合うつもりはない」

 ナオミの地球語ほんやくはあいかわらずである…。

「…むかつくわ。その喋り方」


 一方、女二人の言い争いをよそに、その謎の部屋を検分していたブルースは驚くべきことを発見した。

「なんだこれは…!見ろ」

 なぜ気付かなかったのだろう――実は自分達がいるのはただのがらんどうな空間ではなく本来は小部屋だったのだが、その扉や壁がただの通路の行き止まりのような状態になっていたのだ。本来の扉はダムや工場の機関室の扉のような頑丈なものだったようだが、それが意図も簡単に打ち破られているようだった


「溶けている?熱か」

 ブルースはバターのようになった扉の残骸の、その断面を撫でながら言った。

 月面服の分厚いグローブ越しにも滑らかな凹凸を感じる事ができた。もし引きちぎられた金属なら、もっと鋭利になっているだろう。

「いいから。どっちみち行き止まりなのよ。戻りましょう」

「どう思う?」

 しかしブルースはごく自然に

 戦士同士の共感というのか、クワガタ人間と一緒に共闘したことは二人の間に妙な信頼関係を生み出していたのだ。

「知るわけがなかろう」

 ナオミもごく自然に応えた。

「そうだな」

「だがやるべきことはある …さがれ」

 ナオミはそう警告するとその行き止まりとなった小部屋からアニィとブルースを退出させ、扉があった場所に……

 バシュッ!!

 スラッシュワイヤーを放ったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る