第396話 三人の盗掘者(前編)
月の地下の
そのため当然ながら
しかし……
「槍を持った四本腕だと……? 尻尾は?」
「尻尾の話は聞いていないな…?」
どうにも話が嚙み合わない。
――――――――
エラキは静かに戦慄しつつ、不慣れな地球語で何とかその怪人の様態を説明しようとした。
「怪人という我々が地下基地を滅ぼしたのは長い尻尾と酸の血を持っているしたが…? それが腕は我々と同じで二本で…」
エラキはそこまで喋ったが、何かを考えるように俯いて黙ってしまった。
彼はこのとき、軍人としての判断でそれ以上の助言をしてやる義理はないと考えたのである。その四本腕の別の怪人とやらに
「ん…?そうか。まぁしかし…」
一方、ボーア博士はエラキや我々ほど事の重大さに気付いておらず「まぁそんなものか」と納得してしまった。見間違いやら口伝の間違いで報告がズレているぐらいにしか思わなかったのである。
「ならばエラキ曹長の言う怪人像が正確なのだろう。なにせ報告者は素人だったからな」
「…素人?」
「ああ。月面での長期滞在には運動が不可欠だろう?そうした運動を指導するために派遣されたインストラクターが地下空洞で四本腕の怪人を見たというのだ」
インストラクターとはブルースで、四本腕の怪人とは蟻人間の事である。
「…なぜそんな素人が地下に?」
「地上と地下空洞を往来するリフトが壊れたらしくてな。ちょうどそこに居合わせたアスリートが人力でロープを下ったらしい」
「ほう…なるほど…」
「さ! ともかく助かったよ。エラキ曹長」
博士は「よっ」と足が弱った老人の典型的なかけ声をあげつつ立ち上がり、去り際にエラキの肩を叩いた。
「今貰った君の情報は救助隊を組織する助けとなるだろう。続報は伝えるよ」
「はい…」
「いかん、昼食の時間を過ぎていたな。好物のダチョウのステーキを持ってこさせるよ」
「光栄です」
こうしてエラキにとって怒濤の午前が終わり、また牢獄に一人になった彼は特にやることも無いので窓の外を見やった。窓の外は轟々と吹き荒れる吹雪でさらに真っ白になって、ペンギンの行列も見えなくなっていた。
今日はもう太陽は拝めないだろう。
『四本腕の怪人…』
エラキは母国語(サウロイド世界の言葉)で呟いた。
『本当に”素人の見間違い”なのか…?』
――――――――
―――――――
――――――
同刻。
まさに南極での話題の中心にあったサウロイドの地下基地の中で、そんな”素人”の生き残るための
「さすがサウロイドの基地だ。天井が高いな」
「電源は復旧できないかしら。ピラミッドの中みたいに真っ暗よ…」
しかし彼らは逃げ込んだその基地に四本腕の怪人、つまり蟻人間やクワガタ人間やモスキート人間とは別の……蛇腹の剣のような長い尻尾と戦車の装甲も溶かす強酸の体液を持つ生物兵器が眠っているとは知る由もなかったのである……。
「待ちたまえ。下への階段が存在する…」
プレデター見習いのナオミが合成音声で言った。
左手のコンピュータガントレットの内の「言語泥棒システム」が500本の映画から地球語を学習し音声を合成しているものだが、500本では全くデータが足りず、相変わらずの言葉遣いである。
「はぁ…? 何を言っているの?」
アニィは溜息交じりに言った。
チープなアニメだと、敵のアジトや危険なダンジョンだというのに弛緩した世間話でもしてキャラ同士の友好が深まるという
「いまは地下を脱出する事を考えているんでしょ?」
その溜息交じりの語調は冷静だが、酸素消費量も心拍数も(月面服のバイザーの内側のモニターに表示されている)若干の高止まりをしていた。だが仕方がないだろう。人ならざるものが作った廃墟の暗闇の中を歩いていて、どうしてリラックスする事などできようか。
「しかしながら 地下で地下に降りる階段があるのはおかしい」
ナオミが続けると
「ふぅむ…たしかに…」
ブルースも頷いて立ち止まった。
ナオミは「すでに地下施設なのにそこからさらに地下に降りる階段があるのは変だ」と指摘したのである。ひいては彼女は、このサウロイドの地下基地の目的を論じているわけだ。
「この地下基地の秘密…と言えるかもしれん」
ブルースはそのナオミの意図を読み取り、同意した。
「そうだとしても、降りる選択肢はないわ…!」
アニィはまるでハトのように……クワッ!……クワッ!と2秒おきに首を振って周囲を警戒しながら、階段の下を覗き込んでいる二人に対して背中越しに憤った。
「しかしこれは階段なのか…? お前の地球語は合っているか?」
「階段という単語に誤用は認められない。私はこのタイプの階段を見た事がある」
そう、それこそがエラキの言った‟縦階段”であった。
言い換えれば次元跳躍孔を
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