第389話 ボーア博士、大いに語る
南極の真昼の
――――――
博士は
――あれだけ警告したのに勝手に地下空洞を探査し……
――いざ奴らを目覚めさせてしまったら助言をくれだと?
そう、エラキの怒りはもっともである。
彼は捕虜であるが、同時に世界にたった一人(一匹)のラプトリアンだったのでUNSFも拷問するわけにもいかず、交渉役のボーア博士は何とかエラキと復縁する必要があった。エラキに機嫌を直してもらわねばならないのだ。だから博士は―――
「なぜ隠すた…!?」
エラキの糾弾に対し、誠意と話術をもって応える事にした。
「ははは」
博士は、エラキが「隠す」の過去形が分からず「hided」と言ったのに笑い、それから申し訳ないと目を伏せながら続けた。
「隠したのは…人の業というものだ。ホモサピエンスはそういう生き物だと諦めてくれたまえ」
「……なるほど」
エラキは「I See..」と完璧な発音で応えた。慣用句として憶えた言葉はスルスルと出てくるのだろう。
博士はそれを味わうように頷いてから、ゆっくりと説明を始める。(この後、博士はエラキが聞き取れるようゆっくりと話したが、それを表現してダラダラと書き記すのは読むに堪えないので、以下は普通の言葉として書こう)
「一年前から…」
博士は窓の外の猛吹雪を見つめながらしゃべり出した。
「我々は君達の月面基地を占領し、そこを根城に月に100人もの人間を定住させるようになった。基地の中核に存在する「君達の
「つまり君達の
「…そうかもしれない」
エラキは「maybe..」と一言だけ相槌した。彼は軍人だったので、そういう自国(いや自星?)が不利になる事情は濁すのが当たり前だった。
博士は「まぁそれでいい」と苦笑し、続けた。
「今はお互いに完全に冷戦状態だ。だからね、エラキ曹長。この一年の我々の好奇心の多くは、意外なことかもしれないが、肝心の
博士は楽しげに続ける。話題を逸らす…そいう話術でもある。
「我々はあの自律ロボットをテクノレックスと呼ばせてもらっているが、あれは実に素晴らしい。ハッキリ言ってソフトウェアの技術は圧倒的に我々の方が進んでいるが、君達の方が何というか創意工夫に長けているようだ。我々からすれば20年も前の稚拙なコンピュータで、よくも二足歩行のロボットを動かせるものだと感心していたんだ。レールガンもそうだが、君達から借用した電気工学はとても役に立つ」
「そうですか…」
エラキは嘲笑気味に肩をすくめた。その嘲笑は「こちらも技術盗用はさせてもらったがな」という笑いを含んでいる。
――しかし、それは同じ事だ
――君達の揚月隊の遺体はレオ司令が大量に回収させていた
――彼らの月面服は技術の塊だろう…!?
もっともその嘲笑は、人間にはただの愛想笑いにしか見えなかったので(この一年でサウロイドおよびラプトリアンの表情について、人類は多くの知見を得たが、まだ微妙なニュアンスの違いを理解するには至っていない)博士は気付かずに話を続けた。
「そうそう。電気工学にも勝るとも劣らず素晴らしいのは君達の音楽だ!」
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