第385話 宇宙戦艦の副長と格闘家とプレデター
「クルゾ」
「急げ!急げ!急げ!」
水門を閉じて押し寄せてくる激流をせき止めるように、迫り来る50匹(人)ものモスキート人間から追われてサウロイドが放棄した地下基地に逃げ込んだ三人は
大急ぎで基地の
基地と言ってもピラミッドを立方体にしたようなその施設は、見た目的にも本当にダムのようで、彼らがいま閉じようとしている唯一の扉を閉じればモスキート人間を締め出すことができるだろう!
――――――
「マワセ!」
「わかってる!」
「モット!」
「わかってる!!」
月だと言うのにさすがの人数からかドドド!という地響きを伴いながら突進してくるモスキート人間の群れがほんの数メートルまで迫ったとき――
ズゥーン!
間一髪のところでシャッターを閉じる事に成功した!
モスキート人間の腕が扉の下に挟まる、そんなギリギリの距離だった。
「…ふぅ……」
「あぶない…はぁ…はぁ…ところだったわ」
ブルースはサッカー選手が疲れたときのように両手を腰に当ててうな垂れ、アニィは力なく壁に寄りかかるとそのままズルズルと
――えらく原始的な道具だ…
――いったい彼らは何者なのだろう?
――サウロイド達は何かを知っていたのだろうか?
三人はしばらく、その‟石棺”のような基地の通路で思い思いに息を整えた。基地は完全に死んでいて真っ暗だが、外(つまり地下空洞の中)では
20秒ほど経っただろうか、
「さて…」
座り込んでいたアニィが立ち上がり、月面服のライトを弱い出力で点灯させた。
ほこりっぽいサウロイドの地下基地の通路は、本当に2000年間誰も足を踏み入れていないピラミッドの中のようである。と――
ザッ…
ナオミもまたプラズマキャノンを構える膝立ちの姿勢を解除して立ち上がると、アニィが「さて」に続いて何を言うかを待つ事ものなくスッと反転、二人を完全に無視して基地の奥へと歩き出してしまった。
アニィとブルースの間を通過するというのに、ナオミが気にするのは自分の手首の具合だけのようだった。
「お、おい…!」
ブルースは孤高の格闘家であり他者に振り回されるタイプではないので「お、おい」などという気の抜けた台詞は吐かないはずだが、さすがにナオミの動きには戸惑った。さっきまで「イソゲ」「わかってる!」と檄を飛ばし合ったのに、急に”木”のように扱われては声をかけたくもなる。
「どこへいく?」
「ココニイル ツモリ カネ?」
ナオミは合成音声で応えた。相変わらずの言葉遣いだ。おそらくもう少し
「当てがあるの?」
「ナイ」
この問答の間もズンズンとナオミは基地の奥へと進んでいってしまう。
「無い?」
仕方なく二人は追いかけながら続けた。
「それにお前、見えているのか?」
「ノー」
そう、ナオミのプレデターヘルメットは壊れている。
赤外線も電磁波もだめだ。センサー類はクワガタ人間の初撃に破壊されてしまったのだ。いま三人が持つ光源は、アニィの月面服の両肩のライト(充電率70%)とブルースの月面服の右肩のライト(充電率30%)だけである。(なお、広すぎてライトが役に立たなかった地下空洞よりは基地内はかなりマシで、光が拡散し切る前に壁から反射があるため全くの暗闇ではない。5m先ぐらいは見えている)一方、ナオミの方は何の光源も持っていない。光といえばプラズマキャノンのレーザーサイトから伸びる赤い「∵」ぐらいしかないのに、それを頼りに先に進もうというのだから、さすがに
プレデターに育てられた女は泣き言も言わなければ、他者を頼るという事も知らないようである。
「まて、俺達のライトがいるだろう?」
「そうよ。一緒に動いた方がいいわ」
「……アナタガ ノゾムナラ ソウスルガイイ」
ナオミは少し戸惑ったあと、相変わらずの地球語で応えた。
「やれやれ」
「デハ ツイテコイ」
「はいはい…」
こうして――奇妙な3人組みの探検隊が組織された。
探検隊は放棄されたサウロイドの地下基地を奥へ奥へと進む…!
サウロイドが放棄した機械類でここを脱出する事ができないか、脱出できないとしても助けが来るまで酸素などの生命維持を延長できないか、それが狙いである。
一方、彼らが考えている目的がそれだとするなら、彼らが考えている脅威はクワガタ人間との再遭遇であった。だが――
彼らはこの後、別の脅威と出会う事になる。
基地が放棄された理由を知ることになるのだ。
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