第332話 月の大洞窟
謎の宇宙船から発進した楕円形の
――――――
そんな謎の少女ナオミが目指している着陸地点から300m西。
そこにはサウロイドが放棄した第二月面基地、もとい地下大洞窟の跡があった。もちろん現在そこは人類によって制圧されているわけだが……まずはなぜサウロイドが放棄したのか、前章の話を続けよう。
400日ほど前。
まだサウロイドが人類に敗北せず月面基地を擁していた頃、彼らはこの地下の大洞窟の先に2つ目の
もちろん1つ目の次元跳躍孔の向こうは自分達の地球に繋がっているわけだが、では、この2つ目の次元跳躍孔の向こうはどこに繋がっているだろう――そんな好奇心が当然ながら生まれたが、しかし事態はそれどころではなかった。
その2つ目の次元跳躍孔の周辺に、エイリアンの卵群が見つかったのである。
それが変わった岩石ではなく有機物(生物の欠片)である事はすぐに判明してサウロイド達を大いに驚かせたが、同時に「ここはパラレルワールドなのだ」という前提は彼らの思考を鈍らせてしまった。
普通に考えれば月のような無の世界に生物がいるワケがなく、何かしら作為的な……たとえば高次の宇宙人の悪意あるいたずらであるはずで、本当は最大レベルの警戒で挑むべき相手だったが、彼らは「この宇宙(人類が進化した確率次元の宇宙)の月には驚くべき事に生物がいたものだ」と割と簡単に受け止めてしまったのだ。
彼らは「この卵はきっと干上がってしまった池のカエルのように、環境が改善される未来を夢見て眠り、そのまま干からびてしまったのだろう」と考えたのである。
まぁ、そう考えるのも無理はない。なにせこの不思議な卵には、あらゆる面で生体にあるべき反応はなかったからだ。
こうして、このエイリアンの卵群は滅却処分されず大切にサンプルとして自然保存される事となって、そのうち2個が分析のために第一基地に運ばれた折に覚醒、例のエイリアン事件を引き起こす事となったわけである。
ただ、この事件はエースの活躍によって最悪の事態には至らなかった。
かなり前のエピソードになるのでおさらいすると、第一基地に運ばれた卵から生まれた2匹は多くを殺して(食らって)成体に至るも、その日にちょうど赴任してきたエース大尉の活躍によって倒されたのである。
いや、倒されたのであるが―――しかし第二基地の方にはヒーローはいなかった。
皮肉なことに自然の鍾乳石がごとく大切に現状維持で保存されていたエイリアンの卵群は一斉に覚醒し、第二基地の作業員の全てを殺し尽くしてしまったのである。
なお横道のエピソードではあるが、このせいで原子炉を管理する作業員も死んでしまったために第二基地はメルトダウンの危険に陥ってしまい、第一基地の司令のレオはそれを止めるべく決死の調査隊の組織を検討していたが、この核分裂の連鎖(メルトダウン)は海底人が止めてくれて事なきを得ていた。
もしエイリアンが巣くう第二基地に調査隊が行っていたならまた犠牲者を出し、その血肉をエサにエイリアンが増殖していたに違いないと考えると、海底人によってサウロイド達は大いに救われた形である。
そう考えると海底人も一概にサウロイドをイジメたいと思っているワケではなく、彼らの真意も気になるところだが……
いまは閑話休題。
ともかくそうして第二基地の建設は、作業員が音信不通になるという異常事態のまま頓挫してしまったのである。
むろん調査と再建が本国(サウロイドの確率次元の地球)で議論されたが
「第二基地と第一基地は月の真空で隔てられている」
「ジョージ平原は見通しがよく、何かあればすぐにわかるはずだ」
「再建計画は保留、第一基地に注力すべし」
という結論になり、それきり第二基地はずっと無人のままとなっていた。
第一基地で
が…しかし時は巡ってくるものである。
そんな第二基地が、いま新たな歴史の舞台に選ばれたのだ。
――――――
人類が制圧した第二基地の地表部分はいま、直径50mもの半球形の巨大な超硬特殊繊維のシートで覆われており、それが内側の気圧で外のに膨らむことでドーム球場のような様相を呈していた。ドーム内は0.4気圧、エベレストの頂上ほどの低気圧だが、
と、そんなドームの中に男の怒号が飛んだ。
「待て!お前は何者だ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます