第313話 弾劾されるべき行為(後編)
『ではゲートを閉めて下さい』
ジャンクションホールとC棟の間のゲートは、2つの文明の交流の第一幕を幕引きするようにゆっくりと降りていった。
これでサウロイド勢力は ――勝利への伏線は張っているにせよ―― 形としては基地の3/4を
しかしレオとゾフィは例の焦土作戦に十分な確率の勝機を見出しており、むしろゲートが降りるごとに拍数も下降していった。
‟無益な”戦いは避けられたのだ――と。
――――――
―――――
いや。
その戦いを‟無益”と評価するのは考え方による…。
『副司令。聞こえてます?』
ゲートが閉まったあと、一番に口を開いたのは砲術士官長代理のザラ中佐だった。
『ああ、聞こえているが…何か?』
ザラは
『いえ聞こえているならいいです。 そして他の者も聞こえているな?』
心配性のザラはヘルメットの発信電波レベルを最強にしながら続けて言った。
『私は司令を弾劾する』
――!?
混み合うゲートの前にはいま、この戦いの主要人物が一同に会していた。
最初に
そんな状況で、ザラは「弾劾」と言った。
『え――!?』
エースはシンプルに訊き返した。
『どういうことだ?』
『言葉の通りだ。大尉。みすみす基地を放棄するという司令の判断を弾劾したいという事だよ。采配がただの無能なら「罷免要請」だが、司令の采配は非合理的な個人の趣向を感じさせた。それは故意の失策であり「弾劾」されるべきだ』
『……』
レオは全員の前でここまで言われたが黙っていた。レオはただただ「この男はゾフィが成し遂げたEncounter(異なる知的生物同士の遭遇)の意味の大きさを分かっていないのか」という落胆の視線をザラに向けるだけだった。
そんなには気付かないザラ中佐は
『司令。分かっているはずだ…』
と溜息まじりに言った。
彼の視線も落胆の光を宿すが意味が違う。彼は周囲の黙っている連中に対して「阿呆どもめ。もっと説明してやらないと分からないのか」という落胆だった。レオが馬鹿でないのはザラも分かっていたので、彼はレオに向かって話す体を保ちつつ実際は周囲の者への説明のために話を続けた。
『A棟の焦土作戦、A棟を真空にして敵の酸欠を狙う作戦はあくまでプランBだったはずでしょう?敵の勢いが分からない状況で考えられる最善の策というだけで私も推薦したが、さっきのように目の前に敵がいるなら話は違う。倒せるなら倒してしまう方が良かったはずだ』
『一理あるな』
ここで同意したのはまさかのレオの友人のエースだった。さっぱりした性格のエースは、湿っぽく幼なじみのレオの肩を持つことなく中立的に頷いた。
『至近距離だったしな。あれならフレアボールの弾速も気にならない』
『そうだろう?大尉の言うとおりだ』
人の心が欠けたザラも、さすがに予期せぬ援護射撃に少し声のトーンが高くなった。
『遮蔽物もなく敵も密集していた。フレアの威力が活きる絶好の状況だったはずだ』
一方、ゾフィは辟易して首を振っている。
『中佐、そういうことじゃないのよ』
『それは司軍法官としての意見か?』
『いえ。個人として、です』
『じゃあ、無意味だ』
ゾフィの言葉はザラに足蹴りにされたが、ただその通りでもあるので彼女は反論できない。
…なお、こうやって安心して会話を続けられるのは、ついさっき敵の軽装ぶりも見たばかりだったからである。あの装備では分厚いゲートはどうやっても突破できまい、という安心感が彼らにはあったのだ。…と同時にまるで猛吹雪の夜に洞窟を見つけた山岳部隊のように安全ではあるが手詰まりの状況でもあった。
『……司令?』
首脳同士の対立論争に周囲に動揺と沈黙が広がり、それを代弁するように副司令が口を開いた。彼も首脳のはずであるが、その言動はまるで動揺する一般兵のようであり、どこか憎めない男でもある。
『何か言って下さい』
副司令は武人らしく問うた。
『すぅー。そうですね。まず第一に――』
レオは疲労や落胆や怒りが含まれた長い長い溜息を吐き、そして話はじめた。
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