第312話 弾劾されるべき行為(中編)
十字の形をした基地の中央、4つの棟がクロスする大広間ジャンクションホールで、レオやゾフィの一行は揚月隊と鉢合わせになった。
両勢力とも満身創痍で、兵力は両者9人ずつしかいないという小規模な会敵であったが、勝った方は基地を丸ごと手中に収められる状況だったために(C棟にはサウロイドが残っていたが、基地機能の主幹はA棟にあるためだ)それは天下分け目の大合戦になった。……いや、なりそうだった。
というのも、司令官のレオが戦いから逃げてしまったからである。彼はA棟へのゲートを敵に譲って自分達はC棟のゲートに進み、さらに、あろうことか敵に背を向けC棟のゲートの前に立ち塞がったのである。
C棟にいる仲間がゲートが開くや突撃してきて、
――では、前章の続きに遷る。
『あ! ゲートが開きます!』
C棟側のゲートの前には、最後の戦いを挑もうとする20人ほどのサウロイドとラプトリアンが集まっていた。砲術士官や管制官、基地の建設員などの寄せ集め部隊で率いるのは副司令である。
そんな彼らの前で突如、操作もしていないのにゲートが開いたのだ。ジャンクションホール側で誰かがゲートを操作したのである。
『敵か!?皆、備えよ!』
『…みろ大尉! 誰かがゲートの真ん前に立っているいるぞ!!』
寄せ集め部隊の中、唯一の軍人である装甲機兵隊の隊長のエースは冷静だ。
『いや仲間です。ほら仲間の靴だ』
エースは少しだけ開いたゲートの隙間から見える、ゲートの前に立っているという男の靴を見て言った。確かにサウロイド用の与圧服の靴である。
『分からんぞ、奇襲に備えろ!』
しかし目にしたのは奇襲よりもっと驚く光景だった。
腰の辺りまでゲートが開いたとき、ゲートの前に立っていた人影はグッとしゃがみ込んで顔を見せると…
『レオ!!?』
それは紛れもなく司令のレオだったのだ。これにはエースも仰天した。
『な、なんだってんだ!?』
と、次の瞬間だ。
『動くなぁ!!』
レオらしくない怒号が飛んだ。
その証拠に、人だかり全体がビクンとなったのがよく分かった。
『絶対に…!絶対に動いてはなりません』
この間もゲートはどんどん開いていって、ジャンクションホールの驚くべき光景がエース達に如実に示されていく。
――おいおい、どんな状況だよ…
エースは言葉を失っている。
『敵がいるではないですか!?』
副司令が見たのは、まるで「野球のプレイボールの前の挨拶」のように並んで向き合っている揚月隊と味方の構図だったのだ。ここだけ急に見ると全く意味が分からないだろう。
『こちらから行動を起こしてはなりません!』
『あ、しかし…』
副司令は勝算の部分だけを機械的に考えて「しかし!」と叫んだ。
つまり彼からすれば「ここC棟に集まった兵を足せば数は勝っているではないか」という意味の反駁であった。これまでのゾフィやレオの経緯を知らない彼からすれば「結局は青二才だった。戦いが怖くなったな!」と思ったのである。
『信じてください…副司令』
『
『いえ!私を、ではない。彼らをです!』
『彼らを!?』
――敵を信じるというのか?いったい何人殺されたと思っている!?
――第二郭のMMECを全部破壊され、
副司令は今にも「突撃!」と叫びそうだだった。
それを悟ったレオはさらに一歩前に踏み出て、完全に副司令が構えるフレアボールの銃口の前に立った。そして今度は首だけを首だけをグルンと後ろに向け(サウロイドはフクロウのように首の可動域が広いのでこういうことができる)ジャンクションホールで敵と銃器を向け合って動けなくなっている仲間達に
『さぁ、みなさん…。ゆっくり、ゆっくり…』
と促した。
『そうです、後ろ歩きです。落ちついて…ゆっくりでいい』
レオに促された7人(ゾフィはもう緊張を解いている)は、眼前の敵に銃口を向けたまま後ずさりをはじめた。
一歩、一歩、一歩……
逆関節のサウロイドやラプトリアンは後ろ歩きが下手で、本当にそれはゆっくりである。固唾を呑むとはこのことでこの間は敵も味方も一声を発さず、ただ月面の寒さに凍りついた時間を、サウロイド世界独特の紫の警告灯だけが何とか押し進めてくれた……。
そしてついに横一列で後ずさりする7人は、さすがに大きいとはいえ横並びでは3人並ぶのがやっとのC棟のゲートをくぐるためにその横一文字の隊列を崩し、箱に戻されたティッシュのようにグチャグチャになって吸い込まれていった。狭いゲートの出入り口に多人数が密集しているので、もし人類側に貫通力のあるライフルを持っていたら一網打尽の状況であったが、月面用アサルトライフルはかなり威力が低いし、なによりネッゲル青年がレオと同じく仲間を制してくれていたので、その悲劇はギリギリで回避されていた。
『ではゲートを閉めて下さい』
最期になったゾフィが、ネッゲルと揚月隊に小粋な会釈してゲートをくぐるとレオは、C棟の壁に据え付けられた制御盤の前にたまたま立っていた者に命じた。
ゴゴゴ……
ゲートは「難解でスリリングだったが最終的にはハッピーエンドの舞台劇」の終わりを告げるカーテンのように、二つの文明の交流を締めくくっていった。
――ふぅ……
レオとゾフィは安堵の息を吐いたが
しかし不満げなのは副司令とザラである。
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