第311話 弾劾されるべき行為(前編)

 分厚いゲートの向こう側では副司令率いる最後の戦隊が突撃の期をうかがっている…と察知したレオとザラは全く別の行動に出た。


 まずザラは戦士として合理的に、攻撃を考えた。

 目の前のじんるいは8人で、こちらも8人……それぞれ銃器を向け合っている状態なので、ゲートが開くや否や「せーの!」で撃ち合えば必ず勝機はあるはずだ。こちらのフレアボールと、相手の鉄片投射器アサルトライフルの性能の差で自分を含めた8人は全員討ち死にするかもしれないが、さらに突撃してきた副司令たちが勝利をもぎ取ってくれる算段である。


 しかしレオは違った。

 なんとゲートの前に大の字に両手を広げて待ち構え、ゲート塞いでしまったのである。しかも視線はゲート側、つまり背中を敵に晒している状態だ。わざわざ味方の突撃を妨害し、敵にとっての射撃練習の的になろうというのだから、世話はない…。


『……』

 ザラはもう何も言わなかった。

 この20年後、海底人との大戦争になったとき、ザラとレオは階級が並び(少将)いずれも並び立つ名将となっていたが、その戦いで二人が協力する事は遂に無かった。後年のザラは「レオという人間と袂を分かつ事となった要因の一つ」として、まさにを挙げることなるのがが……まぁそれはあとの話である。

 いまはともかく、C棟のゲートを開けて人類との衝突を回避するのが先決だ。


『さぁゾフィ。開けてくれ』

 レオはゲートの前で、「王蟲の突撃を止めんとするナウシカ」のように大の字を作りながらゾフィに言った。

『…OK』

 ゾフィは、敵であるネッゲル青年には心を許していたくせに今はは少し緊張した面持ちでゲートの操作盤コンソールのENTERキーを叩く。


ゴゴゴ……

 そして、ついにC棟のゲートが開いていく…!



――――――

―――――


 三十秒ほど時間を遡る。

 C棟のゲートの前には、エースがいた。

 彼は次元跳躍孔ホールを潜り自分達の確率次元の地球パラレルワールドに帰る予定だったが、なんと怪我をおして戦線に復帰したのだ。

 やはり幼馴染のレオとゾフィが心配なのだ。


『しかしお前は役に立つのか?大尉』

 粗野な副司令がエースの肩を叩いた。

『それはないでしょう?』

 エースは苦笑した。逃げ帰ってしまえばいいところ、生死をかけてはせ参じたのにこの言われようだったからだ。

 二人の周囲には、レオとザラの読み通り、この基地に残された最後の戦力となった9名の臨時徴用兵がいた。

 砲術士官、建築技師、そして志願の研究員などである。


『副司令! 司令室の電話には誰も出ません』

『A棟のエリア1も同様です』

 壁に埋め込まれた公衆電話から伸びる‟テレフォンジャック”の端子を、宙服のヘルメットの穴から引き抜きながら臨時徴用兵が言った。受話器はあるが今は真空なので使えないため、こうやって端子をヘルメットに差し込んで通話するのだ。


『まったく、レオ司令はどこにいるんだ?』

『この壁の向こうじゃないですか?』

『ジャンクションホールに?まさか』

 そのまさかである。

 ゲートが開いた瞬間、目の前でご対面となるのだから、副司令のセリフには少し笑ってしまう。


 ――と次の瞬間だった!

『あ! ゲートが開きます!』

 ゴゴゴ…

 地響きを伴いながら眼前で壁を成していた巨大ゲートが上に昇り始めた。


『敵か!?皆、備えよ!』

『いや開けないでしょう!敵は』

『…少し離れろ』

 エースが前を凝視したまま、手を前後に揺すり仲間達に下がるように指示した。


『そう。そうだ、下がれ。密集しては!』

 伝家の宝刀、ハイキックを振るおうとエースは足に力を込めた。が…!

『…みろ大尉! ゲートの真ん前にいるぞ!!』

『いや仲間ですよ…! 仲間の靴だ』

 エースは冷静だが、周りは動揺甚だしい。

『分からんぞ、奇襲に備えろ!』

『爆弾を投げ込んでくるかもしれません!』

『下がりましょう』

『いや!むしろ突撃するなら、突撃しちゃった方が安全だ』

 色々な言葉が飛び交うが、しかし彼らが目にしたのはもっと驚く光景だった。


『レオ!!?』

 ゲートの前に立っていた謎の人影が、ゲートが腰の辺りまで開たときに突如グッとしゃがみ込んで顔を見せると、それは紛れもなく司令のレオだったのだ。

『な、なんだってんだ!?』

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