第305話 バッド・サプライズ
A棟を脱出するサウロイド達の殿(最後尾の部隊)となったレオ司令以下9人の臨時小隊が、ついにA棟の南端に到達した。
月面基地は東西南北に伸びる4つの棟がくっついて十字の形を成しており、そのうちA棟は北の棟に相当する。つまりA棟の南端とは、まさに基地のど真ん中の大広間「ジャンクションホール」に接続する地点である。
――――
一行は長い直線の廊下を走り終え、A棟の南端を塞ぐゲートの前で立ち止まった。
『見たまえ』
司令のレオは
『彼らがエースの報告の通りの装備なら…つまり報告通りの軽装の具合ならこのゲートは破れないはずです』
一行の眼前には視野を覆うばかりの巨大な昇降式のゲートが降りている。
(もっとも我々は言われなくとも、B棟での戦いでこのゲートを突破するのが難しいのを知っているのだが…)
『はぁ、はぁ。まぁ、そうでしょう』
砲術士官長代理のザラ中佐が、ふざけて息切れしつつ同意した。
いくらザラが運動嫌いの男でも人種的に言えば(彼はラプトリアンであり、サウロイドよりさらに運動能力が高い)500mのジョギングなどワケないはずだからだ。しかも月面である。10kmだって余裕で走れるだろう。
『ゲートはフレアボールの直撃すら3,4発にも耐える分厚さですから。彼らがどんな隠し種を持っているか分からないが一筋縄ではいかないはずだ。そうなると……』
ザラは雄弁に語りながら一歩進み出て、壁に設置されたコンソールのカバーを開いた。カバーは観音開きになる形状で、それ自体は頑丈そうだが別に鍵がついたりはしていない。
空気がきっとあれば、ガッッチャ…! という鈍い音がしただろう。
ザラはそんなカバーを開き、中のゲートを操作するコンソールをいじりながら「そうなると…」の続き言う。
『そうなると力業でゲートが開けられない彼らは、こうやって正規の方法で開くしかない。しかしジャンクション側からロックされているときはパスコードが必要になる。パスコードというのは、さきほどゾフィ女史が言ったような異文明の文字の解読ができかどうかの知能うんぬんじゃない。知っているか知っていないかの問題だ。つまり……』
またザラは言葉尻をもったいぶって、行動で置き換えた。
ザラは「つまり」と言った後、人間で言うENTERキーをタンッと小気味よく押し、ゲートを開けた。ゲートがゴォォと言いつつゆっくりと開きだす。
『我々がいまジャンクション側に行ってこのゲートを閉じてしまえば、パスコードを知らない
『ええ。まぁそういう事です』
『まぁ憐れなこと』
レオとゾフィはそれぞれのキャラクターで頷いた。
死んだ仲間への悲憤や一時撤退という忸はあるが、このとき彼らに少しの安堵があったのは疑いようがなかった。
それは彼らがいま移動しようとしているC棟には
『さて…』
だからこそ、あのザラ中佐さえも安堵の「さて」を呟きつつ、開くゲートを一歩下がって満を持し見つめた。彼らはゆっくりと開くゲートを、まるで観劇のカーテンコールだとでもいうような目で見つめていた……が!!
しかし、それは晴天の霹靂――!
開いたゲートの先に見た光景に、彼らは立ったまま金縛りにあった。
『!!』
彼らが見たのは
…いやそれはお互い様だった。
――敵…だと!?
『敵だ!』
「敵だ!」
それぞれの言葉で「敵だ」と叫ぶや、双方ともにバッと武器を構えたのである!
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